不可抗力
石原×山田奈緒子


不可抗力



なんちゅう異様な光景じゃ。



警視庁内の資料室。

無機質この上ないこの部屋に恐ろしく不似合いな 熱 熱 熱。

その熱を生み出しているのは紛れもない自分でありそして−−−−



「んっ」
「んんぅ‥っ」
「あっ」

ちゅ、ちゅ、ちゅと軽い水音に混ざり時折聞こえる甘い喘ぎ。

がっちりと両腕を頭の上で押さえ込まれ、冷たいデスクに縫い付けられた状態で それ は、全身に降るキスの雨に耐えていた。



病的とも言える白い肌に
花咲くように広がる黒髪に

ひとつふたつ唇を落とす度 それ は睫毛を震わせて反応する。



空気の冷たさと、相反する身体の熱が妙にリアルだ。
とりあえず、この状況が現実に起きている事だと再認識させられる。



−−−しかし‥

「‥情事じゃけ、名前ぐらい読んだるわ。」

−−なんでこんな事になったんじゃろか?

「‥奈緒子。」

はじまりはこの阿呆がとある事件のファイルを見せぇと警視庁に乗り込んできた事やった。

こいつに関わると大概ロクな事にならん。

じゃけぇ適当にあしらってとっとと帰すつもりやったんじゃ。



‥やったのに、うっかりこいつの前で食いもんの話をしたのが悪かったんかのう‥

連れていけだの餓死するだの殺人犯だの喚かれて、煩わしいけえちょっと黙らすつもりやったんじゃ。

それが間抜けにも机の足に躓いてデスクにこいつを押し倒す形になった。


そしたら茹でダコみたいに真っ赤か〜じゃ!

からかい半分に「ついでじゃ、男女の営みでもしとくか?」と言うたら


コクン


やと!コクンて!



ハッタリかぁ思って試しにどんどん服剥がしても全く抵抗しよらん。
只でさえ足らん頭のネジでも落として来たんか?と不安にもなったが‥



まぁ不可抗力じゃ。

結果的に今わしは なか卯の肉うどん じゃのうて 山田奈緒子 をご相伴に預かっとるっちゅう訳じゃ。

ぉお!我ながら上手い事言っry

「−っありがとうございまっ‥てなんじゃ!」

「黙れ!じょ・情事中にボケッと遠くを見てる奴が居るか!そそれにだなぁ、私だけなんて素っ裸なんだ!!趣味か!?変態!!お前も脱げお前も!」

‥ようそれだけ一気にしゃべれるもんじゃのう‥



わしは半分呆れながら「ハイハイ」とズボンのベルトに手を掛ける。

「全く色気もなんもない女じゃ。センセもようこんなんと付き合っとるのう‥」
「い、今、上田の話は関係ないだろう!」



照れ隠しか?文字通り素っ裸の山田奈緒子は、きゃんきゃんとよう喚く。



「ちいとは黙っとれんのか‥ここは警視庁やぞ。
今のお前は確実に猥褻物陳列罪じゃ。」

「誰が猥褻物だ!!」



ガバっと勢い良く起き上がったせいで、両胸のふくらみか僅かにふるっと揺れる。

それと一緒に桜貝の様な桃色の頂きも。


その儚い揺るぎはA´ならではなんかのう。

‥無いなら無いなりに良いもんじゃな。


妙に感心していると尚もこの阿呆はまくしたててきた。

「大体何を勘違いしてるのか知りませんけど!わ私・上田先生とはなんでもありませんから!」

「あーわかった、わかった。わかったけぇもうちょっとTPOっちゅーのを考えぇ。
やかまししたら人が来る。人が来たら‥お前でもわかるじゃろ。」

「う‥!」

そう少し強い語調で言うと、萎むようにうなだれる。


‥すっかり戦意喪失っちゅー所か。

山田がおとなしくなったのを合図に手早く服を脱ぎ、トランクス一丁でデスクにのしかかる。

ギィと軋む音に、山田の身体が反応した。



そう構えられてものう。

まるでわしが無理強いしとるみたいじゃろが。



「先に言うとくがな。」

「‥何ですか。」

「わしゃ他人のもんは食わん主義じゃ。
それが人情ってもんやからの。
じゃがお前がセンセと なんでもない 言うんやったら‥」

「やったら‥?」

「容赦はせんぞ。
後悔しても遅いけぇ タンマ かけるなら今じゃ。」



今更、怖気づかれても困るんじゃがのー。

内心そう思いながらムスコの様子を確かめる。

まだ、熱はないようだ。



「‥こ」



「後悔なんか、しない‥

‥して、やらん‥」





‥あー。

−−もう、あかん。






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