実践(非エロ)
番外編
鳴海家のリビングで、ジャージ姿でくつろいだ様子の洸至が雑誌をパラパラと見ている。

「お兄ちゃん、シーフードカレー出来たよ〜。これね、鷹藤君がおいしいって言ってたレトルトカレーなの。
熱いうちに食べようよ」

エプロン姿の遼子が兄と自分のカレーを運んでやってきた。

「鷹藤…」

雑誌を見る洸至の瞳の奥が一瞬、昏く澱んだ。

「何か言った?」
「いや」

「もう、お兄ちゃん食事の時くらい本置いてよ…。あっ、それ私の本よ!返して、返してってば〜」

遼子が洸至から雑誌を奪い取ろうとするが、長身の洸至が手を伸ばすと、遼子の手が届くはずもない。
目の前でぴょんぴょん跳ねる遼子を見て、洸至が笑みを浮かべた。

「ここに置いてあったぞ。この雑誌、特集は『美人度アップのセックスのヒミツ』こっちは
『セックスで2週間ダイエット』恋もスリムも両方ゲット」凄いタイトルだな〜。お前こんな本読んでるのか」

遼子に取られないように上に掲げながら、洸至が表紙を読み上げた。

「ち、違うわよ!それは最近の女の子のセックスについての記事を書くための資料であって、
もし彼氏が出来てそういう関係になった時に、なんだコイツ30近いくせになんにも知らないのか、
なんて思われたらどうしようって思って買った訳じゃないんだからね」
「そうか。で、相手いるのか」

遼子はまだ必死に取り返そうとしていたので、兄が自分の顔に探るような視線を注いでいるのに
気付いてないようだった。

「…そうなれたらいいかな、って人はいるけど、そこまではまだまだ…」

それを聞いて洸至の険しくなっていた表情がゆるむ。

「だがなあ遼子、こういうのは知識を増やしておくより、大事なのは実践だぞ。
それにだな、男にとっては何も知らない相手にひとつひとつ教えて、自分の色に染め上げていくのが楽しいんだ。
だから、俺はお前はそのままの方がいいと思うけどな。ほら」

洸至が遼子に雑誌を返す。
そして食卓につくと、いただきます、と言ってからカレーを頬張り始めた。

「そうなんだ…」
「そうだぞ。実践するなら俺が手伝うけどな」
「えっ?」
「このカレーうまいな。鷹藤君に礼を言っておいてくれ」






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