ジャンボマン
シチュエーション


僕は里中浩介。たいした特技も趣味もない、ごくごく普通の高校1年生。
しいて言えば特撮オタ…かな?
でも、今夢中になっているものは、テレビの中の特撮番組なんかじゃない。
信じ難いことだけど、現実のこの町に「 巨 大 ヒ ー ロ ー 」が現れたんだ!

最初に現れたのは1ヶ月くらい前。
あきらかに性格悪そうな巨大怪人が出現して町を練り歩き、町民はパニックに陥った。
しかし海と山に挟まれた、小さなこの町には何もない。
壊すと気持ちいいであろうタワーとかドームとか国会議事堂なんか何もない。
結局、巨大怪人が所在なげに畑や河原を歩き回るのを、僕らはパニクりながら見てるしかなかったんだ。

と、その時!!

山の方から凄いスピードで、もう一つ別の巨大な影が走ってきたんだ!
銀色に光る全身タイツ。筋肉隆々で雄雄しい体。顔の部分は目出し帽みたいになってて、ちょっとダサイ。
その巨人は走ってきた勢いのままに、怪人に飛び蹴りをくらわせた。
怪人はありえないフッ飛び方をして星になったんだ。…これが、その巨人が解決した最初の事件。

それから週1ペースで悪の怪人が海から現れては、銀色の巨人が空の彼方に張り飛ばしている。
なんでか全然わからないけど、怪人も巨人も、この小さな町にだけ現れてるんだ。

当たり前だけど、マスコミがいっせいに騒ぎ立てた。

「悪の宇宙人来襲か!?」「巨大ヒーローの正体は!?」とかね。

そのうち、誰が言い出したのかあの巨人は「ジャンボマン」ってニックネームまでついてた。
知ってかしらずかジャンボマンは今週も現れ、でかいフジツボみたいな怪人を回し蹴りで消し去った。

「はよー、浩介!昨日も出たな、ジャンボマン!」
「あぁ、おはよ。ちゃんと撮ってるよ」
「マジで?俺にも見せてくれよっ」

いつも通り、ハンディカムで撮ったジャンボマンの勇姿をみんなで見る。
おお〜…すげ〜…豪快だなオイw なんて口々に感想を呟きながら、僕を囲む人数は増えていく。
なんか、快感だ。1ヶ月前までは特撮オタの僕のことなんか誰も相手にしてなかったのに。

「ねぇねぇ、私達にも見せてよー」
「ちょっとだけ貸してー」

ぶりっ子みたいなおねだり声に振り向くと、5〜6人の女子のグループが来ていた。

「いいよ。これが再生で、これが次にいくボタン」

壊すなよ…と不安ながらもハンディカムを渡すと、女子達はきゃいきゃい騒ぎながら見始めた。

「すごいすごーい!ねぇ、美鈴も見なよ!」

呼ばれた名前にドキッとして、僕は反射的にそっちを向いてしまった。

「え…、わ、私はいいよぉ」

困った顔で手を振っているのは、木ノ下美鈴。おとなしいメガネっ娘だ。
僕と木ノ下美鈴は、同じ図書委員会なので結構仲が良い。…というか、僕は惚れてる。片想いだ。
最初は別に、好みのタイプでもなかったんだけど。
一緒に委員の仕事をしているうちに、彼女の優しさとか可愛さとかに惚れていた。
そう。彼女、実は可愛いんだよな。一回メガネを外して拭いてるところを見てドギマギしたことがある。

…ま、そんなわけで片想い一直線の僕なんだけど。
今は話しかける勇気もネタも、前よりはある!はずだ!

「木ノ下さんも見ないの?割とよく撮れてるよ」

僕がさりげな〜く自然〜に手招きすると、彼女は困った顔を通り越して、嫌そうな顔になった。

「悪いけど…、私、そういうの見たくないから」

そう言い残してクルリと背を向け、自分の席に歩いて行ってしまう。

……僕は、片想いの娘に冷たくされるわ、唯一の趣味を否定されるわで……。死にたくなった。orz

その日の授業もつつがなく終わり、教室内は一気にざわざわし始めた。
みんな部活の準備をしたり、帰りにマックに寄る話をしたり、楽しそうだ…。
僕は朝から引きずりまくっている重ーい気分を振り払えなかった。
このあと委員会があるから、嫌でも彼女と顔を合わせなきゃならない。参ったな……。

「え〜、では分担したとおりに調べていって下さいね〜」

司書の先生の間延びした声を聞きながら、それぞれチェック用紙を持って散っていく。
今日の仕事は蔵書のチェックと整理なんていう面倒なものだった。
僕と木ノ下美鈴は同じ1年4組だから、一緒に5枚綴りの紙を見ながら調べることになった。
正直、気まずくて会話しづらい…と思っていると、彼女の方から口を開いてくれた。

「里中くん、朝はごめんね。せっかく誘ってくれてたのに」

見ると、本当に申し訳なさそうな顔をしている。嫌われた訳じゃなさそうだ!

「あ、いや…気にしてないよ。こっちこそ無理に誘ってごめん」

普通に会話できたことにホッとして笑うと、彼女も笑顔になった。やっぱり可愛い!!
空気が和やかになったところで、僕達も蔵書のチェックにとりかかった。

「それじゃ、ここから始めようか」
「うん。結構多いけど、頑張ろうね」

作業をしながら、僕はなんとなく気になっていた事を木ノ下美鈴に聞いてみた。

「木ノ下さんさぁ、もしかしてジャンボマン嫌いなの?」

少し緊張しながら表情を伺うと、困ったように眉を寄せた。

「嫌い…じゃないけど……」

本棚を見つめたまま考え込んでしまった。この質問、なんかヤバかったか!?
おろおろと慌てる僕に気付いたのか、彼女はふっと顔を上げて微笑んだ。

「…嫌いじゃないよ。この町のヒーローだもんね」

僕は一気に心が明るくなった。ジャンボマンとともに、僕の趣味までも許された気がした。

「うん、うん!ジャンボマンはこの町が世界に誇るヒーローだと思う!」

僕と木ノ下美鈴は、その日の委員会が終わったあと途中まで一緒に帰った。
僕は舞い上がってしまって、不自然なほどハイテンションでしゃべってしまった。
内容はほとんどジャンボマンや怪人についてだったけど、楽しんで聞いてくれていた…と思う。

「ありがとう、里中くん。話、面白かったよ」

夕日に照らされてにっこりと笑う美鈴はキレイで、僕はまたもドキッとした。

「その…、楽しんでもらえたみたいで良かった」
「うん。ホントはね、私ジャンボマンのこと少し苦手…だったの」
「あ、やっぱり?」
「ごめんね。……でも、今日里中くんの話を聞いてたら平気になったみたい」
「そっか、それは何より!これからもっと好きになってもらえるように頑張るよ」

言ってから、僕は自分のセリフに動揺した。なんか告白みたいじゃないか!

「ジャ!ジャンボマンの話を、ね」
「ふふ、わかってるよぉ」

くすくす笑う彼女は、どこまで“わかってる”んだか。

「あ…、僕こっちだから。それじゃ、また明日学校でね」
「うん、また明日ね」

手を振り歩いていく後姿を見ながら、彼女のことを心の中では「美鈴」と呼ぶようになった、と気付いた。
これが恋なんだなぁ〜美鈴〜…なんてのぼせながら、僕も帰途についたのだった。

次の日の朝、かすかな地響きで僕は目を覚ました。

「んん…これって、もしかして…!?」

何度か経験がある。あの興奮、高揚感がよみがえって、僕は飛び起きて窓の外を見た。

ずずーん……ずずーん……ずずーん…

「キターーーーー!!今回はマリモみたいな怪人だ!」

海からゆっくりとあがってくる怪人を確認し、僕はハンディカムを掴むと外に走り出た。
自転車にまたがり、ゆうべ調べて決めておいた撮影場所に向かってこぎ始める。

僕のリサーチでは、ジャンボマンは北西の山間から現れることが多い。
知っている人は少ないけど、ちょうどその辺り、北西の山すそに古い神社があるのだ。
そこからなら、もしかしたらジャンボマンの登場シーンを間近で撮れるかもしれないぞ!
すごいカッコイイ映像を撮れば、美鈴ともっと仲良くなれるかもしれない…!
僕は純粋なオタ魂と恋心に突き動かされ、ひたすら足を動かした。

ちなみに僕が必死こいて自転車こいでる間にも、マリモみたいな巨大怪人は移動している。
たぶん湖に行きたい(?)ようで、川に沿って一生懸命歩いていく。かなりスピードは遅い。

そうこうしているうちに北西の山すそまでは辿り着いた。のだが…。

「ああーーー!ジャンボマン!!」

どずん、どずんと山を揺らしながら、銀色の巨人が目の前を駆け抜けていったのだ。
慌ててハンディカムの電源を入れ撮影を始める。ジャンボマンはマリモ怪人の毛をむしりとっている。
何度もチョップをかましたあと、バレーのサーブよろしく叩き飛ばしてしまった。
今回も、ジャンボマンの圧勝だった。なんか弱いものいじめみたいだった。

いつもどおり、怪人をやっつけるとジャンボマンは走って山間に戻っていった。
見物人でざわめいていた町は静かさを取り戻し、普通の朝の光景になる。
でも僕は、神社に辿り着けなかったことと、撮影がイマイチ上手くいかなかったことに、
やり場のない悔しさを感じて突っ立っていた。

「ちくしょー…。ここまで来たんだ、やっぱり神社まで行く!」

意地みたいなものもあったけど、次回の撮影のためにも下見しておいた方がいいだろう。
そう思った僕は再び自転車にまたがり、舗装のはがれた坂道を登り始めた。


「はぁっ、はぁ、やっと着いた…」

鳥居の横に自転車をとめ、眺めがいい境内の方へ歩いていく。
ざざっと風が吹いて、日が陰ったらしく辺りが薄暗くなる。
その時、ちらりと視界に銀色のものが映った。

「…なんだ?」

反射的にびくついて、近くの林に隠れる。誰かいるのか…?
音を立てないように恐る恐る進んでいく。本殿の横に、誰かいるような気配がするぞ。

ある程度近付いて、少しだけ顔を出してみる。

「!!!」

あれってまさかもしかして、ジャンボマン!!?でもジャンボじゃないぞ!!?

明らかに、人間サイズだ。こちらに背中を向けて、なにやらもぞもぞ動いている。
と思ったら激しく腰を振り始めた。聞こえ始める高い声。よく見ると女の細い脚が持ち上がっている。

「……なっ…!!!!」

これって明らかにアレだーーー!エエエ…エッチしてるよ!!






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