恵の小学校生活(登校編)
シチュエーション


小学五年生の春日 恵は父親の仕事の都合で、人口三百万人の大都市から一変して人口三百人程度の小さな山村に引っ越すことになった。
当然小学校も転校し、その村にある学校に通う事になったのだが、そこには多くの驚くべきことが待っていた。
恵が産まれるずっと前の、昭和時代の遺物としか思えない小さな木造校舎や全校生徒が一年生から六年生まで合わせて二十人足らずという事も驚きだったが
それ以上に驚く事になったのは、その学校には恵以外に女の子が一人もいなかったのだ。
合わせて四人ほどの学校教員事務員も全て男性である。
小学校、ましてやもともと人口の少ない村なのだから当然共学だ。
保育園以下や中学生以上の子供は男女ほぼ半々の人数の村なのだが、どういった偶然なのか
小学生に相当する年齢の子供だけ、ぽっかりと穴が空いた様に女の子がいないのだ。

それでも勝気な少女で男子と遊ぶことも多かった恵は驚きこそしたがその時はそれほど抵抗は感じなかった。
しかし……周囲に男しかいないこの環境で、恵は逆に自分が幼くても女なのだという事を思い知らされることとなる。
転校初日から待っていたのはスカートめくりの洗礼だった。
それも一度や二度ではない。何時いかなる時も前から後ろから、幼稚園児に見える一年生の小さな男の子から、中学生に見える六年生の少年まで
全ての男子が最低一回は、のべ回数では三桁に届くのではないかと思うほど一日でスカートを捲くられてしまった。
あまりの執拗なスカートめくりに初日からウンザリし、翌日はパンツルックで登校したのだが、その日は代わりに「カンチョー」攻撃が待っていた。
背後に誰かの気配を感じたと思った次の瞬間にはお尻の中心に衝撃が走り、情けない声をあげさせられる事になる。
それ以外にも胸を揉まれたりお尻を叩かれたり……恵の身体は常時男子達のイタズラの標的となり続けた。

だが、恵もただやられっぱなしになる少女ではなかった。
そんなコトをしてきた男子は例外なく殴る。たとえ逃げようが追いかけて殴る。逃げ切られてもあらためて顔を合わせた時に殴る。
絶対そのままにはいておかなかった。

……しかし、それが結果的にはかえって男子のイタズラを助長させた。
これで恵がなんの抵抗も出来ず泣き出したりするような少女であれば、男子達は憐憫や罪悪感が沸き、イタズラを辞めただろうが
恵がやり返す事によって一連の行為はおあいこ、他愛の無いイタズラとして正当化され、また、周囲の大人たちの目にも微笑ましい光景に映ってしまっていた。
そして、恵自身も周囲から同情されたり心配されたりするぐらいなら、そう思われていた方がマシだと感じてしまっている。
どんなに実際は恥ずかしくて嫌でも、その事を周囲に認めてしまったらさらに恥ずかしく、自分の居場所がなくなってしまう。
だから大したことないように振る舞っている方がいい。……そう思い現状を受け入れていた。

村の朝、すっかりお馴染みの光景が通学路で繰り広げられていた。

「なにすんの、このバカ!!」

そう叫ぶと同時に恵は、挨拶代わりに後ろからスカートを捲くってきた男子に同じく挨拶代わりの肘鉄を食らわせる。

「ぐえっ!」

みぞおちに肘を喰らった男子は一瞬本気で痛そうな顔をするがすぐにニヤニヤと笑って走り去っていく。
その様子を傍で見ていた野菜を洗うオバサンが

「まーた、イタズラ小僧にやられたねぇ」

と笑いながら恵に声をかけた。
恵は挨拶と困ったような愛想笑いを返して先を進む。

少し進んだ道の合流地点で二年生くらいの低学年の男の子三人組に逢った。

「めぐみちゃん、おはよー!」
「あ、おはよ!って早速やめてよ!」

低学年の男子も上級生の真似をしているのか……例に漏れず恵に会って早々スカートを捲くってくる。
恵は相手が年下となると本気で怒鳴ったり殴ったりもできないため、ある意味同年代の男子より扱いに困った。
それでもどこまで解ってやっているのかわからないし、懐いてくれているのなら可愛いものだとある程度許容していたのだが……

「いい加減スカートおろしてくんないかな……きゃっ!!ちょ、ちょっと……!!」

男の子の一人が、調子に乗ったのか恵のめくれたスカートの中にまで手を入れたかと思うと、そのままパンツを掴んでずり下げてきた。
道の真ん中でスカートの後ろがめくれたままの恵のお尻が丸出しになる。

「こ……こらぁああっ!!!」

流石にこれには恵みも驚き、急いで手を振り払ってパンツを持ち上げると、
同年代の男子にやるのと変わらない強さでスパコーンと低学年三人の頭を叩いてしまった。
……すると一瞬の沈黙ののち。

「……うわぁああああああっ!!!」

男の子たちは泣き出してしまう。
そして、周囲の視線はパンツを降ろされた恵より、思いっきり引っぱたかれた小さい男の子に同情的だ。

「ご、ごめん!やりすぎた……泣かないでっ!!……ゴメンってば!」

恵は泣かせてしまった少年達を慌ててなだめると、そそくさとその場から逃げるように立ち去る。

(うぅ〜、なんであたしが謝んなきゃいけないのよ……)

その後も男子に逢うたびにイタズラをされ、逃げたり追ったり立ち止まったりしながら恵はようやく学校に着いた。
……でも、それは一日の始まりにすぎない。

「……負けないぞっ!」

恵はそう口にすると今日も校門をくぐっていった。






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