エロチェス
シチュエーション


エロチェス(全世界中のチェス愛好家の皆さんごめんなさい)

「……」
「呆れるなよ。誘ったのは俺でも、お前だってノったんだぜ?」

無言の満月(みつき)に対して挑発するように声をかける康之(やすゆき)。
事実、康之が「ちょっとエロ改良加えたチェスで勝負しないか? 賞金付きで」と誘いをかけたのに対し、
満月は「チェスで勝負? いいわよ、負けないし」とノったのだ。
『エロ改良』という言葉が気になったが、大した事はないと思ったのだろう。
なにより、彼女はチェスのアマチュア大会で入賞経験があるのだ。

今、彼女は後悔している。
通常チェス盤上には、クイーン、キング各1。ポーン×8。
ルーク、ナイト、ビショップ各2の計16×2人分=32の駒が存在する。
しかし目の前の盤では、その駒にそれぞれ何か書かれた紙が張られている。

ポーン⇒1枚脱衣(各¥500)
ナイト⇒胸弄り(各¥1000)
ビショップ⇒1つ目・バイブ挿入、2つ目・スイッチON(各¥1000)
ルーク⇒1つ目・ローター装着、2つ目・スイッチON(各¥2000)
クイーン⇒秘所弄り(¥5000)

「どういう事?」
「俺が駒を取られたら、とられた駒に書かれた額をお前に支払う。お前が駒を取られたら、その駒に書かれた事を実行」
「……キングは?」
「もち本番、お前が勝ったら¥10000でどうよ?」

流石に満月の怒りを買ったようだ。

「謝って、世界中のチェス愛好家に謝って。なによこれ、改良というか改悪じゃないの!」
「男の浪漫とゲームの融合を馬鹿にする気か!」
「それ以前にチェスを侮辱しているわよ!!」
「んじゃ何、やんないのかぁ?」
「当たり前でしょ!!」

そう言い残して教室から出ようとすると、康之は不適に笑う。

「逃げる、のか?」
「なっ!?」
「アマチュア大会入賞者が、ちょっと変なルールが追加されてるからって、チェス勝負を挑まれて逃げるのか?」
「くっ、判ったわよ。やってやろうじゃないの!」

つい挑発に乗ってしまう満月。
この後の展開も知らずに……


「さあ、始めるわよ。あんたの財布の中身、すっからかんにさせてやるわ!」
「へっ、出来るのか? お前を素っ裸にひん剥いてヒーヒー言わせてやんよ!」

顔には見せていないが、満月は必死だった。
ポーンを取られる毎に1枚脱がなければならない。
彼女が今着ている服はシャツにブレザー、ベスト、リボンにスカート、捲られ防止にハーフパンツ、
下着がブラジャーとパンティ、靴下を1組で1枚と考えると計9種、ポーン一個分多い。
脱ぐ順番は彼女の自由だが、当然下着姿になんぞなりたくないので、
取られても問題ないポーンは、ブレザーとリボン、ベスト、靴下とハーフパンツ分の計5個が限界。
それ以上のポーン、そしてナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、そしてキングは絶対に取られるわけにはいかない。

Q.ポーンの犠牲を4個までに抑えて勝つことは可能か?
A.無理、無茶、無謀

第一に、出来ることなら康之を後悔させるために全ての駒をとって計¥27000ふんだくりたいのだ。
と、ここで満月に1つ疑問が浮かんだ。

「ちょっと待って」
「なんだ、怖気付いたかあ?」
「違うわよ! ルールの確認。プロモーションした場合どうするの?」

プロモーションとは、ポーンが敵陣の最奥に到達した時にキング以外の駒に昇格する事である。

「ん〜、じゃあサービスしてやるよ。俺の場合、全部クイーンに。つまり、¥500が一気に10倍の¥5000に」

つまり総額¥27000が最大¥63000になるという事だ。

「私のポーンの場合は?」
「既に取られた駒に昇格した場合、復活扱いで罰を一旦取り下げってのは?」
「いいわ、それでやりましょう」
「んじゃ、お前が白でいいぜ」

そして、勝負は始まった。

「つっても、最初は普通のチェスだよなあ?」
「……」

康之が言うように、序盤は極々普通の進行となった。
互いに中央ポーンを前進させ、後列のビショップやナイトの道を作る。

そして、先に駒を取ったのは康之だ。
ひたすら前進させたポーンの後ろにいたビショップで、満月のポーンを取る。

「へっへ、まずはポーンを1個っと♪」
「……そうね」
「ほれほれ、早く脱いでゲームを再開しようぜ?」
「あら、焦らした方が燃えるかと思ったけど。その急ぎ様、もしかして早漏?」

相手のペースに飲まれないように挑発をする満月。
ブレザーを脱いでゲーム続行。

「さぁて、幸先いいスタートだ」
「何処が?」
「ゲッ」

たった今ポーンを取ったばかりの康之のビショップを、ナイトで狩る満月。

「ビショップは¥1000だったわよね?」
「ちっ、まさか囮戦法とはな」
「サクリファイス、少々の犠牲には目を瞑るわよ」

夏目漱石を1人渡しながら悔しがる康之に対し、
受け取った漱石をヒラヒラと振りながら余裕を見せる満月。

駒1つの強さを考えれば当然、ポーン<ビショップとなる。
ポーンを犠牲にビショップを取れば、相手の出ばなを挫けるのだ。

「まだ、勝負はこれからだぜ!」
「ええ、まだまだ取っていくわよ」
「ゲゲッ」


その後もルークとビショップを1つずつ取り、満月は計¥4000をゲットする。


「へっ、やっぱポーンには目をくれずに来るか。余裕綽々だな」
「言ったでしょ、財布をすっからかんにするって」
「だがその余裕は油断でもある、と」
「……ちっ」

高額クイーンにするため敢えて放置していたポーンに、軽視していたナイトを取られる満月。

「さあて、シンギングタイムの間にお邪魔しま〜す♪」
「ホント、邪魔ね。  うっ……くっ」

次の手以降を幾通りも脳内で予想構築しようとする満月の後ろに回りこみ、ベストの上から彼女の右乳を玩ぶ康之。

「ああ、安心しろよ。 自分の番にはちゃんと一旦止めっから」
「ふぅぁっ! ……だったら、もうお終いね!」

一瞬乳首に触れられ声が出るも手早く駒を動かし、康之の手を胸元から引き剥がす満月。

「おっと残念。 んじゃ、さっさと進めて続き続きっと」
「……」
「なあ、服脱ぐ順番俺が指定しちゃ駄目か? 裸ベストってのも良いと思うんだけど……」
「馬鹿いってないで、次の一手を考えたらどう?」
「んじゃ、コイツを……よし、続きを〜」
「はい……あんたの番」

ルークを前進させ再び満月の後ろに回り込もうとした康之だったが、
満月はすぐにポーンを前進させ、自分の番を終了させる。

「ちぇっ、もっと長考しろっての」
「してるわよ、あんたの長考時間中に」
「……んじゃ、そろそろ切り札を投入すっか♪」
「……はぁ?」

突然鞄を漁り出す康之。
顔を上げた彼は、手に何か持っていた。

「何よ、それ」
「中学時代の友人から借りた、とっても高性能なスキャナーとノートPC、そしてプログラムだ」
「それで何をするつもり?」
「まあ、待ってろ。じっくりこの先の展開でも長考しながらな」
「……」

康之はノートPCを立ち上げ、スキャナーと繋げる。

「ひっひっひ、コイツで徹底的に負かしてやるよ」
「……確かに世界王者はマッチ戦でコンピューターに負けたけど、一般のチェスソフトのCOM程度の相手なら負けないわよ」

事実、最高峰のコンピューターと世界王者が幾度もマッチ戦を行っているが、勝ち越した事は一度も無いのだ。

「ところがぎっちょん! このノートPCはオンラインゲーすらラグ無しでスイスイの超高スペックなのだよ」
「何そのオーバーテクノロジー。 あんたの友人って何処の人間よ?」

自信満々に言う康之に対し、満月は平然を装いながらツッコミを入れる。

「体育祭とか学園祭とかの祭典行事にHでパヤパヤな企画を幾つもやる学園に居る」
「どんな学園よ。私立校だろうけど、とはいえよく運営が成り立つわね」
「なんでも出資者に、正月からHなすごろくやら何やらで子供たちをオモチャにして楽しむ一族がいるらしくてな」
「……この国の終わりも近いわね」
「別の何かが始まっているけどな」

「まあ、とにかくだ。このスキャナーで盤上を映して、友人がこのエロチェス用に組んでくれた特製AIをセットして〜♪」
「なっ……!?」

満月も企みに気付いたのか、余裕が無い表情になる。
対して康之の表情は次第に怪しい笑顔になっていく。

「さっき自分で言ったよなあ? 『世界王者はマッチ戦でコンピューターに負けた』と」
「……」

康之がノートPCの画面を満月の方に向ける。
そこには、まさに今現在の盤面が再現されていた。

「スキャナーを通して盤面の状況をノートPCで仮想再現。AIにルールと作戦を入力してあるから、黒の最善の一手を常に超高速で打つ、というわけだ」

康之は丁重に説明しながら、満月の後ろに回りこむ。

「しかも友人がオマケしてくれたAI連動アームが駒を動かしてくれるから俺はもう席に着く必要すらない」
「……最先端技術の乱用も大概にして欲しいわね」
「これで俺が長考する事は無くなった。お前が考えている間は触り放題、って事だ。もっとも、時々戯れに作戦を変えたりするつもりだけどな♪」
「……良いわよ」
「は?」
「ノってやるわよ。そのAIとやらがどれだけスゴイ性能か知らないけど、人間を無礼ないで欲しいわね!」
「……んじゃ、ゲーム再開だ!」

康之がEnterキーを押し、アームが駒を進める。
満月もすかさず駒を動かす。

「!!ッ」

満月が駒を動かした一秒後、既にアームが次の一手を打っていた。

「世界王者になった気分ね……あぁっ!!」

幾通りもの展開を再考察しようとした満月の右胸に、康之が触れる。

「ほらほら、早く打ったほうが良いぜ? 世界王者さん♪」
「わ、判ってい……ひゃうっ!」

乳首を執拗に攻められ、声を上げる満月。

「一瞬とはいえお前がしっかり反応してくれたからな。乳首の場所はバレてんだぜ?」
「ふぁ……んあぁ」

満月は快感に耐えながら必死に駒を動かすものの、
間を置くことなくAIが打ち返してくるため、康之の手が止まることは無い。

「お、ポーン2個目ゲット! んじゃ次は〜」
「っ……ちょっと、脱ぐ順番は私が決めていいはずでしょう!?」

アームが盤面からポーンを1個取り除くのを確認した康之は、空いている左手でスカートのホックを外そうとするが、
満月はそれを阻止して、首もとのリボンを外す。

「ちぇ〜、リボンは最後までとっといた方が『勝利景品はワ・タ・シ』って感じになって可愛いのに……」
「とことん変態ね。 あんたの友人が変態学園に行くのも判る気がするわ……やっ!」

康之の浪漫を軽めに流そうとするものの、只管右胸を玩ばれ、チェスに集中することさえ出来ない満月。

「そろそろ右胸だけ、ってのも飽きてきたな……お♪ ルークが取られちまったぜ?」
「嘘っ! ……あぁ」

確かに盤面から、満月のルークが1個消えていた。
康之(というかAI)のクイーンが、ルークを討ち取っていた。

「どうしたよ? 俺がテクニシャンなせいで、読みを誤ったか?」
「くっ、そうかもね……」

康之の手が止まり、満月は一時的にだが解放される。
盤面を確認し今後の駒運びを練る彼女を余所に、再び鞄を漁り出す康之。

「さ〜て、ルークはローターだったっけか?」
「……あんたが決めたんでしょう?」

わざとらしく言う康之に対し、余裕の無い答え方をする満月。

「まあそうなんだけどな。あったあった、振動どのくらいか試すかぁ?」
「結構よ、スイッチ入る前に勝つから!」

話しかけてくる康之をあしらい、盤面に集中しようとする満月。

「(流石に、お金を気にしている場合じゃ無いみたい……)」
「試さないのか。まあとりあえず、乳首にとりつけっから一旦上脱いで……」
「自分でやるから早く貸しなさい!!」

康之の軽薄さに耐えられなくなったのか、満月は怒鳴りながらローターをひったくる。

「ま、現物拝見は後のお楽しみにとっておきますか」
「煩い、黙ってそっぽ向いてなさい」
「へいへい。んじゃ、ちょいと作戦変更でもしておくよ♪」

一度ベストを脱ぎシャツ前を開けさせ、ブラの隙間からテープを使いローターを両乳首に固定する。
その後素早くベストを着直し、席に着く満月。

「う〜ん失敗したな、これじゃ乳首に触っている感覚があまりしない」
「そう、それはこっちとしては安心ね」

その後の展開は、まさに圧倒的だった。
次々と満月の駒が取られていく。

あっという間に2つ目のナイトを取られ……
「待たせたな俺の左手よ、そして満月の左胸よ!」
「待ってない!! ひゃっ!」

3個目のポーンも取られ……
「……靴下も衣服に入るわよね?」
「俺としては全裸に靴下ってのも『有り』なんだが……」
「知らないわよそんな趣味!」

ビショップも取られるものの、直後に満月のポーンが1個プロモーションしてビショップに……
「ちっ、一瞬でもいいから挿してやれよ。バイブが可哀想だろうが」
「どんな理屈よそれ!?」

4個目のポーンも……
「スカートキター! っと思ったらその下のハーフパンツかよチクショーッ!!!」
「あんたの嗜好に付き合う義理は無い!」
「どうしてハーフパンツを穿いている!? スカートの下はパンツ以外認めない!!」
「あんたみたいな奴がいるからよ!!」


反撃に康之のポーンを1つ、クイーンをプロモーションされた分も含めて3つ取ることに成功したが、
満月はクイーン¥5000、現時点総額¥19500獲得している事など、既に興味が無かった。


「さってっと〜、次はどうしよっかなぁ〜♪」
「……」

康之が何度目かの作戦変更をノートPCで行っている間に、満月は両胸を庇いながら状況を整理する。

「(ヤバイ……この勝負のルールと、康之の計画を甘く見ていた……)」

満月はようやく気付き始めた、プロモーションの罠に……

『康之のポーンは全てクイーンになる』
少しでも多く金を取りたかった満月は、取れるポーンをそのために敢えて無視していた。
しかし、無視しただけでポーンに気付いていないわけではない。
康之は何時でも駒を取れる。 しかし満月は駒を取る状況を選ぶ。
ポーンをプロモーションさせるために、敢えて道を開ける。
この事が、彼女の駒の行動に制限をかけてしまっていたのだ。
なにより、金額の上昇に考えが集中してしまっていたが、クイーンを取る事は容易ではない。
AIの強さを実感したことで、これ以上プロポーションさせるつもりは無いが、現時点で敵のクイーンはまだ2つある。
そしてポーンもまだ3個残っている、その全てがプロモーション目前の状態で……!

そして、『罰の取り下げ』
このルールはむしろ彼女を弱体化させていた。
当初満月は、ナイト、ビショップ、ルークは絶対に取られまい、と思っていた。
だが、「一度目なら取られてもプロモーションすれば大丈夫」という認識が、
本来するつもりの無かった戦術、『サクリファイス』を使う気にさせてしまった。
そして彼女はプロモーションする際、罰を取り下げるために、取られた駒を取り戻すそうとする。
つまり、通常プロモーションするときの定石『クイーンへの昇格』が容易に出来ないのだ。

大量にプロポーションしたクイーンを狩るために各駒を1つずつ犠牲にし、
こちらのプロポーションは犠牲になった駒の補充。
罰を受け入れたくない以上、満月が損をしているのだ。

「おし、再開すっぞ!」
「……判った」

満月が一手打つと、間髪入れずにアームが駒を動かす。
そして康之が両手で彼女の胸を玩ぶ。
どちらかの駒が取られない限り、それがずっと続いていく。

「まるで、流れ作業ね……(くっ、駄目だ。このままじゃ……)」
「おう、チェックらしいぜ♪」
「えっ!?(しまった……)」

チェック、キングが攻撃されている状態。
満月のキングは今、康之のルークの攻撃範囲に居た。
まだチェックなので、キングを逃がすか、
間に他の駒を割り込ませればまだ助かる状態。
だが……

「まさに危機的状況ね……(そんな……)」

キングを逃がせば、その奥にいる2つ目のルークが取られてしまう。
しかし割り込ませられるのは、よりによってクイーンのみという状況。

即ち、ローターのスイッチを入れるか、秘所を弄られるか。
最悪の2択を迫られた満月。康之は、彼女の両胸で旗揚げゲームならぬ乳首押しゲームをしながら挑発する。

「右押して〜、左抓って〜……おいおい、早くしてくれって。 それともこのまま暫く遊んでいて欲しいのかぁ?」
「そんなわけ……! そんなわけ無いでしょう!?(まさか、ツーク・ツワンク……!!)」

『ツーク・ツワンク』
それは「より悪い形になる手を打つしかない、という状況に相手を追い込むこと」である。
通常のチェスならば、ルークかクイーンのどちらかを犠牲にする、となれば、迷わず前者を差し出す。
それはツーク・ツワンクでも何でもない、ただのサクリファイスだ。
駒1つあたりの価値を元に考えれば、自分のルークを犠牲にする事で、
直後に敵のルークを取ることが出来るのだから、損失は帳消しに出来る。

しかし今の満月にとっては、駒の価値に関係なく『駒を取られる』事自体が悪い形となっている。
チェス盤の外の損失を考えると、康之の損失はたかだか¥2000、対して彼女はローター起動……

仮にビショップを犠牲にクイーンを取れる状況であっても、今の彼女にはそれをすることは出来ないのだ。
戦況が有利になるとしても、自身の理性がそれを許さない。
ビショップを差し出すという事は、バイブを望んでいると見なされるのだから……!

実際、このチェックはAIによる(正確には、この状況になるように設定した康之による)挑発なのだ。
「ローターと秘所弄り、どっちがいい? お前に選ばせてやるよ」という。

「早くしろよ〜、両胸で遊ぶネタも尽きてきたぜ?」
「黙って、なさい……!(駄目、ローターも秘所も……どちらも選びたくない!!)」

康之はこの状況を楽しんでいる。そう簡単に終わらせるつもりなど無い。
即ち、チェックしているが、仮令キングをこの状態で放置しても最後まで取ろうとはしないはず。
しかしルール上、キングがチェックされている場合は、『必ず』何らかの方法でキングを敵駒の攻撃範囲から逃がさねばならない。

満月は、『康之にキングを取る意思が無い』にも拘らず、生贄を差し出さねばならないのだ。

「……どうしたものかしら、ね(ルールさえ……私の趣味であるチェス自体さえ、私の敵なの……?)」
「どうしたんだよ、まさか勝負を投げ出すって言うんじゃないだろうな?」

軽い気持で言ったのであろう康之のその言葉が、満月を1つの答えに導いた。

「!! ……馬鹿ね、そんなワケないでしょう(そうだ、投げ出さない。これはチェス……私の好きなチェスなんだ!)」

決意した満月は落ち着いた声で康之の質問を否定し、ゆっくりと手を動かす。

「らしくもないわね。私ったら、何を迷っていたのかしら?(常識じゃない、チェスなら……)」
「……」
「サクリファイスも、戦術なのにね……(ルークとクイーンなら……)」

思わず康之も手を止め無言で見守る中、満月は心と口とで、全く同じ言葉を紡ぐ。

「『ルークを、差し出すべきよね……』」


終わり所が見えてこない……
また明日か明後日に。

満月のキングが横に避け、代わりにルークが身を晒す。
直後、黒のルークにその首を刎ねらる事で……康之が持つローターのスイッチが入った。

「んあぁぁあぁっっ! やっ、ふぁ……ぬぁぁあぁぁぁあぁぁん!!」

強すぎる快感に耐え切れず、大声を上げながら椅子から落ちる満月。
それまでの冷静な彼女からは予想も出来ないほど淫らな動きと声色に、康之は唖然とする。

「おいおい、スゲェ反応だな……」
「はぁう、あぁっ……やめ、お願い、止めてえぇぇぇっ!」

康之の脚にしがみつきながら、ローターの停止を懇願する満月。
彼女は今、絶頂と強制覚醒を交互に体感していた。

「そいつはルール違反……って、悪い。MAXレベルになってた」カチッ
「ん! あああぁ……かはっ。はぁ、はぁ……くうぅ……はぁあぁ」
「スマン、今説明書読み直すわ」

康之が一度ローターのスイッチを切り、付属の説明書に目を通す間に、
満月は這って移動し椅子に座り直し、息を整える。

「はぁっ、はぁ……説明書、読んでないって、まさかこのローターも……」
「ああ、友人に借りた。開発指標は……『MAXレベルなら不感症も10秒で絶頂!』だとさ。やっぱ試しといた方がよかったんじゃね?」
「あんたが自分の身体で、ね。というか、何よその指標は……」
「さあな。 つーかお前こそ、感じている時性格変わりすぎだろ。何回イったんだよ?」
「!!……うっさい」

康之に反応を指摘されるも、話題を強制終了する満月。
実際彼女は、予想の遥か上を行く振動に身体を支配されていたのだ。

「……(『不感症も絶頂!』って、敏感な人の事も考えた商品作りをしなさいよ……)」
「まいっか……うっし! 操作バッチリ覚えたぜ。レベルどうするよ、7? 8?」
「1にしといて」
「しゃーねぇな。んじゃレベル1で、ポチッとな♪」
「……んくっ! ひぁ……はぁ、ふあぁっ!」

MAXレベルよりはずっと弱いものの、直接乳首に与えられる刺激に声を漏らす満月。

「揉むのも飽きてきたし、しかもその反応じゃ揉まれると駒を落としそうだし、しばらくは観賞に専念してやるよ」
「はぁぁ……勝手に、しなさいよ……(助かった……)」

康之の言うとおり、満月の精神は限界だった。
MAXレベルで数度絶頂を向かえ、熱が残っている身体にローターだけでも危険なのに、
ローターが作動している状態で揉まれれば、試合続行は不可能だっただろう。
振動に慣れてきたのか喘ぎ声を上げる事は無くなったが、時折喋る事が辛そうな様子が窺える。

「……ふふっ。ねぇ、チェス世界王者も、こんな気分だったのかしら?(圧倒的……)」
「……どういう意味だ?」
「味方なんていない、……いるのは対戦相手の、コンピューターと観戦者だけ(観戦者すら敵に思える孤独……私の場合本当に敵だけど)」
「成る程ね……」
「相手はミスをしない……! 究極の、『自分との勝負』(自分に、快楽に負けるなんて、絶対に嫌……全力のチェスをやって、最善の手を全て出し尽くす!)」
「……」
「そして、気が付いたときには……(だけど……)」

「『待っているのは敗北』」


そう、満月は完全に理解していた。
特殊ルール下での最適な駒の運用法を、ルール自体の罠を、
そして、数十手先まで幾通りも予想した果てに、その答えがほぼ同じであることを。

ポーンがまた1つ取られ……
「ベストで、いいでしょ?」
「あ、あぁ……」

満月がベストを脱ぐと、薄っすらと水色のブラが見える。
しかし、康之はただ呆然と見るだけであった。

元ポーンのビショップも刈り取られ……
「ポーンの罰分も払うのよね? どうせバイブ入れるんだし、パンツでいっか……」
「……待てよ」

満月がスカートの中に手を入れると、ブラとお揃いの水色のパンツが落ちる。
秘所に触れているであろう部分が幾分か濡れていたが、康之はそれを言及することなく、突然ローターのスイッチを切った。

「……何のつもり?」
「な、なあ。もう終わりにしないか?」
「は?」

康之の提案に対し、満月は蔑む様な目で暗に異論を唱える。

「なんか、冷めちまったよ。ゲームで自棄になられると、なんつーか……」
「何、嫌がったり恥ずかしがってくれないと燃えないとか?」
「まあ、そんなとこっつーか……」
「好きな女をただ犯すのは気が乗らない?」
「ああ、そういう……って、ちょ!?」

思わず正直に答えてしまい慌てる康之を見て、不適に微笑む満月。

「仮にもチェスプレイヤーよ。何となく程度になら、人の心を読めもするわ」
「ああそうかよ……チクショウ」
「第一あんた、好きでもない女の体弄って喜ぶほど、節操無しでもないでしょ?」
「うっせーよ……」
「そして私も、嫌いな男の馬鹿げたゲームで快感覚えるほど、痴女じゃないわよ」
「だから馬鹿げたとか言うのは……は?」

生返事しかけた康之は、満月の言葉を理解するのに時間がかかったようだ。

「ほら、早くバイブ寄越しなさいよ。それとも、あんたが入れてくれるの?」
「……ハハッ、成る程。そーゆー事か! アーハッハ!!」
「何馬鹿笑いしているのよ、気持ち悪い」

康之はノートPCの蓋を閉じ、スキャナーを回収する。

「そうだよな、勝負は最後まで判らない方が面白いよなぁ?」
「何のつもりよ? 今更」
「忘れてたんだよ。ゲームってのは、自分の手で勝たねーと楽しく無いもんだよな」
「……黒のクイーンが残り4つ。まあ、相手があんたなら、ハンデとしては足りないかもね」
「忘れてないか? 今はローターのスイッチ切っているし、俺も揉んでない。そしてこれからコイツも入るんだぜ?」

康之はスキャナーを鞄に仕舞い、変わりにバイブを取り出す。
満月はそのバイブを受け取り、康之に背を向け秘所に入れる。

「んっ……これで、ようやく五分ってところかしら?」
「んじゃ悪いが、7:3にさせてもらうわ!」

康之が再びローターのスイッチを入れる。 

「うあ!? んあぁぁぁあっ! ひぁあ……やぁぁ!!」

レベル3で……

「あぁぅ、ぁぁ……いいわよ、少々不利なくらいの方が、燃えてくるってモノよ!!」
「へっ、とっくの昔に股の間は濡れてるんだろ? 入れてるバイブ落とすなよ!!」

満月はポーンをルークにプロモーションさせる。ローターのスイッチが切られる。
そのルークを討とうと、クイーンを斜め付けする康之。

「単純ね、状況を見たら?」
「ちぃっ!!」

そのクイーンをビショップで撃退する満月。残る黒クイーンは3つ。

「どうせ斜め付けしても、次の手で逃げられれば意味が無いでしょうに」
「その指導は余裕のつもりかよ!?」

康之は最後のポーンをプロモーションさせないためにクイーンを仕向ける。

「良いのかしら? 王様の護衛を離れさせちゃって……チェック」
「くそっ!」

じっくり楽しむために残しておいた満月のクイーンにチェックを決められ焦る康之。
仕方なく、キングを端の方へ逃がす。

「まあ守りに入っても、ナイトがガラ空きだけどね」
「んなっ!?」

そのままクイーンでナイトを一騎討ち取る満月。
彼女は完全に、康之を手玉に取っていた。

「見事に私の思い通りに動くわね」
「だろうな。 でもだからって、取れる駒を見逃すのは性に合わないんでね!」

それも満月の策と判りつつも、クイーンで最後のポーンを取る康之。

「ええ、あなたならそうすると思った」

そう言いながら満月がシャツを脱ぐと、彼女の上半身が、
ブラジャーに隠された胸元以外の、細い腕や白い首筋が露になる。

「良い眺めだぜ♪」
「第一発言まで予想通りね」
「あとはルークを取れば、その邪魔くさい下着ともおさらばして、ついでにレベル5で再起動だ」
「ちょっと、何勝手にまたレベル上げようとしてんのよ!?」
「おお、それよりもスカート脱ぐ方が先か? 俺はどっちでも構わないぜ?」
「前言撤回。 予想以上のド助平ね……」

残る駒は康之(黒)側がクイーンが3個とナイト、そしてキング。
満月(白)側がクイーンとビショップ、ルーク、そしてやはりキング。
駒数、駒の価値合計共に、満月が圧倒的不利な状況に未だ変わりは無い。

「ド助平で結構。 予想ってのは裏切るもんだ」
「今から裏切って間に合うのかしら?」
「まだ盤面じゃあ俺の方が数段有利なんだぜ?」
「数と質で負けているなら、策で挽回するだけよ!」

ナイトを叩くために満月が動かしたビショップに対し、クイーンを差し向ける康之。
満月が更にその対処としてルークで牽制するが、康之は敢えてそれを無視して更にビショップの死角へクイーンを運ぶ。

「言っただろ? 裏切るってさぁ!!」
「な……!!」

斜め方向からクイーンが来てルークを仕留める。
このルークはポーンがプロモーションした存在、つまり……

「ルークを取った……やっとこさご開帳だぜ――」
「チェックメイト!」

ブラジャーを掴もうとする康之の右手を左手で押さえ、高らかに叫ぶ満月。

「……へ?」
「私の勝ち、合計獲得金額¥47500。もうちょっと、搾り取りたかったけどね……」

盤面を確認する康之の目に映ったものは、たった今ルークを討ち取ったはずの黒のクイーンが、白のクイーンに切り捨てられた光景。
黒のキングはそのままクイーンに攻撃されており、その逃げ道は白いビショップとキング、そして……黒いクイーンが塞いでいる。
キングの逃げ道が何処にも無い、まさに完璧な『チェックメイト』だった。

「そんな、どうして……」
「二重三重に策を練っていたのに、1度目の挑発であっさりかかるなんてホント、『予想外』だったわ」
「まさか、ルークを囮に……?」
「相手が裏をかこうとする事まで読み、嵌ったフリをして誘い出し、本陣を討つ。サクリファイスの1つ、『ルアーリング』よ」

勝敗が決し肩を落とす康之に対し、満月は親切丁寧に自分の作戦を明かす。
康之が改めて、目の前の女性の恐ろしさを思い知った瞬間だった。

「ここまで来て、かよ……」
「自駒に関しても、私の駒に関しても、クイーンを軽んじ過ぎたわね」
「丁寧な指導をどうも……」
「元気出しなさいよ、何か奢ってあげるから」
「ついさっきまでの俺の金で、か」
「落ち込みすぎよ、ふぁっ……クシュッ!」

康之が愚痴をこぼしながらチェス盤を片付ける後ろで、満月はクシャミをしながら肌寒そうに腕を擦る。

「それにしても、勝負中は気にしなかったけれど、流石にこの格好は寒いのよね」
「その中身を直接拝めなかったのが、心残りだぜ本当……」
「何時まで変態発言やってるのよ。寒いって言ってるでしょ、さっさと暖めてよ……康之」

驚き振り向いた康之が見たものは、恥ずかしそうに頬を赤らめ自分を見つめる、艶かしい満月の姿だった。
先ほどまでの意気消沈は何処へやら。満月の後ろへ回り込む康之の顔は、とても嬉しそうである。

「……満月の頼みとあらば喜んで♪」

手早くホックを外されブラが落ちそうになるが、
満月は両手で胸元を隠すように落下を防ぎ、微笑を浮かべ呟いた。

「……馬鹿」


ゲーム終了(完)






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