唇の心地よさ
鷹藤俊一×鳴海遼子


「鷹藤君は、夢を見る?」
「はぁ?」

唐突に遼子が鷹藤に問いかける。
せっかく鷹藤の部屋のベッドに並んで腰掛けている…という状況で
甘い雰囲気になってきたのを邪魔されて、鷹藤の口からは思わず間抜けな声が漏れる。

「最近ね、私、夢を見ないの…」
「最近徹夜で張り込み続きだったから、疲れてるだけなんじゃね?」
「ううん、そうじゃない。夢を見ているのかもしれないけど、真っ暗なの。誰もいないの。
ただ闇があるだけ、そこに私一人なの。」

そう言って顔を上げて鷹藤を見つめた遼子の瞳は潤んでいた。

「安心しろって。俺が側にいてやるから。」

目尻にたまる涙をそっと掬い取るように口付ける。

「鷹藤君が…ずっと?」
「あぁ、ずっと。アンタがどこにいたって俺はアンタを見つけ出すよ。」

あれだけ色々な事があったのだ。
今は、鷹藤というパートナーの存在があるとはいえ、遼子が不安になるのも無理は無い。

「夢の中にだって行ってやるよ。」
「鷹藤くん…」

最後の言葉が、言葉になったかもわからないうちに、どちらからともなく、
待ちきれないといった具合に唇を重ねていた。
いつもは優しく、触れて啄ばむような口付けから徐々に深く深く気持ちを重ねてゆくのに、
今日は互いの唇が触れ合った瞬間から激しく、すぐに二人の舌がひとつになって口内を
舞い狂う。
唇を、舌を、聴くに淫らな音が立つほどに激しく吸いあったまま、鷹藤の手は遼子の
服を脱がしていく。

そして離れまいとぴったりと抱き合いながら、二人はベッドへと倒れこんだ。

鷹藤の唇が、遼子の顎から胸、さらに白い太腿にまで達すると、遼子は
その甘い刺激に鼻に抜ける甘い声を漏らし、身体を捩るように右足を引いて
膝を立てる。

いったん、鷹藤の唇がまた上の方に這い、肌へ紅い華を散らし続けている間にも、
両手がせわしなく揉み続けたやわらかな乳房にたどり着く。

「あっ…ん」

片方のやわらかい丘に指を沈め、もう片方には吸い音を立てて食らいつき、
紅く尖った先端を味わうように舌で転がして時に歯を軽く立てると、
遼子の細く白い喉が震えてのけ反る。

乳房の柔らかさを丹念に味わいつつも、その間に鷹藤の左手は下がり、
太腿を撫でつつ、その愛撫が休まる事はなく時折、遼子の秘所に指先が触れる。
遼子が一番感じるところを攻め過ぎずに焦らすその動きは、確信的だった。

「んっ…あっ…ふっ…」

そのたびに、遼子の喉からは声が細く漏れる。

鷹藤がさらに遼子の中に指を潜ませると、遼子は無意識のうちに腰を浮かせ、
さらに奥深く鷹藤の指を咥え込む。

「遼子…」

熱に浮かされるように名を呼び、鷹藤が襞に触れた指を激しく動かすたびに、
遼子の身体はぴくぴくと振るえ反り返る。

「やっ…あっ…あっ…」

鷹藤の動きに素直に上がる遼子の声に、鷹藤もまた昂ぶって耐え切れなくなり、
遼子の脚の付け根の間に顔を埋め、まだ熟しきる前の果実のようなそこに舌先を当てる。
とろりと最奥から溢れてくる甘い遼子の蜜の勢いは止まらない。

「…いい…いいの…」

鷹藤が、舌先をそこへ深く挿しいれて焦らすように抜き差しすると、遼子は高い声を
あげながら夢中で鷹藤の頭をかき抱き、その脚を鷹藤の身体へ巻きつけてくる。

そして鷹藤が舌を抜いて体勢を起こした時、遼子が鷹藤の腕を不意に引っ張った。

「どうした?」

いつもならその流れのまま鷹藤を迎え入れていた遼子が、鷹藤の事をじっと見上げている。

「鷹藤君も…気持ちよくなって…」

そう告げた遼子の瞳はこれ以上ない程扇情的で、それに鷹藤が見とれている間に、
鷹藤の視界がぐるりと変わった。

急に遼子が半身を起こして身体を回転させて鷹藤を下にすると、仰向けにした鷹藤の脚の方へ顔を運ぶ。
そして、鷹藤の顔の上をまたぐ格好になった。
鷹藤は驚いて訳がわからなかったが、目の前に遼子の秘所が晒されれば理性が弾けとび
また夢中でそれに吸い付き食らいつく。

溺れるがままに味わい始めた途端、急に痺れるような快感が鷹藤の全身を貫いた。
身体を起せぬまま視線だけを前方に投げれば、遼子が鷹藤のものに舌を這わせ、
口に咥えていた。

「りょ…うこ…」
「ぅっ、んっ…ふ…」

そして遼子はその幹の根元に右手を添えると、強弱をつけて揉んでいる。
握り締め、咥えたまま頭を上下に振って、男根に絶えず刺激を送る。

「……う…ぁ…」

たどたどしくも、けれど懸命に鷹藤自身を舌で愛撫し続ける遼子への愛しさと、
その快感が全身を満たし、鷹藤はたまらず精を吐きだしそうになる。

しかし、快楽の渦に飲み込まれつつも、鷹藤は僅かに残った意識で遼子の脚をぐいと押し上げ
体勢を入れ替えると、そのまま昂ぶった己を遼子の秘所へ後背位から一気に突き挿れる。

「あっ――」

一瞬、驚いた遼子の声が漏れた後、それはすぐに絶え間なく奏でられる激しい嬌声に変わった。
腰を高く持ち上げられ、さらに背後から突かれ揺さぶられ、恍惚の表情で喘ぎ続ける言葉は
もう何の意味すら持たない。

「遼子」

愛しい人の、自分を呼ぶ声。
背に腰に、たくましい胸が触れ、掻き抱かれ…
身体の最奥に熱い思いを感じ、同時に遼子は意識を手放した。

「おはよう、遼子」

鷹藤が微笑んで朝の挨拶を投げかければ、遼子もまだ夢現ながら笑顔を作る。

「おはよう、鷹藤君」

その表情の可愛らしさに、鷹藤は思わず腕に乗っていた遼子の頭を
自分の肩へ引き寄せ抱き込むと、少し寝汗の滲んだ額に口付けた。

「すごく、幸せそうな顔で眠ってたぜ」

触れる唇の心地よさに目を閉じながら、遼子はうっとりと呟く。

「うん…すごく幸せな夢を見てた。鷹藤君がいて、編集部のみんながいて、編集長もいて、
史朗ちゃんがいて、美鈴さんの妹さんも、史朗ちゃんのお父さんもいて………お兄ちゃんもいた。」

そう本当に幸せそうな遼子の様子を、鷹藤は目を細めて眺めていた。

しかし、鷹藤は小さく苦笑しながら呟く。

「今、もしアンタの兄さんが生きててココを訪ねてこられたら、間違いなく俺、
殴られるんだろうな…」
「え?お兄ちゃんに?」
「いや、殴られるだけならいいか…それよりきっと…」
「そうかな?お兄ちゃん、鷹藤君の事を弟みたいに思っていたんじゃないのかな。
だから殴ったりしないよ。」

無邪気にそう鷹藤に微笑みかける遼子を眺めながら、鷹藤は

『そういう意味じゃないし、それにそんな人が、あんな風に俺を陥れてくれるんだ。』

とは言えずに、曖昧に笑顔を作るだけだった。






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