夜の果てに(洸至&鷹藤×遼子)
番外編


交差点で、携帯電話を手に鷹藤は途方に暮れていた。
アンタッチャブル編集部から駐車場へ歩く途中で、赤信号につかまった。
足を止めたついでに、今日連絡の取れない遼子へ電話をしてみたのだがまたも繋がらなかった。
鷹藤の胸が不安で重くなっていく。

鷹藤と遼子が付き合いはじめてからもう1年近く経つが、離れて仕事をする時はいつもうるさい位メール
や電話を鷹藤にかけてくる遼子が、今日に限って半日以上かけてこない。
心配になった鷹藤が何度も連絡を取ろうとしたが、遼子の携帯電話は電源すら入っていないようだった。
今日はいつもと違い、鷹藤は遼子とではなく城之内と一日組んでいた。
与党内で若手議員によるクーデター、それによる幹事長の更迭との情報を掴んでその取材をしていた。
だが、それもガセネタだったらしく、日付が変わる時刻まで取材に当たったが空振りに終わった。

昼ごろに、芸能人のスキャンダルのネタ元に会うために遼子が編集部を出ていってから連絡が無い。
編集部にも鷹藤にも連絡はなく、こちらがかけても遼子の携帯電話につながらない。
背筋を冷たいものが走る。
もしかしたら携帯電話の電源を何かの事情で切ってそのままなのかもしれないが、編集部に連絡ひとつ寄越さな
いのは遼子らしくない。

信号が青に変わった。

鷹藤が歩きだした時、莫迦みたいなスピードを出した車が眼の前を走り抜けた。
鷹藤はその車を茫然としながら見送った。
と、走り抜けたはずの車が10メートル程進んでから急停止し、白煙とタイヤの焦げる臭いをまき散らし
ながらバックすると、鷹藤の前で急停止した。
助手席のドアが勢いをつけて開き、大きな手が驚いて立ちすくむ鷹藤を車内に引きずりこむ。

「何すんだよてめえ!」

強張った喉を動かし、鷹藤が引きずりこんだ相手を見た。
死んだはずの遼子の兄、鳴海洸至が血走った眼で鷹藤を見ていた。
死者が眼の前にいることの衝撃に鷹藤が浸る間もなく、洸至が怒鳴る。

「ドアを閉めろ!」

鷹藤がドアが締めきらないうちに、洸至はアクセルを踏んだ。

「何だっていうんだよ。俺をどうする気だ!」
「説明は後だ。今は後ろの遼子をなんとかしないと」

後部座席に目をやった鷹藤は茫然とした。

そこには横たわり、半裸で悶える遼子がいた。
上はキャミソール、下は足首のあたりに引っかかっているショーツだけだった。
遼子は左手で自分の太ももを抱えると亀裂の奥まで見せつけるように大きく開き、右手で亀裂を弄くりせつなげ
な喘ぎ声を絶えず漏らしていた。
街路灯の微かな光が、遼子の濡れた太ももと、大きく開いた襞を照らす。
暗がりでもわかるほどそこは濡れていた。
溢れ出た蜜がシートを濡らすもの構わず、遼子は右手の中指を亀裂に沈め音が立つ程激しく抜き差ししていた。

「はぁ、あぁああんっ、欲しいの…もっとすごいのが欲しい…」

口を閉じるのを忘れ、鷹藤はその光景を見ていた。
遼子は鷹藤と躰を合わせることに慣れたとはいえ、鷹藤の前でもこんな行為をしたことはなかった。
それを車内で、しかも実の兄と鷹藤の眼前でしていた。
食い入るような鷹藤の視線に気づくことなく、遼子は没頭している。
鷹藤は愕然としながらも、遼子の亀裂が卑猥に指を咥えこみ、蜜を吐き出す様から眼離せないでいた。

「もういいだろ」

運転席の洸至が鷹藤に声をかけた。
その声で我に帰った鷹藤が洸至を睨みつけた。

「一体なんだよ、これ…。何をしたんだよ!!」

衝撃から目を醒ました鷹藤が洸至に怒鳴る。

「ひので教団。憶えているか?」

ひので教団…。忘れもしない、鷹藤と遼子が組んで最初に取材したいわゆる「予言報道」事件、ジャーナリスト
有栖川を使って敵対する企業に不利な事実をねつ造し、時には死者を伴う事故までも引き起こした事件の黒幕
のカルト教団だ。

「ひので教団と有栖川は邪魔だったんだよ。だから俺がアンタッチャブルに情報を流して潰させた。
もともと公安にマークされていたから破壊行為の発覚もあって、俺の目論見通りあっという間に教団は解散、
教祖代理は塀の中だ。大体の信者は他の新興宗教団体に流れたが、西園寺のような狂信的な信者は地下に
潜って教祖代理を未だにあがめている。そいつらにとって教団を潰した名無しの権兵衛と、記事を書いた
アンタッチャブルの記者は不倶戴天の敵ってわけだ」

洸至が話している間も、車内に遼子の喘ぎ声が響く。遼子の出す濃厚な雌の匂いが車内に満ちていた。
鷹藤の理性が揺らぎかけるのを意識して押し留めていた。

「記事を書いた上に、遼子は名無しの権兵衛の妹にあたる。復讐するには最高の相手だ。奴らは、遼子を死ぬ
より酷い目に合わせることにした。薬を喰わせて輪姦す。しかもその映像をネットで流す気だったらしい。
最低だよ…本当に最低だ」

洸至が不愉快そうに眼を細めた。

「…教団にいる俺の内通者から情報があった。遼子が薬を喰わされた後だったが、何とか取り返すことが出来た」
「あいつを攫った奴らは?」

洸至は答えず、口元に笑みを浮かべた。目に昏い光が宿る。
鷹藤がその表情に思わず息を呑んだ時、洸至のシャツの襟元に赤い飛沫がついていることに気がついた。

「奴らにはそれなりの償いをしてもらったよ。問題は遼子だ。薬が抜けるまで眼が離せない。
かといって法に触れる薬を奴らが喰わせたせいで病院にも連れていけない。だから恋人であるお前が遼子の
面倒を見てくれ。場所と医薬品は俺が用意する。…全ては俺のせいだからな」

洸至がそう言った時も、後部差席の遼子は喘ぎ続け、己の躰を貪っていた。



都心の瀟洒なマンション――その一室が洸至の隠れ家だった。
広い室内に最低限の家具とベッドしかない殺風景な部屋に洸至は二人を案内した。

「この部屋の防音は完璧だ。外に音が漏れる心配がない。遼子がいくら騒いでも大丈夫だ」
「で、どうすりゃいいんだよ」
「お願い、しよ?ね?鷹藤くんしよ?」

男二人が会話をする間にも、半裸の遼子は愛撫を懇願し鷹藤の耳を舐めあげていた。

「…薬を喰わせた場所が問題なんだよ。奴ら直接遼子の粘膜に喰わせやがった」
「粘膜?」

耳の穴に舌を入れられて話に集中できない。
それに遼子が発する雌の匂いが鷹藤の理性を掻き乱す。

「…これ以上言わすのか、俺に。」

洸至が妹の姿から目を逸らしながら言った。

「ヤクザがよく使う手だよ。そこに薬を入れれば女は全身性感帯だ。その状態じゃ鎮静剤すら効かない。
効いている間は何をしても眠らずに男を欲しがるんだよ。…遼子が眠ったら点滴を打って身体から早く
排出させるから、それまでお前が傍に居てやってくれ」

「眠るまで、俺に傍に居ろってのは」
「抱いて…いっぱいして。おかしくなりそう…」

虚ろな目で愛撫をせがむ遼子の声が部屋に漂う。妹の聞くに堪えない言葉を聞いて洸至が唇を噛んだ。

「つまりそういうことだ。遼子が満足して眠ったら電話をくれ。俺は外で待っている」

洸至が鷹藤に遼子を任せ部屋を出ようとした時、遼子が兄の元へふらつきながら歩いて行く。
キャミソールの肩ひもが落ちて、乳房が見えかかっていた。

「お兄ちゃん…行かないで」

潤みきった眼で遼子が微笑む。だが目に普段の遼子にある理知の光は無い。
黒く塗りつぶされたような瞳を見て、洸至の顔が哀しげに歪んだ。

「遼子…鷹藤くんが傍に居るから、俺がいなくても大丈夫だ」

妹を振り切るように踵を返した洸至の手首を遼子が掴む。

「お兄ちゃん…またわたしを置いていくの?」

その言葉で洸至が足を止めた。

「遼子…」

洸至の首に遼子が腕を廻し躰を押し付ける。

「ずっと一緒に居て…もう置いていかないで…」

遼子が兄の首を舐めながら、太ももに手を這わせた。
洸至に抵抗のそぶりはない。
理性を手放した遼子には、今まで見たことのない淫靡な美しさが宿っていた。
それに囚われたように洸至は動けず、妹のなすがままになっていた。

「おい、目を覚ませってば!兄さん相手に何してるんだよ」

後ろから鷹藤が遼子を抱きとめる。

「…寂しかったのよ…お兄ちゃんのせいで…」
「俺のせいか」

洸至が遼子の頬を大きな手で包んだ。それを了解と勘違いした遼子が兄に口づけをしようとした。

「だめだって!兄妹なんだから!」

鷹藤が遼子を洸至から離そうと腕に力を籠め後ろへ引っ張った。引き離されまいと、遼子が洸至の腕を掴む。
3人はもつれるようにしてベッドの上に倒れ込んだ。

「ふふ…」

遼子が楽しげに微笑む。

「3人だったら寂しくない…」

遼子を挟み困惑する鷹藤と洸至の視線が合った。
鷹藤の首に手を廻し遼子が唇を重ねる。ねっとりと舌を絡ませ、鷹藤の唇を遼子が蹂躙する。
鷹藤の唇が熱を持つ前に、遼子は唇を離すと、今度は洸至の唇と重ねた。
遼子の舌が出す湿った音が鷹藤の耳を打つ。

「遼子…!」

押しのけようとする洸至の首を抱きしめ、遼子が兄の唇を覆うと舌を這わせる。

「やめろって!」

鷹藤が遼子の肩を掴み、兄から引き離す。遼子が不満げに鼻を鳴らした。
それから鷹藤の顎に手を添えると遼子はまた唇を重ねた。
しばらく鷹藤の唇を貪ると遼子は満足げに唇を離し、恋人の眼を見た。

「鷹藤君…お兄ちゃんに嫉妬してるの?」

遼子の光のない瞳を鷹藤は見ていられなかった。
ここに居るのは遼子であり、遼子ではない。その印がこの光のない瞳だった。

「そんなわけないだろ!あんたら兄妹なんだぞ。こんなことしたら、後であんたが辛いだろうが。
早く元に戻ってくれよ」
「いいじゃない…兄妹でも…お兄ちゃん私が嫌い?」

遼子が首を傾げ蕩けきった眼で洸至を見る。

「…好きだよ、遼子が」

仰向けで横たわる洸至の声は掠れていた。

「わたしもお兄ちゃんが好きよ」

遼子が洸至の太ももに手を這わせる。

「違う。その好きじゃ…」

遼子の手が服の上から洸至自身に触れた。

「違うのに、どうしてお兄ちゃんのここがこんなになってるの…?」

服の上からでもわかるほど屹立したものを遼子が愛おしげに撫でる。

「だったら抱いてよ…めちゃくちゃにして。躰が変なの。お願い…助けて…」

兄を撫で上げる遼子の腕を鷹藤が掴んだ。

「抱いてやるから。俺があんたをめちゃくちゃにしてやるから、兄さんとそんなことするなって」

鷹藤が後ろから遼子の乳房を揉みあげる。
遼子からすぐに甘い声が漏れ始めた。

「こうして欲しいんだろ。俺で我慢しろって」

洸至の視線を痛いほど感じながら、鷹藤が遼子の汗で光るうなじに舌を這わせ、張りつめた乳房の先を指で弾く。

「ふぅっ」

男からの快楽に遼子は満足そうに喘ぐ。
遼子は身をよじり喘ぎながらも、鷹藤の硬くなったものを求め、左手で服の上から形を辿っていた。

「ねえ鷹藤君、もっと…もっとしよ…」

鷹藤が遼子の亀裂へ指を潜り込ませ、音が立つ程掻き回し始めた。

「きゃあんんっ」

鷹藤の手で乱れながら、遼子が兄へ空いている手を伸ばす。

「お兄ちゃんも来て…私を助けて…」

洸至が音を立てて唾を呑みこんだ。そして伸べられた遼子の手を取る。

「最低だな…俺は」

洸至が自嘲気味にそう言った。
諦めたような笑みを浮かべ、洸至は遼子に口づけをした。

兄妹の立てる舌の音が響く。
自分の恋人が艶めかしく兄と舌を絡め合わせる光景は、おぞましいことのはずなのに鷹藤はひどく興奮していた。車に引き摺りこまれた時から、鷹藤の理性は掻き乱され続けていた。
遼子の誘惑で洸至が自分を保てなくなった時に、鷹藤の理性も振りきれていた。
この行為の後、自分たちを待ち受けるのは罪悪感と自己嫌悪、そして理性の側に留まれなかったお互いへの
憎悪かもしれないが、鷹藤と洸至は止まれないでいた。
薬で理性を失った遼子の欲望を満たしてやるなんていう詭弁は捨てた。
自分たちもただ肉の欲望に支配されただけだ。
本能を刺激する熱気と遼子の雌の芳香に酔い、堕ちた。
理性の果てへ。

洸至の唇を心行くまで貪った後、遼子が今度は鷹藤の唇を求めた。
遼子の舌がすぐに鷹藤の舌を絡めとる。男の本能に絡みつく淫靡な口づけ。
こんなキスを今まで遼子と交わしたことはなかった。
遼子が唇を離し、鷹藤の唾液を味わうように己の唇を舐めた。
理性を捨てた遼子からは、淫らな美しさが漂う。
その表情で、鷹藤の心が欲望に震える。遼子を今すぐにでも押し倒したかった。

「もっと欲しい…」

だが次に遼子が求めたのは鷹藤ではなく洸至だった。
躰を起した遼子が洸至にのしかかると、兄のベルトを外し屹立したものを引き出す。
血管が浮き立ち、反り返るそれを見た遼子が艶然と微笑む。そして口に含んだ。

「んんっ、っふぅ」

口に含まれている洸至より、奉仕している遼子の方がまさぐられているような声を出す。
首を振り、頬をすぼませながら、兄のものを口で扱きあげる。

「いいよ…遼子…最高だ」

顔を隠すように垂れる遼子の黒髪を、洸至がかきあげた。

「おいひい…」

洸至自身を根元まで咥えると、淫猥な音を立てながら兄を吸いあげる。
遼子が尻をつきあげ、後ろに居る鷹藤に襞の奥まで見せつけるように脚を開いた。

「わかったよ…。こっちも欲しいんだろ。…くれてやるよ」

鷹藤はデニムを下ろすと、一気に遼子の中に己を突きいれた。

「きゃああああっ」

待ちかねた快楽に遼子が口を離し、シーツに顔を擦りつけ喘ぐ。
鷹藤はすぐに激しく腰を送り始めた。
肉と肉のぶつかり合う音と、粘着質の水音を立てながら遼子と鷹藤が揺れる。

「やんっ、あっ、あんっ、すごいっ」
「遼子、俺を忘れるなよ」

洸至が遼子の顎を掴むと、半開きの唇に洸至自身を咥えさせる。
遼子はすぐに口での愛撫を再開したが、後ろから鷹藤に激しく突きたてられ、先ほどまでのようにはできず
ただ咥えながら喘ぐのみだった。

「んっ、んっ、んっ」
「すごい締めてくるぜ、あんたのあそこ」

汗を滴らせながら、鷹藤が遼子を後ろから犯す。
いつものいたわり合い、心を重ね合う行為ではなかった。
遼子の心はどこかに置き去りのまま、ただただ躰をぶつけ合うだけの行為。

「やんっ、んんっ」
「いきまくって、いつものあんたに帰ってくれよ」

鷹藤は腰を突きたてながら、遼子の背筋に舌を這わせる。

「こんなのあんたじゃ…」

薬で狂う遼子を洸至と二人で凌辱していた。
これじゃ、ひので教団のやつらと何も変わらない。
だが本能の狂奔に身を任せ白熱する行為に鷹藤は罪悪感を抱きつつ、猛る躰を止められないでいた。

「んんっ、んっ、ん」
「いきそうだ…」

熱く潤む遼子の内奥がいつも以上に鷹藤を煽り、そして男の精を求め蠢いていた。

「こっちもだ…」

遼子の口を犯す洸至も終わりが近いようだった。

「遼子、離せ…じゃないと…」

洸至が遼子の肩を掴み引き離そうとするが、その言葉を聞いて、逆に遼子が激しく首を振り、兄を扱き
はじめた。

「だめだ、遼…」

洸至の躰が痙攣した。

「畜生…」

虚脱したあと、洸至は上を向いて溜息を吐いた。
妹の唇で洸至が果てるのを見て、鷹藤の中でも何かが決壊した。
最後に遼子の尻に激しく腰を打ち付けると、鷹藤も遼子の中に精を放った。


興奮のあと、肩で息をしながら鷹藤と洸至が遼子を見下ろしていた。

「ねえ…もっと…」

薄く眼を開いた遼子が鷹藤と兄に手を伸ばす。
ベッドにしどけなく横たわる遼子の口元と亀裂からは白濁した液が垂れ落ちていた。
男二人の精を吸いあげた後も、遼子の躰の火照りは収まらぬようだった。

「どうなってんだよ…」
「薬が持続している間は、狂ったように男が欲しくなるんだよ。あと2,3時間は続くな」
「ねえ…3人でしようよ…。もっと楽しくって、仲良くなれる方法があるじゃない…」

半身を起し、遼子が二人を誘う。

「さっきは鷹藤くんがこっちだったから…今度はお兄ちゃんをこっちに頂戴」

遼子が洸至を抱き寄せる。

「遼子、駄目だ」

洸至の口ばかりの抵抗を見透かすように遼子が洸至を押し倒す。

「お前が後で苦しむのを見たくない。だから止めよう」
「ここまで来て、逃げるの?お兄ちゃんらしくないよ」

洸至自身が鎌首をもたげ、天を指す程になっているのを見て遼子が笑みを浮かべた。

「もう今更怖いことなんかないよ」

洸至の上に遼子が跨ると洸至自身に遼子の亀裂を擦りつけた。

「んんっ、やっぱり大きい…。お兄ちゃん、これでも私が欲しくないの?」
「欲しくない訳ないだろ…」

哀しげな笑みを浮かべた洸至が、遼子の腰を掴む。

「…ずっと欲しかったよ。お前が。お前だけが」
「じゃあ、来て…」

見つめ合いながら、洸至が遼子の中に自身をゆっくりと沈めていく。
兄を根元まで咥えこむと、遼子が満足げに息を吐いた。
乳房を晒すようにのけぞりながら、腰を動かし始める。

「ああっ…いっぱい入っているよ…」

兄妹が繋がったところから、鷹藤の樹液と遼子の蜜が入り混ざり合ったものが流れ落ちる。

「きゃっ…んんっ…ねえ、後ろに頂戴…鷹藤君…前にしたよね、こっちで」

遼子が抜き差ししながら鷹藤を求めた。遼子の求めることは明らかだった。
勢いで過去に数度だけした事を求めていた。

「そっちも開発済みとはね…」

遼子の下で腰を動かす洸至の眉間には深い皺が刻まれていた。
鷹藤が洸至のその表情に怯んだ時、遼子が悦楽の声を上げた。

「お兄ちゃんの…すごい…いいっ…奥に当たるの…やんっ、あんっ」

男二人の間にあった剣呑な空気が霧散する。また鷹藤と洸至はまた肉の欲望へと心を囚われていった。

「お前だってすごく締まってるよ…」
「すごくいい…兄妹だっていいじゃない、気持ち良ければそれで…」

洸至が先ほど精を放った遼子の唇に口づけした。口に残る白濁した液を舌で絡めあい吸い合う。
洸至は腰を動かしながら、妹の胸を揉んだ。
血を分けた兄妹が快楽に汗を浮かべ、躰を貪り合っていた。

おぞましくも恐ろしい位淫靡な光景だった。普段自分との行為の時ここまでの熱を遼子が発したことはなかった。
その光景を見た鷹藤の胸の奥が嫉妬に疼きながらも、腰のあたりは熱を持ち、痛いほど張りつめていた。
太ももまで垂れた遼子の蜜を指に取ると、恋人の望みを果たす為に遼子の後ろにそれを擦りつけた。

「もうこっちもヒクヒクしてる…そんなにしたいのかよ、あんた」

この部屋にもう禁忌などない。
禁忌を恐れる心など、鷹藤と洸至は捨てていた。脳髄を爛れさせる程の悦楽を前に、残るのはほんの少し
ばかりの罪悪感のみ。
遼子の心を置き去りにして、踏みにじることへの罪悪感。

―――もしかしたら、この罪悪感すら快感の一部にしてるのかもな。

そう思いながら、鷹藤は遼子のすぼまりへ指をねじ込んでいく。
汗を浮かべた背をのけぞらせながら、遼子が今度は鷹藤の唇を求めた。
洸至の視線を感じながら、鷹藤は遼子の唇を舌で犯す。
薬のせいか遼子の後ろのすぼまりも、すぐに鷹藤を受けいれられるほどほぐれていた。

「欲しい?」
「いっぱい欲しい…」

洸至の胸に遼子の躰を預けさせ、鷹藤をそこに沈めていく。

「あ、ああああっ…」

悲鳴にも似た嬌声を遼子があげた。
鷹藤がゆっくりと抜き差しをはじめると、肉の壁一枚向こうで洸至のものが肉を擦るのを感じた。
流れる汗は、鷹藤のものなのか遼子の汗なのか、それとも洸至の汗なのか判然としないほど3人はもつれ絡みあっていた。

「きゃああっ、壊れちゃう…すごいの…いっぱいですごいの…」
「これが欲しかったんだろ」

遼子の耳を鷹藤が舌で弄ぶ。

「鷹藤君…お兄ちゃん…もっと、お願い…」

こめかみから汗を滴らせながら、遼子が切なげに懇願する。

「滅茶苦茶にしてやるよ」

そう言うと、洸至が猛然と腰を使い始めた。
それに合わせて、鷹藤も後ろを責め立てる。
男二人に貫かれ、髪を振り乱し涎を垂らしながら遼子が悶え続けていた。

「最高だろ。これでいいんだろ。男二人にやられて」

3人の躰は溶け合うほど重なり合うのに、その中心に居るはずの遼子の心はここに無い。
心がここに無いからこそこんな行為が出来ていた。俺たちはまるで獣だ。快楽だけを貪る獣。

「や、うん…好き…ああっん…こうされるの好き…それに二人とも好きだから…」

その言葉に羞恥で鷹藤の耳が熱を持った。
遼子の首筋に額を擦りつけ、目を瞑る。

「あんたの躰でこんなことしてる俺達にそんなこと言うなって」

鷹藤の殊勝な言葉を聞かせたくなかったのか、洸至が遼子の頭を抱き、突きあげるリズムを上げた。
それで遼子の快楽の度合いが上がったのが、鷹藤を締め付ける強さでわかる。

「ああっ、やああっ、いく、いくのお、いっちゃうっ!!!!」
「一緒にいってやる、一緒にいこう遼子」

洸至が遼子と唇を重ねた。もう遼子に舌を絡め合わせる力は残っていないようだった。
兄のなすがままになり、舌を吸われていた。

「んんっ、あんっ、きゃあああああああっ」

唇を離し、遼子がのけぞった。

「中に出してやるから」

洸至が妹の耳元で囁く。
鷹藤も強く抜き差しし打ち付けた。

「駄目…もう駄目…いくっ」

遼子の背が硬直していく。

「そんなに締めるなって、こっちもいきそうだ」

締めつけられ、射精感を堪える鷹藤の額の汗が遼子の背に滴り落ちた。

「きゃああああん、いく、いっちゃう!」
「…っ。こっちもだ」

洸至が内腿を震わせ遼子の中に精を放つ。
遼子はその時既に意識を手放し、洸至の上に倒れ込んでいた。
限界が訪れた鷹藤が遼子の中に全てを放つと、汗にまみれた恋人の背中に躰を預けた。



遼子の枕元にある椅子に座る鷹藤の横に立って、洸至が輸液の滴下速度を調節した。
ベッドのそばに置いたコートハンガーを点滴スタンドの代わりにして、遼子に点滴をしている。
あのあと鷹藤が汗と精液に塗れた躰を拭いたのもあって、安らかな表情で静かな寝息を立てる遼子からは、
憑かれたように男を求めたあの狂態の名残など微塵も感じられない。

「これをひと袋点滴すれば、たぶん大丈夫だろう」

鷹藤が洸至に探るような視線を送った。

「薬抜き用の点滴だ。医師免許を持っている奴に作らせたものだから安心しろ」

一人の女を奪い合うようにして貪った二人の男は、眠る遼子を見つめながらぎこちない会話を交わした。

「あと2時間くらいで眼を醒ますはずだ。使われた薬からすると、記憶が残っている確率は五分五分だ」

もしさっきの饗宴を遼子が憶えていたら。きっと、自分を責め苛むだろう。
現に今、鷹藤も身を焦がす程の罪悪感に苦しんでいた。
表面上は変わりなく見える洸至も、眼の奥が沈んでいるように見える。

「起きるまでここで待ってるよ。あんたは」
「俺もここにいる。もし遼子が全てを憶えていたら…今度こそ永遠に憎まれるだろうな。兄の俺が
あんな最低なことをしたんだ」

椅子をひきずってベッドの傍に置くと、洸至が座った。

「それがわかってて、起きるのを待ってるのかよ」
「今更逃げたってしょうがないだろ」

洸至が遼子の寝顔を見つめた。

「誘惑に負けたのは俺だ。俺が全部悪いんだよ」

薬で理性を無くしたから、誘惑に負けたから、それだけの理由で血を分けた兄妹があそこまでお互いの躰を
貪れるだろうか。

―――ずっと欲しかったよ、お前が、お前だけが。

洸至の言葉が蘇る。
ずっと心の奥底で息をひそめていた想いがあったからこそ血縁の枷を振り切って、あそこまでの行為に至れた
ように鷹藤には思えた。
愛し合う兄妹の痴態が脳裏を過ぎる。
三人で淫らに躰を重ねた時も、自分は疎外されていたように感じていた。
もしかしたら、想いを秘めていたのは洸至だけではなく、遼子もかもしれない。

…これは鷹藤の単なる妄想だ。確証は無い。

この部屋で起こったことも全てが鷹藤の妄想であって欲しかった。
だが見つめ合い躰を重ねた兄妹の発する熱も、あの行為もすべてが現実だった。
男の欲望を全て叶えたようなあの光景、あの体験は地獄の始まりだった。

遼子が眼を醒ました時、都合良く全てを忘れていたとしても、鷹藤はこの部屋で起こったことを忘れないだろう。
あの時憶えた微かな嫉妬と疑念、遼子を凌辱した罪悪感を身中に抱いたまま、これからの日々を送ることになる。

遼子が全てを憶えていたとしたら、今度は別の地獄か始まる。
身を裂くような自己嫌悪で己を責め苛む遼子の苦しみを傍で見つめ、その痛みを分けあう日々が始まるだろう。

―――あんたは俺にどの地獄をくれるんだ?

鷹藤は答えを求めて遼子を見た。
安らかに眠る遼子は、鷹藤のざわつく心とは対照的に満足げな表情を浮かべていた。

…どっちでもいいか。
次にあんたが眼を醒ました時に、またいつものあんたに戻ってくれればそれでいい。
できれば、この部屋での記憶は夢の中に置き去りにして帰ってきてくれ。
そうすればあんたの心だけでも救われる。
この長い夜の果てに、哀しみを抱えるのは俺だけでいい。
祈るような気持ちで、鷹藤は遼子の眼が再び開くのを待ち続けていた。






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