〜不器用な淫魔のお話〜
シチュエーション


・あらすじ
人間の少年(十代少し、一国の王様)に養われる、一人のサキュバス(外見年齢二十歳前後)がおりました。



「陛下、へいか。」

後ろから陛下の右肩をぽんぽん叩く。

「ん?」

つられて陛下がわたしの方に顔を向ける、と。

ぷにっ、とな。

「えへへー。」

陛下の肩の上で、前に突き出していたわたしの人差し指が、頬に当たった。
罠に引っ掛かった陛下は…。

「…。」

…無言。そして無表情。

「…あ、その…。」

もしかして気分を害してしまっただろうか。
思わず、肩から右手を離そうとしたら。

それより早く陛下の手に掴まれた。

「わっ…。」

そして陛下はわたしの右手人差し指を…。

「んひゃ!?」

口に含んでちゅーちゅー吸った。
ここまでの流れ、陛下は終始無言。

「むぁ…。」

舌で人差し指がちゅぱちゅぱいじくり回される。
陛下はやっぱり無言。

しばらくその状態が続いた後、やっと右手が解放された。
そして陛下がようやく一言。

「今忙しいから後でな。」

陛下は机に向き直り、何事も無かったかのように書類整理に戻った。

わたしはうっすらと唾液をまとった自分の人差し指を、じっと眺めていた。
…きもちよかった。これいいな。

「陛下、へいか。」

もう一度陛下の右肩をぽんぽん叩く。

「何だよ。」

流石に警戒されたのか、左向きに方向転換された。
右肩に設置しておいた罠が無駄になる。
…まぁ本命はこれじゃないから、別にいい。

わたしがやりたいのは…。

「…その…。」

…えっと。

「どうした?」

…早く言わないと、ほら。
恥ずかしがってないで。

「あの…。」

次の言葉が出ない。
…わたしの意気地無し。

「もっと、とか?」

…陛下に先に言われちゃったじゃんか。
とりあえず、その通りなので頷いておくけど。

「今忙しいって言っただろ。」

陛下はちょっぴり不機嫌そう。
…でも。

「…もうちょっと、だけ。」

わたしは今欲しい。
今欲しいから、今お願いする。
それだけ。
…陛下には迷惑なのかもしれないけど。

「…しょうがないな。」

渋々ながら陛下の了承を貰った。
やった、と思って、右手の次は左手を差し出そうとした、ら。

陛下は立ち上がって。

わたしの両頬を、両手で優しく掴んで。

「…へいか?」

わたしの顔に、陛下の顔が、近づいてきて。

「ふぁ…っ!?」

お互いの唇が触れ合って。
わたしの口の中に、何かが入ってきて。
わたしの舌の上に、その何かが転がりこんできて。

ああ、これはさっきわたしの人差し指を舐めた陛下の舌が、今度は口の中に入ってきたんだ…
と認識するのに、十秒ぐらいかかった。

「ん…ぅ…。」

陛下の舌が、わたしの口の中のあらゆる場所をぐっちゃぐちゃに乱していく。
液体をかき混ぜる音が、頭の中に絶えず鳴り響く。

「ぷは…。」

三十秒か、一分か…あるいはそれ以上か。
舌で舌をかき回され続ける行為から解放された後、陛下からまた一言。

「今日の分終わるまで今ので我慢しといて。」

…えーっと、今のはどういう意味?
頭の中がとろけてて考えがまとまらない。

…とりあえず落ち着いてまとめよう。
今のキスをー…

…もっともっと欲しい、なぁ。

いつの間にかまた机に向き直ってた陛下。
その背中に。

「…。」

ぼふっ、と抱きつく。

「今ので我慢しといて、って言っただろ。」

「やー。」

あったかい。陛下のからだあったかい。

「今度こそ最後だからな。」

「ん。」

陛下が再びこっちに向き直る。視線が合う。
今度はわたしが陛下の後頭部に手を回して、ぐいっと引き寄せて…

…結局もう一回キスしてもらった。
三分ぐらいやってたんじゃないかな。

「…陛下。」

「何だ。」

「大好き。」

「オレもだよ。」

えへへ。






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