まぞが島物語 哀しみの闇の中で
シチュエーション


少女は暗闇の中で目を覚ました。

そこは狭い船艙だった。
波をかき分ける音が聞こえ、船底が大きく揺れている。
潮の臭いが辺りを包んでいる。
天井から僅かに陽が漏れて差し込んでいる。

少女は床に荷物のように転がされていた。
両手と足は白い着物の上から縄で縛られて、身動きが出来ない。
口も手ぬぐいで、猿ぐつわをされている。

少女は朦朧とした意識の中で、湿った床に不快を感じていた。
頬が床に当たり、その白い頬が黒く汚れている。
艶のある黒い髪もバラバラに乱れている。
純白の着物も、湿り気を帯びて無惨に汚れてしまっている。

(ここは どこ?)

少女は少しずつ意識を取り戻し、縛られて不自由な体をゆっくりと起こす。

暗闇に目が慣れて、辺りの様子がだんだんとわかり始める。
大小の荷物が所狭しと乱雑に積み込んである。
高価な布で包んである物。
重厚な木の箱。
刀に槍、そして弓などの武具。
人の気配はない。

(私はなぜ ここにいるの?)

少女は記憶をたどり始めた。
ようやく鮮明になった意識で、昨夜の事を思い出していた。

その前夜。

「姫様! 一大事にございます! 海賊が・・! 海賊が我々の船に襲いかかっておりまする!」

従者の慌てる声で、少女は飛び起きた。
急いで甲板に行くと、そこは凄惨な戦場となっていた。
数十人の男達が、敵味方入り乱れて戦っている。
揺れる篝火、男達の叫び声、剣と剣が打ち合わされる音、船が焼ける臭い。
たちこめる煙、うずくまる男達、逃げまどう人々、うめき声、悲鳴。

突然、矢が少女の首をかすめる。
少女は刀を持ち、身構える。

「姫様!ここは危のうございます!早くお逃げ下され!」

そう叫んだ従者の背中に矢が突き刺さる。

「姫様!はようお逃げ・・」

従者はひざを折り、崩れ落ちる。
少女は従者を抱きかかえる。

「しっかりおし・・」

しかし従者はすでに白目を剥いて絶命している。

「女だ!」
「娘だ!それもべっぴんだぞ!」
「へっへ・・!殺すんじゃねえぞ!生け捕るんだ!」

海賊達の下品な嬌声が飛び交う。

見渡すと少女の周りには、海賊達が幾重にも取り巻いている。
すでに味方たちは、少女を除いて倒されている。

少女は海賊達に怯えることなく睨みつける。
手に持った刀を、ためらいなく自分の喉に当てる。
目を閉じて、刀を持つ手に力を込める。

その瞬間、海賊の中から一人の男が鷹のように飛びかかり、少女の手首を押さえ刀を取り上げる。
周りの海賊達が狂喜して笑い、手を叩いて囃し立てる。

「さすが新しい頭だぜ!おいら達の親分はこの国一番の男だ!」
「この娘は新しい頭領の初陣の獲物だ!」

頭領と呼ばれた男は、もがく少女を抱きかかえて立ちあがる。

「さあ!野郎ども!島へ帰るぞ!」

大きく開けた口から、白い歯が覗く。
返り血と汚れに塗れた顔とは対照的に、屈託のない笑顔で号令を掛ける。

少女は逞しい腕の中で、気を失っていった。

「島だ!島が見えるぞ!」
「帰ってきたぞお!」

威勢の良い男達の声が、甲板で聞こえる。

間もなく船艙の戸が開き、一人の若者が入ってきた。

「俺たちの島に着いた。窮屈な思いをさせてしまったな。すまん」

その若者は昨夜、頭領と呼ばれた男だった。

日に焼けた浅黒い肌。
見上げるほどに高い上背。
鍛えられた太い二の腕。
海賊とは思えない、穏やかで優しい瞳。
統率力と行動力を感じさせる精悍な笑顔。

男は少女を縛る縄を解く。
戒めを解かれた少女は大きな瞳で、若者を見つめる。

「恐いかい?俺のことが。ま 無理もないか・・」

男は頭をかいて、少女を立ちあがらせた。

「上へ行こう。もうすぐ上陸だ」

少女は男に連れられて甲板に上がる。

「ま ぶしい」

闇に慣れた目に、明るい景色が飛びこむ。

青い海に白い波。
緑の木々の林と白く広がる砂浜。
強い風が少女の頬を撫でる。
長い黒髪が海風に踊る。

「俺の名は、源鎮。この島の頭だ。お前の名は?」

男は、おずおずと話しかけた。

少女は源鎮と名乗る男に目もくれず、目前に迫る島をうつろに眺め続ける。
そしてまるで独り言のように呟いた。

「わたし? 私は ともえ・・都の公家の娘 巴姫」

風はいっそう強くなり、海が騒ぎ始めていた。






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