雪子と江美(非エロ)
番外編


前回:実践(非エロ)(山倉真一×弥生)

「あー、面白かった。弥生さん、ちゃんと実践できたかしら?たぶん、無理
でしょうけど」

雪子はくすくす笑いながら江美と共に、駅へと向かって歩いていた。

「ちょっと騒ぎははあったけど良いお式だったわよね。私もちょっと結婚したく
なっちゃったなぁ。あ、江美さんお腹大丈夫?都合も聞かないで出ちゃって
ごめんなさいね。タクシーつかまえましょうか?」

雪子は一人でぺらぺらと喋っているのを江美は少し悲しそうな顔で聞いていた。

「うんにゃ、大丈夫だぁ。もうこんくらいになっだら動いている方がええんだ」
「そうなの?なら良いんだけど」
「雪子さん」
「なぁに?」
「…あれで、良がったんか?」
「何?急に」
「雪子さん、弥生さんのこと…」

雪子の表情が凍り付いた。

「な、何言ってるのよ」

語尾が震えていた。

「医専の頃からずっど…だろ?」

「江美さんの観察眼には敵わないわ」

ふうっと大きな溜息をついた。

「付属病院で研修やってた頃からそうだったわね。教授でも見つけられたか
どうかっていうくらい小さなレントゲンの影を江美さんが見つけてあの患者さんが
助かったのよく覚えてる」
「偶然だで」

江美は照れくさそうに笑った。

「違うわ。いつも患者さんや周囲のスタッフのことをちゃんと見ていつも心配り
してたわ。私、江美さんのそういうところずっと尊敬してたし、今もそうよ」
「雪子さんにそんな事言われるの初めてだ。明日雨が降るんでねぇか」
「ひどいわ。江美さん」

雪子に笑顔が戻った。

「そう。ずっと好きだったわ、弥生さんのこと…でも男のひとより女のひとの方が
好きだなんておかしいじゃない。だから色んな男のひとと付き合ったわ。
そうしたらいつか弥生さんへの気持ちは友情に変わるって。でも……
変わらなかった」

雪子の瞳から涙が一筋、頬を伝って落ちた。

「おがしくなんかねえよ」

江美はハンカチを差し出した。

「おがしくなんかねえ。誰かを好きだって気持ちに男も女もねえよ」
「ありがとう…江美さん…」

江美から借りたハンカチを握りしめると、雪子はぽろぽろと涙をこぼした。

「ごめんなさいね。泣き出したりして。ハンカチありがとう。もうちょっと
借りてていいかしら?洗って返すから」
「構わねぇのに」

ただでさえ晴れ着姿の二人連れは目立つ上に、美貌の持ち主の雪子が泣いている
のは嫌でも人目を引いてしまうため、江美はたまたま近くにあった公園へ雪子を
連れてベンチへ座らせた。

「泣いたらちょっとすっきりしたわ」
「それはえがった」
「…ようやく気持ちに踏ん切りがつけられそうな気がするわ」

江美は少し不安げな表情で雪子を見た。

「大丈夫。無理に諦めるわけじゃないわ。さっき江美さんが『誰かを好きな
気持ちに男も女もない』って言ってくれたでしょ。私ね、誰かにそう言って
ほしかったんだなって気付いたの。認めてほしかったのね」

自分に言い聞かせるように呟いた。

「江美さんがいいんだって言ってくれたから。この気持ちはずっと大切にしまって
おくの」
「…そっが」
「父がね、いい加減に結婚して跡を継げって見合い話を山ほど持ってきてうんざり
してたんだけど、そろそろ潮時ね」

無理に笑顔を作る雪子に江美は何も言えなかった。

「あ、そうそう、さっき江美さん『あれで良かったのか』って訊いたでしょ?」
「んだ?」
「私、ちゃんと弥生さんに好きだって言ったじゃない」

男の声音を使って言ったのを江美は思い出した。

「だどもあれは…」
「冗談にまぎらせてでも言えたんだしそれに…」
「それに?」
「ファーストキスを私が貰ったのよ。うふふ」
「そういやそうだなぁ」

二人は声を合わせて笑った。

「さ、そろそろ帰りましょ。引き止めてごめんなさいね」
「ええんだ。雪子さんが元気になっでよがった」
「ありがと、江美さん」

二人は立ち上がって駅へと歩き出した。

(…観察眼なんて別にねぇんだ。ずっと雪子さんのこと見てただけなんだ。
ずっとずっと…初めて会っだ時からずーっと…)

「なぁに?」

気付かないうちに雪子のことを見つめてしまったらしい。江美は内心慌てた。

「うんにゃ、何も。雪子さんは美人だなーっで。ずっと憧れてただよ。」
「やっだ。お世辞言っても何も出ないわよ?」
「ばれたか」

夕焼けの空に二人の笑い声が響いた。






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