求めあう夜
安岡信郎×梅子


芳子が家出から戻ってきた夜のこと

「じゃあ、俺はこれからも仕事頑張んないとな」
「うん。宜しくお願いします。」

梅子と信郎は布団の上で互いに感謝を述べ合った後、しばらく睦言を交わしていた。

「診療所のことも勿論そうだけど、これから……ほら、あれだ。あっ……新しい家族がいつ増えるかも分かんねぇしよ」

梅子はニッコリと笑うと、そうね、と返事をした。
私とノブの赤ちゃん。そりゃ将来は出来ると思うけれど、今はまだ全然思いもつかない。
そんな先の話なのに、想像しただけで照れてしまうような信郎を見て、梅子は可笑しいのと同時に信郎への愛おしさを感じた。
片方が二人の間に手をつくと、もう片方も。そうして自然と引き合うように、二人は笑いながら軽く口付ける。
唇が離れてお互いが顔を見合わせた時、梅子が昼間には決して見せる事がない、いたずらな、それでいて艶っぽい顔で呟く。

「……早く欲しいな」

次の瞬間、信郎の両手が梅子の小さい両肩を掴み、グイと引き寄せると荒々しく唇を奪った。

「ん…っ」

梅子は固くまぶたを閉じ、その腕を信郎の脇から背中へ這わせて信郎の体をキュッと受け止める。
すると、信郎の腕はいつの間にか梅子の背中と後頭部を支えていて、梅子は静かに布団の上へと押し倒された。
激しい口づけの合間に少しだけまぶたを開き、信郎の顔が何時もの優しいノブから男の顔になっているのを確認して再びまぶたを閉じると、
梅子は信郎の動きに神経を集中した。
腰紐は既にほどかれていて、ゆるくなった襟の隙間から信郎の手が入ってくる。大きくて指の長い、よく慣れた信郎の手。
梅子の肌の感触を確かめながらどんどん襟をはだいていき、隠されていた二つの膨らみが外気にさらされた。

「あっ……!はぁ…っ!!」

先端を残してスッポリと信郎の手に包まれた梅子の膨らみに、刺すような快感がはしる。
ツンと上を向いていた先端を、信郎の人差し指がかすめていったのだ。
繊細な部品を扱うように、何度もそっとかすめた指で、時折強く潰されたり、人差し指と親指でつままれたりして自在に刺激を与えられた。
二人の体が一分の隙もなく密着して、梅子の太ももに信郎の固くなった物があたる。
梅子が腰を浮かせると、信郎は腰を押し付けてきて、ゴリゴリと当たるそれは痛いほどだった。
信郎の背中に回されていた右手の人差し指を立てツツと体をなぞりながら、梅子は信郎の中心部に触れる。
自分の中に入りたがってこんな風になっている信郎を慈しむように撫でると、信郎の手もまた梅子の中心に伸ばされた。

二人は競い合うように、お互いに触れて刺激を与え合っていた。
梅子が信郎に触れている間、信郎は中指で梅子の小さな粒をこね回したり、その指をツルリと中へ滑り込ませたりした。

「あ……んっ」

信郎の長くてしなやかな指は、蕩けかかった梅子の入り口を自由に出入りし、梅子を喜ばせる場所をくすぐるように柔らかく触れる。
自分の体のことなのに自分よりもよく分かっている信郎に対し、ちょっぴり癪な気もするが、梅子は安心して快楽に身をゆだねていた。
中指の他にもう一本の指が差し入れられ、更に強い刺激を与えられると、梅子の腰がガクガクと震えだす。

「ああっ…、ノブっ……!ノブ、わたし…もう……」

梅子がきを遣りそうになった瞬間、信郎が上半身をガバリと持ち上げた。

「ちょ…っと待てっ!梅子……っ!」

――先に音を上げたのは信郎の方だった。
梅子はハッとして、信郎を擦りあげていた手を止める。

「あ…、ごめん。つい夢中になっちゃって」
「危ねぇ……。思わず出ちまうところだった」

下から見上げた信郎の顔は、素で慌てていたせいか少年のようにも見え、梅子はそんな信郎を可愛いと思ってしまった。

「俺は、最後は梅子の中で、って決めてんだからよ」

再び梅子の上に覆いかぶさってきた信郎が梅子の耳元でそう言うので、梅子は優しく信郎の頭を包み込み、うん、と答えた。
慎重に入ってくる信郎を体の中にすっかり受け入れると、梅子は信郎の体で割られた両膝を内側に倒して、信郎の動きを封じてしまう。
信郎が不思議そうに顔を覗き込むと、梅子はうっとりとした表情で信郎の髪を撫でた。

「気持ちいい…」
「梅子……」

息も出来ないような口づけを受けると、梅子は中を締め上げてから膝を緩め、少しずつ信郎の体を解放していった。
解放された信郎はゆっくりと深く突き上げて、梅子を高みに連れて行く。
二人は腰を揺らしながら互いの髪や顔に触れたり、軽く口づけしたりして繋がりを楽しんでいた。

「ずっとこうしていたい……」

梅子の頬を撫でていた信郎の指に自分の指を絡めて、梅子は頬ずりをする。
信郎は梅子の手を握り返すと、梅子の体を貪るように何度も何度も突き刺した。
やがて二人の甘い息遣いの中に信郎の上ずった声が混じり初め、最後が近づいて来たのを知ると、梅子は繋いだ手にギュッと力を込める。
「ノブ……、来て…!」

梅子が促してやると、信郎はがむしゃらに腰を打ち付けてきて、何度目かに一番深く繋がった所で動きを止めた。

「っはっ…! はぁっ…はぁ……」

信郎の荒い息とともに梅子の中にいる信郎もビクビクと脈打ち、体の奥に暖かい広がりを感じた梅子は満足そうに微笑んだ。

「ありがとな」

信郎は寝転がったまま下着をはいていた。
グッショリと濡れた中心部を、梅子にティッシュで甲斐甲斐しく拭いてもらったのだ。
座りながら自分の浴衣を着なおしていた梅子は、右側の髪を耳にかけて、ううん、とはにかみながら答えた。
目を細めてそんな梅子の様子を見ていた信郎は、手早く浴衣を体に巻きつけるとゴロゴロと転がり、梅子の膝に顔を埋めながら
腰の辺りに両手でしがみついた。

「…好きだ」
「え? ノブ、何か言った?」

梅子が聞き返すと、梅子の膝の上で今度はゴロリと仰向けになる。

「何でもねぇよ」

ニヤリと笑う信郎に、もう、と言って梅子は頬を膨らませてみせた。
何時までもどかさないでいる信郎の頭を梅子が撫でていると、気持ち良さそうに目を閉じていた信郎がポツリと言う。

「この世はいい事がたくさんある」
「え……」

それは、松子が出産した日の朝に梅子が言った台詞だった。
手を止めてその後の言葉を待つ梅子に、信郎がしっかりとした口調で続けた。

「いつか、子供ができたら胸張って言ってやれるように、俺もっと頑張らなきゃな」

信郎の頭を抱いてうんと頷く梅子の眼の端が、少しだけ濡れていた。






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