召喚
シチュエーション


「目を開けて」

夢の中で女に命令された。

「いいから目を開けるのよ!」

へいへい。
じれったそうな声に引きずられて、片目だけまぶたを持ち上げた。
ボロマンションの黄色く変色した壁が見えるもの、と思ったら

「両目を開ける!ほら!」

という声と共に、細い指が眼球えぐる勢いでオレのまぶたをひん剥いた。
そして目に入ったのは、白いたわわな果実が二つ。
丸みの中央には、朱鷺色の乳輪と、ツンと上を向いて尖った乳腺。ピンク色。
・・・・・・の持ち主。オレの頭を掴んで、鼻の頭がくっつきそうな距離で顔を覗き込む美女。
真紅の目。
蜂蜜みたいな色のストレートブロンド。肩口で切りそろえてる。
耳は細長く先が尖っていた。
ニンゲンじゃない。ニンゲンの女は、こんな風に背中からコウモリの羽根が生えてない。認めたくないが。きゅっと引き締まったウエストの、その奥に視線が釘付けで気づくのが遅れた。前かがみになってる姿勢では肝心のところが陰に隠れちまう。
そういうオレの考えを読んだかのように、美女がにまーっと笑った。

「魔族の認識が早くて助かるわ。ワタシは淫魔サキュバス」

彼女がやっとオレの顔から手を離した。しゃらん、と鎖がなった。
鎖?
そうだ鎖だ。
サキュバスと名乗った女悪魔の手から、細い鎖が伸びてオレの首へ。ぴったりしたネックレスどころか、チョーカーだ。
夢の中で目が覚めたら、夢でした、つうオチは何処だー!

「そしてあなたは、ワタシノ召喚したオトコってことでね」

何かとんでもない話を聞かされそうな。嫌な直感、がした。

「待て待て、ハナシが見えん。あんたが悪魔なら、普通呼び出されるもんじゃないのか?オレは悪魔召喚士とかじゃないはずなんだが」

そうなのよー、とサキュバスが相槌を打ったときは、嫌な直感が確信に変わりだした。

「呼び出されちゃー、あっちのオッサンだのこっちのニイサンだの、もうやってらんないわよー。どこの国の日雇い派遣かよってハナシ。これも魔族の宿命っちゃ宿命かもだけどね?体の栄養補給はできても、心が枯れちゃうわ!」

心の栄養が足りないのよっ!
と叫んで頭を振ったサキュバスに、オレはちょっとだけ安心を覚えた。少なくとも、悪意で何かしようという風には見えない。

「そこで心の栄養補給に、呼び出してみたのがアナタって訳」

おいおい、すげぇ論理が飛躍しなかったか?今。
と、彼女がすりよってきた。薄い唇から、熱い吐息を吹きかけられた。ちょうど煙草の煙を顔に吹きかけるようなあんばいだ。
それだけで全身が甘く蕩けるような快楽が背骨を駆け上がる。

「ニンゲン相手では味わえない快楽をアナタにあげる」

恍惚の表情を浮かべ、サキュバスが唇を重ねてきた。柔らかな乳房がオレの胸の上にのしかかり、つぶれる感触に、ペニスが勃起してしまう。

「だからワタシにも頂戴?」

囁きと共に、耳穴に入り込む熱い舌。淫靡な音は、性交に似すぎている。
目の前の女が、黒い翼を広げていようと。
オレの首に巻かれた細い鎖は、彼女の手にあろうと。
ノーなんて返事できるわけがない。

気づいたときは、サキュバスの乳房を吸っていた。もう片方は、手で愛撫する。下からすくい上げると、盛り上がる乳房はやわらかい。中指と人差し指の間にある乳首だけコリッとしてる。
五指を広げて柔さを、一部はツンと尖った乳首を堪能していると、サキュバスは喉の奥で猫が啼くような声をたて、オレの頭を同じように指で撫で上げる。
口に含んだほうの乳腺を、舌で転がすようにしたらしたで、サキュバスの指がつむじをくすぐってくる。
まるでなぞるように。
だったら女性器をいじってみたら?
膝立ちになってるサキュバスの秘所は、ひくついてオレの指を受け入れた。とうに露が溢れているそこは、熱い襞が待っていたとばかりに絡み付いてくる。

「んん……もっと、かき混ぜてぇ」

サキュバスの指が、オレのペニスにも絡み付いてくる。張り詰めているところにそれはもう、ヤバイんじゃないかというくらいだったのだが。
サキュバスの指が雁首をこすり上げるつど、ぞくぞくする程感じる。
自慰してたら、とっくにいってるぐらいに感じていた。が、出なかった。どんなに息が荒くなろうと。思わず声を立てるほど、巧妙に鈴口を責められようと、でなかった。
何か魔法でもかけられたんだろうか?
お返しだとばかり、割れ目から溢れる露を、親指でサキュバスの陰核に塗りつけてやる。
とたんに、女の腰が跳ね上がる。乳房を掴んでいた手を止め、浮き上がる尻を押さえこんだ。

「あっ、はぁあああっ、いい…ッ」

蜜が、太ももに滴り落ちる。耳元のよがり声が、ひときわ高くなる。
汗が浮く肌から、甘い香りが立ちのぼる。くぅん、と呻いたサキュバスの喉元からも。頬に張り付いた金髪からも。
一旦身を離して、こちらに足を開いてみせるサキュバス。
淡い茂みの奥は、たとえようもなく扇情的だった。

「ね……、イレテ」

サキュバスが鎖を引っ張った。引っ張られる必要なんてあるのか、って勢いでオレはのしかかっていた。
怒張しきったペニスが、易々と入り込む。熱い熱い襞に絡めとられ、抽送はあっという間に射精に達した。

「はぁぁ!あ!あ!」

激しく突き続けた。萎えなかった。サキュバスは喉を反らし、突き上げるたびに声を上げる。
彼女の乳房が揺れると、あの甘い香りがまた濃くなる。淫魔の体臭なのか。

「あ!はぁあ!またぁ……!」

うっとりとした笑みで、二度目の精を受け止めるサキュバスは、悪魔というより聖女のようだった。

「んふ、……ね……?」

彼女は吐息まじりの声でささやいてきた。

「なんだって?よく聞こえない」

んもう、と呟いて、サキュバスがオレの顔を両手で挟む。

「また、あ…愛を、頂戴、ね?」

一単語ずつ、誤解の余地無きように区切って、言い聞かせられた。
『愛』って単語を口にしようとした、サキュバスの頬が赤く染まる。なんでそう可愛いんだ。
これも魔族の魔法か?
と問うたら、

「ばか!夢見すぎ!さっさと目を開けなさい」

と額を小突かれた。
頭突きで。
そりゃもうかなり本気の頭突きで、目から火花が飛んだ。ダメージ回復して、なんとか目を開けたら、ボロマンションの黄色く変色した壁が見えた。
背中には、汗で湿ったパイプベッドのマットの感触。
ああー夢だったんだー、と納得した。予定調和って言ってもいいくらいの納得だった。
にしても、えらく気持ちのいい夢だったな。ああいう夢なら、毎日でも見たいもんだ。

いい夢、いい目覚め。

そんな感じで起き上がったとき、首に巻きついた銀のチョーカーに気がついたんだが。

<終>






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