気づいた
山田草太×鮎川若葉


「ビー太郎のやつ、また出しっぱなしかよ〜」

草太は部屋中に散らばった色鉛筆と画用紙を片付けていた。
ふと、部屋の隅に見慣れない色味の何かが落ちているのに気づく。

「これ‥若葉さんの‥」

いつのまに落ちたのか、それは若葉が髪に飾っていたシュシュだった。
艶のあるサテン地のシュシュは、くしゅっと丸まり、女性のショーツを連想させる。

「んあー!何考えてんだ俺は!」

草太はシュシュを掴み立ち上がろうとする。その時、かすかに若葉のシャンプーの香りがした。
暑い部屋の温度が更に上がった気がした。喉がゴクリ、と鳴る。

「若葉さん‥」

シュシュを鼻に近づける。紛れもない、若葉の香り。
鼻に押し当て、ゆっくりと息を吸う。

「‥うっ‥」

筋肉痛な二の腕がしっとり汗ばむと同時に、汚れた前掛けの下で草太のモノが硬化し始めた。
壁にもたれこみ、ベルトを緩める。トランクスは鈴口から滲んだ液で濡れていた。

最後に女性を抱いたのはいつだったろう。
いや、欲しくて欲しくてたまらない女性を抱いたことなど今まで無かったかもしれない。

「俺、情けなさすぎじゃね?」

草太は畳に座り込んだ。泣きたくなった。
手の甲を目元に当て、上を向いた。

「若葉さんが欲しいよ‥若葉さんがいいんだ‥」

涙がひとすじ流れた。
シュシュを絡めた右手で、いまだ硬さを失わないモノを扱く。

「‥ん‥んぁ‥若葉さん‥俺‥若葉さんに出会って‥」
「私に出会って、何ですか?」

草太の心臓が跳ね上がる!
そこには若葉の姿があった。
若葉は怪訝な顔で「何してるんですか?お腹壊した?」
いつもの不機嫌な眉をした若葉だ。草太の行為は前掛けのおかげでバレていないらしい。

「先生から預かり物です!今度の保護者会のプリントと、それからお遊戯会が‥」

後ろを向きカバンを漁る若葉に気づかれないよう、服を整える。
シュシュはポケットに突っ込んだ。

「聞いてます?」

若葉がジロリと睨みつける。
草太はパッ!と笑顔を作った。気まずい空気が流れる。

「何か隠してません?」

ジリジリと若葉に詰め寄られ、草太は背筋が伸びる。もはや条件反射だ。
そして、意を決した。

「あの、俺‥若葉さんを抱きたい!‥です。」
「はぁ?」見開いた若葉の眼に動揺が見て取れた。
「んで‥俺が泣きそうな時、包んでもらうって言うか、若葉さんに抱き締めてほしいっス‥。や、あの、嫌ならいいん‥」
「バッカじゃないの?」
「若葉さ‥」
「抱き締めて慰めるくらい、とっくにやってあげてますけど?!」
「え、あ、若葉さ‥


ああ、あれは酔いが見せた夢じゃなかったんだ。
カツカツとヒールを鳴らし、足早にル・佐藤を去る若葉を眼で追いながら、草太は自分の想いが更に強くなるのを感じた。

「若葉さん、俺あなたに出会って、本当は自分が子供みたいに守られたかったと気づいたんだ。」






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