ふたりの木陰
鷹藤俊一×鳴海遼子


郊外での取材を終え、遼子を乗せた鷹藤の車が都心への道を急いでいた。
落ちかけた陽が、助手席の遼子を照らす。その表情は心なしか硬い。

「間に合う?」
「誰が運転してると思うんだよ。楽勝だって」
「だったらいいけど」
「やたら気にするんだな。そんなに大事か?あの坊ちゃん議員」

二世議員の緋山にインタビューしてから、彼に気に入られた遼子はそれから何度か意見交換と称しての食事会
に呼ばれていた。もちろん、そのたびに政界や彼自身の小さいが記事にするには充分なネタを流してもらっている。いいネタ元を掴んだと遼子も内心ほくそ笑んではいるのだが、美鈴の言うとおり、彼は記者としてだけで
はなく、それ以上の存在として遼子を見ているように思える時があった。

「だって、いいネタ提供してくれるし…」

遼子も女として見られるくすぐったさを感じない訳ではない。だが遼子にとって緋山は純粋にネタ元でしかない。
鷹藤もそれをわかっていると思ったのだが。

「特別な相手ってことか。家柄もいいし、顔もいいしな」

今日の鷹藤はやけにつっかかる。

「何よ。取材だって言ってるじゃない」
「ただの取材相手の為に、パックして、高い入浴剤入れた風呂入って普段つけない香水までつけるのかよ。
やりすぎだろ。気がありますって言ってるようなもんじゃねえか」
「気に入ってもらってもっと記事につながるネタをもらうために、相手に気持ち良く話してもらいたいから
いろいろ気を遣ってるだけよ」
「他のインタビューの時こんなことしなかったよな」

鷹藤が、車通りもまばらな側道に車を入れた。
点在する工場の脇をしばらく走ると、人通りの無い工場脇の小道で車を止めた。
工場の無機質さを打ち消す為にか、工場の塀の周りには楡が植えてある。
しかし黄色い葉も落ち裸になった枝を晒し、寒々しく整然と楡の木が並ぶ姿はその通りの寂しさを
強調するだけだった。
そのせいか、その道に人が通る気配など全くない。

「鷹藤くん…どういうつもり」

運転席から鷹藤が遼子を睨む。

「昨日の夜から、ずっとこの男の話ばっかりだぜ、あんた。そんなに楽しみなのか、あの男に会うのが」
「違うわよ、緋山さんと話すといい記事かけることが多いから。それで嬉しくって」
「それだけかよ」
「当たり前でしょ」
「そうか」

鷹藤がエンジンを停めてキーを抜くと、車を降りて歩き出した。
薄暮の中、鷹藤の姿が闇に紛れようとしていた。

「待ってよ!どうしたのよ。早く車に乗って」

鷹藤の元へ走り寄ると遼子が腕を掴んだ。

「ねえ、聞いてるの」

鷹藤が足を止め振り返ると、遼子を抱き寄せいきなり唇を重ねた。

「…鷹藤くん!」

逃れようとする遼子の首の後ろを抑えつけ強引に舌を入れる。

「ん…」

鷹藤が遼子のコートの前をかき分け、その下にあるスカートの裾をまくりあげる。
たくしあげられた裾から冷気と共に鷹藤の手が遼子の太ももを這う。

「どうしたのよいきなり!こんなところで」
「ここじゃいやか」

鷹藤は楡の木に遼子の躰を押しつけた。手の動きは止むことなく、ストッキングの上から遼子の太ももを
撫でまわしている。

「…当たり前じゃない。いつ人が通るかわからないし…これから取材なのよ」
「取材に間に合うように送るよ。だからあんたを抱かせて。ここで」
「…何言ってるのよ」

遼子が眉をひそめて鷹藤を見上げた。

「俺が焼かないとでも思ってたのかよ。嬉しそうな顔して、躰の手入れをして会いに行くあんたを見ててさ」

鷹藤にふざけた素振りなどなかった。ひどく真面目な顔をして遼子の眼を見つめている。

「鷹藤くん、私、浮気なんてしないから…」
「あんたはそんなタイプじゃない。だけど心配なんだよ。莫迦みたいだろ」

鷹藤の唇が、遼子の額を、こめかみを、頬を愛撫する。

「…浮気なんかしないから…んっ」

首筋に唇を落とされた時、遼子の声の質が甘えを帯びたものに変わった。
鷹藤の舌先が遼子の首筋を撫でる。

「大丈夫。人通らないから」

コートの中に鷹藤の冷たい手が入りこんできた。
厚いコートの上からは見えないはずの乳首のありかを、鷹藤の指は正確に憶えているようだった。
セーターの下に手を入れブラの上から過たず乳首を唆す。遼子の発火点を知り尽くした指の動きで翻弄する。
屋外で、しかもこれから仕事だというのに、こんなことをしていて良いわけが無い。
だから太ももを堅く閉じ、鷹藤を拒絶しなければと遼子は思うのだが、意に反してそこから力が抜けていく。

「駄目…恥ずかしい」

自分の口から洩れたのが、拒否の言葉ではなく、行為を受け入れての羞恥の言葉だということにも気付かぬ
程、遼子の意識は淫らに溶けはじめていた。
守りを解いた遼子の太ももの間に鷹藤が掌を入れた。
鷹藤の手がストッキングの上から太ももを撫でる。指先が触れるか触れないかの愛撫。太ももの中ほどで
往復する鷹藤の指がもどかしくて、愛撫を求めるように遼子は自ら脚を開き鷹藤の腰に絡めていた。

「すぐ欲しいの?」

ストッキングの下に鷹藤が手を入れた。
遼子の下着の上から茂みを撫でる。中指が下着のクロッチに触れた。

「湿ってる…」

鷹藤の指が下着の中に入りこんだ。茂みの奥に指が触れる。

「きゃっ」
「早く終わらせて、あの男に会いたいんだ」
「違う…」
「じゃあ外でこういうことされるのが嬉しくって濡れてんの」
「…そんなわけないじゃない」
「あっそ」

鷹藤の口調が冷たくて、遼子は思わず泣きそうになった。

「鷹藤君だから。鷹藤君が好きだから…だからこんなところでもできるの」

唇を震わせ、遼子が切なげに鷹藤を見上げた。

「わかる…?ここで、こんなことされてもいいくらい好きなの…浮気なんてできるわけないじゃない」

遼子を見つめ返す鷹藤の瞳が揺れた。

「ごめん…。俺も…あんたが好きだ…。本当にごめん」

遼子の眼の端に盛り上がった涙を鷹藤が唇で受ける。
それから恋人に唇を重ねる。温かな舌が、満足げに遼子の口内を蠢きまわる。
愛しさを乗せて、二人は舌を絡め合わせた。
舌を絡ませながら、鷹藤が指二本を遼子の中に差し込む。

「あっ…」

待ちかねた感触に遼子が思わず声を漏らす。

「声出すとさすがに誰か通った時気付かれるから。声出さないで」

遼子を犯すように指を下から突き上げる。

「ふっ…んっ」

切なげに眉をひそめ、唇を噛む遼子の顔を鷹藤が見つめながら、指で昂ぶらせていく。

「足、上げて。そしたらもっとよくなるから」

遼子が片脚の太ももを上げると、鷹藤の指がつくポイントが変わった。
遼子の中のざらつく天井を掻き乱す。

「あっ、そこ駄目…」

片足を上げ、快楽のポイントを突かれた遼子が喉を震わせながら言う。

「声、出さないで」
「でも…あんっ…」

コートの下から水の跳ねる音が響く。

「すごく感じてるだろ」

花芯に親指の腹が当たる様にしながら、鷹藤が指を叩きつけ続ける。

「はぁっ…あんっ…」

躰に火をつけられ、間断のない喘ぎ声しか遼子は紡げなくなっていた。
声を堪える為鷹藤のジャケットの襟を遼子が噛んだ。

「んんっ…」
「いやらしいな、あんたのあそこが、涎たらして欲しがっているよ」
「お願い…もう駄目…入れて…お願い」

腰を震わせ、鷹藤の首を強く抱きながら遼子が溺れるように喘いだ。
鷹藤が遼子を後ろ向きにすると、木を抱くようにして立たせ、腰を後ろに突きださせる。
それからストッキングとショーツを一気にずり下げ、既に漲っていた自身をあてがった。

「あ…んっ」

遼子を木に押し付け、下から上へとねじ込むようにして自身を埋めていった。

「は…ぁぁあぁ…」

二人の躰の合わせ目から水音がたつ。

「すごい音…いつもよりすげえ濡れてる」

湿り気のある音が木立の中で響く。

「音だけでやってることばれちまうよ」
「いやっ…」

太ももを濡らしながら、遼子の蜜が這うようにして脚を伝わり落ちていく。
鷹藤の靴が楡の枯れ葉を踏み荒らす音と、遼子の潤んだ花を捏ねる音が並木道の静寂を破る。

「いく…いっちゃう…いや…やぁっ」

足元がぐらつき、眼も眩むような快楽に襲われ、遼子の躰から力が抜けそうになる。
崩れ落ちそうな躰を支えるために、遼子は顔を木に顔を押し付け幹を強く抱いた。

「あんたの中に出すぞ」
「あ…駄目…取材なのに」

鷹藤が遼子の理性を揺らす程強く抜き差ししはじめた。鷹藤自身が遼子の中でさらに膨張する。

「…っ。じゃあ服に出していいか」

鷹藤が荒い息を遼子の耳にかけながら囁く。

「駄目…あ…もうっ…欲しい…欲しいの鷹藤くん…!全部ちょうだい」

「ああ」

更に激しい音を立て、鷹藤自身が遼子の肉の中で暴れた。
ここがどこであろうともうどうでもよかった。遼子の意識は悦楽の中に溶けていく。

「もう…いく…いくぅっ」

遼子がそう喘いだ時、中で鷹藤が弾けたのを感じた。
遼子の背後から鷹藤が唇を寄せた。遼子も快楽の中、名残りを惜しむように舌を自ら絡めていった。

鷹藤の運転で都心に戻った二人は手をつなぎ歩いていた。
つなぎ合わせた手から伝わる温もりは、先ほどの屋外での行為の余韻と、胸に充ちる相手への愛しさを呼び
起こす。

「今日はここなの」

見上げると首が痛くなるほどの高層ビル。その上階を占める外資系高級ホテルの中にある中華料理店が今日の
食事会の場所だった。

「…大丈夫だからね。浮気なんて」
「わかってるって」

鷹藤が照れくさそうに言う。

「あんなことして悪かった」
「わたし、もう行くね。終わったらすぐ帰るから、部屋で待ってて。鷹藤くんあのね、
…わたし…さっきのあれ、そんなに嫌いじゃないかも…」

遼子が恥ずかしそうにそう言うと、つなぎ合わせた手を解いて歩きだした。

「へ…えええええ!?」

茫然と立ち尽くす鷹藤を尻目に微笑すると、遼子はホテルの回転ドアをくぐった。






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