この先、何があっても
安岡信郎×梅子


それは坂田の突然の訃報に接した晩のことだった。
降りしきる雨の中をとぼとぼと歩く梅子をただ信郎は黙ってついてやることしか
できなかった。
信郎自身は一度も会ったことはなかったが梅子や竹男、誕生日パーティーに
集まった人達の様子から周囲に慕われる好人物であろうことは容易に想像できた。
特に梅子がここ蒲田で開業するにあたって大いに影響を受けたことは常々
聞かされていたので、その悲しみを思うと何もかける言葉が見つからなかった。

下村家の明かりが目に入ると信郎は少し安堵した。あとは家族に任せればいい。
きっと温かく出迎えて慰めてくれるだろう。
ところが梅子は自宅の前を通り過ぎて医院の中に入ってしまった。

「家に帰らないのか?」
「少し…ここで…」
「俺もいていいか?」
「うん…」

このまま放っておける状態ではなかった。

「どうして…ケーキは何ともないのに人の命なんて…」
「梅子、しっかりしろ!俺たちは生きてる!生きてるぞ!」

思わず梅子の手を握り、そして抱き寄せた。雨に濡れた身体から立ち上る匂いが
鼻腔をくすぐり、信郎の身体の奥が熱くなった。
自分の腕の中で泣き続ける梅子の身体は華奢で小さくて、それでいて驚くほど
柔らかでこんな状況でありながら信郎の心臓は早鐘を打ち始めた。

「ノブ…」
「ど、どうした?」

不意に名を呼ばれて信郎は慌てて答えた。

「ノブは…ノブは、どこへも行かないよね?突然いなくなったりしない…よね?」

暗闇に目が慣れ、窓から差し込む街灯のぼんやりした明かりに照らされた梅子の
瞳は涙に濡れて宝石のように輝いていた。

「…どこへも行くもんか。ずっと、ずっとそばにいてやる」
「ノブ…」

ようやく笑みを見せた梅子に信郎の心の鍵が音を立てて弾け飛んだ。

「梅子…」

信郎は梅子の頬をそっと包み込むと唇を重ねた。

子供の頃からずっとそばにいた少女。あまりに近くにいすぎて意識することさえ
なかった。
自分の気持ちに気付き始めたのは松岡が現れた時だった。「みかみ」で語り合う
二人を見かけて胸がざわついた。
気のせいだと思いたかったが、その後も二人を見かける度に胸のざわめきは強く
なった。
だが所詮自分は小さな工場の跡取りであり、医者になる前ならともかく大病院の
医師となった梅子とでは釣り合う筈もないとその気持ちを押さえ込んだ。
後に二人が正式に交際をしていると聞いた時、そのざわめきが恋心だと改めて
気付かされたが今更どうすることもできず、その想いに鍵をかけた。

その後信郎も咲江と知り合い、その控えめで温かな人柄に惹かれて付き合うように
なり、梅子への想いは過去の物になったものと思い込んでいた。
二人が別れたと知らされるまでは。

「好きだ、ずっと好きだった」

驚いて目を見開いている梅子に気持ちをぶつけ、再び抱きしめた。

「俺はどこへも行ったりしない。お前に何も言わずに突然いなくなったりなんか
しない。だから……」

押し黙ったままの梅子に信郎は自分の言動の重大さに気付いて身体を離した。

「嫌いならそう言ってくれ。顔も見たくないって。まぁ…隣に住んでちゃ無理
だけど…」

次第にしどろもどろになっていく自分が情けなくて、信郎は逃げ出したいような
気持ちになってきた。

「本当に…?」
「え…」
「さっき言ったこと、本当…なの?」
「さっきって…」
「私のこと、ずっと…その…」
「あ、あぁ」

梅子は俯いたままぽつりぽつりと話し始めた。

「今ずっとね、考えてたの。ノブに言われたこと。すごくびっくりしたけど、
今日はあんなことがあったからまだ頭の中がぐるぐるしてるんだけど、すごく…
すごく嬉しいって思ったの。」

意外な答えに信郎は驚いた。

「辛い時なのにごめんな。俺…」
「ううん、ノブがいてくれて良かった。一人じゃどうしていいかわからなかった
もの。それに…ね、さっきノブが…」

梅子は自分の唇にそっと触れた。

「…してくれた時、びっくりしたけど…嫌じゃなかったわ。温かかった」
「梅子…」

梅子を再び抱き寄せて、今度はゆっくりと口づけた。
さっきは無我夢中でなにもわからなかったが、梅子の唇はふわりと柔らかくて
甘くてこの世にこれほど柔らかいものが存在するのかと驚いた。

信郎は思い切って舌を差し入れた。少し驚いたような表情を見せたが梅子は
ぎこちなく応じ、おずおずと背中に手を伸ばしてきた。
その手に勇気づけられた信郎は頬や瞼に口づけた。長い睫毛も、すべすべとした
頬も、絹糸のような髪にも、すべてに触れたかった。

「くすぐったいわ…」

梅子は身を捩らせた。
信郎は首筋に唇を這わせながら梅子のブラウスのボタンを外した。

「えっ…あ…きゃぁっ…」
「うわっ…」

いつの間にか胸元がはだけられていたことに気付いた梅子は慌てて手で押さえ
ようとした途端にバランスを崩してしまい、支えようとした信郎共々床に倒れ
こんでしまった。

「ごめんなさ…」
「大丈夫か…?」

梅子を組み敷いた形になってしまった信郎は我知らず、唾を飲み込んだ。
いつの間にか雨は止んでおり、雲の隙間から月の光が差し込んで梅子の身体を
照らした。
潤んだ瞳が信郎を見つめる。信郎が最後まで堪えていた理性が弾け飛んだ。

「梅子っ…!」

覆いかぶさると荒々しく口づけた。
大きくはだけた胸元からは小ぶりながらも形の良い乳房がこぼれ出た。そっと
手で包み込むとぴくりと梅子の身体が跳ねた。
やわやわと揉みしだくとため息のような、かすかな喘ぎ声に信郎は梅子をそっと
見やった。
信郎の視線に気付いた梅子は恥ずかしくなったのか目を反らし、唇をぎゅっと
噛んで堪えた。

「ーーーんっ…!」

柔らかな乳房の頂をそっと口に含むと耐えきれずに声を上げた梅子の身体が
さっきより勢い良く跳ね上がった。
感じてくれている。男の本能が囁いていた。
毎日のように会っていたというのに梅子の身体は抱きしめると折れてしまうのでは
ないかと思う程にほっそりとしていて、どこに触れても限りなく柔らかく、
ただの幼馴染みと思っていた梅子が大人の女だということに改めて気付かされた。

スカートと下着をするりと脱がせると、おそらくまだ誰も触れたことがないで
あろう秘所に手を伸ばした。
それに気付くと梅子はぎゅっと足を閉じたが所詮男の力に敵う筈もなく、その
侵入を許した。

「やっ…あ…」

柔らかな花弁に触れるとそこはもうしとどに濡れていて信郎を迎える準備が
できていた。

「梅子…」

羞恥に耐えているのか、これから起こることに恐怖を感じているのか、固く
目を閉じたままの梅子に口づけると信郎は梅子の中へ侵入した。

「痛っ…!」
「だ、大丈夫か?」

慌てて抜こうとする信郎を梅子は押しとどめた。

「…ううん、大丈夫よ…」

梅子の目から再び涙がこぼれた。
中は温かくてきつくてすぐにでも昇りつめてしまいそうだったが、背中に
立てられた爪の痛みがかろうじてそれを止めていた。
梅子の痛みが少しでもおさまるようにと信郎は動かず髪を撫で続けた。
しばらくすると痛みが和らいだのか身体の強張りが少しずつ解けてきた。

「ノブ…」
「ん?」

まだ痛みが残るのか、涙を滲ませつつも梅子は細い腕を伸ばして信郎の頬を
包んで引き寄せると、初めて自分から口づけた。

信郎は自分の腕の中で目を閉じている梅子を見つめた。暑い時期ではあるが、
医院の固く冷たい床の上で事に及んでしまったことを今更ながら激しく後悔
していた。せめてものつもりで自分の着ていたシャツを掛けたものの、
今、梅子が何を考えているのかと思うと居ても立ってもいられない心地だったが
思い切って声をかけた。

「梅子…?」

梅子はぱっちりと目を開けた。

「…なぁに?」
「あの…痛かったろ…?ごめん、な?俺、優しくしてやれなくて…その…」
「…ううん、大丈夫…まだ、ちょっと痛いけど…でもね…」
「でも…?」
「ノブをとはずっと一緒にいたのにこんなに近づいたのは初めてだなって」
「そう…だな」
「不思議な気持ちなの。嬉しいなって」

「梅子」
「どうしたの?」

信郎は急に起き上がると梅子もつられて起き上がった。

「明日、おじさんの病院に連れて行ってくれるか?」
「いいけど…どうして?」
「結婚させてほしいって挨拶したいんだ」
「ノブ…」

信郎は梅子をきつく抱きしめた。
この先、何があっても離れることがないようにと。






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