女の子がすきだった
シチュエーション


女の子が、すきだった。
さらりと揺れる髪が、透き通るような声が、柔らかく滑らかな白い肌が、無防備な首筋から匂い立つあの甘い香りが。強く惹かれてしまう。無意識にたまらなく。
例え、それらと同等のものを自分が持っていたとしても。


「真琴」

ん、と差し出された牛乳パックを前にして、またか思いと顔をしかめる。
唇を尖らせると自然と声が拗ねた色になった。

「京ちゃんはそんなに貧乳が許せマセンカ」
「ひがまないひがまない。ほれ、飲みな」

なにようと頬を膨らませると、豊かな二つの膨らみを制服の下に押し込む美しき友人は楽しそうに笑った。

「ほっぺじゃなくて違う所を膨らませなさい」

渋々牛乳パックのストローを加えると、いいこいいこと頭を撫でられる。
その瞳が蕩けるほど甘やかなものだったので、真琴は無性に落ち着かなくなった。
変だな頬が熱い。
京ちゃんが美人だからいけないんだ。

「ねえ真琴……」
「なっ何!?」

心なしか熱を帯びた京子の声。ゾクリとして反射的に返事をすると、声は面白い程ひっくり返った。京子の艶やかな赤い唇が目の前で孤を描く。
甘く甘く彼女は囁く。

「揉んで、あげよっか」

真琴は危うく牛乳を吹き掛けた。

「……はぁっ!?」
「大きくしたいんでしょう?」
「いやいやいや、そうしたいのは京ちゃんじゃん。私は別に今のままでもいいもん……ってちょっと!」

怪しい動きをしながら伸びてきた腕を慌てて押し返す。京ちゃんってば!
今は学校で教室で昼休みで人がたくさんいて、こんな所じゃダメで。あわあわと混乱に陥った真琴の頭にふっと疑問がわく。
ならば違う場所でふたりっきりなら……?

「だっ!だめだめ!」

一体何を考えているんだ。

想像した恐ろしい未来を振り払うように真琴は立ち上がり叫んだ。
一拍した後、ふと軽く息を吐く音がする。

「もう、冗談よ。ウブねえ真琴は」

半ば呆れるようにして机に頬杖をついた京子からは、先程の蠱惑的な雰囲気は消え去っていた。
それが何となく惜しいような気がしてしまい、焦りで再び頬に熱が集中した。

「ウブとかじゃなくてっ!だめなのっ」

絶対に、だ。

「心の準備ができたらおねえさんがいつでもしてあげるわよ〜」
「同い年じゃん!」

くすくす笑う声の響きが耳朶を擽る。髪を耳にかける仕草が心底色っぽく見える。
明らかに普段の京子に戻ったはずなのに、自分の五感が今や彼女の全てを悩ましいものにしていた。
それは望む望まざるとに関わらず。

京子は真琴にとって大切な友だった。
ヒトをなるべく遠ざけて生きていたのに、いつの間にか彼女は真琴の隣にいた。
たわいもない話、喧嘩、仲直り。誰かと笑い合うことがこんなに楽しかったなんて。
だから「だめ」なのだ。
友達のままでいたい。
離れたくないから。
失いたくないから。

でも、京子は綺麗だ。
この手で触れたくなるほど。
深く深く魅せられる……。
「そう」なってしまったら、友達には戻れないのに引き返せないのに。分かっている。でも

ああ
離れても失っても

「京ちゃんが欲しい……」

いっそ彼女に堕ちてしまおう。

京子が風邪で学校を欠席した。きっかけは純粋な心配だった。

「お見舞い……来てくれたんだ」
「うん。京ちゃん一人暮しだし、ご飯とか薬とかちゃんととってるか気になって」
「ご飯……そういえば食べていないわ」

ドキリとした。

風邪のせいだと分かっているが、潤んだ瞳や汗ばんた前髪、やや荒い吐息がひどく官能的に見えてしまう。
ごくりと唾を嚥下して弱った彼女を眺める。
心配する気持ちは変わらないが、それと同時に真琴の中でうごめきだす感情があった。
……触れたい。

「京ちゃん、暑いでしょ。胸元涼しくしよっか?」

返事を待たずにそっと京子の衣服のボタンを外し始める。
ブラは付けていないようで、下着の薄地のキャミソールは柔らかな膨らみに忠実に盛り上がっていた。寝ていても横に流れず綺麗な乳房だ。

「真琴?」

ぼんやりした口調で京子が問うてくる。

「なに、してるの……?」
「京ちゃん、私、ココロの準備ができたよ」
「え……?」

本気で理解出来ていない様子の友を、いや友だったヒトの姿を真琴は静かに眺めた。
目の前の艶やかな肢体に本性が狂喜する。
心の準備はできた。
彼女に堕ちていくこと。彼女を堕としてしまうことを。

バサ…と真琴の背に一対の黒い羽根が現れる。

彼女を食べてしまうことを。


女の子がすきだった。
ある日女の子をたべてしまった。
女の子はわたしと同じモノになった。

今や隠す必要のなくなった一対の羽根を大きく広げると、深く暗い影が狭いベッドの上に落ちた。
真琴の影の中で、女は苦しげに呼吸を繰り返す。
風邪による熱に抗う女の姿は、まるで媚薬に浮される人間のそれのようだった。
柳眉は誘うように軽く寄せられ、瞼に半分閉ざされた瞳は潤んだまま淫らな虚ろを映しだす。薄く開いた口からは不規則に吐息が漏れ出ている。
まるで喘ぐかのように。

「熱、上がったかな」

額に手をかざせばじんわりと熱さが伝わる。
そのまま指の背で前髪をかきわけると、くんと身を乗り出してその額に唇を落とす。

「……ん」

一瞬体が揺れる。
ふるりとキャミソールの膨らみが波打った。
熱と共に女の感度も上がっている証拠だった。
真琴は笑い出したくなった。

何を悩む?
どうして我慢する必要がある?
ヒトのふりをしていた時の自分が、もはや思い出せない。
何も。何も。何も。
ただ、目の前の女が美味しそうだということ以外は。

四つん這いになった態勢で真琴は女の首筋に身を屈めた。
ちろ、と軽く舐めると汗の味ではなく砂糖水のような甘美さが舌先に広がった。
ああ

「おいし……」

首筋を鎖骨を肩を夢中に舐め回し、時々肌をやんわり啄む。
そうして首周りに食らいつきながら、女のキャミソールをするりと捲くり上げた。

「ん。…あ」

露になった双丘は予想以上に真っ白で、たぷりと揺れた。
乳房の下側に舌を伸ばし、わざと唾液が纏わり付くようにれろれろと動かした。

「あ…っん。やっ…めなさい」

なまめかしい肉体を持つ女はしかし、抵抗の声を上げた。
真琴はニッコリ笑う。

「いや。だって私サキュバスだもん。貴女の方がサキュバスみたいだけどね」

躯といい、声といい、この女は真琴以上の色香を持っている。
いっそ自分が人間で彼女が淫魔の方がしっくりくる程だ。

「ちぇっ。いいもんまだ成長期だもん」
「あああっ…はぁっん…」

ムッとした勢いで乳房をくわえるとやわやわと歯を立ててやった。
女はびくびくと体を揺らし、熱い吐息をついた。






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