初夜(非エロ)
松岡敏夫×梅子


暗黙の了解でひと組だけ敷いた布団
その傍らに松岡と梅子は緊張の面持ちで正座をしていた
俯いて膝に揃えた手を見つめる梅子
一方松岡の手は硬く握りしめられ、じっと布団を睨むようにしている

夫である自分がイニシアチブをとらなければならない、
しかしあの本に何と指南してあったかもうパニック寸前で思い出せない

梅子は梅子で迷っていた
松岡が色恋事に不器用なのは嫌というほど分かっている
青森から帰って来たあの時のように、自分から示さなければならないのだろうか…

二人の沈黙が続く

いったい何分経ったのか、やはりこのままでは何も進まない
ごくりと息を飲むと松岡は、布団を見据えたままだが片手を伸ばし、
隣の梅子の膝にある白い両手を握った
結婚する前でも、ぎこちないながらも手を握ったり、肩を寄せ合ったりと
互いの体に触れ愛情を確かめ合うこともあるにはあった
しかし今の松岡の手はこれまでのどの時よりも熱く、汗ばんでいる
梅子はそっと顔を上げ松岡の様子を伺った
緊張で張り付いた表情が痛々しいほどだ
目はこころなしか充血し唇は固く結ばれていて、
まるでこれから悪い行いでもするかのような、思い詰めた顔をしている
医師である時はどんなに深刻な状況でも取り乱す事はないのに

梅子の中にあの告白の時と同じ愛しさが込み上げて来る

強く握られた手はそのままに松岡の肩にもたれかかる
すべて委ねている…そんな意思表示のつもりだが、臆病すぎる夫は
ちゃんと答えてくれるだろうか

体を預けられた松岡はさらに硬直する
半ば恐る恐る今日妻となった梅子の顔を見てみるが、さっきのように俯いてはいなかった
目は閉じているがしっかりとこちら側を向いていた

これは口づけるべきなのか、
自分より幾つも若い梅子がそうして欲しいと言っているのか…
いつもの癖で思考を張り巡らせようとしたが、ちょうどその時
ああそういえば…あの指南書にまずは抱き締めあって接吻云々と
記されていたと思い出す

そう、きっと事は順調に運んでいるのだ

少し冷静さを取り戻した松岡は、空いていたもう片方の手で梅子の肩を軽く引き寄せ
そっと口づけをした

やっと触れ合うことの出来た唇
梅子はこのまま止まらないで欲しいと思う
このまま自分を松岡のものにして欲しいと思う
しかし余裕のない松岡は、いつまでこうしていればいいのかと
次に取るべき目の前の行動を考えてしまう

そろそろ息も出来なくなるだろう
そう思い一旦離れようと決意したが、
梅子が、握られていた両手をほどき、
松岡の背中に回し、抱き付いた

薄い浴衣を通して互いの体温が通い合う
程なくそれは一つの温もりとなり熱に変わり高まっていく

ああ、そうか…

きっともう、離れてはいけないのだ

梅子の思いも感じとった松岡は、
あらためてそのやわらかな体を抱え込み、ゆっくりと布団の上に横たえた

真新しいシーツに長い髪が広がった
膝を抱えて体全体を布団の上に横たえた
不思議と先ほどまでの緊張が消えつつあった

寒くないようにと上掛けを引き寄せてから松岡が見下ろすと
梅子がゆっくりと目を開けた

「松岡さん」
「なに?」

今はもう互いのすべてが愛おしい

「私、松岡さんが大好き。松岡さんと結婚できて…嬉しい」

恥ずかしがる様子もなくそう言って微笑んだ

「僕も」

梅子への思いが溢れて涙まで出そうなほど目が熱くなる

「君が好きだ。これまでも、これからもずっと」

梅子はこくりと頷くと両手を松岡の首に回した
引き寄せられるように覆いかぶさり熱い口づけを交わす

次に衿元に手を滑らせ細い首すじにも唇を寄せてみる
すると、は…と梅子の口から吐息がもれた
その瞬間、始まったのだ、と二人それぞれが心の中に思う
学生時代から昨日までの恋人という関係は終わったのだ
今この時が、夫婦という、二人の新たな人生の始まりなのだと

白い耳元に口づけながら、松岡の手は梅子の浴衣を優しく辿り、
帯を解いた






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