精一とユキの話 3
シチュエーション


長かった――。
10月半ばになろうという今日、ユキは帰国する。
留学、といっても夏休みを利用した、3ヶ月の語学短期留学なのだが。

短期間でも、きっと得がたい経験をたくさんしてきたに違いない。
海を越えて友人もできたかもしれない。
出発時のユキから、一回りぐらいは成長しているのではないか。
……などと、親のような気持ちになってしまう。

しかし、長かった。
そう思えてしまう自分が、我ながら情けない。
長いと感じさせるようなことを、ふたりの間に課したのは俺のほうなのに。

『俺のことは忘れて、あっちの生活に集中してこい』
そう言って、電話も手紙ももちろんメールのやりとりさえも、止めることにした。
泣いて嫌がったユキは、留学の前にしたその約束を、ちゃんと守り通した。

***

到着ロビーでユキが出てくるのを待っているが、ずいぶんと長く待たされている気がする。
あ――。

「ユキ!」

柄にもなく手を大きく振ったしまった。
駆け出しそうになるのを辛うじて踏みとどまる。

「精さんっ」

耳慣れたユキの声が、それまでの俺の周りの雑音を一瞬のうちに消した。
俺を見つけたユキが、ぱあっと花が咲いたように笑って、走り出した。
胸が熱くなる。
駆け寄ってくるユキを抱きしめたい、という衝動を慌てて押さえ込む。

「精さん、ただいま!」
「おかえり」

ドラマなんかじゃ、ここでハグして、キス……なんだろうけど、俺にはムリだ。
妙に気恥かしくて、ユキの頭をくしゃくしゃと撫でるしかなかった。

「元気そうで、安心した」
「精さんも」

ユキの様子にどこも変わりないようで、まずはほっとした。
肌が白くて、日焼けも度が過ぎると火傷にみたいになってしまうユキが、
薄く日焼けしていた。
見るからに健康そうだ。
やっぱり、ユキも照れているのか、頬がうっすら赤くなっていた。

「んくっ……ぶっふふふ!」
「な、なんだよー」
「……髪の毛……ふふふっ。明日、すぐ切ろうか?」
「……おねがいします。ぜひ。てか、そんな笑うなよー」
「ご、ごめ……」
「ったく……さあ、行くぞ。おやっさんとおばさんが家で待ってる」
「うん」



薄闇に残照を浴びた空港の駐車場から、車で走り出す。

「疲れただろ、家に着くまで30分……ラッシュ時だから50分か。寝ていけよ」
「ううん。ぜーんぜん眠くない。久しぶりに精さんとふたりきりなのに、寝られますか」

少しおどけた調子で言うユキの言葉を、俺は妙に意識してしまった。
……いやいや。寄り道はしないぞ。何考えてんだ、俺。
おやっさんは今日仕事だから、帰宅は7時頃だ。
それまでにはユキを送り届けなければ。

ただ、帰宅したら、今日はもうユキとふたりでゆっくりする時間は無い。
家族で無事の帰宅を祝うんだろうから。
ユキの言うとおり、この車の中の時間だけが、唯一ふたりだけの時間になるわけだ。

「じゃあ、なんか話せよ。聞くぞー。お前の土産話楽しみにしてたんだ」
「うーん、そうだなあ。それじゃあ……」

ユキの声がすぐ傍で聞こえる。
写真だけはおばさんが見せてくれたから、元気な姿は何度か確かめた。
一度、遠慮する俺に、おばさんが電話をむりやり代わってくれたことがあったな。
ユキの声は、あの時以来だ。

耳がくすぐったいような感じがする。
聞きなれた声が、体に染みていく。

「……ねえ、精さん」

急にユキの声の調子が低くなった。

「このまま、帰りたくない」
「は?」
「……どこかで……家に帰る前に……」

体温が、上がる。
ユキが何を言おうとしているのか、すぐ理解した。
本当は、俺だって同じ気持ちなんだが……。
運転に集中しようと、思わずハンドルを握りなおした。

「おばさん待ってるぞー。早く元気な顔を見せてやらなきゃな。だから寄り道は無し」
「……嫌だ。精さん、出かける前も忙しすぎて、キスとハグだけだったじゃん」
「ま、まあな。でもそれで充分だろ。これからいつでも、嫌でも会えるわけだし」
「私たち、それがなかなか難しいんだから。いつも会っててもふたりきりにはなれない」

いっそ自宅を出て、どちらかがアパートなんかを借りてれば、こんな悩みも無かったかもな。
家が隣同士で、ユキは家族と同居。
ユキの両親は俺の親も同然で、俺とユキが付き合ってるのは了解済みだ。
だから、いいかげんなことはできない。
親のそのまた親の代から住んでいるから、近所の目もある。

ユキが、一人暮らしの俺の家で夜を過ごしたり、夜分に長いこと俺の家にいるのも
やっぱりマズくて、気を使う。
そんなんだから、赤ん坊の頃からの付き合いの隣同士という関係は、いいようで、
なんだかもどかしいものだった。

とにかく、だ。
不誠実なことはしたくない、と俺はいつも思っている。
それは、頑固な父をもったユキも同じだった。

最後にユキとふたりきりでゆっくり過ごしたのは、出発する半月ほど前だったか。
忙しくて、そういう時間を作るのが難しかったのと、
良いのか悪いのか俺が自制したためだ。
ユキが、留学のことだけに集中できるようにしたかったからだ。

「ドイツ人のルームメイトがね……彼が会いに来た日……彼女は丸2日、帰らなかったの」
「うん」
「ステイ先のパパやママには嘘をついておいてあげたんだから……私、すごく寂しかった」
「……」
「……精さんとの約束、ちゃんと守ったんだから」
「うん」

最後の方は、泣くのを堪えて声が震えているみたいだ。
泣かせるつもりはなかった。胸がチクチクする。
それに、無事に帰って来たユキを泣かせたくなかった。

「……じゃあ」

家に帰るのには、まっすぐ行って国道へ出るんだが…………
俺は、ハンドルを切った。
30分くらいは時間の余裕がある。
下心じゃねえぞ、と自分で自分に言い聞かせる。
だが、こんなに近くにいて、指一本触れずに帰してしまうほど、俺は紳士じゃない。

3か月ぶりに会えたんだ。
抱きしめて、久しぶりのユキの体の温かさを確かめたい。

「空港の滑走路が見えるところがあるんだ。
 飛行機が離陸していくのが見えるところ」
「え……?」
「それを、見ていこう」
「……?」

何言ってるんだろう? って顔をこちらに向けて、ユキが俺を見つめている。

「…………ちゅーぐらいはできるぞ」
「っ……ちゅー、って……もー!」

おどけて言う俺の左腕を、ユキがぽん、と叩いた。
キスだけだ。それだけなら帰宅するのに差し支えないだろう。

「精さん……それ、オヤジ感まるだしだって」
「どうせオヤジですよ。爺さんよりはましだろー」
「あんまりかわんないよ」
「ひっでえー」

隣ですばやく涙を拭いたのがわかった。
ユキは怒ったような声で聞いてくる。

「……ちゅーだけ?」
「ちゅー、だけ。いや、ハグもあり」
「……その、先は?」
「また今度」
「えー! またキスとハグだけぇ?」

抗議の声があがるが、それはやっぱりおどけた調子だ。
その後から、くすくす笑う声がしてきた。
ユキの声だ。それを聞けば、いつも幸せな気持ちになる。
まわりの空気が柔らかなものに変わって、俺を包み込んでくれる。

浮ついた気持ちを運転に引き戻し、アクセルを少し踏み込んで、ゆるい斜面を登っていく。

「すごい……」

少し傾斜した場所を超えれば、すぐ目の前が開けてくる。
空港の敷地とこちらを区切るフェンスの向こうに、夕闇に点々と光が散っている。
その空き地の隅の、フェンスの間際に、車を着けた。
空き地には、反対側の隅にもう1台先客が停まっているだけだった。

フェンスの向こうは、コンクリートの断崖絶壁だ。
見えている滑走路は遠く感じるが、空き地が空港よりも高い位置にあるので、
かなり見渡せる。

見物には程良い距離だった。
紫色の仄明るさの中、ちょうど、小型の飛行機が離陸していくところが見える。
ジャンボジェット機ではないが、会話も聞こえないほどの騒音が
滑走路の誘導灯も震わせるようだった。

窓を閉めて、エンジンを切る。
日没だし10月だから、暑くは無い。それより轟音がすごい。

ユキは、飛行機の大きな後ろ姿を、首を傾けてじっと見入っている。
そんな仕草がいつもより、たまらなく愛おしく感じる。
自分がこんなにユキの帰りを待ちわびていたのかと、驚くほどに。

「おもしろいだろー」
「うん」
「小さいころ、おやじがドライブがてらよく連れて来てくれた所なんだ」
「ふうん……おじさんは私を連れて来てくれなかったな」
「俺と親父だけの思い出の場所だもんなー」
「ふたりで、私には内緒にしてたの?」

おやじは実の娘みたいにユキを可愛がってた。息子の俺より溺愛してたか。
口を尖らせて、ユキが拗ねたようにそっぽを向いた。
そういうしぐさは、小さなころから変わってないよな。

「ユキ」

呼びかけると素直にこちらを向いた。
メガネを外して、ダッシュボードの上に置いた。
なんとなく照れくさくて、ハンドルに片手をかけたまま、助手席に体を傾けた。

目を閉じたユキの頬に手を添えて、唇を重ねる。
初めてした時のように、体を甘い痺れのようなものが走っていった。

少し頭を傾け、唇を吸うように少し深く交差させた。
久しぶりの柔らかな感触に、我を忘れそうになる。
我慢が出来るうちに、終わらせなくてはいけない。
ちゅ……と音をたてて、ユキから離れた。

「今日はここまで」

ため息がでそうになるのを悟られないように、さっさとシートに体を戻そうとした。

「やだっ」

助手席のシートを倒しざま、ユキが腕を引いたので、俺はその上に引っ張られ、
倒れ込んだ。

「ユキッ、危ないだろーが」

間近にあるユキの顔に向かって、真面目に言ってみたが、
その表情は俺以上に真剣だった。

俺は仕方なくシートからユキの傍に下りた。
俺の車は、シートとシートの間にはブレーキがなく、床はフラットだ。。
運転席と助手席の間に屈みこみ、覗き込むように俺は、瞳の潤みかけた顔に聞いた。

「キス、足りない?」
「キスだけじゃ、やだ」
「……これ以上は、だめだ」
「なんで? ここでいいから、もっと……」
「おやっさんたちが待ってる……だから、おしまいにしよう」
「嫌っ」

俺だって、ずっとこうしていたい。
本意じゃないんだから。
そんなに言うな、挫けそうだよ、ユキ。

「……キスなら、もう一度いいぞ。これが最後な?」

笑顔をつくって、泣き出しそうな顔にもう一度頷いてみてから、口を塞ぐように重ねた。
ユキが誘うように口を緩めた。
頭の奥が、キーンと疼く。
だめだ。これでやめなければ。
……ユキを帰さないと。

離そうとすると、ユキの腕が俺の首にまわされ、ぎゅっと引き寄せられた。
ユキが必死になって唇を割って、舌を滑り込ませてきた。
ぬる……と口中に柔らかな塊が満ちる。
一生懸命に舌を絡めてくるその様子が、可愛くて、愛おしくて、
ついに自分からユキの舌を吸い上げた。

いつの間にか、ユキの髪に片方の手をもぐらせ、もう片方で華奢な肩を
シートに押しつけていた。
頭の中で、やめとけ、お終いにしろ、と叫び声がし続けているのに、止められない。

「っう……ふ……はうっ……ん」

ユキの漏らす声と唾液の絡む音が次第に大きくなり、頭の中の警鐘を打ち消していく。
ユキが口を大きく開けて、喘ぐように空気を吸う。
苦しかったのかと慌てて唇をはずすと、ユキの艶を帯びた声が
途切れがちに車内に響いた。

「っは……ここで……して!……」

我に返って、動きを止めた。
すでに俺は、上気した桃色の首筋を唇でたどって、襟の隙間に
鼻先を突っこんでいた。
それにいつの間にか、ユキの体をシートに押さえつけるようにして、
上半身を重ねていた。

押しつぶしている胸ふくらみの弾力に今頃気付いて、どく……と脈が大きく跳ねる。
慌てて、頭を上げて、ユキの顔を覗き込む。

「お……おねがい」
「…………いや……だめだ」

危ね……突っ走ってしまうところだった。
深呼吸して、息を整えてみる。

「時間がないだろ……帰ろう」

理性をかき集めて、冷静さを装ってみる……下半身が窮屈になっているのを、
忘れようと努める。

ユキの顔を見ると、涙を一杯溜めて今にも泣きだしそうな様子で、
肩を震わせていた。
今さらだが『約束』が、お互いにとって、思いのほか重かったか。

俺だって、限界だ。
……そう思えたら、体が、自然に動いていた。
俺はユキの体を抱き上げて、自分の体へ押しつけていた。

「ユキ」

動悸が激しい。
ユキが俺の腕の中で、もがくように体を捩ったのが、抑えていたものをさらに煽った。
柔らかく温かな体と、ユキの匂い。
この匂いと体温に溶けてしまいたい。
ユキが欲しい。
気が狂いそうなほど欲望の波が次々やってくるのを、必死で押しとどめる。

頭に血が昇って、まともな思考ができない。
深く息を吸い込み、はあっと吐きだすようにしながら、言葉を探した。
もう、大人げない、と言われても仕方がない。

「ユキ、約束、俺がやぶって……いい?」
「……え」

こんな唐突じゃ、なんの事かわからないだろうな。
ユキが守った今回の約束じゃなくて、いつものふたりの間で決めていた事を
言ってるんだから。

「悪いけど、今夜……俺の部屋へ来てくれる?」
「……精さん」
「疲れてるだろうが……頼む、少しだけでも……」

腕の中のユキの体が強張った。
それでも相変わらず俺の頭はのぼせたようなままだ。

「隠れてコソコソするようなことは止めよう、って約束したけど……」
「うん」
「……だめか?」
「ううん……ううん!」

ユキは腕の中で俺を見上げて、目尻に涙を溜めたまま、にっこりと笑った。
さっきから聞こえるジェット機のエンジン音が大きくなった。
滑走路を進み始めた音に、自分の発する声すら聞こえないくらいだ。
ユキの耳に唇をつけて、囁くより少し大きめな声で直接的な言葉を伝えた。

「ユキを……」

ジェット機が離陸する轟音で、窓が震えた。
言い終わると、ユキの耳や頬が、見る間に赤く染まっていった。

*****

いつも始めはくすぐったがるユキが、今日は触れるとすぐ俺にしがみついてきた。
ほどなく声が甘い泣き声に変わった。

首筋も、背中も肩も、どこに触れてもユキはため息を漏らし、ぴくんと体を揺らした。
1年前の頃は痛がって辛そうだったよな……。
中でいく……とは毎回とはいかないものの、今は確実にそこで感じるようになってきている。

ユキのそこは、下着を脱がそうとした時にはもう、布までがずくずくと濡れてしまっていた。
おもわず「車の時から、ずっと感じてた?」と意地悪く聞いてみた。
ユキはむくれて、口を尖らせた。

「お風呂ちゃんと入ってきたよ。なのに……んあっ」

最後まで言葉を聞かず、最近女らしくふっくらしてきた内股を押し広げて、
潤みきったそこに唇を押しつけた。
愛液を啜り上げて飲み込むと、ユキの女の匂いが、鼻と口から流れ込んでくる。
ユキの手が頭に触れて、乱暴に俺の髪の毛を掴んだりかき回したりし始めた。

ユキとこういう関係になって1年半ほどか。
抱き合って、ゆっくり過ごすふたりきりの時間を持つのは、ひと月に2〜3回ぐらいなんだが。
それでもこんなに長い期間、お互いの体に触れないということは無かった。
といっても、たった4カ月足らずのことなのに、俺は飢えたオオカミのようになってしまっている。

お互いの部屋への『夜這い』をしない、と約束したにもかかわらず、それを反故にさせてまで、
自分の部屋でこうしてユキを抱きしめている。

「せ……せいさん、ねがい……なめて…………」
「…………」

いまだに恥ずかしそうにするユキを、寄り添って言葉をかけながら、
ゆっくり確かめるようにするのがいつも、なのに。
それに、ユキからこんな露骨な『お願い』をされることなんて、あまり無い。

「どこを?」と聞こうとしたけど、濡れた襞の間から花芽が可愛らしくのぞいていて、
誘われるように俺はそこにも舌を滑らせた。
俺も今日は、ユキの体を全部確かめたくて、最初から落ち着かなかった。

舌の動きに嬌声をあげて体を捩ったユキを、うつ伏せにして、腰を上げさせる。
猫の背伸びのような格好のユキが、「嫌!」と叫ぶ。

ユキは後ろからされるのに慣れない。恥ずかしいから嫌だという。
最初にした時は、かなり嫌がって断念したんだよな……。
それからも何度か誘って、やっと許してもらえたんだが。
ここまでくるのに、俺も相当な努力をしたもんだとしみじみ思う。

俺の努力のたまものか、ユキは口では嫌と言いながら、おとなしくしている。
気が変わらないうちに……後ろから、足を広げさせて、そこを露わにした。
しっとり濡れた薄い繁みを掻きわけて、人差し指と中指で襞を左右に開く。
ぬち……とかすかな音をさせて開かれたそこは、鮮やかなピンク色だ。

わずかに見える襞の重なりのその奥から、透明の滴が湧きだしていた。
誘われるように、口をつけた。

「ああんっ」

ユキが腰を揺らす。
そのまましばらくユキの股間に顔を突っ込んで、存分に舐めてやった。
次に襞に沿って上へと移動し、その上のすぼまりを舌先で軽くつつく。

「それだめぇっ、やめて!」
「やめない」
「汚いから……」
「フロ入って来たんだろ? 大丈夫、綺麗だよ……マーキングすんの」
「マーキングって……あ、いやっ」
「体中、全部。俺のもんだ、ていう」

できれば、会えなかった時間を埋めてしまうくらい。
勝手な言い分だよな。
誰かに触れられてやしないか、なんてくだらない嫉妬もしている。

ユキの腕が伸びてきて、俺の頭に届いた。
やっぱり、無防備な格好が不安なんだろうな。
その手を片手で封じて、指を絡めあい繋いだ。

すぼまりのまわりを舌先で触れる程度に舐め、焦れてきたところで、
ぺろりと舐め上げた。
ユキが悲鳴をあげる。

もう片方の手を濡れたそこにあてがって、中指と薬指をぬかるみの中に差し入れた。
2本の指が難なく飲み込まれていく。
尖ったクリトリスを緩く弾きながら、ユキの中にもぐらせた指をぐちゅぐちゅと音をたて、
抜き差した。

今日はなんだか、余裕がない。久しぶりだからか。
もう少し、じっくりとユキに触れていたいんだが……。

ユキの様子を見ると、顔をシーツに擦りつけて、うわ言のように「やめて」と繰り返している。
口ではそう言いながら、自分から腰を揺らし「もっと」というように俺に押しつけてくる。
手もぎゅっとシーツを握り締めていて、どんどん昇りつめていっているようだ。

繋いだ手を放し、胸の膨らみをやんわり揉んだ。
胸の愛撫を硬く起った乳首に集中すると、ユキが顔を上げて高い声で鳴いた。
小さな実のような尖りが、手の中でころころと転がる。

愛液が溢れ出してくるその奥で、指が、柔らかな肉の壁にきゅうっと締め付けられる。
ユキが腕を突っ張り、上半身を起こして、背を反らせた。

「…………もう、イったの?」

顔を拭いながら、はあはあと喘ぐユキの顔に目を向けた。
うつ伏せのまま顔を横に向けて、ぐったりとしている。
汗に濡れ上気した顔に髪が張り付き、涙の滲んだ目元が、ピンクに色づいている。

いつもより、ユキはずっと感じやすくなってる……。
自分だって、いつもより貪欲になっているのは自覚しているが。
ひっぱられて乱れたシーツの上に、力尽きたように横たわる姿を見て、
俺は妙に満足していた。
でも、こんなに素直に反応されると、我慢するのもそろそろ辛い。

声もかけずに、まだ力の入らないユキの膝裏を掴んで、足を開いた。

「やっ、あ、まっ……て、待って!」

ユキがそれを閉じようと手を伸ばしてくる。
わずかな抵抗が、さらに俺を煽って意味もなく焦らせる。
何かに急かされるように、ユキの腰を抱えて、自分のモノをユキの中に押し込んだ。

「ああ―――っ」

ユキの喉が仰け反って、背中が反る。
まるで毛を逆立てて鳴く猫のようだ。

「っキッつ……」
「や……あん!」

久しぶりのユキの体の中は、侵入を拒んで、驚くほど頑なだった。
かき混ぜられて白濁した愛液が、内股を伝って滴り、シーツに染みを作るほどなのに、
まるで最初の頃のような抵抗をされる。

もちろんユキの意思と関係ないが、抵抗は、俺の征服欲を充分煽った。
乱暴にしないようにするだけで、精いっぱいだ。

ユキとの初めての時を思い出し、腰が震えた。
それを抑えながら、ユキの背中を見下ろして、上から体重をのせていく。
ベッドに猫のように這うユキが、また叫び声をあげた。
ユキの中に隙間なく埋めて、しばらく射精感をやり過ごす。

少し落ち着いた後、すぐ腰を浅く前後に動かした。
馴染ませるというより、じっとしていられなかったからだ。

ユキの様子を確かめる余裕がない。
痛いとか、辛いとか。
熱くて、溶かされそうになる感覚だけに支配されていく。
頑ななくせに、ユキは引き込むように蠢いて、奥へと誘ってくる。

もう、堪え切れなかった。

「ユキ……!」

離れないようにしながら大きく腰を引いて、一気に奥へ挿入した。

「やッ……ああああ」

ユキの泣くような声が聞こえた。
俺が動くたび、ユキの体が押し上げられている。
すぐにユキに覆いかぶさるようにして、体を抱きすくめた。

「ユキ?……ごめん、ユキ」

声をかけたが、それが精いっぱいで、動きは止められなかった。
ほっそりした腕が頼りなく後ろへ伸びてきて、空を掴んで落ちていった。
ユキのぎゅっと瞑った目尻から涙がこぼれていく。

「精さん……せいさ……ん」

こちらへ顔を向けて、ユキが泣きながら俺を呼ぶ。
そんな声で呼ばれたら……。
俺は、一旦ユキから離れて、力の無い体を仰向けにした。
足の間に腰を入れて、両腕でユキを抱きしめる。
余裕のない動きに、勢い、奥深く貫いてしまい、ユキがびくっと跳ねた。

「はっ……ああっ」
「……苦しい? ユキ……どこか、痛い?」

やっと、掠れた声で聞くと、ユキが首をゆるゆると左右に振った。

「わた……おかしくなっ……」

荒い息をしながら、ユキが切なそうに潤ませた目を、俺に向けた。

「もっと……ぎゅっと、して……」

いつの間にこんなカオをするようになったんだろう。
ユキと繋がった場所から、カアッと熱いものが湧いて体中に広がっていく。

それまで、かろうじて同じリズムで動いていたのに。
久しぶりだから、もう少しユキをイかせてやりたいのに。
情けないが、どうにも自制が利かなくなってる。

体から湧いてくる快感に押されて、抽送を早く強くしていく。
ごめん、と言えたかどうかもわからない。

ユキがしがみついてくるのを、もう一度強く抱きしめ直して、深く貫く。
とたんに悲鳴をあげて、ユキがいつものように、いやいやと頭を振り始めた。
密着した体が汗ばんで、お互いの体温が同じになっていく。

限界に近づいたユキが、俺の名前を呼びながら、背中を浮かして体を突っ張った。
弾けそうな俺のモノを包んでいたユキが、柔らかく収縮する。
奥へ奥へと引き込み、逃すまいと締め付けるように。

ユキの甘い悲鳴を聞きながら、すぐに目の前が真っ白になった。
絶頂を迎えたユキ続いて、俺も、堪えていたものを思い切り吐き出した。



「ごめんな……」

ユキの体をベッドに返して、体を起こした。
ぐったりしてユキは動かなかったが、呼吸は落ち着き始めている。

会えない間に、男の処理的なことも、一切しないでいよう、と決めていた。
一応、守り通したんだが。
結果、ユキに全部ぶつけてしまった。

「ごめん」
「なんで……謝るの?」
「ユキのペース無視して……」

ふふ……とユキが気だるそうに笑った。
事後、男は急降下で元に戻るんだが、女はゆっくり冷めていくらしい。
ユキは緩慢な動きでケットを手繰り、いつものように体を胎児のように丸めた。
まだ瞳が熱を帯びて、とろんとしている。

「え……と。たくさん、ぎゅっとしてもらったよ」
「……後ろから、どうだった? 嫌だった?」
「もー。そんな、どうだったかなんて……教えなーい」

軽く握った掌を口に当てて、ゴミ箱にゴムを捨てる俺を見ながら、くすくす笑う。
なんだか気恥かしくなってきた。

「あ、おしまいのキスがまだ」
「あー、そうだった」
「ふふっ。精さん、忘れてる」
「……久しぶりだからなー」

ユキの体を跨いで四つん這いになり、体を屈めた。
ユキが顔だけこちらへ向ける。

3か月前より伸びた髪が、シーツの上に広がっている。
汗で髪が張り付いたうなじが、白く浮き上がって見えた。
音が出るように軽くキスして、しばらくユキの顔を見つめた。
4カ月ぶりなんだよな……胸が、ジン、として、少し苦しい。

「あったかい」

ユキが、俺の唇に指で触れながら、呟いた。
すると急に腕が伸びてきてきて、頭を抱えられた。

ユキが頬と頬をくっつけて、ぐっと抱きしめてきた。
頬ずりしながら「精さん」と小さく呼ぶ声が、何度も聞こえる。
頭が何度も撫でられる。
ふと、幼いユキに、こうして抱きしめられたことを思い出した。

鼻の奥が鈍く疼く。
ユキが愛おしくて、だけど、切なくて胸が苦しくなる。
こんな、穏やかな温もりを感じられる幸せが、ずっと続くことを、望んでもいいだろうか。

ぐっと、喉の奥に込み上がってきたものを慌てて飲み下す。
涙もろくなってるか?
たった3か月のことなのにな。
伝えたいことも、手放したくないという想いも、前よりずっと固くなってる。
それはユキと離れてみて、さらに俺の中で揺るがないものになった。

溺れちゃダメだ、といつも自制してきたのが、とてつもなく無駄な抵抗に思えてきた。
ひとりでいい、なんて強がりは、ユキの前ではいつも頼りなくなってしまう。
そのくせ、「傍にいてくれ」の一言をいつも飲み込んでいた。

溺れてもいい。
飛び込んでみるか。
でも……その時ユキは、俺を受け止めてくれるだろうか。

ユキの腕の力が緩んでから、俺は上半身を起こし、ユキを見下ろした。
涙が目尻から耳の方に流れている。
上から落とすように、両方の目尻にキスをした。
それからもう一度、ユキの上唇と下唇を交互に啄ばんで、それを食むようにキスをした。

泣き顔も可愛いけどなあ……でも。

「ユキだって、車の中で……」

「わ、言わないで!」と慌てて、手で俺の口を塞いできた。
涙の残る顔が、もう真っ赤だ。そういう顔も、ユキらしくていい。
頭を撫でると、照れ笑いを浮かべて、おずおずと手を引っ込めた。

「俺も、久しぶりで、コントロールできなかったからなー」
「……そう、みたい……だね」

ユキが意味ありげに視線を泳がせた。

「なんだよー」
「精さん……また」
「また、ってなに?」
「だって、お尻に……あたってるもん」
「あ……あ」

ユキの顔がまた赤くなった。
高校生か、俺は。
俺も、照れて顔が熱くなった。
普段2度目はほとんどしないんだが……。

「あのさ……お終いって言ったけど」
「……うん」
「いい?」
「ええと……大丈夫?」
「……心配すんな。ゴムは、たくさんある」
「ぶっ、もう、なにそれ……くふっふふふ!」

ユキの顔が更に赤くなった。

帰国したばかりのユキに悪いと思いつつ……。
背中から抱きしめて、もう一度。
うなじへのキスに「くすぐったい!」と悲鳴をあげるのは、
すっかり体が落ち着いたということか。

「おねだりされたからなー。たくさん舐めてやるか」
「ぎゃああ! 恥ずかしいこと言わないでっ」
「ほれ、色気のある声、出せよー」
「なっ……もう、エロオヤジ! や……あっ」
「聞かせろよ……ユキの」

繰り返しうなじから肩、背中と唇を押し当て、
舌を使うとユキの声が鼻にかかった甘えたものに変わった。

「たくさん感じて、たくさん、鳴けよ」

……今度はできるだけ、ユキに確かめながらするつもりだ。

***

「おはようございます」
「あ、おはよう、精一さん」

1時間ほど遅い起床だった。
かなり規則正しい生活をしているおかげか、年の所為か?

いつものように、自転車で30分ほど走ってこないと落ち着かなくて。
ユキをベッドに残して、日課の『朝練』に行ってきた。

「おやっさんは、もう?」
「そうよ。今日は仕事」
「おばさんも、今から?」
「ええ。今日は忙しくなりそうなのよ。だから早めに出るの」

おばさんは、近くの介護施設でヘルパーのパートをしている。

「精一さん、今帰って来たのよね?」
「はい」
「じゃあ、雪を遅くても10時には起こしてね」
「……え、あ、はい」

俺はユキの家のカギは一応預かってはいるが。
まだ、俺の部屋で眠りこけているだろう。
ユキはゆうべ裸足で俺の家に忍びこむようにやってきた。
両親には気づかれずに来た、と言っていた。

「大学は昼からだって言ってたから……」
「そう言ってました」
「ふたりで一緒に、ウチで朝ごはん食べなさいね」
「……はい」
「お父さんは、気づいてないから」
「っ…………すみません!」

咄嗟に頭を下げた。
血が逆流するような気がして、さっきとは違った汗が噴き出してくる。
「困った子よねえ」と苦笑いして、おばさんは「行ってきます」と歩き出した。
俺は軽いめまいがして、しばらくその場で、動けなくなっていた。






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