アンフェアなのは
小田切×雪平夏見


「雪平さん、小田切の現在地が分かりました!」

雪平が、夜も遅い署内に残っている所に、安藤は息を切らし入ってきた。
雪平の相棒であり、恋人である、安藤一之。
その安藤は雪平に一枚の紙を差し出した。

「…いくよ安藤」
「はい」

雪平は安藤の運転する車に乗り込み、安藤に詳細を聞いた。

「なんで安藤がこれ知ってるの?」
「三上さんが、データが発信された小田切のパソコンと携帯の位置を探索して見付けました」
「そう」
「安本さんもそこにいると思います」
「…」




小田切がいると思われる場所に着いたときには既に辺りは夜明け前の一番暗い時間になっていた。

「雪平さん、山路管理官に連絡した方が良いんじゃないですか?」
「そんな時間どこにあるの?」
「こんな土地感のない暗い場所に二人だけでいって安全なはずがないじゃないですか」
「じゃ、安藤は戻ってな」
「それは駄目です………行きますよ」

安藤のその返事を聞くか聞かないか、雪平は銃を構え、街灯の明かりが少し入ってくるだけの、暗い倉庫に入っていった。

「小田切!」

雪平の声が辺りに木霊する。

「安藤はそっち探して」
「はい」

雪平は、安藤に指示した方向とは正反対の方向に向かった。

誰もいない…?

雪平がそう思ったそのときだった。
ガッッ、と何かを重いもので殴る、鈍い音が雪平に届いた。

「誰!?」

返事はない。
雪平は、鈍い音がした場所に向かった。

さっき、雪平自身が、安藤に命令をだし、安藤が向かったであろう場所。

「安藤!!」

ほの暗い場所で倒れている人影を見付ける。
血は出ていない。
だが、近くに転がっている鈍器を見る限り、重症なのは間違いなさそうだ。
雪平は辺りに気を付けながら急いで携帯を取り出す。

そのときだった。

「…雪平サン」

呼ばれた方向に振り帰ると、今警察が血眼になって探している小田切が、楽しそうに現れた。

「お前が安藤を?」

雪平は携帯を下に置き、銃の中心を小田切に向けた。

「そんなに心配しなくても大丈夫、あんたの大事な大事な安藤君は死んじゃあいないよ」

小田切は雪平に舌を出し、携帯を遠くに蹴り飛ばした。

「何のつもり?」
「別に」

小田切は、さっき安藤にふりかざした鈍器を雪平の後頭部へ殴りつけた。
雪平が、気を失い倒れていく。

ゆっくり

ゆっくり
次に雪平が目を覚ましたのは、違う部屋だった。

「痛っ」

さっき小田切に殴られたところがズキズキと痛む。
段々と意識がはっきりしてくる。
そして、背後の気配に気付く。

「おはよう、雪平サン」

小田切は、普通より大きめの一人用の椅子に腰掛けていた。
朝なのに夜と変わらないほど暗いのは、日が当たらないせいか、それともこの閉めきった空気のせいか。


小田切が椅子から立ち上がり雪平に近付く。

「まだ、頭の悪い仲間は来てないみたいだね…」

小田切が楽しそうに笑う。
雪平の拘束された手足を見て。
ボタン二つまで開けられた白のブラウスを見て。

そして、これから起きることを考えて。

「安本さんと安藤、どこに行った…?」

少なくともこの部屋にはいないだろう。
この薄暗い部屋には、今、小田切が座っている椅子と大きな木の机が一脚だけがある。
他にはなにもない。
雪平は辺りに視線を巡らす。

人一人が出られそうな出口は、今、小田切が立っている後ろのドアしかない。
雪平の頭は、全速力でここからでる方法を考えた。

人が来るのを待つ…。
しかし頭の悪い警察がここにたどり着くことはないだろう。

今、目の前にいる小田切を倒す…。
銃などもないし、勝てる確率はあまり無いだろう。

「雪平サン、そんなに怖がらないでよ。安本さんは外で仕事中だし、安藤君はムカつくから、雪平サンより何倍も強く殴ったけど、多分生きてるよ」

雪平の肩に手を伸ばした小田切は、雪平を自分の方によせた

「触るな!!」

危険を察知し、小田切という人間を本能的に寄せ付けない雪平は小田切の腹にパンプスのまま、ありったけの力をつかい蹴りをいれた。

「――ったいな雪平サン、」
「近寄るな!!」
「…安藤君ならいいんだ」
「―っ」

少し怯んだ雪平に向け、小田切は数百枚ある写真を投げつけた。

「何、これ……?」

写真の全てに雪平と安藤が写っている。
その殆んどが捜査の写真だが、中には安藤が雪平の家まで入って行くものや、どこから撮ったのか、雪平の家の中の写真まである。

「お前、…」
「雪平サン、そろそろだよ…」
「何が……?」

小田切は、雪平を机に押し倒した。

「離せ!」

雪平は、精一杯の抵抗を示す。
が、力で小田切に勝てる筈もなく、小田切のキスを拒むことは出来なかった。
雪平の口の中に長い舌を絡める。
小田切のどんな行為も雪平の快感には結びつかなかった。

雪平は、今この男を心底殺したいと思った。
口腔内の舌、歯、その全てを舐めとる様なキス。
好きな男ならまだしも、タイプでもない男に許してしまう自分にも嫌悪感を抱いていた。
それでも雪平は小田切の体を押し退けようとする。

「雪平サン、そんなことしても俺をそそってるだけだってこと、気付かない?」

小田切は雪平の口元から離れた。
雪平の拘束された両腕は、小田切の左腕によって動きを封じられた



僕は、大きな音と、誰かと誰かが言い争う声で目が覚めた。
それと後頭部と腹部の激しい痛み。

「……この声…雪平さん?」

たった数時間前まで一緒にいたはずの雪平さんの姿が見えない。
でも、声は聞こえる。この部屋の外から。
上半身を起こすと、今までもずっと痛んでいた腹部にさらに激しい痛みが走った
しかし、今は体が痛むとか、頭に血が回らないとか言ってる暇はない。




「雪平サン、顔に似合わずエロイ体してんだね」

小田切は、白いブラウスを破りとり、雪平のブラウスと同じぐらい白く、汚れない体を舐め回すように見つめた。
その変質的な目線と口許に雪平は身をすくませた。
そして、その白い肌にあるものを見付けた。

赤い跡。それが三つ。

「やっぱり安藤君とできてたんだ」
「だったら、……なによ?」
「やっぱあのとき殺しておけばよかったなぁ」

小田切は雪平の髪を掴み右手で雪平の無駄に美しい顔を思いきり殴った。

「人の幸せって、見ててムカつくよね」
「…」
「そういうのって、なんか壊したくなる」

雪平は近くに口のなかに溜った血を吐きだした。

「でも雪平サンをゆっくりと味わってからにしようかな?」

小田切は、雪平の黒いパンツスーツを脱がせ、黒々とした茂みに骨張った指を這わせた。

「痛っ…」

全くと言っていいほど濡れていないそこは、小田切が無理矢理指を這わせたせいで、血がでていた。


この男は佐藤和夫とは違って、余裕のない行為をする。

この男は、瀬崎一郎とは違って、子どもっぽい、なにも感じないレベルの低い行為をする。
この男は、安藤とは違い、愛されてると感じない、優しさをのない行為をする。


嫌だ、嫌だ、嫌だ、

小田切の手が胸を触る。
佐藤和夫でも瀬崎一郎でも安藤でも、これだけで快感を覚えたのに、この男には何も感じない。

小田切は自身をまだ血が流れ出る雪平のそこへと押し入れた。

「イヤだ!!!痛いっっっ!!!やめろっっっっ!!!」

雪平は普段からは考えられないほど涙を流し、堕ちていった。


「雪平サン、静かにしないと……聞えちゃうよ?」
「だ…………れに?」
「そろそろ、安藤君、目ぇ覚ましてるんじゃない?…」

雪平は、今の状態を考え顔を赤らめた。

―無理矢理とはいえ、他の男に犯され、弱い姿を晒してる―

プライドの高い雪平には屈辱的だった。
安藤と二人のときなら未だしも。
しかも、快感がなくても、血の他にも生理的に濡れてきていた。

「それにさ……段々と頭が働いてきて余計なことしちゃうから、これが終ったら…会いに行かなきゃね〜」
「安藤には手を出さないで…」
「さぁ?」
「…」

小田切は雪平のことなど全く考えず自分の快感のためだけに腰を打ち付ける。
そのせいで、雪平のそこは破れ、傷付き血で溢れていた。
雪平のそこから流れ出る血は、机の縁を滴り落ち、下に血溜りをつくっている。
雪平はもうこれ以上、痛みに耐えきれなくなっていた。

「ってか、ずっと言おうと思ってたんだけど、雪平さんの中ってキツイね」

小田切は乾いた肌がぶつかる音が響くなか、雪平に囁いた。

「…」

小田切は、雪平の中から流れ出る血を指で絡め、舐めとった。

「雪平サン、痛い?」「………っだったらなに?」
「もっと……苦しんでよ」

小田切は、雪平のなかにはいっている自身を更に激しく出し入れする。

「いやぁぁぁぁ!!」

雪平は、かすれた声で叫んだ。
ミリッという音と共に、下腹部に、激痛が走る。

「…もぉ、………やだ」

雪平の意識が消えていく。
小田切は、雪平の中で達すると、ゆっくりと自身を抜いた。


「仕事、もうひとつ残ってたね」

小田切は、雪平を机から血溜りのなかに落とした。
その衝撃でさらに雪平の中から、小田切の体液で薄まった血が流れでる。


痛みに耐えながら上半身を起こすと、隣の部屋から、雪平さんの声が聞こえてきた。

「……え?」

雪平さんの声が一度聞こえなくなる。

「雪平さん!?」

多分、ここからどんなに呼び掛けても、雪平さんと小田切には届かないだろう。
そのあとすぐに、雪平さんの声で

「やめろっっっ!!」と何かを必死で嫌がる声がした。

僕は、上着のポケットに携帯が入っていたのを思いだし、とりだそうとした。

「無理だよなぁ」

手は後ろに縛られているし、足も同じ状態だ。
ましてや、ロープを切る道具なんて物もない。
相変わらず、肋骨の辺りが痛い。
取り合えず、急いで連絡しないと危ない。
僕も雪平さんも。

多分、携帯を取り出すのは簡単だろう、上着を動かせばおちる。


携帯をおとし、後ろ手で電話をかける

「だれか…でて」

ガチャ

「なんだ?」

小久保係長がでた。

「安藤です。小田切を発見しましたが、雪平さんが危険な状態なので急いできてください場所は―」
「分かった。直ぐに向かう」

小久保係長に連絡すると、誰かが歩いてくる音がした。




「小久保、誰だ?」
「あ、山路管理官。何でもありません……」
「そうか、ならいいが?」




足跡が扉の向こうで止まる。
僕は急いで携帯をしまった。

小田切は、安藤が電話を切ったすぐ後、ドアをあけ、部屋に入ってきた。

「雪平さんは、無事なんですか?」
「さぁ?」

小田切は、足元にいる安藤に向け、全力で蹴りを入れた。

「―ってぇ」

肋骨を折られた上、このまま小田切からの暴行を受けていたら、唯では済まないだろう。

「お前ら、ムカつくんだよ!!お互い心配しちゃってさぁ!!」

小田切は、暫く安藤の顔や体全身を殴りつけていた。
そしてもう、生きているのかどうかも分からない、只、意識だけがある安藤を引きずり、雪平の元へと連れていった。

「ゅ……き…平さん……?」

安藤が、目のあたりにした雪平は、安藤の知っている雪平とは似ても似つかなかった。
意識のない雪平の無駄な美しさはきえ、大量の出血とともに、微かな呼吸のまま倒れていた。
服を全くきていない様子から、さっきの悲鳴の前後に行われていた行為が想像できる。


小田切は、雪平の脱力しきった体をもう一度机の上にのせ、脚を開いた。

安藤は思わず目をそらした。
小田切は、その様子を楽しむように、先ほど自らで傷だらけにした雪平のそこに長いしたを絡ませた。
さっきより少し明るくなった室内に水音が響く。

小田切は、雪平のそこにローションをたっぷりと、したたる程つけ、今までの行為とは裏腹な行動をとる。
まず、雪平のそこを優しく撫で始める。

…安藤に見せつけるように。

そして、その長い舌を今度は雪平の口の中に侵入させる。
くちゅ…ぐちゅ…と、安藤の耳にも確にその音が届いた。
何でこんなところで死にかけて、好きな人が他の男とキスしてんの見てなきゃいけないんだ?

しかし、小田切はそんな安藤の気持ちを踏みにじるかのように雪平の全身をたっぷりと時間を掛けて愛撫した。

雪平への愛撫を続けていると雪平の意識がゆっくりと戻り始めた。

「ん………やぁっ…ひゃあ…」

雪平は、小田切からの愛撫から逃げようとした瞬間、床に倒れている安藤を見付けた。

「……んっゃあんど……」

雪平は、先ほどとの小田切のギャップへの快感から、声にならない叫び声で安藤を呼んだ。

「雪平サン、今あんたは俺としてるんだよ?」

小田切は、更に雪平に快感を覚えてもらうために、手を下へと伸ばした。さっきのローションとは違うもので雪平のそこはぐちゃぐちゃになっている。小田切は、その柔らかく溶け出すような部分に口つけ、安藤から見えるように舐めとった。

「ひゃぁっん……んゃっ……あんどっ……見ないでぇ!!」

その雪平は、普段、佐藤和夫、瀬崎一郎、そして安藤にしか見せない表情と声をしていた。
次第に安藤は、小田切に嫉妬のような殺意を覚え始めた。
小田切は、口つけた雪平のそこの中にもう一度、長い舌をいれわざと音をたてて全てを飲み込んだ。

「……ぃゃあああっ…んあっ……はぁっ……」

雪平は、もう、最初の絶頂を向かえてしまった。

「…雪平サン、安藤君が側にいるのにそんな声だしていいの…」

小田切はわざと雪平の快感を仰るように囁いた。そして、優しく自身をそこへと進める
激しい水音が辺りへ響く。
小田切は、腰を激しく動かし、雪平の中の最奥をついた。

「んやっあぁ…も、むりぃ!!」

そんな雪平の叫びを聞きたくないという様に小田切は雪平にキスした。雪平の口に収まりきらなかった唾液が床に溢れ落ちる。

「…ひゃっっ……んぁっ…だめぇぇっ!!…だ、か…助…け、て…ぇ」

それでもまだ、小田切は腰の動きをとめず、雪平の中を掻き回した。


小田切が行為を終え、雪平のそこは自身を抜くと、微量の血と、二人の体液でドロドロに汚れていた。
小田切が、それをまた丁寧に舐めとった。

誰かの足音が聞こえてきた。

走ってくる。
誰だ?
仲間か…?

敵か…?

正義か…?

悪か…?

「小田切!!」

扉を開けて走ってきたのは、雪平の父代わりであり、小田切の飼い主である、安本だった。

「…やすもと、さ」

雪平は、肩で呼吸をしながら呼び掛けた。

「お前、雪平には手を出すなとあれほど!!…」

安本は、雪平を見て唾を飲んだ。

「どうする…安本さん?…」
「安本さ…ん?」

助けに来てくれたと思っていた雪平と安藤は、耳を疑うことになるだろう。

「計画を変更する」
「そうこなくちゃ」
「しかし小田切、まだひとつ仕事を忘れている」

安本は安藤を見た。

「…?」
「あぁ、余計なことを知っちゃったからね」

安藤の顔が恐怖に歪む。
火薬の香りと硝煙が辺りに立ち込める。


「安藤っ!!!」



私は、崩れ落ちた最愛の人の名を呼んだ。
かつて、煩いほど私の名前を呼んだ口はもう動かない。
覗き込むと漆黒の瞳の中に私だけを写した瞳はもう開かない
そして私は、安藤という名の恋人の死体の前で、父親の様に慕っていた人と、恋人をその手で殺した男に犯される。

アンフェアなのは…誰?






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