最後の挑戦
シチュエーション


「で、行き着いた先がそれ?」

私は複雑な想いで彼女に言葉を贈った。もう聞こえないことは判っていたが、
それでも言わずにはいられなかった。
エリート中のエリート。私など遠く及ばない最高の淫魔として、羨望を抱くことしか
できなかった彼女。その彼女が誘惑に失敗したと聞いたときは、心底驚いた。
彼女は諦めなかった。あらゆる魔術と技巧、誘惑術のすべてを傾けた。それでも
男は堕とせなかった。

「どこの聖者を狙ってるのよ?」

と、一度だけ聞いたことがある。

彼女はただ一言「魔法使い」とだけ答えた。
そして昨日、彼女から伝言が届いた。

「最後の挑戦をする。結果を見届けて」と。

そして今、私は指定されたアパートの4畳半にいる。布団の中に彼女を抱きしめて
眠っている男がいる。その蕩けた寝顔を見るだけで私は、男が堕ちたと確信した。

「おめでとう。あなたはやり遂げたわ」

それだけ言って私は背を向けた。知能も魔力も振り捨てて一個の、そして究極の
抱き枕になり切った彼女にはもう見えないとわかっていても、涙を見せたくなかった。






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