眠気をかけたギャンブル
シチュエーション


「……だれが、あんたに負けるもんですか」

眠たそうな目を擦りながら小娘は言った。よほど眠いのか、小娘はさらにまくし立てた。

「勝つのはあたし。あんたに地獄をみせてやる」

そう言うと女はあくびを噛み殺して力一杯机を叩いてみせた。

「おまえさんが眠ったら、たっぷり犯してやるからな。覚悟しとけよ」

小娘の表情がさっと変わる。両手で自らの身体を抱きしめるように覆いソファから立ち上がると、部屋の隅へと移動した。
眉間にシワを寄せ無言の俺を睨みつける。
俺は笑みを浮かべながらかぶりを降って、「おお、怖い」という仕種をしてみせる。
余裕のあるふりをしてみせるが、実際には俺にも余裕がない。手に爪を食い込ませながら俺は、必死に睡魔と戦ってるのが現状だ。
痛みだけが、俺を眠りの縁からぎりぎりのところに立たせていた。
目の前の生意気な小娘を犯せれば、眠気など吹っ飛ぶのだろうが、まだそのときまでは時間がかかるようだった。

勝てば大金が手に入る……これは二人の男女がお互いに睡眠薬を飲んで挑む眠気をかけたギャンブルだった。
一度完全に眠ろうものなら、次の日まで目を覚まさないギャンブル……。
男が勝てば、女の眠った身体を自由にできる権利と大金が手に入り、
女が勝てば大金と眠った男を殺せる権利が手に入る。
小娘は半年前に俺が無理矢理犯した女だった。

「……絶対に殺してやる」 小娘は、眼をぎらつかせて俺を睨みつけた。
「クククッ、もう一回犯してやるからな」

俺の含み笑いに小娘はますます嫌悪の表情を募らせていった。


犯罪被害者支援会ーーー。

このギャンブルを非合法で行っている組織だ。
NPO団体を装って偽善者ぶっているが、
裏でやっていることは、犯罪者とその被害者を戦わせて、大金をせしめようなんていうあくどいことをしてやがる。

ーーーどうやって金を儲けるか。

この部屋には至るところにカメラが仕掛けられており
そいつを有料でネット配信しているのだ。
様々な勝負内容があるらしいが、
特にこのレイプ犯とその加害者が、身体と金を賭けて勝負である『睡眠薬耐久勝負』は人気のある
コンテンツらしかった。

「何か俺に恨みでもあるのか?」

馬鹿にした笑いを込めて俺は小娘にいった。

「…………」

小娘は何も言わず俺を睨みつける。

「俺に恨みがあるっていうならお門違いだ」
「……隙があった私のせいだとでも言いたいの?」

苦虫をかみつぶした様な声で小娘は言い返す。

「まあ、あんな人気のないところを女子高生が一人でチャリこいでちゃなあ」
「あんたみないな男死ねばいいのよ」

小娘はねめつける目で氷のように冷たい声を出した。

「……まあ、いい」

自然に欠伸が出る。俺もあまり余裕はなかった。
俺は小娘の服装に目をやる。
夏だというのに、ぶかぶかの紺色の長袖シャツのボタンをぴっちりと衿元までしめ
下のズボンはサイズにゆとりのある、ルーズなデニムだった。

「なんでそんな、ぶかぶかの格好してるんだ?
おまえのスタイルの良さは俺があの胸やくびれはが俺の肌に吸い付いてよーーー」

そこまで言いかけると小娘はそう叫ぶと耳を塞いでしゃがみこんだ。

「やめてよ!」
「……あんたのせいで、怖くてスカートはけなくなった……今もズボンで学校行ってい」
「そりやぁな。あんなパンツを脱がしやすい格好はねえからな」

俺は天を仰いだ。そして必死にパンツを剥ぎ取られないよいに抵抗した
小娘の姿を思い出して、思わず笑いが込み上げた。
今回は、ズボンごとパンツを剥ぎ取り、そのシャツの中身を拝んでやる。
そのためには小娘を一早く疲弊させなければいけなかった。

ぶるぶる震えているばかりだと思っていた小娘は、突如立ち上がると、俺に言い放った。

「……あんた、刑務所の中で毎日囚人に犯されてたそうじゃない」

エアコンの音だけが室内に響く。俺の顔色が変わったことを察知したのか
女はにやにやと笑う。

「……ねえ、どんな気分?無理矢理男に犯されるって」

やさしさの川を被って人を侮蔑するような喋り方……。
俺の脳裏に最悪の記憶が蘇る。
他の囚人が寝静まる深夜……。
看守の足音が遠退いていく度に、いつもことは起こった。
最初に犯された夜。
同じ監房の三人の男達のリーダー格の一人は俺に言った。

「てめえ、レイプ犯なんだってな。しかも女子高生を襲ったらしいな
ここは犯罪者の巣窟だが、子供を殺した奴や性犯罪者は軽蔑されるんだ。
てめえも同じ目に合わせてやる。犯すのが好きらしいが、
犯されるのも好きになるようにしてやるぜ
……てめえ、よく見りゃ女みてえな顔してるな
俺達も長いムショ暮らしでたまってるからな」

そう言って、俺は三人な男達に、毎晩代わる代わる犯された……。
それは、最悪の記憶だった

奥歯がかちかちとなる。小娘は、勝ち誇ったように俺を見下していた。

「……な、なんで知ってる」
「さあね」

小娘はすっかり平静を取り戻したようだった。
今、精神を削られているのは俺のほうだった。






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