VS幼馴染+α
-2-
シチュエーション


だってキス、して来ない。普通する…だろ?それなのに、身体ばっかり舐めてる。

「―――入れる」
「へ?」

突如、がばりと私の脚を開いた。あ、入れるってそういう事か。

…怖いという気持ちは吹っ飛んでいる。今は何もかも、顔も行動も全てがキモイ。理不
尽なくらいに熱いのが、押し付けられる。それでもあまりくっつかない。

今殴れば、正気に戻るかな。戻るかも。そう思ったけど、腰を浮かされて、先端がめり
込んで来た時にもうアウトだと思い知った。

「彩川―――彩川、彩川、彩川っ」

綺麗な顔を歪ませて、泣きそうな顔で、千田は私を呼ぶ。

「いっ」

不意に、鈍い痛み。下を見ると、先端の方が私の中に埋まっている。ウソ。これ、だけ?
それなのに、なんで身体の奥まで締め付けられるみたいな感覚なの?だって、先っぽだけ
だろ?

「あ―――あ、ぁ!?」

そこで、初めて私は言いようの無い恐怖を感じて、引き攣った声を上げた。

「っ」

同時に、私の手首を掴む。右も、左も。

「…彩川、しがみつけ。楽だぞ」

いつの間にか出ていた涙を舐め取って、もう一度、千田は呟く。一瞬戸惑うけど、もう
少しだけ楽な言葉をくれる。

「様式美だ」

…そう言われるとなんとなく、そうした方がいい気になって、ようやく私は千田に抱き
ついた。あ、楽だ。本当に、そう思った。

千田のかたい身体と、匂いと、体温と、全部が楽だ。擦れ合う頬が気持ちいい。

「まだ、辛いか?」

頬で頬を擦られる。耳元を声がくすぐる。さっきから、私の中で何も動かない千田。私
は反射的に首を横に振る。と、嬉しそうな顔で。

「そうか」

とだけ呟いた。さっきから口数が少ない。千田といえば余計なまでにくっちゃべるのに。

「っ―――」

また、少しだけ私の中に入って来る。さっきの状態でも痛かったのに、更に。でも、大
丈夫と伝えた手前、声を上げるわけには行かない。

我慢する。大丈夫。死にはしない。きっと死にはしない。けど。

「…痛いだろ。無理をするなバカタレ」

また、千田は動かなくなった。鈍い痛みは、動かなければなんとかなる。楽になったけ
ど、でも、なんでわかるの?

「え―――なん、で?いたく、ない」
「…気付いていないのか?」

普段だったら、こういう私がわからなくてこいつがわかる、みたいな時は心底バカにし
た顔なのに、今は違う。呆れたような顔はしているけど、なんだか違う。

「お前に気を使われるのは御免だ」

どこかで聞いたような言葉。おでこをおでこにくっつけて、ようやく唇にキスされる。

…なんだか、何かが終わってしまったような気がした。

「…だい、じょうぶだから…いつもは、私が何言ったって好きに、する、だろ…平気だよ、
いたくない。いたく―――っぐ!?あ…あっ!」

びち、と、こめかみにデコピン(?)しやがった。一瞬視界が真っ暗になって、同時に。

「折衷案だ。お望み通りにしてやった。暫く動かんから、もっとしがみついていいぞ」

変に身体が緩んだ隙に、一気に入れやがった。声が、出ない。なんか撃ち抜かれたみた
いな感覚。そんな経験無いけど。

私は痛くて、反射的に千田を抱き締める力を強めてしまった。頬とこめかみと目頭が熱
くて、下半身が焼けるみたいに痛くて涙がぼろぼろ出て来る。

痛い。苦しい。でも、それでも、口で痛いって言う訳にはいかないような気がした。

きっと、千田にはもう全部わかられているんだろう。いつもと同じだ。でも、それでも。

「…だから」

涙で濡れてしまった頬に、また頬擦りして来る。涙を吸って、頭を撫でる。

「痛いんだろ。ていうか、俺も痛い。背中。背中。お前、そんな事にも気付かないくらい
痛いのか」
「―――え?」

何を言っているのかすら、よくわからなかった。背中?

「あ」

私、ぶっ刺してた。爪、思いっ切り、千田の背中に。

気が付かなかった。力の限りしがみ付いて、千田にこれ以上ないってくらい、頼ってた。

「っ、ごめん―――ごめん」

ぱっと手を放す。反射的に謝ってしまう。そりゃそうだ。相当痛かったろうに。

「痛い?」
「多分、お前よりかは痛くないだろうな。お前が俺にしがみついて、こうなるまで1セッ
トの様式美だから気にするな」

一度したからって、もう当たり前みたいにキスして来る。言っている事がわかるような、
わからないような感じで、なんだか翻弄されてるみたい。仕方が無い。こっちに関しては、
私は全くの素人なんだから、こいつに一日の長があるのは仕方が無い。

…でも。

「どうして、さっきまでしなかったのに、今、するの?」

それがキスの事だというのは、すぐに気が付いたみたい。

「…うるさいっ、バカタレが」

一瞬だけ不機嫌な顔をしてから、悪態をついて私の口を塞ぐ。勿論キスで。それでなん
となくわかった。嬉しかった。素で忘れてただけなんだ、と。

嬉しくもあったけど、それでも内心はやっぱり複雑。

こんな事になっているのに、未だに吹っ切れないのにも、腹が立つ。嫌い嫌い言ってい
たのだって、もう、最初から詭弁だったって認めてる。

嫌いっていう言葉は、全部『すき』って言葉だった。なにもかも、気に入らない所はな
にもかもすきな所だった。こんな事許すのなんて、こいつしかいない。ううん、こいつに
なら何をされてもそれが自然だと、だから、今となっては全部予定調和だったんだ。

―――そう、必死で思い聞かせる。理屈ではわかっている。私はこいつしかいない。こ
いつも私しかいない。身体だって、徐々にこいつを受け入れている。息だって荒くなる。

鈍い痛みは取れない。それでも少しずつ、少しずつ慣れて行く。私の中に千田がいる事
が当たり前みたいな感覚になる。不意に、千田が繋がってる所、より上に触れて来た。反
射的に、きゅっ、と千田を締め付けてしまう。声も出る。何より、悪くなかった。寧ろ、
変になるくらい気持ち、良かった。

千田はそれがわかってる。私がそれに戸惑っている事も、受け入れたくない事も。

なんでこいつ、人の気持ちを読むのが得意なんだろう。そういう奴だから、といえばそ
うだけど、空気だって凄く読むし、そうだ、空気読めない工藤と空気読まない水沢と、こ
いつら3人セットだとバランスいいんだよな、割を食うのはこいつなんだけど―――

「あ―――っ」

ずるりっ、て感触。そんな音する訳無いけど、そんな音が頭に浮かんだ。抜かれる。痛
くは無い。熱い。やらしい声が出る。

「…ふざけるな。俺の事だけ考えていろと言ったろうが」

怒った声。わかられてた。悔しい。抜かれた時と同じくらいの速度で、また入って来る。
何度も、征服されてるみたいな気分になる。

「っ、はぁ…あ、あ…っ、あ」

だらしなく口が開く。引き攣ったような声しか出ない。声を我慢しようとすると、そん
な声になってしまうけど、我慢しなかったらもっとマヌケな声になると思って、我慢しか
出来ない。

痛い。でも、それが気持ちいい。全部、とけそうになって、爪はもう立てたくないけど、
しがみつきたくて、さっきのこいつみたいに、匂い、かいで、いい。凄く、いい。

「っ、せん、っ、千田…千田」

名前を、呼ぶ。名前じゃないけど、きっと一生、こう呼んでる気がする。

「―――彩川」

こいつも、きっとそうだと思う。私らは、多分そんなだから、ずっと一緒にいたんだし、
これからもいるんだと思う。でも、そうだったのに、これからは―――

「っ…あ、あ、や、やあ―――っ、や―――」

考えが、中断される。自分の身体が変になる。声が、我慢出来ない。自分の身体が、千
田に吸い付く。もう、何も考えられなくなる。また、涙が出て来る。

頭が、ぐらぐらした。身体中が気持ち良くて、それしか考えられなくて、それしか考え
ないまま、私はどうにも眠くなって、そのまま意識が遠くなって行った。





暗い中、目が覚める。隣には千田。静かに寝息を立てている。ゆっくりと、千田を起こ
さないように身体を起こす。

「…れ?」

なんでだろ。

さっき、散々泣いたからもう出ないと思ってたのに、痛くないのに、涙が出て来た。

理由は、すぐにわかった。悲しいんだ。

「―――あや、かわ?」

目覚めてしまったのか、はたまた最初から起きていたのか。ぐずっている音で、千田を
気付かせてしまった。

「泣いてるの?」

千田の手が、頬を撫でる。私はやんわりとその手を拒否した。

「どして、私と、したの?」
触られたくない事を察してくれたのか、千田は私に触らなかった。千田の気の付きよう
に今は感謝しながら、自分が落ち着くのを待った、そして、聞いた。わかっていたのに。
聞いても答えられてもどうしようもないの、知ってたのに。

「…好き、だから。好きで、ずっとこうなりたくて、だから」

幽霊云々はきっと本当だったんだろう。それを忘れたかったのも、あったんだろう。で
も、それ以上にこれがチャンスだからと、そう思ったから、こうなったんだろう。

思っていた事は殆ど当たっていて、さっきの問いも―――いつから私を好きだったのか
も、ちゃんと答えてくれた。

「きっと俺はお前が最初から好きだった。子供の頃、お前に離れられそうになった時、そ
れっきりになりたくなくて、ずっとお前に纏わり付いてた。それがわかったのは、本当に
最近で、俺はお前と嫌い合って殴り合っている関係が凄く楽で楽しいって思っていた」

千田とは思えないくらいに乱暴に私を抱き締める。

その乱暴さが心地好くて、私も千田を抱き締める。

こうなって、後悔はしていない。私だって、結局こいつといたいし、好きだと…多分、
思う。こいつ意外に楽しくて楽で、よくわからないけどこんな気持ちになる奴なんて、き
っといないけど。

「…うん。楽しい。多分―――多分な、そういう今までの私らの関係って凄く幸せだった
んだと思う。だから、そういうの捨ててまで、今まで以上に楽しいのかなって、そう思っ
て、もしかして、凄く大切なものを自分で手放したんじゃないかって思って」

そんで、涙が出た。

「俺も―――ん。気が合うな。俺もそれ考えた。それでも、他の誰かにお前を取られるよ
りかは、いいと思った。だから、行動に移した」

…それでも。

手放したものが、手に入れたものより大切ではなくても、充分大切で、心の中を占めて
いたものだとはわかっていて、だから、悲しい。

「…もう、前みたいには出来ない?」
「…さあなあ。そればかりはわからん」

私を抱き締めたまま、寝転がる。

「楽しかったよなあ。お前ってなんで組み技とか寝技専門になったの?まさか私に触りた
かったとか?」

あはは、だとしたらキモイ。超キモイ。でもあり得る。

「半分正解。後の半分は『グラップラー』という響きに憧れてな。因みにお前はストライ
カーだ」

…いや、マトモに答えられても凄く困った。マジだこいつ。

「私はお前に寝技掛けられてるの水沢に見られて『健康的エロス!!』て言われて、なん
か怖くて、必死に捕まりたくなくてそっち行ったなー。それ言われたとき中1だぞ?絶対
ぇ水沢頭おかしいよ」
「まあ、奴の頭がおかしいのは認めるが」

「うん。それに大きく分ければお前と水沢は同じ所にいるしなあたたたたた」
ストーカー気質と陰湿エロ、という括りで。いや、実際は知らんけど。ていうか。

「…なんだか、変わらないかも」

頬を引っ張って、笑う。

「そう、だな。なんだか考え過ぎているのが馬鹿らしくなって来たな」

やっぱ、変わったような気もする。柔らかく笑う千田が、なんだか嬉しい。というか。

「もしかして、こうなる方が難しいのかも」

手を引っ込めて、いままで引っ張っていた場所に口付ける。似た様な場所に、千田が口
付ける。

「ふん、構わんさ。そんな時はこう言えばいい」

―――やっぱ、付き合い長いっていいのかも。同じような言葉が頭に浮かんだ。そして、
同時に口に出す。


『スーパー恋人タイム』
「ってか?」
「だろう?」

顔を見合わせて、にんまり笑う。そして。

「とっとと寝ろ。その年で夜泣きかバカタレが」
「うっせー。文句あんならFULL珍で床で寝ろ。その間にオッサン幽霊来るぞ」

…お互い、痛いところを突く。本気で腹立つ。けど、これでいい。

「ふん、まあいつまでも泣かれていては鬱陶しいからな。特別に胸を貸してやろう」
「はん、そんな事言ってオッサン怖いんだろ?生まれたての小鹿みたいにぷるぷる震えて
ろよ。あ、漏らすなよ?」

顔を見合わせる。お互い引き攣った顔してるんだろう。

ふん、と鼻を鳴らして布団を被った。まだ納得した訳でもしっくり行った訳でも無い。
それでも、これで良かったんだと思える程度には―――


「安心した」
「何がだ?常識でわかる範囲内で説明してくれ。お前の頭を酷使する羽目になるだろうが」


安心し過ぎて、こいつの事殴りたいなー、と、やっぱり今日も思った。



‐後日談‐

「ああ、それですね。知っています。通称三田村屋敷事件です。俺の地元じゃそれなりに
有名ですよ」

休み明け、なんとなく工藤の新居であった事を工藤に聞いてみたら、水沢が答えた。

「へーぇ、そうなんだ。ま、僕達は普通に暮らせてるから、別にいいけど」

当事者である工藤(晴)は、全く興味が無さそうにしている。

「そんなんよりかさ、貴枝ちゃんはなんで昌平くんのコート着てんの。僕だってそれ欲し
いなーって思ってたのにズルイ。謝罪と賠償と慰謝料と生活費とお小遣いを要求します!」

染み抜きしたら、血っぽいのカンタンに取れた。千田は二度と着ないと言っていたので
貰った。本人は捨てて欲しいっぽいけど、もったいない。高いし。ていうか工藤図々しい。

「なんか、霊感ある人に向かって行くんだって」

自分の言った事に責任は全く持たないのか、早速別の話題に移る工藤。という事は、千
田は霊感があるって事なのか?

「加えて、お金持ちの人が大嫌いだそうです。匂いでわかるんですかねぇ。三田村正二、
当時47歳。銭ゲバですが、自分の息子に裏切られ、犯された挙句に首を折られて殺され
たそうです。それ以来あの屋敷に霊感のある人が入ると無差別に襲い掛かるそうです」

これまたあっさりと、おっとろしい事を言いやがる。中盤が特に恐ろしい。

「へーぇ大ちゃん詳しいねぇ。もしかして実際お目にかかったとか?大ちゃん素で念とか
固有結界使えそうだし」

…有りうる。確かに水沢なら霊感とかありそうだし。近所だし何より詳しい。少し期待
しながら水沢を見る。が、当の本人は少し困ったように笑って。

「いいえ。実は叔父と不法侵入した事はあるんですけど、2人揃ってなーんも見えも聞こ
えも感じもしませんでしたよ。詳しいのにも理由はあります。その息子本人と名乗る人が
この話を道行く人にしまくるっていう事がありまして。あ、俺が小学生の時です。でも不
思議なんですよね。確かにその家の管理をしている人なんですけど、息子本人は警察に捕
まる前に首を吊って死んでいるんですよ」

やっぱりさらっと水沢は言ってくれたけど。

―――なんとなく、空気が凍った気がした。工藤も、表情を固まらせている。

「…なんか微妙な人だと思ってたら、虚言癖でもあるのかな?千萩に気を付けるよう言わ
なきゃ…」

お前も怖いわ。物凄くズレてると思うけど、今は工藤のズレ方と、水沢の神経がとても
羨ましい。この場に千田がいたら、卒倒してるんじゃないか?

「でも―――うん。実際に殺された人はまだいないんだよね?」

何かを思い付いたように、工藤は物騒な質問をする。

「ええ。どうも霊の方は屋敷から出れないようですし。となると、千田さんは幸運だった
のかもしれませんね」
「ていうかさ、捕まったら、どうなるんだろね。今度実験してみない?」

おいおいおい。いきなり物騒な事言い始めるなあこの男。

「なに?千田か工藤連れてくの?2人とももう、敷地内どころか半径100m以内にも近
付きたくないって思ってるだろうに」
「ううん。ちょうどいいのがいるから。多分その子霊感あると思うし。最近さあ、千早に
彼女出来たんだけど、それが凄く嫌な子で、千早カンッペキに騙されてるんだよね」

…あらま、憎々し気な顔しちゃって。いつもにこにこしてる工藤にしちゃあ珍しい。

「…工藤さん、顔が怖いですよぉ?ていうか、本気ですか?」

本気なんだろうなあ、という顔だ。こいつこういう所怖いんだよなあ。

「俺は反対ですよ。人が死ぬかもしれないのをあえて見過ごすなんて嫌過ぎです」
「私も反対。ていうか、お前気に食わないなら直接対決しろ。その子にしろ、工藤にしろ」

まあ、その嫌な子と工藤の問題なんだから、工藤には関係無いと思うんだけど。

「―――いいよ、別にあんな子死んでも」

プイっ、と顔を背けて拗ねてしまう。ていうか軽くヤバくね?

「…千萩と千早にはこの事言わないでよ?…ウソだよ、僕の生活スペースにあんな子入れ
たくないもん。だから、僕がその子嫌ってるって事言わないでね。2人とも騙されてるも
ん。人に取り入るのだけは上手いんだからさ」

そのまま、頬を膨らませて黙り込んでしまった。

「そういえば、千田さんはどうしたんですか?」

私、若干引いてるのに水沢はなーんも気にしとらんと、話題を普通に変える。

「え、あ、え―――せ、千田?あ、千田?知らない」

別に、意識していた訳でもないんだけど、いきなり振られると口ごもってしまう。


朝になって最初に眼が覚めたのは私だった。幸せそうに寝てる千田の顔を見たら、なん
だか変にソワソワして、叩きたくなったので、落ち着ける為にお風呂に入る事にした。

で、身体洗ってたら、急に転げ落ちるような音がして、家中を走り回る音がして、もし
かしてこの時間になってオッサン来たのかと思ってたら、風呂の戸が開いて、そこには全
裸の千田様が血相変えて立っていた。

「え…え?ど、どしたの?あ、おはよ…」

ぜーはー荒い息をついて、私を凝視する。私は泡の付いたスポンジくらいしか持ってな
かったし、半分呆気に取られていたので叫ぶ事もせずに、とりあえず手で身体を隠した。

「あ―――あ、お、おはよ」

ようやく我に返ったのか、千田も手を上げて挨拶をし返す。

「…いや、あの、その―――もしかして、夢だったのかと、思って」
「FULL珍で、人のベッドで寝ておいてか?」

よっぽど自分様の御身体に自信があるのか、堂々と私に身体を見せ付けている。多分、
気が付いていないんだろうけど。

言われてようやく気付いたのか、急に顔が真っ赤になる。バーカバーカ。更に元気にさ
せてみようと、私は追撃を仕掛ける。

「で、どうするよ?もしかして、昌平ちゃんは一緒にお風呂入りたいんでちゅかあ?」

うぇへへへへへ、と、下品に笑ってみせる。ここまで馬鹿にすりゃあフリーズ状態から
再起動するだろ。そのまま帰るもよし、不貞寝するもよし。

―――が。

「……………………」

今度は、私がフリーズするハメになった。別の場所が再起動しよった。



結局、私がこの期に及んで、昨日の夜にすりゃあよかったように、泣き叫んでそこらにあ
ったものを投げ付けて、ちょうど満タンに入ったボディソープの容器が元気になったうま
い棒にクリーンヒットして、千田は悶絶した。

その後怒って帰って、会っていないままだ。



「そうですか。この間借りたDVD返そうと思って持って来たんですけどね」
「へー、どんなの?」
「こんなのです」

時と場所を考えろ。ここ構内だぞ。なんだ『美人教師・由愛子の淫乱性指導―困惑の生
徒23人レイプ・レイプ・レイプ―』って。センスのカケラもねぇな。それよりも乳でけえ。

「なにそれなにそれ!あ、由愛子の新作じゃん!僕に貸してよ!!」

一瞬で機嫌が直ったのか、すぐに飛び付いて来る。新作て。

「え、その由愛子って有名なの?」

私が周りに人がいないかどうか確かめながら聞くと、水沢は普通に頷いて。

「一部では、ですね。ええ。後工藤さん、駄目です。借りるなら千田さん本人に言って下
さい。又貸しはマナー違反ですよ」

そう言ってDVDをカバンにしまう。そっか。千田は巨乳好きなのか。

「あ、昌平くん!愛してる!!」
「千田さん、俺は愛していません」

思うところあって、少し考えていると、不意に愛の告白と逆告白のお言葉。振り返れば
奴がいた。微妙に不機嫌そうなお顔の千田。

「よう、巨乳大好き千田さん」

私はげひひひひ、と笑いながらあいさつする。

「…工藤、お前の愛は重い。水沢、奇遇だな俺も愛していない。でもって彩川」

よっぽど、お前の方が幽霊みたいだと思った。

首を少しだけ傾げて、ゆっくりと私の方へ向き直る。おお、千田のなく頃にか?

「俺が巨乳好きだといつ言った」
「へ―――?え、それは―――」

水沢が借りたDVDが、と言おうとしたんだけど、私の手を掴んで、もと来た道を戻る。

「せ、千田?」

うわ、怒ってる。なんでか知らんけど怒ってる。私はどうしよう、と思いながら千田に
されるがままに引き摺られていた。

「僕、左ストレートで貴枝ちゃんの勝ち。大ちゃんは?」
「俺はバックドロップで千田さんに」
「僕が勝ったら大ちゃんの彼女のおっぱい揉ませて」
「じゃ、場外乱闘という事で今ここで決着付けましょうか」

カーン、と、あっちでもゴングが鳴ったような気がした。予想としては、2秒で水沢勝
利。予想通りにすぐになんか、しちゃいけないような音がしたけど気にしない。

今は、千田だ。どこに連れて行かれるかわからなかったけど、多分あまり人目の無い所
だろう。うう、こいつがこんなので怒るなんて思わなかった。

「―――さて、彩川」

私を壁際に追い詰めて、相変わらず物凄く不機嫌そうな顔をして、私を睨んだ。

「な、なんだよ。やるか。やるんだったらお前もさっきの工藤みたいに2秒で―――」
「…いつ、どこで、誰が、何時何分何秒、巨乳が好きだと言った」

しょ、小学生かお前は。若干呆れながら千田を睨もうとする、けど。

「もしかしなくても、傷付けたか?身体つきが幼いって言った事」

―――ん?

私は、首を傾げる。え?何それ?え?とりあえず頭をフル回転させる。あ、言ったか?
そういやあの時、妙にそれで興奮?してたのキモイって思ったな。あー、あ、そういう事?

…うわ。思わず、下を向いてしまう。

やべ、なんか頭の裏っ側が熱くなったような気がした。いや、照れてる場合じゃあない。
何、勝手に罪悪感持ってんだバカ。

「あ、違う。違うんだって。あの、水沢がお前にDVD借りたの返したいって言ってて、
それ見せてもらってさ。あー、お前ああいうの好みなんだなあって、そう―――」

しどろもどろに話す。ていうか、なんだかくすぐったくて居心地が悪い。私、なんだよ、
千田にすっげぇ大事にされてるなあって実感しちゃった。どうしよう、なんだか、凄く。

「あ、あの―――」

俯いていた顔を上げる。が、既に千田はそこにはいなかった。

「え、え?千田?」

消えた!?

幽霊に連れ去られたかと一瞬思ったけど、違う。多分―――




「何してくれてんだお前はああああああああああああっ!?」
「え、ちょ、えええ、なんでそんなに怒っているんですか、引きますわー」
「お前の態度に引くわ!!」

…元いた場所で、千田と水沢が追いかけっこをしていた。

あら可愛い、千田は自分の性癖?を知られた事がそんなにショックだったのか?今まで
だったら気にしなかった…のか?それはわからないけど…

「おはよ貴枝ちゃん。ねー、どうしたのあの2人。工藤くんたら、賭けだけ持ち掛けて原
因教えてくれないの」

観戦モードに入っている三沢がいつのまにかそこにいた。ていうか、工藤まだ倒れてる。

「あ、おはよ三沢。なんか、痴情のもつれ?」
「え、ウッソー。なになに?じゃあ、そこで倒れている工藤くんは?負けたの?それとも
賞品?だから原因教えてくれないの?」

なんか、妙に輝きながら私に聞く。

「…知るか。ていうか、いらねー」

なんだか、よく言っている事がわからないけど、ロクでもないという事だけはわかった。

「ところで貴枝ちゃん。どうして千田くんのコート着てるの?」
「ああ、なんか工藤の家で頭髪の不自由なオッサンに襲われて、体液付着しちゃったから
もう着たくないっていうし…染み抜きして貰った」

一応、端的に説明する。

「―――っ、千田総受伝説の幕開け!?じゃあアレは襲い受け!?」
「そこ!バカに変な知識を植え付けるなバカタレが!!」

水沢を追っかけながら、三沢へのツッコミも忘れない。うーん苦労性。しかし、そんな
隙を見逃す水沢じゃあない。ツッコミに行く、と判断した瞬間に別方向に逃げ出した。そ
して千田が振り返った時には、もう遅かった。

「…ちぇっ、私の負けかあ。工藤くんはい、これ」
「まいどありー。ね、僕の言った通りでしょ」

負けたらしい三沢は、勝負が付いた時にはもう起き上がっていた工藤に持っていたパン
の紙袋を渡す。あ、アゲアンパンと苺牛乳だ。いいな。

因みに、工藤は水沢の逃亡成功で、三沢は暫くしたら水沢が転んでとっ捕まる、だった
そうだ。2人ともいい読みをしていると思う。工藤はさっそくアゲアンパン食べながら。

「貴枝ちゃん、そういや2人のバトルはどうなったの?」

と、聞いて来た。あ、そういやそんな話になってたな。

「…いや、別に…最初から戦ってない」

あれ?と首を傾げる工藤。フラフラしながら千田も戻って来る。

「あ、おかえり昌平くん。ねー、なんでさっき貴枝ちゃん連れてったの?」
「…うるさい…もうどうでもいい…」

体力を相当削られたのか、まるで徹夜明けのようだ。まともに捕まえられたら、水沢秒
殺だったのになあ。わかってたからこそ、必死で逃げたんだろうけど。

「ねー、貴枝ちゃんおせーて。どしたの、どしたのー」

千田はダウンしたので矛先がこっちに。あ、三沢も興味津々。

…まあ、隠す事でもないけど、でも千田も私も、まだ色々と納得していない。言うのは
得策じゃあないなと思って。

「いやね、千田は巨乳も好きだけど、実はつるぺたにも異常に興奮するらし―――ぉぶっ」

千田が、私の後頭部にチョップを。うわあ腹が立つ。せっかく誤魔化してやったのに!

「やるかコラァ―――っ!?」
「来いやオラァ―――っ!!」

一瞬で臨戦態勢に。

後ろでどっちが勝つか早速話し合いをしている。あ、水沢いつの間に戻って来た。千田
も水沢を見た筈なのに、既に私しか視界に入らないようだ。ま、99%私が勝つだろうか
らな、今は。油断は出来ないという事か。



―――これで、いいか。

そう思いながら、既に体力の無い千田をどう料理してやろうかに集中する事にした。


ボロクソにした後は、一緒にお風呂入ってあげようかなあ、と思った。






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