お花見
鷹藤俊一×鳴海遼子


鷹藤がすでに暗くなった編集部に入ると、机の上で突っ伏して寝ている遼子の顔を
パソコンのモニターの光が照らしていた。

「おい」

鷹藤は、寝息を立てている遼子の頬に手をかけると、その頬はほんのりと桜色に染まっていた。

「こんな所で寝てると風邪ひくぞ?」

闇に浮かぶ遼子の睫毛の長さや肌の白さに思わず息を呑みながら、声をかける。

「ん・・・」

遼子が擽ったそうに微笑む。

「んん・・・鷹藤・・・くん・・・」

遼子が漏らした自分を呼ぶ寝言の甘い声が、行為をしている時のそれととても似ていて
鷹藤は思わず動揺してしまう。

「遼子?」

二人きりの時しか呼ばない恋人の名前を囁きながら、鷹藤は今度はその頬にキスを落とす。
その唇に伝わる感触は予想外に冷たく、今度は耳でそれを確かめる。
耳に口付けて、舌でゆっくりと側線を撫でると、遼子は眠っていても感じているのか

「んん・・・」

と声を漏らし身を捩る。
遼子の長い髪に指を絡め、そのまま下までおろしていくと、それは一度も
引っかかる事はなく頼りないまでにストンと解ける。

「キレイだ・・・な・・・」

思わず口をついて正直な気持ちを呟いてしまう。
良い香りのする髪に口付けて、今度は本気で起こしにかかる。

「遼子、起きろ」

普段の寝起きは決して良くない遼子だが、さすがにこの体制での眠りは
浅かったのか、ううんとかわいらしい声を出すと、ゆっくりと目を開けた。

「ん・・・アレ??・・・鷹藤・・・くん??」

まだ寝ぼけ眼で鷹藤を見つめる遼子の唇に、鷹藤は自身の唇を押し当てる。
何度か角度を変えて、柔らかな唇を塞ぎ、戯れに歯を立てる。

「んん!」

鷹藤の早急な口付けに驚いた遼子が、思わず身を捩って唇を離す。

「ちょっと、鷹藤君!いきなり何よ!」
「何って・・・目覚めのキス」
「やめてよ、ココ、編集部よ。それに何で鷹藤君がいるのよ。」

少しむくれた様子で上目遣いに鷹藤を見つめながら遼子が問いかける。

「連絡があったんだよ。遠山さんから。」
「史朗ちゃんから?・・・・・・あっ!」

遼子がはっと何かを思い出したような表情に変わる。

「聞いたよ、今日の取材のこと。で、ヤケ酒あおって酔ったアンタを
家まで送ろうとしたら、編集部に寄って原稿仕上げるって言い張って、
強引にタクシーを降りたからって」
「そう・・・」

遼子はそう呟くと、顔を伏せて鷹藤から視線をそらす。

「なんで・・・」
「え?」
「なんで遠山さんに相談するんだよ。オレじゃダメなのか?」
「そんなんじゃ・・・。しろ・・・遠山さんとは偶然会って、それで。」
「言っただろ?アンタの兄さんの代わりに、ずっと俺がアンタの傍に居るから…
守るからって…。だからさ、一人で抱え込むなよ、兄さんの事も。」

鷹藤は遼子の肩に手を置き、恋人の眼を覗きこんだ。

「・・・」

鷹藤の真剣な眼差しと言葉からあふれる優しさに、遼子は胸がいっぱいになる。

「鷹藤君は、やさしすぎるよ。」
「俺が?」
「鷹藤君も事件の被害者なのに、それなのに変わらずやさしくしてくれるから。
だから私、甘えちゃって。ふえ、ふえええ〜ん」

そう言うと、我慢していた涙が堰を切ったように溢れ出す。

鷹藤は、そっと遼子の腰に両手を廻すとやさしく抱き寄せた。

「甘えて欲しいんだよ。」
「でも・・・でも・・・」
「アンタの事が、好きだから。大事だから。それだけじゃダメか?」

鷹藤はそう囁きながら遼子の顔を覗きこむと、そしてそっと口づけをした。

「いいの?」

唇を離した遼子が上目遣いに鷹藤を見つめ返す。
鷹藤は返事の代わりにちゅっと音を立てて唇を吸い、その後に角度を変えながら、
深く遼子に口付けた。

「あ・・・」

鼻に抜ける甘い声が、遼子の喉から耐え切れずに漏れた瞬間には、もうなし崩しに二人は
ソファーへと転がり込んでいた。
弾けとんだ理性と、耐え切れぬ激情の合間に、刹那ゆるく絡んだ視線が最高に甘ったるい。

「鷹藤君、ダメだよ。編集部だよ・・・」
「知ってる。」

鷹藤は短く答えるだけで、手管を留めることは無かった。

遼子の細い手首をしっかりとソファーに縫いとめながら、鷹藤のもう片方の手が、
するりとブラウスをたくし上げてその中に滑り込む。

やわらかく弾力のある双丘のふくらみに触れれば、遼子は小さく身悶え、
熱い息を吐いて、遼子の方から唇を求めてきた。
唇が触れると共に、鷹藤の首に両腕も巻きついてくる。 

しかし、いつもと違う場所、ましてや編集部での行為に遼子自身がまだ戸惑っているのがわかる。
わずかにもれる吐息が震えているのが愛しく、鷹藤は淡く微笑んだ。

「気にするなって、誰も来ないから。」

重なる口づけの合間に、間近で目線を合わせて可笑しそうに鷹藤が耳元で囁けば、
遼子は一瞬動きを止め、やがて物申し気な表情で上目遣いに鷹藤を睨み、小さく頬を膨らませる。

「だって・・・」

拗ねた表情に静かに返す返事も、なおさらに甘い。

鷹藤は、今すぐにでも衝動的に、思いつく限り攻め立ててどうにかしてやりたくなるような、
けれど大切に優しく、包み込んでいつくしんでおきたいような、複雑な気持ちに駆られた。

「鷹藤君?」
「あんまり煽るなよ」

その語尾は、もう一瞬も待ちきれないといった様子のままに、唇が首筋のやわらかい肌に吸い付く音に
まぎれて消える。

首筋に埋められた鷹藤の頭に、遼子は擽ったそうに身をよじった。

「煽るって・・・ん・・・ぁん・・・」

遼子に言葉をみなまで言わせずに、しっとりと湿った肌を生暖かい熱が線を描く様に這う。
執拗なその熱は、鎖骨やぬ根のふくらみを花を散らしながら通り抜け、赤い頂を
水音を立てて湿らせた。
すでに固くなっていたそこに何度も吸い付かれ、その感覚に、遼子の息が徐々に乱れ始める。

場所が場所だけに、周囲を気にして我慢しようとしていても、白い喉を仰け反らせながら
時折艶を含んだ甘い声が遼子から漏れ聞こえるたびに、聴覚を刺激するその音が
昂ぶりを連れてきて、背筋が震える。

鷹藤が、遼子のスカートをたくし上げ、太腿で隠されていた部分を撫でるようにそっと指をのばして
きゅと探れば、そこはすでに濡れてきていた。

「遼子・・・」

そう、甘く名前を呼ばれ、瞼に、頬に、首に、胸に、唇に優しく口付けの雨が降れば
遼子は幸せでどうしようもなくて、泣きたくなる。
いつもはそっけなく自分のことを「アンタ」呼ばわりする鷹藤が、二人が睦び交わる時だけは
熱に浮かされたうわ言の様に遼子の名を呼ぶ。
それが訪れる瞬間が、遼子は好きだった。

鷹藤が遼子の着ているものを全て脱がすと、遼子のほっそりとした白い裸体が暗い空間に
艶やかに浮かび上がる。
鷹藤が、やわらかな膨らみに唇を押し当てて、音を立てながらかわるがわるに吸うと、
遼子は艶を含んで、しなやかに美しく身を反らしてもだえる。

「鷹藤君・・・」

遼子はうっすらと目に涙を浮かべ、やさしく見下ろす鷹藤の首に両手をまわして、
ぎゅっと引き寄せると、涙で潤む目で鷹藤をうっとりと見上げる。

「ん?」
「今日の事、黙っててごめんね。心配してくれてありがとう。・・・大好き。」

とまるで幼子のように、純真に笑った。

「――――っ」

その表情と仕草が堪らず、鷹藤が呼吸さえ奪い、食らいつくように深く唇を重ねれば
そこから先はもう流されていくばかりだった。

貪るような口付けの嵐の中で、ふとした息継ぎの切れ目に、鷹藤に組み敷かれたままの
遼子が、遠慮がちに目を開けてそっと自分を抱く鷹藤の肌に触れようとする。
すると、鷹藤にその手を攫われぎゅっと握ったまま、遼子はソファーへ力任せに押し付けられた。

「・・・見すぎ」
「えっ?」

鷹藤の呟きに、遼子はぱちくりと瞬きをした。
至近距離で瞳を見つめると、何とも言えないはにかんだ表情を浮かべ、遼子の視界を掌で覆った。

「さっきまで場所気にしてたのに、余裕じゃん。」

視界を覆われたまま、耳元で囁かれれば、遼子の背筋がぞくりと仰け反る。

余裕なんて、ない

遼子がそう反論する間もなく、鷹藤の指がスルリと遼子の両足の間に滑り込む。

もうすでに、口付けや愛撫だけで潤っていたそこを、躊躇うことなく鷹藤が探ってみれば、
遼子の唇からは細い喘ぎが次々に漏れた。
さらに、胸を揉みしだかれ、固くなった蕾を捏ねられ、遼子は胸に与えられる刺激に反応することにも
忙しい。
滑らかなロングヘアーを乱し、悶えるように身を捩る遼子をさらに高みに押し上げようと、
鷹藤が、絡み付いてくる壁を縦横無尽に撫でると、遼子の啼く声が高く小刻みになり、その声に
一層余裕がなくなっていった。

「あっ・・・はっ・・・」

遼子が奏でる、溶けそうに甘い歌を聴きながら、それを暫く執拗に続けると、温かい液が
遼子の内部からどんどん溢れ、鷹藤の指を伝う。
そしてそれは遼子の太腿を伝い、しとどにソファーにも溢れていく。

「・・・あっ・・・んんっ・・・鷹藤・・・くん・・・」

遼子は無意識のうちに両膝を立て、そこを攻める指を導くように大きく開き、腰を浮かせていた。
鷹藤の指の動きに合わせて遼子の腰が自然とせつなげに、それに押し当てるかのように
揺れ始める。
その動きに合わせて零れる遼子の声に、鷹藤の意識もどんどんと甘く捕らわれていく。

「――いいか?」

遼子は肩で呼吸をしながら、そっと目を開けて鷹藤に向かって微笑んだ。
遼子の微笑みに、鷹藤も笑みを返すと、深い口付けと共に、遼子の中心に
鷹藤自身をあてがい、押し進めてくる。

はじめはゆっくりと――そして徐々に刻まれ、加速していく律動に、愛し合う水音と
肌が弾けあう音が大きくなっていく。

「あ・・・あぁ・・・」

それと共に、遼子の細かな喘ぎが、耐え切れぬ啼き声へと変わっていった。

交わった部分から激しく揺さぶられ、淫らな音と共に細かな泡が立つ。
そして遼子も鷹藤の腰へ脚を絡め、自らを昂ぶらせようと動いていた。

「・・・くっ」

白くはじけ飛びそうになる意識の中で、遼子が鷹藤を締め付ければ、鷹藤の
喉からも一瞬苦しそうな息が漏れ、反射的に遼子の背を掻き抱いた。
最奥に放たれる熱と共に襲い来る、とてつもない幸せと快感に、遼子は二・三度
身をうち震わせ、そして意識を手放した。

果てた後の静けさの中、電源をつけたままの遼子のパソコンの起動音だけが
編集部の中に響いていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

翌朝、遼子が編集部で記事の続きを書いていると、ハイヒールの足音と共に
編集部のドアが開いた。

「鳴海さん、おはよう」
「あ、おはようございます、美鈴さん」

編集部に響く声に、遼子が肩越しに振り返りながら返事をする。

「ふーん」

美鈴は机に荷物を降ろすと、何か意味ありげな笑みを浮かべつつ、遼子に近づいてきた。

「な・・・何ですか?美鈴さん」

思わず反射的に遼子は後ずさったが、美鈴はお構い無しにぐっと顔を近づけ、
妙に距離をつめられた遼子は、居心地悪げに美鈴をじっと見つめる。
すると、美鈴は、ふっと意味ありげに笑い、昨日、二人が愛し合ったソファーで
いつもの様に寝ている鷹藤に一瞥をくれると、遼子の項をすうっと撫でた。

「ひゃっ!」

項に走った冷たい指の感触に、思わず遼子が叫び声をあげて身を竦める。

「最近は温かくなってきたけど、昨日の夜は、ココは一段と熱かったみたいね。」

その言葉に、遼子は顔を真っ赤にしたまま、空気の足りない魚のように口をパクパクさせる。

「なっ・・・なっ・・・」

そんな遼子の様子にも、まるで何事も無かったように美鈴は会話を続ける。

「何でわかるのかって?何度も言ってるでしょ、あなた達わかりやすすぎるって。それに・・・」

遼子の耳元で、さらに美鈴は吐息まじりに囁く。

「項にキレイに花が咲いてるわよ。こんな所でお花見ができると思わなかったわ。」
「―――っ!!!!」

遼子は項を反射的に押さえ、声にならない叫びを上げ、何も言い返せない。
それを見て美鈴は、「ふふっ」と実に楽しそうに笑みを浮かべる。

「ウソよ」

項を隠すように両手で押さえたまま、隠れるようにうずくまっている遼子に向かって
美鈴は苦笑を漏らす。

「あいかわらずからかい甲斐があるわね、鳴海さん」

遼子の手を項から外させて、腕をひっぱりあげながら美鈴は堪えきれずに笑い出す。

「ひどい!美鈴さん!!」

恨めしそうな瞳で見上げた遼子に、美鈴はしれっとしながら笑い続ける。

「昨日、遠山さんから連絡があったのよ。あなたのことでね。」

美鈴は急に真顔になり、遼子を見つめる。

「えっ・・・」
「多分2人のことだから大丈夫だと思うけど、美鈴君が見守ってやってくれってね。」
「美鈴さん・・・」
「なんで私が遠山さんからあなたたちのお守りを頼まれなきゃいけないのよ!!」

口調は不満そうだが、遼子と鷹藤をかわるがわる見つめる視線はやさしかった。

「ま、やっぱり大丈夫だったみたいね。」
「美鈴さん・・・」

次の瞬間、美鈴は机の上にあった雑誌を遼子の目の前に広げた。

「ところで鳴海さん、この雑誌に載ってた行列のロールケーキ、美味しそうじゃない?」
「えっ?・・・うわぁ!美味しそう!!」
「でしょ?じゃ、今日取材に行く作家さんに持って行きたいから、よろしく」
「へっ?」
「『へっ』じゃないわよ。それで手を打つって言ってるのよ。それとも何?
記者とカメラマンの仕事場での密会記事を書いてほしいの??」
「うう・・・」

遼子には返す言葉もない。

「鷹藤君!起きて!出かけるわよ!!」
「いってらっしゃい。よろしくね♪」

遼子はソファーで寝ている鷹藤を叩き起こすと、まだ状況を飲み込めていない鷹藤を残して
大股で編集部を出て行った。






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