〜不器用な淫魔のお話2〜
シチュエーション


「陛下、ごはんできたよ。」

厨房を借りて作った料理を、部屋まで持ってきた。

「ありがとう。」

「さ、食べて。」

今日のは美味しくできたかなぁ。
陛下、喜んでくれるかなぁ。

「いただきます。」

一礼した後、陛下が料理に手をつけ始める。
わたしはその食事風景をじぃーっと眺める。

陛下は納豆をかき混ぜて食べたり、魚の骨を取り除いて身を食べたり、合間合間にお茶を飲んだり。
その間ずっと無言。表情も殆ど変化無し。
…陛下の食事風景は毎回こんな感じなんだけど、何回見ても、
美味しく食べてもらえてるのか、不味いと思われてるのか、正直よくわからない。

何か喋って、って言ったら「食事は落ち着いて静かに食べる方が好き」って返されたし。
陛下が食べてる間、わたしは暇だから背中にでも抱きついておこうかな、と思って試してみたら
「落ち着いて食べられないから勘弁して」ってお願いされたし。

結局、陛下が食べ終わるまでわたしは我慢して見守ってるだけ、という形式が定着してしまった。

…陛下がわたしの料理を食べてくれる姿を見るのも、これはこれで好きになってきたけど。
やっぱり暇だなぁ。
陛下のため、と思って料理作ってる間は楽しいんだけどなぁ。



「…ごちそうさま。」

そんなこんなで陛下の食事が終わった。
と、なれば、ここでわたしが聞くことは決まっている。

「どうだった?」

美味しかったか不味かったかの確認。
今日の料理は自信が…あるわけでも無いわけでもないなぁ。
採点がちょっと怖い…。

「60点だな。」

「う…。」

…手厳しいなぁ、相変わらず。

「なぁ。」

…あれ、陛下から話を振ってくるのは珍しい。

「なに、陛下?」

「オレが初めてお前の料理食べた時に、何点って言ったか覚えてるか?」

初めて陛下に料理を振る舞った時…その時の点数は…っと。
…ああ。

「…40点、でした。」

思い出してちょっと悲しくなり、口に出したら余計にむなしくなった。
料理のやり方というものを理解していないわけじゃないんだろうが何か色々肝心な要素が抜けている、
とかそんな感じでボロクソに扱き下ろされた記憶もつられて蘇ってきて…。

「ああ、40点だったな。」

「強調しないでくださいよぅ…。」

うぅ…陛下の意地悪…。
これ以上言ったらわたし泣いちゃうぞ…。

「あの時から20点美味くなったってことだ。」

…え?

「今後同じように20点上げるのをあと二回繰り返せば100点になる。」

え?…え?

「この調子でお前が料理まで100点になったら、オレとお前の生活はもっと幸せになれるな。」

陛下が残りのお茶を飲み干す。
それを見て、わたしは…。

わたしは…。

…。

……。

「陛下。」

「どうした。」

正面から抱きついた。
陛下の顔を、わたしの胸の中心に思いっきり押し込む。
後頭部を両腕で押さえてがっちり固定。離さない。離れることを許さない。

「大好き。」

ほんの数cmの距離から、陛下の耳元に向かって囁く。

「知ってる。」

ぶにゅぶにゅした二つの塊の谷間に沈んで、顔が殆ど隠れてしまった陛下が返答する。
子供の割にあんまり音の高さが無くて、しかも平坦な声色を、一切変えることもなく。

「陛下はわたしのこと好き?」

両腕で抱きしめる力をほんのちょっと上げながら、聞く。
…陛下の小さな頭があったかくてきもちいいなぁ。

「聞くまでもないと思うけどな。」

陛下はそう言いながら…。

「ぷぁ!?」

わたしの背中に両腕を回してきた。

「ほら。」

「ぅー…。」

…予想もしない反撃貰っちゃって変な声上げちゃったけど、
陛下がこんな細っこい腕で精一杯わたしを抱き寄せてくれてるのかと思うと…。

「…言葉でも、聞きたいもん。」

こっちも緩みかけた腕の力を、元に戻す。

そういえば陛下本人は部下のしょーぐんさん(三十代のおじさん)みたいな長身筋肉質なガタイが欲しい、
とかぼやいてたような気もする。
でもわたしとしては、小さくて細くて、わたしより非力なこの身体が愛おしくてたまらないから
どうせなら、このままあんまり大きくならないでいて欲しい。
抱きしめやすいもん。

「そうか。」

…素っ気ないなぁ。
もうちょっとぐらい、わたしの言う事聞いてくれたって…。

「それじゃ、ちょっと離してくれ。」

「ぅえ?」

…あれ?

「…陛下?」

「食器片付けて歯磨いてこないと。」

…そんなことが、今わたしの相手をすることより大事なの?

「…いや。」

「すぐ済むだろ。」

「いや!」

やだ。
そんなどうでもいいことのために、ほんの少しの間だけでもわたしを放ったらかしにする陛下なんて嫌だ。

「お前な…。」

「いーやー!」

自分から「離してくれ」なんて言う陛下なんか…許さない。認めない。
そんな陛下…わたしの陛下じゃない。

「メシ食ったら歯磨かないとスッキリしないだろ。」

「そんなの知らないもん。」

自分がスッキリしたいからって、わたしをスッキリさせないでおくの?
気付いたら背中に回してくれてた両腕だって、勝手に解いてるし…。

「口の中汚したまんまキスしたらお前の口も汚れるだろうが。」

「…ふぇ?」

あれ…ちゅーしてくれるの?
と言うか、そういうことに繋がるの?

「今日の仕事終わった、晩飯も終わった…あとは片付けして歯磨いて、
オレを『万全の状態』にしてから、『お前のごはん』だよ。」

…えーっと。

「つまり…?」

「さっき『言葉でも聞きたい』って言ったよな。」

「…うん。」

「そんな必要も無くなるぐらい『行動で示してやる』から、その準備ぐらいさせろってことだ。」

…ああ。
そっかー、そういうことかぁ。

「おかたづけとかは、わたしのごはんの準備なの?」

「わかったら一旦離れるけどいいかな。」

むぅ、どっちにしろ一旦は離れないといけないのか。
すぐ済むってさっき言ったけど…。

「うーん…。」

「おい…。」

もうこっちは陛下の頭抱きしめてるうちに、すっかり我慢ができなくなってきてしょうがないのに。
…もどかしい。にんげんって不便。

…あ。

「そうだ。」

閃いちゃった。

「わたしが歯磨いてるから、その間に陛下は片付けてきて。」

二つの手間があるなら、二人で一つずつ分担すればいいんだ。
そうすれば半分の時間で二つとも済む。
うん、わたし賢い。

「…逆じゃね?」

「え?」

ありゃ…何か間違ってたかな。

「口汚れてるのはお前じゃなくてオレだから、オレが歯磨かないと意味無いんだが。」

「あ…そっかー。そーだよねー、あはは。」

…駄目だ。やっぱり陛下みたいに賢くなれそうにないや。

「じゃ、食器持っていくね。」

ちょっと名残惜しいけど、陛下の頭から腕を離す。
そして机の上のお盆を持ち上げる。
早く片付けてこなくちゃ。

「待て。」

「んひっ!?」

歩き出す前に、陛下に肩を掴まれた。
…あんなこと言ってたけど、やっぱり陛下もわたしから一瞬でも離れるのが――

「慌ててこけて食器ひっくり返すなよ。
 とりあえず、走るの禁止。ちゃんと歩いて持っていくように。」

――注意されるだけでした。



部屋から厨房まで中途半端に遠いのがめんどくさい…。
行き帰りの二分ちょっと、胸が寂しいよぅ。
あぅー…。



「へーいーかー。」

やっと戻ってきた。
意気揚々と扉を開け…た…ら…。

「あれ?」

陛下が…。

「陛下ー?」

部屋に…。

「へいかぁー?」

…いな、い…!?

「へぇーかぁーっ!?」

おかしい、歯磨きなんてもうとっくに終わってるはず。
何故いない。

…まさかわたしがいなくなった間にどっかの別の女の所に逃げ――

「トイレだっつうの。」

「ぅひゃ!?」

部屋備え付けのおトイレの扉から声が漏れてきた。トイレだけに。

って、やかましいわ。

「なんだ、トイレか…。」

この前、にんげんにとっての排泄行為の必然性及び重要性なるものを小一時間はお説教されたから、
陛下がトイレと言ったら、わたしはそれが終わるまで待つしかないのだ。
…そう考えると陛下のごはんの時と、状況はほぼ一緒のような気も。

結局手間は二つから三つに増えてたのか…。

「陛下ー、まだー?」

「もうちょっと。」

その「もうちょっと」が長いんだよねぇ、にんげんのトイレって…。
早く扉開けて出てきてくれないかな。

そもそも、なんかトイレを高速化とか効率化とかする、いい手段なんてないのかな。

…効率化…。

「陛下ぁ。」

「どうした。」

「何ならわたしがおトイレになろっかぁ?」

出す物を出す場所を考えたら、似たような物じゃないの?
アレと。

「すまん、大だ。」

「あー。」

ああ、何だ…そっちの方か。

そっちかぁ、そっちなのかぁ…。

うーん…。

…。

「…陛下のならそっちでも。」

「オレが嫌だ。」

「…ごめんなさい。」

…陛下がはっきり嫌って言うようなことはやっちゃ駄目だよね。
うん、これ以上はやめよう。

…勢いよく水が流れる音が聞こえてきた。
もうすぐ、の合図だな。

ここからあともうちょっとだけ待つと。

「ごめんな。」

ほら、出てきた。

「陛下っ。」

有無を言わさず真正面から抱きつく。
さっきと同じように、後ろに回した両腕で押さえ込んでばっちり固定。
小さくて可愛い頭がやっとわたしの胸の中に戻ってきた。

ふぅ…寂しかった。

「陛下ぁ。」

大きいお肉に挟まれて、陛下の顔がほぼ隠れて見えなくなる。
それでもって、右手で陛下の柔らかい髪を撫でる。撫でくり回す。
左手はもっと胸の奥まで押し込むように、力を入れる。

「よしよし。」

陛下の両腕もさっきと同じく、わたしの背中に回ってくる。
今度は驚いたりしないもんね。

「ね、陛下。」

「何だ。」

背中を優しくぽんぽん叩いてくれる陛下の手の感触が、きもちいい。
…さて、と。






「わたし、すっかり『おなかすいちゃった』。」



・おまけ

「何で毎日三食全部漏れなく納豆付きなんだ。
 豆腐とオクラととろろと卵とネギと納豆の全部混ぜとか時々出てくるし。」

「健康食品だよ?」

「…まぁお前が食わせるから最近ハマってきたけどな。」

「えへへ、健康でいてね、陛下。」






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