春の日向
シチュエーション


神埼伊万里が通る道では、妖精が踊る。
背筋を伸ばし優雅に歩くさまは、凛として、けれど何処か儚く。

ざぁ、と春風が吹く。
校門から学生たちの学び舎まで続く道の両脇に植えられた桜が、花弁を散らし女神を祝福するかのように戯れる。
風に揺れる鴉の濡れ羽の様なしっとりと艶やかな長髪を、白魚の様な手で押さえながら、伊万里が空を見上げた。
桃色の妖精の踊りになのか、うっとりと黒目がちな大きな瞳を蕩けさせた。
ひそひそと周囲の学生たちが、その美しい様子を見て囁き合う。
モラルに欠ける行為ではあるが、それも仕方ない。
少し丸みを帯びた面、上質な黒曜石をはめた眼、小さいがすっと筋の通った鼻梁、何時だって弧を描いている小さな唇。
地上を遍く照らす太陽の様な派手さはないが、湖面に映る月の様な静かな美しさを伊万里は持っていた。
その幻想的な容姿だけでも目を置かれる存在足りえるが、それ以上に洗練された一つ一つの動作が、周囲の少年少女たちとは一線を画していた。

このまるで、やんごとなき血筋の令嬢ばかりが通う私立学園に居る様な伊万里が通うこの高校は、しかしお嬢様学校ではなく。
県立鴻池高校。県内有数の進学校でも、スポーツで全国常連の強豪校でもない、どの県にも一つは必ずある何の特徴もない高校。
この至って平凡な普通校には場違いなまでのお嬢様然とした出で立ちの伊万里は、校内何処へ居ても他の生徒達の注目の的だった。
不思議なもので、伊万里が身に纏うと何処にでもあるようなセーラー服が、まるで天女の羽衣のように高貴なものに見えてしまう。
辺りを何時ものように魅了しながら、伊万里は校舎内へと入っていく。
下駄箱の前で靴を上履きに履き替えて、足音も立てず静々とリノリウムの廊下を征く。
彼女が通ると、廊下を歩いていた生徒たちは皆自然と脇によけ、まるでモーゼが海を割ったかのような光景が現れる。

「……神埼先輩……こ、こんにちは!」

脇によけた生徒達の中の勇気ある一人の少女が、伊万里へと声をかけた。
伊万里が彼女を見て、首を軽く傾けながら微笑む。

「こんにちは」

――さすがに、ごきげんよう、とか言ったりはしないらしい。
しかし、返事をもらえた後輩らしき少女は顔を赤くして、けれど嬉しそうに笑う。
すると、堰を切ったかのように周囲から、伊万里へと声がかけられる。
その一つ一つに確りと返答しながら、伊万里は廊下の角を曲がり、階段を1つ、2つ、3つ登り終える。
普通の高校では珍しいかもしれないが、ここ鴻池高校では屋上が終日解放されている。
その屋上へと続く扉のある6畳くらいの小さな踊り場で立ち止まり、伊万里はきょろきょろとあたりを窺う。
右、左、階段の頂上から下を覗き込み、誰も屋上へ上ってきていないことを確認して。
伊万里は、黒く少し錆びついて重くなった鉄扉を、その細腕でゆっくりと押した。
ギィィと耳障りな音と共にドアが開き、伊万里が屋上へと一歩踏み出す。
礼儀正しく、両手でドアノブを握ったまま極力静かに扉を閉めた。
伊万里はあたりを見回しながら、屋上を2〜3歩進む。
中央付近にある木のベンチと申し訳程度のプランターを除けば何もない、広い空間。
普段から雨ざらしで綺麗とは言えない屋上は意外と人気が無く、昼休みといえども生徒の姿はなかった。
しかし、伊万里は誰もいないはずのだだっ広い空間を、何かを探すように首をせわしなく動かす。
その動作は、ここに来るまでの洗練された挙動ではなく、何処か焦ったような、慌てたような仕草だった。

「大和君……?」

小鳥の様な美しい声も、不安の色が濃い。
伊万里は形のよい柳眉を、きゅっと困惑に顰めながら、大きな瞳を潤ませる。
良く見ると、微かに体を震わせているようだ。

「大和、君!」

彼女にしては珍しく、大きな声をあげた。

「ん〜」

すると、背後の屋上の出入り口のある建物の影から少年の声。
伊万里はぱっと振り向くと、建物の裏に回りこんだ。

覗きこむと、建物に寄りかかるように座った少年がいた。成程、ここならば屋上に入って来た人が探そうとしない限りは見えない。
少年の脇には、男物とは思えない可愛らしい弁当箱。
伊万里が彼のために作って来た弁当だった。昼食の後、きっと昼寝をしていたのだろう。
眠そうな顔で顔をあげた少年と目が合うと、さっきまで色濃かった不安そうな表情が一瞬ほっと安堵したものに変わり、しかし直ぐに焦燥に歪められた。

「大和君……もう、わたし……!」
「ああ、伊万里か。結構速かったな……」

切羽詰まったような伊万里の声。
対する少年、松浦大和の表情と声は面倒くさそうな、というか面倒くせぇオーラがびんびん出ている。

「走って来たのか?」
「そ、そんな事……廊下は走ったらいけないんだよ」
「こんな時まで律儀だねぇ、まあ、それも快感なんだから仕方ない、か」

大和の呟きに、伊万里が顔を俯けた。
気のせいか、その頬も若干桜色に染まっている。
そして、ちらちらと窺うように大和へ視線を送る。
何か言いたげな視線。

「え、ええ、と。大和、君」

もじもじと、膝よりも長い丈のスカートの端を弄りながら。
ぱくぱくと、口を開いてはまた閉じる。
その頬はもう見間違いではなく、桜色に染まっている。

「あうう……」

暫く口をパクパクさせた後、やがて、諦めたかのように鳴いた。
そして、大和へと何かを期待するかのような眼差しを向ける。
その視線を受けて、ったく、と大和はだるそうにため息をついた。

「あのな、何時もお前から呼び出してきておいて、俺が切り出すのを待つのやめろよ。まるで俺が、愉しんでるみたいじゃねえか」
「う、うぅ、ごめんなさい……」

泣き出しそうな声。
だから、そうじゃなくって、と大和の声が少し苛立つ。
けれど、何時もの事か、と諦めてもう一つ、今度は特大の溜息をつく。

――これは、本当は、俺の意思じゃないんだからな。
そう思わせるかのように。

「ほら、スカートめくってみろよ。もう、我慢できないんだろ?」
「う、うん!」

伊万里の嬉しそうな声。
そして、今まで両手で弄んでいたスカートをおもむろに捲りあげた。
純白のフリルつきパンツ。何とも、彼女らしい清楚なパンツではあるが、少し違和感がある。
一つは、そのパンツがじっとりと濡れ、大きなシミが出来ていること。
そして、何よりパンツがもっこりと膨らんでいた。

「もう、わたし、我慢できない……」

苦しそうに、伊万里が呻く。
そして、びくびくと、小刻みに震えだした
不定期に漏れる吐息は、妙に艶めかしい。
大和から切り出したお陰で何かが吹っ切れたのか、伊万里はもう大和の指示を待つことなく、自らの意思でスカートのフックを外した。

ぱさ、とスカートがコンクリートの地面に落ちた。
しわ一つなかった、スカートにしわがつくのも気にせず、伊万里は、今度はパンツを勢いよく引きずり下ろした。
それと同時に、パンツの中で蠢いていた物も、万有引力に従い地に落ちる。
ぼとっと間抜けな音。

太いゴム製の棒が春の麗らかな日差しを浴びて、怪しく光る。
それを見て、伊万里が、はあ、と色付いた息を漏らす。
対照的に、大和はげんなりとした顔でその様子を眺めていた。
屋上は、それなりに風が強く二人の間を涼やかな風が通り抜ける。
その中に、先刻の春の妖精も混じっている。もしかすると、女神が恋しくて追って来たのかもしれない。
しかし、妖精の目に映った女神は、つい数分前の凛とした、けれど儚い浮世離れした少女ではなく。
ただ、こみ上げる快感に身悶えして、感情を昂らせている牝の姿だった。






春の日向

俺、松浦大和には幼馴染がいる。
幼馴染、と言っても家が隣同士と言う事はなく斜向かいの、そしてお互いの両親の中が良いという事もなく、何の交流もなかった。
それもそのはず、我が家の両親は何処にでも居る様な普通の両親で。
幼馴染である神埼伊万里のところは、まあ、所謂堅気の家ではなかった。
と言っても、決して父親がヤーさんや親分と言う訳ではなく、ある企業の社長さんだ。……まあ、噂によるとその経営方法は限りなく黒に近いグレーらしいけれど。
とにかく、そんな住む世界がまるで違う俺と伊万里ではあったが、幼いころ出自のせいで敬遠され友達の居なかった伊万里を、
当時伊万里の家のことなんてほとんど知らなかった俺が、何時も一人で寂しそうとかくだらない理由で構ってやるようになり、それ以来すっかり懐かれてしまった。
それは、10何年の時が流れた今も変わらず、伊万里は親の説得を珍しく突っぱね、俺と同じ平凡な公立校へと進学してしまった。
何処に行っても家の事で友人の出来ない伊万里は、この高校でも相変わらず俺以外に一緒に遊べるような存在はおらず、何時も付きまとってくるのだが、
正直俺は、辟易としていた。

……コイツのせいで、恋人も未だできたことないしな。

それでも、こんな生活は高校卒業まで、と自らに言い聞かせ何とか耐えている。
伊万里は、俺に高校卒業後の進路を時々訪ねてくるが、今のところ白を通し切っている。
そんな、俺以外に気軽に話せる人間の居ない伊万里ではあるが、別にコイツ自身は、他人が思っているようなやつではない。
寧ろ、あの強面の伊万里の父親から、よくこんな娘が生まれたなと生命の神秘を感じてしまうくらいだった。
温厚で、怒った所は俺も余り見た事がなく、生来多くの人と接することができなかったせいか、引っ込み思案な所がある普通の女の子。

まあ、周囲の人間も伊万里の事を、暴力的だとか怖い奴だとか思っている者はいないだろうと思う。
しかし、彼女の家の教育方針のせいか、お嬢様然とした、俺たち庶民と隔絶した立ち振る舞いのせいで、また別の意味で敬遠されてしまっている哀しい子なのだ。

しんと、痛いくらいに静まり返った屋上。
俺は、最近慢性的になった頭痛をこらえながら、地に落ちたゴム製の棒を手に取った。
薄い肌色のような奇妙な色をしたそれは、てらてらと何かに濡れて煌めいている。
この突起の一杯ついた柄の所で枝別れした卑猥な形をしたものは、まあ、所謂大人の玩具、つまりはバイブだった。
そんなモノが、今まで伊万里の中に入っていたのだと思うと、もう何回目か分からない実物を目にしても夢と見紛う。
ここで、声を大にして弁明する必要があるだろう、これは決して、けっっっして、俺の私物ではない。
そして、これを挿入しろと俺が伊万里に言ったわけでもない。
このバイブは、完璧に伊万里の私物で、完全無欠に伊万里の意思でこのバイブを自らの膣内に侵入させたのだ。
視線を感じて、伊万里を見ると、期待に満ちた瞳。わくわくとかいう効果音が聞こえてきそうだ。
俺は頭を軽く押さえながら、

「何回イッたんだ」

当たり障りのない事を聞く。
伊万里は、

「4回、かな」

と即答。

さっきまでの羞恥はどこへやら、快感に脳を侵され理性のタガが外れているようだった。

「4!?たった、校舎を一回りしただけだろ?バイブも動かさないで入れてるだけだったし、いくらなんでも多くないか?」
「だって、感じてる自分が恥ずかしくって、それも気持ちよかったんだもん」

そう言う伊万里の表情は、とろんと蕩けている
今までの経験上、伊万里がこの表情になる時は、4〜5回くらいイッた時だと推察できる。
どうやら、伊万里が言っている事は本当のようだ。

「お前な、いくらなんでも……」

淫乱すぎる。
そう言おうとしてやめた。
そう言う卑猥な言葉は、今の伊万里を悦ばせ、さらにアクセルをふかせるだけで俺には何の得もない。
伊万里も言葉責めを期待していたらしく、不満顔になる。

「大和君……何か、乗り気じゃない」
「俺がいつ、乗り気になったよ」
「えと……一番初めにエッチした時」
「……」

ち、と思わず小さく舌打ち。
確かにあの時は、伊万里を抱けることに昂奮していた。

――だって、そうだろ。伊万里は、胸は小さいけれど、可愛いし、普通の男なら昂奮するはずだ!
言い訳がましく、心の中で叫ぶ

「ん、んな訳あるかよ」

そして強がって見せると、

「嘘だ」

伊万里がジトっとした目で非難してくる。

「本当だっつうの!深夜いきなり、家に忍び込んできたかと思ったら、バイブで処女膜破っちゃった〜とか言って泣きついてきた奴に、昂奮出来るわけないだろ」

いや、あれは本当にビビった。
伊万里がオナニーやSEXなどの性知識を持っていた事もそうだが、何より伊万里の手にあった凶悪な形をした赤く染まったバイブに。
何故か一瞬、掘られる!?と尻の穴がキュッと閉じてしまったくらいに。
泣きついてきた伊万里に理由を聞くと、ある切欠でオナニーの快感に虜になった伊万里は、こっそりバイブを取り寄せ、一日何度もオナニーにふけっていたのだという。
そして、快感を求めるあまり勢い余って、バイブを置く深くに突き刺してしまったのだそうだ。
何と間抜けなやつなんだろう、と思う。
男の童貞なんか比べ物にならないほど、女の貞操ってのは書くが高い物じゃないのか。
……否、ただ単に俺が幻想を持ち過ぎているだけで、現実には処女なんてそんな価値のあるものでもないのか?

「でもその後、わたしと何回もした癖に」
「それは!……お前、あれだろ。男の本能というか、何というか……」

そう、ぼそぼそと呟くと、伊万里は満面の笑み。
ほらやっぱり、とか言って得意げだ。
まぁ、確かに伊万里の言うとおり、ほぼ半裸の伊万里の姿にムラッときて、襲ってしまったのは事実だ。

「……あの時は、悪かったな」
「へ?」
「だから、初めての時だよ!……否、処女ではないから初めてではないのか?まあ、どっちにしろ襲っちまったのは事実だしな。悪かった」

伊万里は、きょとんとした顔。
そして自らの頬に右手を当てて、数秒間考えるそぶりを見せた後、

「謝る必要なんて、ないよ。だって、わたしは、自分でするのも勿論好きだけど、やっぱり大和君にしてもらうのが一番だから」

だから、こうやって何時も呼び出しているんだよ、と伊万里。
確かに、あの日伊万里を襲ってから、度々伊万里にあらゆる場所に呼び出され、求められるまま体を合わせてきた。
俺としては、あの日の罪悪感があるし、見返りとして伊万里手製の豪華な弁当も食えたから断ることはしなかった。

……それに、まあ、伊万里とSEXできるのはかなり魅力的な事だし、な。
とはいえ、そんな関係が一年近くたち、正直最近は面倒くさくなってきたのもまた事実だった。
そして、春休み明けで暫く会えない日々が続いて欲求不満だったのか、今日は何でもSMプレイの片鱗を味わってみたいとかで、俺に態々、

「バイブを入れて、校舎を一周して来い」

と命令させやがったのだ。

全く、こんな顔してどんだけ淫乱なんだ、と思う。

「ね、ねえ、それで、大和、君……」

伊万里が三度、何かを期待するかのような眼差しを向けてきた。
何を望んでいるのかありありと分かるが、

「何を期待してるのか手に取るように分かるが、もう直ぐ昼休み終わるし無理だからな。それに4回もイッたんならさすがに満足しろよ」

自分の時計を見せながら言う。
足元の弁当箱を屈んで拾い、伊万里に手渡す。
そして、伊万里の横を通り抜けようとして、

「嫌っ!」

と、伊万里にしては珍しく大声で、スピアーをかましてきた。
予想以上のタックルの衝撃に、ぐふっと声にならない声が漏れた。
そのままコンクリートに倒れこみ、強か頭を床に打ち付け、その拍子に舌まで噛んだ。
口の中に鉄っぽい味が、じわりと染み込んでくる。

――あ、俺死んだ。

一瞬意識が遠くなる。
が、死ぬという事はなく、妙に下半身がスースーする感覚で意識を取り戻した。
そのまま、痛む頭を僅かに持ち上げると、

「何してんだ、お前……」

掠れた声が漏れる。
倒れこんだ俺の下半身の上にしゃがみ込んだ伊万里は、きょとんとした顔で俺を見上げた。
その手に、俺の逸物をもったまま。

「え、何って……ナニするんだよ?」
「うわ、ソレ、すっごい使い古されたボケな」

痛む頭が、更に痛くなった気がする。
頭を手でさすってみる。まだたんこぶは出来ていないようだが、しばらくすれば腫れあがることだろう。

「大和君の、勃ってない」
「殺されかけたっつうのに、勃起させるほど俺は酔狂じゃねえよ」

至って正論だと思うのだが、伊万里は不服そうな顔。
むう、と頬を膨らませる。
恥ずかしがりやな気質のある伊万里は、普段ならこんな仕草、俺にだって滅多に見せない。
がちがちのお嬢様教育で培われた、大和撫子然とした立ち振る舞いが他人と接するにおいての壁となってきた伊万里だが、それは彼女の意思によるものでもある。
つまり、普段は盛大な猫を被っている状態に近く、この猫被りがなくなるのは、俺が知る限りSEXの時のみだと思う。

「いいもん。勃ってないなら勃たせれば良いんだもん」

そう言って伊万里がゆっくりと、逸物を上下に扱き始めた。
きめ細やかなすべすべした指の感触が、はっきりと伝わってくる。
じんじんと痛む頭よりも、逸物に対して集まり始めた快感の方が強くなってくる。
そのまま数秒間、伊万里の白く長い指で弄ばれただけで、あっという間に俺の愚息は天を衝いた。
全く、男ってやつは……と自分にほとほと呆れかえってしまう。
対照的に、伊万里は破顔。
そのまま、何の躊躇もてらいもなく俺の剛直を、自分の膣内へ挿入した。

「んんんっ」

愛液が潤滑油となっているが、伊万里の膣内は相変わらずきつい。
ず、ず、ず、と剛直が伊万里の秘唇を裂きながら、奥へ奥へと突き進む。
温かく、柔らかな伊万里の膣が肉棒をぱっくりと包み込み、きゅうと締め付けてくる。
やがて、逸物を僅か残した所で、伊万里の奥に当たる感触があった。

「ふうぅぅ」

伊万里が俺の胸に手を衝いて、ゆっくりと深く息を吐いた。
俺と目が合うと、既に蕩け始めた表情で笑いかけてきた。

「どんなバイブよりも、やっぱり、大和君のが一番だよぉ」

何故だろう。全然嬉しくない。
バイブと比べられた所で、全くキュンとこない。
そんな俺にも気付かず、伊万里がゆっくりと腰を動かし始めた。

「んっ……あっ……うぅ……んぅ」

伊万里が腰を振る度に卑猥な水音が、静まり返った屋上に響く。
伊万里の声も、次第に色付き、荒くなっていく。
彼女の腰使いは素人のそれとは明らかに違う。
ただ上下に揺するだけでなく、円を描いたり上下左右の動きを駆使して、自らの性感帯を刺激している。
下半身からこみ上げてくる快感と上から下りてくる痛みとに頭がぼやけ、視界がかすむ。
霞む視界の中、俺は半ば無意識に腰を突き上げた。

「ひぅんっ!?」

想定外の快感に、伊万里が一際大きく喘いだ。

「ううぅ……んんっ」

自分の出した喘ぎ声に、伊万里は顔を羞恥に染める。
しかし、彼女の腰の動きが止まる事はない。

「ん、あぁっ、やまと、くん……」

甘く呻きながら、伊万里が体を屈め、俺にキスの雨を降らせる。
啄ばむように、何度かノックをした後、ぐっと唇を押しつけてきた。

「ん、んむ、れろ……」

舌を押しつけ俺の唇をこじ開けたかと思うと、自分と舌と俺の舌を絡めてくる。
ぴちゃぴちゃ、じゅるじゅると俺の唾液を一心に吸い始める。

「ん、じゅ、じゅじゅ……ちゅるっ!」

数分、否、数十秒にも満たないだろうか。俺の口内を蹂躙した後、伊万里が唇を離し体を起こした。

「ぷはっ……ふふ……」

伊万里が妖艶に笑みながら、自らの唇に付いた、どちらのものとも取れない唾液を舐め取った。

「ふふ、大和君の味だった……大和君、口の中切ってるよ、大丈夫?」
「っは、誰の、せいだと……」

答える俺の息は、荒い。
ねっとりとした、深い口付けの間も伊万里の腰は小刻みに動き続け、伊万里の膣も精液を絞り取ろうと絶え間なく締めあげてきている。

まるで、伊万里の膣自体に意思があるかのような動き。俺に絡みついて離そうとしない。
ふと、世界の果てかと思うほど遠くでチャイムの音が聞こえる。

「ふっ、ふふ……授業始まっちゃったね。あっ、ん、言い訳どうしようか」

そう言いながらも、伊万里は腰の動きを緩めようとはしない。
自分で自分の気持ちのいいところを、俺の肉棒を使って執拗に責め続けてくる。
俺も感情が昂ぶって来るのを感じる。更なる快感を求めて、肉棒で伊万里を突く。
ぼーっと、脳が快感と痛みに甘酸っぱく痺れる。
血流が下半身へと濁流となって、流れていく。

「あぅん、ふふ、大和君のびくびくってしたよ。もう、射精そうなんだ?」

伊万里の声が、どこか遠い所から聞こえてくる。

「わ、わたし、も。イッちゃいそう……大和君、一緒に、一緒に、イこう?」

伊万里の膣が逸物を更に深く、強く絡め取る。
まるで、伊万里の膣から精液を抜き取る引力が働いているかのように、射精感がこみ上げてきた。

「ん、あっ……ん、あんっ、んんっ……あ、む、んんんんんっっっ――――!!」

絶頂の寸前に、伊万里が自分の制服の裾を噛んだのは、僅かながらに理性が残っていたからだろう。
俺も、きゅうと噛みついてきた伊万里の膣に耐えきれず、肉棒を抜く間もなく伊万里の中へと精を吐きだした。
その刺激で、更に伊万里の膣が痙攣し、その快感に更に精が花火のように弾ける。
その全てを奥で受け止めながら、伊万里がよろりと俺の胸に倒れこんでくる。
ぴくぴくと小刻みにその体が震えている。

「ふ、はっ、はぁ、ふうぅっ、ふふ、一杯でたね、大和君」

伊万里は、荒い呼吸と共に肩を大きく揺らしている。
俺は射精後特有の倦怠感を感じながら、快感がなくなったことで一種の麻酔状態が切れ、激しい頭痛に襲われ意識を手放した。

「――君、大和君」

ぼんやりと、伊万里の声が遠くから聞こえてくる。
海の深くから、意識が浮かび上がってくる。
目をゆっくりと開ける。ぼんやりと、視界が朧気ながらも戻ってくる。
心配そうな表情で伊万里が俺を見下ろしていた。
どうやら、伊万里に膝枕されている状態のようだった。

「ん、いま、り……っつつ!」

体を起こそうとして、鈍い頭痛に顔を顰めた。

「ダメだよ、まだ、動いちゃ。大きなたんこぶ出来ていたから」

伊万里が、俺の肩をやんわりと抑えた。
手で触ってみると、成程大きなたんこぶが出来ていた。

「つつ、ったく、勘弁してくれ……」
「あぅ、ごめんなさい……わたし、夢中になっていて」

伊万里が黒目がちな瞳を潤ませて、しゅんとする。
どうやら性欲を満たし、完全に理性を取り戻したようだ。
ったく。心の中で、舌打ち。こんな顔されたら、責められないじゃないか。
ごめんなさいと伊万里は謝るが、どうせまた数日後には同じような事が起こるのが分かり切っていた。

「今、何時だ?」
「え、と。もうすぐ6時間目の授業が終わるころかな」
「あー、授業2つ丸々サボっちまったか。言い訳考えなきゃな」
「うう、ごめんなさい……」

伊万里の眼には、ぶわと涙が溜まっている。
ダムが決壊するのも、時間の問題のように思える。
俺は何となく手を伸ばし、伊万里の頭をなでた。

「ふぇ?」

伊万里がぱちくりとした瞳で見返してくる。

「頭も痛いし、もうしばらくしたら保健室に行くか。伊万里も付いてきてくれよ、たんこぶの応急処置してくれ」
「う、うん!」

伊万里が嬉しそうに頷く。
その拍子に、つうと一筋涙がこぼれた。
この時の彼女の中に過っている感情が、悲しみじゃなければいい。
伊万里の膝に頭を載せたまま、空を眺める。
もう、夕方と言っても良い時間だが、まだ空は赤く染まっていない。
夕焼けに全てが染まるまで、もう少しだけ、このままで。






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