まぞが島物語 雷鳴
シチュエーション


ミサが祈りを終えて、社の外に出てくるとトメが待っていた。

「よかったな。これで祈りの儀式は無事おわりじゃ」
「これから・・どうするんですか」
「次はいよいよ、お床入りの儀式じゃ」
「男入り・・ですか?」
「違う。『お床』じゃ。じゃが、察しが良いのう。似たようなもんじゃからな」
「似たようなものって?」
「つまりな、お前の身体の中に、男が入るわけじゃよ。わかるか?」
「いいえ・・よく・・わからないです」
「よい、よい。心配しなくとも。ちゃんと旦那様が大切に扱うて下さるでな。ミサは身を任せるだけじゃ」
「・・・」

ミサは困惑し、返す言葉が出ない。

突然、生暖かく湿った風が、ミサの裸身を撫でた。
見上げると夏の青空は消え、どんよりとした灰色の雲が広がり、辺りは急に暗くなっている。
遠くの空から雷の音が近づいているようだ。

「ひと雨来そうじゃの。早く奥座敷に急がねば」

トメはミサの手を取り、歩き出した。

「あの・・網元さんが待っておられるんですか?」
「そうじゃ。ミサが来るのを楽しみに待っておられるぞ」
「この手首の縄、外していただけませんか」
「ああ・・これか。これはミサが良い子にしておれば旦那様が外してくれるじゃろうて」

トメはミサの言葉を聞かず歩を速める。

「でも、この姿で他人様の前に出るなんて・・恥ずかしいです」

ミサはこれまで、異性の前で自分の秘部を晒すなど、考えたこともなかった。

「ああ、そりゃそうじゃな。丸裸じゃからな。心配せんでもええ。衣装はちゃんとあるでの」

トメは忘れ物を思い出したように立ち止まると、懐から小さい白布を取り出した。

「忘れとったわい。わしも年じゃな。もう何年もこの儀式をせんかったからの。これがお床入りの晴着じゃ」
「これで・・隠すんですか?!」

ミサは息をのんだ。

その白い布は10cm四方の小さな布きれだった。
これでは陰部だけがどうにか隠れる程度で、とうてい衣装という代物ではない。
そしてその布には、大きく墨字で『献上』と書かれていた。


郷土史研究家の説によると、まぞが島に人々が最初住み着いたのは平安初期の頃。
どのような人達がどういう経緯で、この辺鄙な島に定住したのか定かではない。
海難で漂流した漁師が定住したという説、
流刑者が逃亡し隠れ住んだという説、
中央政府から迫害を受けた少数部族が移り住んだという説、
それらの混合説、など様々である。
いずれにしても住民達は、その頃から外界との接触を嫌い、慎ましく平穏に暮らしていたといわれる。

その平穏な島に異変が生じたのは平安末期の頃。
当時、日本を二分した大きな戦があった。
全国各地で旧勢力、新勢力の激烈な戦闘が繰り広げられた。
その中に近海を荒らす海賊の一団が加わっていた。
どちらの勢力に与していたかは不明である。
だがその一団は、戦闘よりも略奪を好み、戦場での厄介者であったにすぎない。

大戦の雌雄を決する海戦があった頃、その一団は突然戦場から姿を消した。
そして上陸したのが、この「まぞが島」だった。

戦慣れした海賊達がこの島を征服するのは容易いことで、時間はかからなかった。
わずか一日の内に、刃向かう島の男達を退け、金品を奪い、女達を陵辱した。
そして海賊達は、この島から出ることなく為政者として居座ったのである。
その後、海賊達はこの島を隠れ家として、近海を通る船を襲い宝物や女達を略奪するようになる。

ちなみに、まぞが島の女性には美人が多い。
それはこの頃、各地から美形の女性達が浚われてきた歴史に原因があるのではないか、といわれている。

こうしてこの島の初代支配者となったのが、海賊の頭領・源左である。
源左は島の東にある林の中に屋敷を建て、恐怖政治で島人を支配した。
日夜、酒池肉林の宴を催し、女達は恨み言さえ言えずに陵辱され続けた。

しかし、このような悪政が何代も続くにつれ、さすがに島人達の不満の声は高まっていった。
そしてその不満は爆発し、ついに四代目当主、源鎮の代に小さな暴動が起きた。
反乱者達の多くは嫁や娘を陵辱された男達だったが、生粋の荒くれ者に勝てるはずもなく、鎮圧され処刑された。

ただその時、源鎮は考えた。
このまま島を統治し続けることは困難だ。
いつかは反乱者に寝首をかかれてしまう。
何としても我が一族の支配を強固なものにしなくては。

一計を案じた源鎮は屋敷内に小さな社を建立する。
島に土着信仰が無かったのを幸いに、源鎮は自分で神を創りあげたのだ。
すでに彼の一族は島の政治面、経済面を牛耳っていた。
だがそれを絶対的な仕組みにするため、信仰心を利用したのである。

源鎮は、屋敷の庭にある井戸を「命の水」と名付け、社には自分の男根を象った「御神体」を奉った。
そして生活用水に困窮する島人たちに、水を無償で与え、御神体を崇めさせた。
一族の支配は、恐怖の暴力から巧妙な知力へ移行していった。

六代目当主、源助の頃になると安定した社会となる。
ただ、女を陵辱することが家訓とも言えるような一族の男である。
強引に島の女を浚っては自分の欲望を満たしていた。

ある日源助が浜を歩いている時、刃物を持った少女に襲われた。
その少女は二日ほど前に陵辱した娘だった。
間一髪で難を逃れた源助は、彼女の一家を捕らえ、見せしめの公開処刑を行った。

その処刑は、島人達が遠巻きに見守る中、島の南の浜で行われた。
両親と兄たちは磔にされ、その娘は着物をはぎ取られ辱められた後、源助の手にかけられた。

処刑が済んだあと源助は、島人たちの憎悪の視線が自分に向けられているのに気づく。
その時源助は、これでは為政者としての権威を失いかねない、と危惧した。。
その後源助は、女達が自らすすんで身体を捧げる方法はないか、と考えるようになる。
以降代々の子孫達にその教訓は受け継がれ、性の儀式はもっともらしい段取りを形成していくことになる。


「・・けんじょう・・・」

ミサはトメから渡された白布を見つめ呟いた。

「そうじゃ。さっき御鎮宝様に誓ったのを忘れたか。ミサ」
「いいえ・・わすれてません」
「お前の身体はもはや神様のものじゃ。これからこの島の生き神様・源三様にその身体を献上するんじゃ」
「・・・・は・・はい」
「ミサは良い娘じゃ。母様に元気になってもらいたいんじゃろ?」
「はい!もちろんそうです。」
「それなら、たった一晩のお勤めじゃ。頑張らねばな!」

ミサはトメに肩を抱かれ、奥座敷を目指し、敷き詰められた玉砂利を素足で踏みしめる。
「献上」と記された布で、恥じらいの股間を隠して。
いや股間を隠すというより、それはむしろ自分の貞操を源三に献上するという、ミサの意思表示に受け取れた。

さらに雷鳴は近づき、雨はそこまで迫っている。

ミサとトメが奥座敷の縁側に着く。
それを待っていたかのように、土砂降りの雨となる。
大粒の雨が、音を立てて大地を叩く。
緑の林も広い庭も雨の中にかすんで消える。
一瞬、目もくらむ閃光が辺りを照らす。
間をおかず、大地を割る轟音が鳴り響く。

しかしミサの表情に恐怖感はなく、その澄んだ瞳で壮絶な景色を見つめていた。






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