幼馴染
安岡信郎×梅子


「良かった…間にあった」

信郎は、ほぉ〜っと深く息をついた。

父親じゃないと無理だと思われた仕事をやり遂げて気持ちが大きくなっていた。
それで、つい分不相応な仕事を勝手に引き受けてしまった。
もちろん父親には大目玉を食らい、「自分ひとりでやり遂げてみやがれっ」と、木下を手伝わせることまで禁止された。

「やっぱ、この精度の仕事は、俺にはまだ無理だな」

もう2日も寝ていない。
こんな生活を続けたら、幼馴染の言葉ではないが、体を壊してしまう。

う〜んと力いっぱい伸びをしてから、机に体を突っ伏す。
このまま寝ちまうか…。
素直に目を閉じてみる。
…が、仕事をやり遂げた興奮が残っているのか、うまく眠りに入っていけない。

あれこれ体勢を変えてみるが、どれもしっくりこない。
焦れてもぞもぞしている内に、自然に股間に手が伸びた。
思えば最近は仕事に追われるあまり、そういう行為もご無沙汰だった。

今居る場所を深く考えもせずに、信郎はそれを弄び始める。
しばらくぶりなせいか、いつも以上に気持ちがいい気がする…。
反射的に頭に浮かぶのは、木下があの父親に見つからないように隠れて見せてくれた、裸の女性の…。

咽喉がゴクリとなる。
驚いて、あの時は直視できないまま木下につき返してしまったが、もっとしっかり見てれば良かった。
かすかな記憶を懸命に膨らませてゆく。

夢見心地に目を閉じたままで、信郎はズボンの前をそっと広げた。
直接それに触れると、予想以上に敏感になった器官がその快感に応え、グンと手を押し上げる。

繰り返される単純な動き。
上がっていく息。
股間にどんどん溜まっていく甘ったるい疼き…。

あと、もう少しで…。

緊張感が最高潮に高まった瞬間、大きな音と共に工場の扉がガラッと開いた。


「ノブ〜、まだ仕事終わらないのぉ〜」

「うわぁあ!」


予想外の人物の登場に、信郎の頭は真っ白になった。

…よく考えれば、前の仕事の時にも心配して様子を見に来た梅子だ。
木下辺りに今回の仕事内容を聞いて、また自分の体を案じて訪ねてきてくれることくらい、
容易に想像できたことだった。

寄りにもよって、こんな時に…。
間が悪すぎる、さすが梅子だ、と信郎は舌打ちする。

そのクリクリした瞳が、信郎の顔をまず見つめる。
それからゆっくりとその視線が、逞しい幼馴染の体を下りていき…。

信郎は、慌てて握り締めていたものを体に引き寄せ、何とかその存在を隠そうとした。
しかし、滑りが良くなったそれは、主の思いとは裏腹に、ツルリとその手からこぼれ出て…。


開放されたその物体は、見事な角度で、力強く天を指し示していた。



…… こ り ゃ 、 完 全 に 見 ら れ た な …… 。



信郎は次に来る反応を想像する。
そして、全てを諦め、そっと目を閉じた。

「…何してるの?ノブ」

…それを今聞かないのが優しさじゃないだろうか。
いや、両親を起こすほどの悲鳴をあげられなかっただけで、ありがたく思うべきか?

信郎の頭を様々な考えが巡るが…・…ん?梅子にしては、やけに落ち着いてないか??
閉じていたまぶたを開けると、何を思ったか、幼馴染がズンズンとこちらへ近づいて来た。
思わず椅子ごと後ずさる信郎。
梅子は、信郎の間近まで来ると、ストンとその場にしゃがみこんだ。

梅子の目の前で、いまだ衰えぬ勢いを主張している、信郎の分身。

「お、おまっ、何してるんだよっ!!」
「この状態のを見るのは、私も初めてだから…」

研究対象を興味深く眺める学者のように、梅子はまじまじとそれを眺め続けている。

「ふ、普通のは見たことあんのかっ!?」
「そりゃぁ、医者だもの。患者さんのを診なきゃいけない事だってあるわ」

医者って、そんなこともしなきゃいけないのか?大変だな…。
思わず、目の前の幼馴染に感心しかけたが、違う!
その異常な状況を思い出し、信郎は頭を振る。

梅子の目の前に突き出したままのソレを、信郎は急いで下着の中に収めようとした。

…が。

「ひゃ!」

小さな手にいきなりそれをつかまれる。

「確か刺激を与えるのよね。強すぎない圧力で握って、
適度な速度で上下に擦るんだったかな…こんな感じで合ってる?」

自分の言葉を実践してみせる梅子。
わが目を疑う光景に、信郎の頭はもはや完全に機能を停止していた。
そして、そのまま快感に引きずりこまれそうになり…ハッと気付いて、とびかけた意識を取り戻す。

「やめろ、ダメだ、あ、よせ……そこ、いぃ…違う!放せよっ、…んっ」

慣れていないはずの行為を見事に成し遂げてしまう幼馴染。
信郎の口元はやがてだらしなく緩み…ときおり強い快感が来ると、ハッと息をのみ、体を震わせる。

「…気持ちいい、ノブ?」

どこか素っ気無くさえ響く、その声。
患者を観察するように、ジッと自分を見つめる梅子の瞳が浮かんでくる。
梅子…なんかに、俺は…。

あまりに大きな快感の予感に、信郎は覚悟を決める。
もう、何でもいい。
気持ちよすぎる…。

緊張感が再び最高潮に高まった瞬間、大きな音と共に工場の扉がガラッと開いた。


「ノブ〜、まだ仕事終わらないのぉ〜」

「……あ!?」


突っ伏していた机から顔を上げると、そこにはさっきまでとんでもない行為を実践していた幼馴染の姿が…。

「仕事で無理してないか心配して来てあげたのに…居眠りしてたわね?」

不満げに唇をつんと突き出しながら近づいてくる梅子に、
信郎はまたしても後ずさりしかけて…自分の右手がつかんでいるモノに気付いた。

「ちょ、ちょーっと待て。そこを動くなっ」

慌てて握っていたそれを解放する。が、すぐにもう一つの事態に思い至り、思わずその場所を覗き込む。

「…何?ズボンでもキツイの?」
「いや…何でもない」

衣服はキチンと着込んでいたが、微妙に張った布地が気になり、信郎は前屈み気味に椅子にかけ直す。

「…なんか、様子がおかしいなぁ…どこか悪いところがあるのに、隠してるんじゃないでしょうね?」

梅子に間近で覗き込まれて、信郎の心臓が跳ね上がる。
こ、これは梅子だ。フツーの梅子だ。いつもの梅子だ!
呪文のように、そんな言葉を心の中で繰り返す。

「ねぇ、何かあるなら言ってよ。…私、ノブの力になりたいの」

何でそんなむやみやたらと顔を近づけるんだっ。
信郎は梅子の真摯な眼差しから思わず目をそらす。

「私に出来ること、何かない?」

顔にかかる甘い吐息。
肩にそっと置かれた小さな手。

温かなその手に包まれ、導かれて…俺は、あともう少しのところで…。



「…あ…る…かも………ぃやっっ、あああるわけねぇだろっっっ!!!」

「……何よ。もう知らない、ノブのバカッ」



クルリと踵を返し、足早に工場を出て行く梅子を、信郎は、ぼんやりと見送った。


「…ありえねぇよ」

幼馴染が自分とは違う性別であったことに、出来れば気づきたくなかった。
信郎はそう思う。

「寝るぞっ」

言い聞かせるように自分の股間をグッと押し下げると、信郎自身も工場を後にする。


幼馴染として、近くに居るのが当たり前で、
お互いについて深く考えることもなかった2人の関係が、
すこしずつ、その形を変えようとしていた。

ただ、そのことに2人が気付くには、あともう少しだけ時間が必要だった…。






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