リハビリ
鷹藤俊一×鳴海遼子


遼子は明日の取材対象の写真を見た。
写真の中には歯並びのよい白い歯を光らせ、爽やかに笑う青年が映っていた。
写真越しでもわかるほど仕立てのいい上品なスーツの胸元には議員バッチが光る。
イケメンにして有名代議士の2世、つまり容貌も血筋も申し分なく、順風の人生を約束された男だった。
家柄とその容貌もあって世間の関心は高く、プライベートを窺いしれるようなインタビューをすれば部数を稼げる
こと間違いないはずなのだが、週刊誌の取材を受けないことで有名でインタビューは全て親の代から懇意に
している大手新聞のみ。

ガードの堅い相手の取材申し込みに、週刊誌として初めて美鈴が成功した。
過去に垂らしこんだ男か、そのために新しく垂らしこんだ男かはわからないが、とにかくそういった人脈を
フル活用したらしい。
取材には政治経済専門の城之内を伴って行くと思われたが、何故か美鈴は遼子を指名した。
それで遼子は明日の資料を読みこんでいたのだが、美鈴は一向に資料を読む素振りすら見せず、先ほどから
遼子の向いの席でずっと忙しそうに携帯でメールをしている。

「ねえ、美鈴さん、この人が最近政治理論専門誌に出した論文のことなんだけど」
「鳴海さんが読んでおいてくれる?」

携帯から目を上げ、美鈴が遼子を見てニコッと笑った。

「いいけど…」
「じゃ、そっちは鳴海さんに任せるわ。あとね、言いにくいんだけど…。明日の取材、ミニのスーツで着て
くれないかしら?」
「わたしが?ミニ…?」
「そういうのが好きな人なんだって。いい記事を書くなら、サービスも大事でしょ?明日の為にスキンケアも
よろしくね。グッズが無ければわたしがあげるから。インタビューされる方だって、綺麗な人にされたいでしょ」

単なる政治家へのインタビューというよりは、美鈴の中に少し違う思惑があるような気がした。
…例えば玉の輿とか。それは遼子の考え過ぎだろうか。

「そんなこと…。わたしは真正面から切りこむわよ」
「堅いことばっかり言ってたら、大事なものを取り逃がすかもしれないわよ。ただ媚びるのなら馬鹿だけど、
計算上の媚は女の武器よ。鳴海さんももうちょっとその辺ちゃんとしないと。媚もない堅い女なんてすぐ飽き
られちゃうんだから。…そういえば鷹藤くんの今日の取材相手、AV出身の風俗嬢だったかしら。鷹藤君、
その女優のファンって言っていたような気がするわ」

今日は鷹藤は遼子とではなく、終日中原と組んで、AV引退後に風俗で働いている元女優たちの取材に行って
いた。
美鈴が身を乗り出して、声を潜めて言った。

「中原さんって、女の子から話を引き出すのが上手なの。それで取材のあと意気投合して飲みに行くことも多いのよ。
それにつきあっていたら鷹藤君だってきっと…。しかも昔ファンだったかわいい女の子が傍に居れば」
「た、鷹藤君はそんなタイプじゃないし、わたしのこと大事にしてくれているし。わたしだって…」
「でもね、そう思うんならファッションなり態度なりで鳴海さんが鷹藤くんに示さないと、いつか誰かに
とられちゃうわよ。ま、わたしのことじゃないからいいんだけど」

「鷹藤くんがそんなにモテるわけないじゃない」

その時、遼子の携帯が震えた。鷹藤からのメールだ。

『中原さんに連れられて、取材相手の子たちと飲みに行くことになった。帰り少し遅くなる』

文面を見た遼子が不安そうな顔をした時、美鈴の猫の様な眼が光った。

「鳴海さんがそう思ってるだけだったりして。意外とかっこいいわよ、鷹藤君。彼女だって胡坐かいていると
危ないかもね。…で、鷹藤くんも男だし、今日は浮気しなくても今後何があるかわからないわよ。
浮気防止の為に今夜はあなたが頑張ってみたら?」


遼子が鷹藤のマンションに着いた時、部屋に灯りはついていなかった。部屋の主はまだ帰っていないようだ。
埠頭での事件のあと、まだ心配だから、と鷹藤は遼子にしばらく自分の家に身を寄せるように言った。
それ以来3週間ばかり半同棲状態が続いている。
いつものように合い鍵で部屋に入ると、明日に備えて遼子は美鈴お勧めの入浴剤を入れた風呂につかり、美鈴
からもらったパックをした。
普段はドラッグストアで買う、ゆずの香りつきのグリーンの入浴剤しか使わないが、美鈴からもらった入浴剤
は薔薇と、名前はわからないが数種類の花の香りがした。甘くはないが心落ち着かせるいい香りだった。
風呂上がりの躰をバスタオルに包んで、部屋に置いてあるスタンドミラーで肌の調子を見る。
パックや高価そうな入浴剤のおかげで肌の調子も良くなった気がする。

―――ここまでしてくれた美鈴さんには悪いけど、やっぱり明日はいつもの服装で行こう。ジャーナリストは
胸の谷間で仕事する訳じゃないんだから。

胸の谷間…。
バスタオルの下にある自分の胸をのぞきこんだ。ほどほどの膨らみの間に、ささやかな谷間がある。
編集部でこっそりのぞいた、今日の中原と鷹藤の取材相手の資料にはFカップとあった。
『おっぱいをつかったローションプレイで人気』とも書かれていた。
体験記事ではないから、そのAV女優とプレイするはずはない。でも、その後の飲み会で盛り上がって…。
中原さんがいい感じで場を盛り上げて、そうこうしているうちに鷹藤君とその女優さんが隣になって。
鷹藤君だって若いし、顔だって悪くない…というか、精悍でワイルドでちょっと悪そうに見えるけど、眼元は
とても優しげだし。

…そんな鷹藤君を女の子の方が放っておかなかったら?

鷹藤君の手を取って、ラブホテルに連れて行って…。

『ビデオ見ててくれたの?ずっとファンだったの?ありがとう、特別にサービスしてあげる』

彼女がローションを胸の谷間につけて、そして…。

鷹藤の家に身を寄せ始めて3週間以上経っているが、実はあの事件から一度も男女の関係はない。
もちろんあの事件で怪我をした鷹藤の腕がしばらく固定されていて、それどころではなかったのもある。
それと、あの事件で凌辱されかかった遼子が抱えた恐怖心を思ってか、鷹藤もあれ以来遼子を求めてこない
せいもあった。
付き合い始めてからもっとも長い御無沙汰期間が二人の間に到来していた。

―――浮気防止のために、今夜はあなたが頑張ってみたら。
美鈴の言葉が耳に蘇る。
だけど、もう鷹藤くんが浮気した後だったら…。
鷹藤君を取り返すには…。そのためには。

「で、でもわたし、ローションつけておっぱいプレイなんて無理〜!」

遼子が胸の谷間を見ながら呻いていた時だった。

「あんた何してんの。ローションって?」

鷹藤が玄関の靴脱ぎに立って、半裸の遼子を見ていた。

「た、鷹藤君こそ何してんのよ!」
「…自分の部屋に帰ってきて何で怒られるんだよ」

鷹藤が不満そうに言いながら靴を脱いだ。

「いい匂いするんだけど。あ、あんたの新しい入浴剤の匂いか。じゃ、俺も風呂入るかな…」
「ちょ、ちょっと待ってよ。帰ってきてすぐお風呂って不自然じゃない」
「はあ?」

ジャケットを脱ぎながら、鷹藤が首を傾げた。

「他の女の人と飲んできて、それで盛り上がってホテル行ったから、証拠隠滅のためにすぐお風呂に入って
シャンプーの匂いの違いとか誤魔化そうっていうのね」
「なんだよそれ。もしかして俺の浮気疑ってんの?」

鷹藤が怪訝そうな顔をしながら、遼子の傍にやってきた。

「だ、だっていつもこんなに遅い時間にならないし、ずっとファンだった女優さんと一緒だったら」
「んなわけねえだろうが。中原さんに連れられて2次会まで行かされたけど、ずっと普通に話してただけだって」

鷹藤が語気を強めて言った。

「でも、きれいな女の人の隣で飲んでたんでしょ。中原さんの女の子連れの飲み会は盛り上がるって美鈴さんが」
「…たまに離れて仕事してみると面白いもんだな。あんたもしかして俺の取材相手に焼いてる?」

バスタオルを巻いた遼子の腰に鷹藤が両手を廻し抱き寄せた。
そこに怒りはなく、心なしか嬉しそうな顔で遼子の顔を覗きこんでいる。

「焼いてなんか…」
「こんなにいい匂いさせて…。今日のあんたすごくきれいに見えるよ」
「誤魔化さないで」
「これ以上、説明することなんかないって。俺はただ飲んでいただけなんだから。言葉で説明してもわからなさ
そうなら、どうすればあんたはわかってくれるんだよ?」

外から帰って来たばかりの鷹藤の冷たい手が遼子の頬を包み、そしてそっと口づけをした。

「これでどう?」

鷹藤が勝利を確信したかのように微笑む。
すぐに離された鷹藤のやわらかく冷たい唇が恋しくて、背伸びをすると今度は遼子から口づけた。
この感触を、鷹藤の温もりを誰にも取られたくなくて、鷹藤の首をきつく抱いて唇を押し付ける。

「もっと…」

かき抱いた鷹藤の耳元で遼子は囁いた。

「…いいよ。あんたが厭っていうまでわからせてやるからさ」

また唇が重なる。久しぶりの鷹藤の舌の感触だった。想いを分けあうような深い口づけをゆっくりとしながら、
鷹藤が遼子の冷たくなりかけた肌を指先で撫でる。それだけで遼子の吐息が熱くなる。
鷹藤が遼子をベッドに横たえると、バスタオルの端を手に取り、そっとそれを開いた。
遼子の肌がまとった、美鈴の入浴剤の香りが部屋じゅうに広がる。
鷹藤の両手がゆっくりと遼子の躰のラインを下から上へ辿る。

「俺の手、冷たい?」
「大丈夫…」

鷹藤の掌が遼子の柔らかな乳房をつつむとゆっくりと揉み始めた。

「たった何週間かしてなかっただけなのに、俺、すげえ緊張してる」

鷹藤が照れたように笑う。鷹藤の指が冷たいのは緊張のせいもあるのか。
お互い見つめ合って、くすりと笑った。

「童貞の気分だよ、まるで」

外気にさらされ冷えた遼子の乳房の先を鷹藤の唇が捉えた。
冷たい唇に対して、温かな口内が遼子の蕾を包み、柔らかく濡れた舌先が先端を撫でた。

「んっ…」

甘美な疼きが遼子の胸の奥に広がる。愛しさと快楽とが混ざり合い、吐息になって遼子の唇から漏れた。
鷹藤の唇が触れていない方は、冷たい手が揉みながら、親指で乳房の先をそそのかし続けている。

「あ…」

吐息から小さな声へ。遼子の唇から紡がれる音が変わる。
遼子が鷹藤の肩をぎゅっと掴んだ。

「感じてる…?」

鷹藤が耳たぶに息がかかるほどの近さで囁く

「久しぶりだから…すごく…感じちゃうの…」

鷹藤の唇を乞うように遼子が顔を寄せた。鷹藤もそれに応えてすぐに唇を重ねる。
舌を絡ませながら、鷹藤の手が遼子の臍から下へと伸びていく。
鷹藤の指が早く欲しくて、遼子は鷹藤を急かすように激しく口づけていた。
待ちかねた感触が遼子のそこに訪れた。心地よさに遼子の息が思わず止まる。
鷹藤が中指で楽器を弾くように濡れた泉を叩くと、溢れた蜜がはしたない音を立てた。

「びしょびしょだよ、あんたのここ」

鷹藤が意地悪く微笑む。

すぐに鷹藤の指が遼子の中に潜り込んできた。

「ああぁ…」

熱く潤む遼子の襞の奥まで指を入れると、音を立てながら抜き差しし始めた。

「聞える?あんたすごい音出してる」

鷹藤は遼子のどこを突けば蕩けるか知り尽くした指の動きで遼子を翻弄する。

「いやっ」

濡れた音が部屋中に響く。遼子が否定しても、己の秘所が立てる音が全てを証明していた。

「もっとほしいだろ」

激しく指を叩きつけながら、乳房へ、鳩尾へ、臍へ、腰骨へ、鷹藤の唇が遼子の躰を旅していく。
その旅の終点―――唇が遼子のクリトリスに触れた。

「きゃああああんっ」

熱い唇が激しく吸い始めると、遼子の頭の中が一瞬白熱する。

抜き差しされる指と、鷹藤の唇がもたらすあまりの快楽から逃れるように遼子の腰が浮いた。
それでも、鷹藤の唇も指も遼子を責めることを止めない。

「いやっ、ああん…」

鷹藤が少しずつ角度を変えながら指をねじ込む。
抜き差しされるたびに、泡を立てて蜜が飛び散った。

「いい、いく…あんっ」

鷹藤の指が襞の奥を擦り、快楽を引き起こしていく。
花芯に吸いつく唇が、遼子を快楽の果てに追い込んでいく。
腰のあたりにある鷹藤の頭を遼子が抱いた。

「駄目、ああっ、鷹藤くっ…」

あとは言葉にならなかった。
花芯をひときわ強く吸われた時、遼子の躰に痺れるような快楽が走った。
遼子が細く締まった太ももを震わせると、汗で光る白い喉を晒し崩れ落ちた。


達して麻痺したようになった遼子を見下ろしながら、鷹藤が服を脱ぎ始めた。

「明日も仕事だけど…今日はそう簡単に終われなさそうだな、お互い」

情欲に塗れた行為をしているはずなのに、鷹藤の笑顔には少年のような純真さがあった。
それを見た遼子の胸の奥が切ない音を立てた。
気だるい躰を遼子が起すと、屹立した鷹藤自身へ手を伸ばす。
躰が、心が、芯から鷹藤を求めていた。

「今度は私が気持ち良くしてあげるね…」

鷹藤の少し濡れた亀頭を口に含む。
ちゅぷっ…と音を立てて吸いたてると、鷹藤が息を呑んだ。
そこはほんのり潮の味がした。
遼子が唇を大胆に開くと、喉の奥まで鷹藤自身を受け入れる。首を振りながら、ゆっくりとすぼめた唇で扱く。
裏筋をじっくりと舐めあげ、亀頭の先の柔らかな部分を舌で弄ぶ。
鷹藤の快楽に同調するように、遼子も腰を揺らしていた。
血管が浮き出るほど猛る鷹藤自身を舌で、唇でやさしく宥めるように愛撫しつづける遼子の頬を鷹藤の手が包む。
その手はもう冷えていなかった。

「ふっ…」

遼子の肩に置かれたもう片方の鷹藤の手に力がこめられる。
遼子が唇を離し、鷹藤を見上げた。

「気持ちいい…?」
「ああ、しばらくぶりのせいかな、今日のあんたはすごいよ」
「鷹藤君に喜んで欲しいの…だから」

遼子が身を起すと、乳房で鷹藤自身を挟んだ。

「えっ?あっ…あんた、これって」
「は、恥ずかしいから見ないでっ」

先ほどまで眉をひそめ腰を振りながら男のものを咥えていたくせに、いきなり恥じらう遼子に鷹藤が噴き出した。

「見ないでって、こういうのは見て楽しむものだし」
「じゃ、じゃあ黙ってよ!一生懸命やるんだから!」

顔だけではなく、全身も桃色に染めながら遼子が柔らかな乳房で鷹藤を包む。

「んっ…」

唇とも、遼子の内奥とも違う快美感に堪え切れず、鷹藤が歯と歯の間から吐息ともつかない呻きを漏らした。

「だから黙ってってば!」

胸を寄せ、挟みながら乳房で鷹藤を扱きあげる。だが遼子が想像したよりも滑りが良くない。
もっと、もっと鷹藤君を気持ちよくさせたいのに…。

「ああ、やっぱりローションが無いと駄目なのかな…」

眉をひそめ遼子が哀しげにつぶやいた時だった。

「ローションの代わりならたくさんあるだろ」
「きゃっ」

鷹藤が遼子の股の間に手を入れると、後ろのすぼまりから亀裂、花芯を押しつぶすようにして手を滑らせた。
鷹藤の掌が遼子の蜜でねっとりと濡れる。その蜜を鷹藤は遼子の乳房の間に塗りたくった。

「天然のローション。続き…してくれる?」
「うん…」

蜜で潤い、滑りの良くなった胸の谷間で再び遼子が鷹藤を包んだ。
ぬぷ、ぬぷ…乳房を濡らす蜜の淫らな音と、乳房の間から顔を出した鷹藤の亀頭を咥える遼子の唇の音が部屋に
響く。

「…っ、…すごい眺め」

遼子の胸の谷間で鷹藤の先走りと遼子の蜜が絡みあう。
そこから立つ雄と雌の匂いと、入浴剤の乾いた花のような残り香が混ざり合い鷹藤の脳髄を甘く痺れさせた。

「言わないで…」

遼子の耳が桃色を通り越して赤くなる。
女が恥じらいながら、淫らな行為に耽る様がいかに男の欲望をかきたてているか気付かぬまま、遼子は必死に
鷹藤を扱く。

「駄目だもう…」

男の本能を刺激する香と光景に酔い、陶然とした声で鷹藤が言った。

「駄目…?」
「我慢できないってこと」

鷹藤が遼子を押し倒した。ベッドに横たわる遼子の上に鷹藤が躰を重ねる。
鷹藤が腰のものを遼子の脚の付け根にすりつけた。

「あんたもこれ、欲しいだろ?」
「うん…」

鷹藤が遼子の脚を開いた。鷹藤自身を胸で扱いていた時にもずっと溢れ続けていた蜜が、太ももから膝の
あたりまで濡らし、遼子の足をぬめぬめと光らせていた。
その中央で桃色の襞が鷹藤を誘うように微かに開く。
そこにあてがうと、鷹藤はゆっくりと自身を沈め始めた。

「や…あっ、いいっ…」

柔肉を押し開きながら、鷹藤の熱が遼子を埋めていく。

「あんたのなか、すごく熱い…」

遼子の太ももの付け根と、鷹藤の腰が隙間なく密着した。

「ねえ…鷹藤君…」

遼子の手が鷹藤の顔を引き寄せると、二人は唇を重ねた。
離れがたい思いを示すように、熱を分けあいながら舌を絡める。

「少し…動かないで…」

せつなそうに瞼を震わせながら遼子が囁く。

「ああ」
「お願い、抱きしめて…離さないで」

繋がったまま鷹藤が遼子を抱きしめた。遼子の腕が蔦のように鷹藤の首に絡む。

「大丈夫…遼子のこと絶対に離したりしないから」

夢から醒めたような顔で遼子が鷹藤を見た。

「りょ、りょうこ…って」
「あんたの兄さんの代わりに、ずっと俺があんたの傍に居るから…守るから…。だから俺の腕の中だけでも
遼子って呼ばせてくれよ」
「すごく恥ずかしいんだけど…」

鷹藤の首を抱いて、遼子が赤くなった顔を見られまいとするが、逆に真紅に染まった耳たぶをさらけ出した
だけだ。

「ここまでやっといて今更?」

これ以上無い位太ももを開き、自分の最奥まで鷹藤を受け入れておいてなお恥じらう遼子の耳たぶを鷹藤が
甘く噛んだ。

「きゃんっ…だって…」
「俺じゃ兄さんの代わりになれない?」

深みのある黒い瞳が愛おしげに遼子を見ていた。

「そんなことないよ…。代わりじゃなくていい。鷹藤くんがいい…。鷹藤君お願い…ずっと傍に居てね」
「離れないって…ずっと遼子の傍に居る」

鷹藤が腕の中の遼子の髪を梳いて恋人の顔を露わにすると、また口づけた。

「ねえ…相談なんだけどさ」
「なに…」
「動いていいか…?もう限界かも」

遼子が小さく肯いた。
鷹藤が己を引き抜こうと動き始めると、遼子の柔肉が通路を狭めて久々の感触を引き離すまいと抵抗した。
それを圧し広げながら引き抜く動きに、遼子の腰が震えた。

「やあっ…あんっ」
「…くっ締めすぎだって」
「私…なに…も」
「もう駄目だ…動くぞ」

遼子の戸惑いに構う余裕は鷹藤の中に残っていないようだった。抜きさしする強さが上がっていく。
さっきまでの優しさ溢れる抱擁が、遼子を蹂躙し快楽を貪る雄の動きへと変わった。

「やん…あ…あんっ」

遼子の亀裂から溢れ出た蜜を、鷹藤の猛る肉が押しつぶし音を立てる。
鷹藤に抉られ、突かれる遼子の溢路が悦楽で満たされていく。

「すごい!ああ…い…いいの!」

鷹藤の首を抱く遼子の腕から力が抜けていく。
快楽の為投げ出された手に鷹藤が手を重ね、ベッドに埋める。

「あ…あんっ…」

汗を浮かべた二人の躰がぶつかり合う。
先ほどまで冷えていた鷹藤の躰に熱がみなぎり、行き場を求めて体内を駈けまわっていた。

「鷹藤君…好き…好きなの…」

その熱に浮かされた遼子の口から、うわごとのように鷹藤への想いが溢れ出る。

「俺も…遼子が…」

鷹藤も胸の昂まりを抑えることができなくなっていた。
遼子を掻き分ける動きがさらに激しさを増す。

「い…いや…あああ…いい…あ…っ」

鷹藤の作り出す快楽全てに身を任せた遼子の、眼の前が白く眩む。
二人の躰が出す熱のせいで、遼子はもう何も考えられないでいた。

「出すから…全部受け止めて…」

「あ…はぁぁぁぁ…」

喉を震わせながら遼子が弛緩していく。
開いたままの遼子の唇に鷹藤が口づける。遼子も夢見るように眼を閉じたまま舌を絡ませ応えた。
火照った躰と心を離すには、まだ夜は深い。
一度火がついた今、朝までの残りの時間お互いの熱と想いを分かち合いしかなさそうだった。


「取材、うまくいってよかった」

遼子は2世議員の取材帰りに、美鈴と二人並んで歩いていた。
昨夜鷹藤と空が白むまで躰を重ねた割には、目覚めは良く、肌の調子も悪くなかった。
身支度しながら遼子は、美鈴に悪いとは思ったがやはり普段通りの服装でインタビューした。
下品にならない程度のミニスカートを着た美鈴を無視するように、その2世議員は身を乗り出し遼子の質問に
答え、また快活に応対した。
しかも、あなたのような勉強家の方となら有意義な意見交換ができそうだから、と、後日食事会の為に時間を
空けてくれるという。
女に眼の眩んだ二世議員と思っていたら、意外と芯のしっかりした人物のようだった。
今回のインタビューはいい記事になりそうだし、今後もこのコネクションは重宝しそうだ。

…やっぱり、記者って最後は知性がものをいうのよね。
遼子は心の中でガッツポーズをした。

「わたしの思った通りになってよかったわ」

大股で歩く美鈴に落胆した様子はなかった。

「思った通り?」
「そ。気付かなかった?あの人、あなたに夢中よ」
「えええっ?学術書の論文まで読んだリサーチに喜んでたんじゃ…」

美鈴の言葉があまりにも意外で、遼子は間抜けな声を出していた。

「ある意味、リサーチの勝利といえるわね。この場合は私のリサーチの勝利。あの男の好きなタイプをぶつけ
た私のね」
「好きなタイプって、どういうこと。わたしはてっきり美鈴さんがあの人のことを狙っているとばかり…」
「いやよあんなシスコン。代議士なんて落選すれば無職だし、金持ちでもパパのお財布をあてにしている
男なんて願い下げだわ」

口に出すのも厭わしそうに美鈴が眉をひそめた。

「シスコン?」
「地方にある実家から離れて東京で活動するときはいつもお姉さんの家に身を寄せてるのよ、彼。
大手新聞のインタビューにしか答えないのも、全部お姉さんの指示。浮いた噂ひとつないのは、彼が
お姉さんに夢中だからよ。これは彼の学生時代には有名な話だったみたい。でね、これがお姉さん」

美鈴が携帯を取り出すと、メールに添付された画像を遼子に見せた。
整った顔立ちの長い黒髪の女性が映っていた。
清楚なスーツに身を包み、墨ですっと描かれたような切れ長の眼のはしを少し下に曲げ微笑んでいる。

「わからない…?彼女あなたに似てるの」
「そ、それで美鈴さん、わたしを指名したの」
「お姉さんに恋焦がれていても、まさか恋人にする訳にいかないじゃない。でも、そんな男の眼の前にお姉さん
そっくりな女性が現れたら、大喜びよね。願望を満たす相手が見つかったんだから。インタビューの時、
獲物にくらいつく男の眼であなたを見ながら政治を語るんだもの、私、笑いを堪えるの大変だったのよ」
「な…」
「今日のためにスキンケアさせておいてよかったわ。あと…誰かさんにかわいがってもらったのもね。
どんな化粧より、一番女をきれいに見せるもの」

その言葉を聞いて、遼子の首から耳までが見事なまでの朱に染まった。

「ミニスカート着て来いって言ったのも…。鷹藤くんの浮気をにおわせたのも…」

遼子の声が低くなったのを知ってか知らずか、美鈴が遼子を見て微笑んだ。

「清楚な服装が好きな人なの。ミニを着ろって言うと、きっとむきになって逆の恰好するじゃない、鳴海さんって。
下手に気合い入れた格好されるより、普通の格好の方が彼好みだから。浮気を匂わせたのは悪かったけど、
おかげで久しぶりに彼に可愛がってもらえたでしょ。結果オーライでどう?」

整いすぎた美鈴の笑顔が、遼子には一瞬悪魔の顔に見えた。

「別にあの議員と寝ろ、とは言わないけど、親交を深めておいて損はないでしょ。あとね、今度の記事は共同
執筆ってことにしましょ」
「それより、美鈴さん…なんで久しぶり…とか知っているの…」

呻くように遼子が言うと、脚を止めて美鈴が遼子を一瞥した。

「呆れるほどわかりやすいのよ、あなたたち。だから見ているとじれったい時もあるわ。そのせいで、おせっかい
しちゃうのよね。あなたたちにずっと続いて欲しいから」

そう言って遼子を見る美鈴に取り澄ました猫のような気取りはなく、その奥に隠していた素顔の美鈴を見せていた。

「柄にもないこと言っちゃった。忘れて」

早足で歩きだした美鈴の耳が少し赤かった。

美鈴の意外な一面を見て遼子が微笑むと、鷹藤の待つ福梅書房へ歩き出した。






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