グランバスト 本誌美人記者の兄による体験手記(本誌美人記者による体験手記! 続編)
鳴海洸至×鳴海遼子


背中に手を廻す遼子の顔が、自分の胸に押し付けられた時、その柔らかな感触に洸至の鼓動が高鳴った。
遼子が洸至に抱きつくようにして手を広げ、メジャーを洸至の背中から前に回している。
妹の髪からほのかに漂うシャンプーの甘い香りが洸至の鼻をくすぐる。
洸至は、すぐ下にある妹の顔を盗み見た。
メジャーの数字を読み取ろうとすがめられた眼や、そこから流れる鼻梁の美しいライン、半開きの唇。
今夜の遼子は、妙になまめかしい。それに胸に当たる吐息も熱い。
いつもは無防備過ぎてあどけなさすら感じる遼子が、今は思わず見入ってしまう程の色気を漂わせていた。
どうやら自分は、妹と密着しているせいで年甲斐もなく舞い上がっているらしい。

洸至は妹に見られぬように苦笑した。
このまま間近にある妹の顔を見つめていたら、鼓動が部屋中に響く程になりそうで、洸至は顔を背けると軽口を
叩いて気を紛らわせることにした

「遼子どうだ?やっぱり変化ないだろ?」
「うん…」

歯切れの悪い返事だった。メジャーの数字を見ていたとはいえ、遼子らしくない。

そういえば、今部屋に入って来た時も妙に内またで、歩きにくそうにしていた。

「どうした?遼子。元気ないな。お前もしかして腹でも痛いのか?」

今日の夕食は、遼子が買ってきた大盛り焼肉丼サラダ付きだった。
しかも遼子はダイエットの為に、焼肉丼に唐辛子をかなり振りかけていた。
それを一気に平らげたせいで、腹具合がおかしくなったのかもしれない。
その時、遼子が洸至の躰にもたれかかると、手にしていたメジャーを落とした。

「落ちたぞ、りょ…」

遼子が洸至の胸に廻した両腕に力を籠めた。
まるで恋人に抱きつくように、洸至の胸に顔を埋める。
そして温もりを確かめるように頬を擦りつける。

洸至の心臓が爆音を鳴らした。

「すごく…いい匂い…」

陶然として洸至を見上げた遼子の眼はすっかり潤みきっていた。
胸に廻していた手を外すと、遼子が洸至の頬を掌で包む。

「お願い…抱きしめて」

妹の誘惑の言葉に、鼓動が限界を越えてさらに高鳴る。洸至の肋骨の奥で、心臓が存在感たっぷりに暴れ回っていた。
遼子の要求に本能が応えようとするのを、理性を総動員して洸至は押しとどめた。
妹の背中に廻そうとした震える手を、洸至は肩に置き直す。

「りょ、遼子…一体何を」

遼子がつま先立ちになった。身長差のある洸至の唇へ顔を寄せる。
遼子の濡れて光る唇が開く。

「お兄ちゃんお願い、キスして。苦しくってたまらないの」

耳の奥まで響く己の心臓の音を聞きながら洸至は思った。

―――心臓がもたない。このままだと俺は確実に死ぬ。

洸至が死を覚悟する、少し前。

「で、これがその薬か」

鳴海家のリビングのテーブルの上に、輸入品らしいサプリメントの瓶が置いてあった。
白いプラスチック製の瓶には極彩色のオウムらしい鳥と、熱帯雨林の絵。
スペイン語で書かれた商品名の上に、日本語の商品名のシールが貼られている。
そこにはゴシック体のカタカナで「グラン・バスト」と書かれていた。

「見るからに怪しい薬だな、確かに」

洸至が瓶を手に取り、横のラベルの文字を見ようとしたが、これもスペイン語なので、何が書いてあるか
さっぱりわからない。

「でしょ。でね、編集長が調べたところによると、これを飲んだ女の人が何人か襲われたらしいの。
人通りの多い道路でね。その女性を保護したはずの警察官も抱きついたっていう噂もあるわ。
変でしょ?だからこの薬を調べることになったんだけど…」
「その為にお前が飲むのか?」
「しょうがないじゃない。来週号の売りの記事なんだもん。『本誌美人記者による体験手記!』って
タイトルだって決まってるんだから。私がやるしかないわよ」

遼子は仕方が無さそうに肩をすくめた。乗り気ではなさそうに見えるが、「本誌美人記者」と言った時、
「美人」の所を遼子はさりげなく強調して言っていた。

「編集長に上手く乗せられたんじゃないのか。なあ、美人記者さん」

「もう、からかわないでよ、お兄ちゃん。鷹藤くんも同じことを言ってたけど」

遼子がむくれた。妹のそんな素振りが可愛くて、洸至の頬が緩む。

「こんな怪しい薬を飲んで胸が大きくなる訳ないだろ。男はな、胸が大きくなくてもそんなに気にしないと思うぞ。
胸よりももっと大事なものがあるだろ。気配りとか、愛嬌とか。そっちの方が大事だよ」
「だって大きい方がアピールできるし、…そっか、気にしないのか」
「ほどほどの方がいいと思うけどな」
「そっか…」

リビングをしばし沈黙が支配した。

「で、でも世の女性の為の取材なんだから、茶化さないで。これを飲んで手記にしないと原稿にならないもん。
返して」

記者としての使命を思い出した遼子が、洸至が持つ瓶へ手を伸ばした。

「豊胸効果なんてあるかどうかも怪しい薬じゃないか。それより、お前がこれを飲んでまた妙なことに巻き込まれ
ないか、そっちの方が俺は心配だよ。だからこんな薬、お前に飲ませるわけにはいかない」
「お兄ちゃん!」

洸至がとられないように後ろへと瓶を持った手を伸ばした。
遼子がなおも取ろうと立ち上がると、洸至も取られないように立ち上がる。
立ち上がった洸至が瓶を持った手を上に伸ばすと、身長差のある遼子では届かない。
ウサギのように飛び跳ねる遼子を尻目に、洸至は瓶を開けると、1錠口に放り込んだ。

「あっ」

「俺が飲んだ結果をお前が記事にしろよ。自分の体験ってことにしてさ」
「そんなぁ」
「データは取れよ。それでいいだろ」
遼子が恨めしげに洸至を見上げた。
「お兄ちゃんの胸が大きくなってどうするのよ」
「…やっぱり豊胸効果期待していたのか、お前…」

それから二度の計測時に、遼子が洸至の体温、血圧そして胸囲を測ったが、体温と血圧が微増したくらいで、
胸囲には変化がなかった。
洸至が薬を飲んでからずっと遼子はむくれていたが、今度行列に並ばないと買えないロールケーキを洸至が
買ってきてやることでようやく機嫌が良くなった。
部屋が少し暑くなった気がしたので団扇であおぎながら、洸至は暇つぶしの模型作りにいそしみ、三度目の
計測を待った。

そして三度目の計測時。遼子の方がおかしくなった。


「すごくいい匂い。…こんないい匂い嗅いだことない…。嬉しくなっちゃう」

遼子が洸至の唇を求めて背を伸ばすが、洸至が顔を逸らして妹の唇から逃げる。

「ずっと傍にいて…抱きしめて…」

遼子がうっとりとした顔で洸至の胸に頬を擦りつけた。

洸至の心臓は呆れるほどの爆音を轟かせている。しかし未だ洸至の息の根は止まっていなかった。
死を覚悟する程の興奮と幸福感に襲われたが、妹の様子に、ある違和感を覚えてから洸至は警察官らしい冷静
さをすぐに取り戻していた。

…匂い。

遼子はこの言葉ばかり発している。
俺から漂うという匂いのことばかり、うわ言の様に言っている。

その匂いに遼子は酔い、その匂いを発する相手を求めているだけだ。
―――遼子が求めているのは俺ではない。
そのことが洸至の熱を冷ました。

温もりに名残り惜しさを覚えながら、密着する妹の躰をひきはがす。
遼子の肩に手を置き、洸至は妹の眼を覗きこんだ。

「遼子…眼を醒ませ。お前は何かに酔っているんだ。いつものお前じゃない」
「でも、わたし離れたくないよ。こんないい匂いするお兄ちゃんから、離れたくない」

遼子が洸至の首にしがみつく。

「駄目だ…。頼む、遼子離せって!こんなことしていいわけがないだろ?兄妹なんだから」

洸至が遼子から身を離そうと決意した時、唇に柔らかなものが重なった。

「!!!」

遼子が洸至の唇を奪っていた。
ずっと夢見ていた瞬間の訪れに、洸至の理性が揺らぎかける。

その時、15年間耐え続けた、眼も眩むような誘惑の数々を洸至は思い出していた。

成長するにつれて変わる遼子の甘い匂い。
夏場に暑いからといって、ノーブラにタンクトップとホットパンツ姿で洸至の前をぶらつく遼子。
ソフトクリームを舐める舌の動き。湯上りにバスタオルを巻いただけで冷蔵庫を開ける後ろ姿。
怖い夢を見たと言って一緒に寝た夜の温もり。
その翌日、腕の中で微笑み、「おはよう」と言った時のこと。


それに耐えられたのは、いつか思いを告げる日を夢見ていたからだ。
自分の罪、自分の欲望、その全てを遼子にぶちまけた末に溶け合い重なり合う日のことを。

だからこんな風になし崩しに遼子を奪うのは違う。
「グラン・バスト」なんていうふざけた商品名の妙な薬のせいで兄妹という枷から自由になるなんて、美学に反する。

―――どうしたら、遼子を止められる?

洸至は理性の残りの部分を総動員して、この事態を収拾させる術を考えようとしていた。
だが遼子の唇の感触に意識が吸い寄せられていく。このまま流されろと本能が洸至に囁く。

妹に当て身を喰らわせて、気絶させるか?
こういう状況とはいえ、遼子に手を上げることを洸至は躊躇した。
だったら…。

自分の躰からその匂いをさせなければいい。
遼子を突き離すと、妹が後ろから追いかけてくるのも構わずに、洸至は風呂に走った。
風呂場のドアを勢いよく開ける。
バスタブには、数時間前に入った風呂の残り湯がまだあった。洸至は、服を着たままそこに飛び込んだ。

洸至がぬるま湯の中に頭まで沈め、顔を出すと、風呂場の入り口に立つきょとんとした顔の遼子と眼が合った。
さっきまであった艶は、その表情から消え去っていた。

「あれ…。おかしいな。さっきまでいい匂いしてたのに…」

それから遼子は口をつぐむと、見る見るうちに赤くなっていった。

「私…お兄ちゃんに…あ、あんなこと…!お、お兄ちゃんごめん!」

耳まで朱に染めると、遼子は恥ずかしくなったのか自分の部屋に飛び込むようにして入り、音を立てて扉を閉めた。

遼子のあの様子では、さっきまで自分が兄にしていたことの記憶はあるようだ。
この結末を、少しほろ苦くもあったが、良かったと洸至は思いこむことにした。
もし、あのまま流されていたら、お互いにいたたまれず共にいられなくなるところだった。
しばらくは遼子も顔を合わせづらいだろうが、まだ薬のせいでのアクシデントとして笑い話にできる。
俺が何も気にしていないと言えば、遼子だってすぐに立ち直るだろう。

「でも、どうしよう。史郎ちゃんじゃなくてお兄ちゃんにあんなことしちゃった…。史郎ちゃんだったら
良かったのに〜。ふえ、ふえええ〜ん」

扉を閉めたので聞えないと思ったのか、遼子の部屋から狼狽しきった独り言と泣き声が聞こえてきた。

―――遠山だったら良かったのに…?
それを聞いた洸至の心の中で、何かが砕け散った。

洸至は樫村を怨んだ。
そして洸至に極限までの忍耐を強い、聞きたくもない遼子の本音を聞かされるような状況を作り出した報いを
あとで樫村にきっちり受けさせてやることを心に誓った。

そして、バスタブの中でずぶ濡れになりながら、ひとりさめざめと泣いた。






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