シチュエーション
![]() 「で、行き着いた先がそれ?」 私は複雑な想いで彼女に言葉を贈った。もう聞こえないことは判っていたが、 それでも言わずにはいられなかった。 エリート中のエリート。私など遠く及ばない最高の淫魔として、羨望を抱くことしか できなかった彼女。その彼女が誘惑に失敗したと聞いたときは、心底驚いた。 彼女は諦めなかった。あらゆる魔術と技巧、誘惑術のすべてを傾けた。それでも 男は堕とせなかった。 「どこの聖者を狙ってるのよ?」 と、一度だけ聞いたことがある。 彼女はただ一言「魔法使い」とだけ答えた。 そして昨日、彼女から伝言が届いた。 「最後の挑戦をする。結果を見届けて」と。 そして今、私は指定されたアパートの4畳半にいる。布団の中に彼女を抱きしめて 眠っている男がいる。その蕩けた寝顔を見るだけで私は、男が堕ちたと確信した。 「おめでとう。あなたはやり遂げたわ」 それだけ言って私は背を向けた。知能も魔力も振り捨てて一個の、そして究極の 抱き枕になり切った彼女にはもう見えないとわかっていても、涙を見せたくなかった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |