5分間(非エロ)
上田次郎×山田奈緒子


『あぁyou、俺だ。科技大の上田だ』

「そんなの分かってます。何ですか今日は」

『いやな。今から昼飯を食べようと思っていたんだが、金も胸も色気もない哀れな君にも食事をさせてやろうと思ってな。
どうせバイトもクビになって暇だろ。行きたいと懇願するなら連れていってやってもいいぞ。』

「…なんでバイトクビになったこと知ってんだ上田。
まぁでも、上田さんがそこまで泣き付くんだったら菩薩さまのように美人で優しい私が付き合ってあげても構いませんよ。」

『素直じゃねぇなジャジャ馬。第一どこが菩薩さまのようだというんだ。似てるとこ一つもねぇじゃねえか』

「うるさい黙れバカ上田。
…迎え。来てくれるんですか?」

『あぁ?誘ってやってんだ。大人しくこっちまで歩いて来いよ、いつもみたく。23区内は徒歩圏内だろ』

「この前馴れないヒールはいたら足痛くなっちゃって。しんどいんです。それに歩いていったらどれだけかかるか。」

『ふん、日頃の行いが悪いからそうなるんだ。自業自得だな。』

「……そうですね、そうかもしるませんね。全部私の責任ですよもう電話なんかかけてくんな一人でジャージャー麺食ってろターコ!!」

がちゃん、と壊れんばかりにスケルトンボディな年代物の電話機をたたき付けた。それもこれも、誰の為だと思ってるんだあの男は。

『(ただのバカだけど)天才物理学者』と銘打ってるだけで、中身は無駄にデカくてキョコンですぐ気絶する使い物にならない、いやゾウリムシ以下の男だ。

いつまでたってもしつこく追いかけてくるし、いつの間にか不法侵入やら犯罪紛いの拉致でヘンな事件には巻き込まれるし何を勘違いしてるのか私の事『コイビトだ』とかほざいてるし。
携帯電話や上田の自宅の鍵だって、いらないって言ってるのに勝手に持たせるし。
…左中指に光るこの指輪だって、「君には勿体な過ぎるような代物だがな」とか言って無理矢理はめ込ませるし。
だったら買うなよ始めから私に現金渡せ。家賃払って美味しいもの一人で食べてこんな指輪買うのより有意義に使ってやるのに。




いつの間にサイズなんか調べたんだ、私自身知らなかったぞ。ピンクのダイヤモンドなんて見たこと無かったし。
ただ…、ただ、上田が嬉しそうな顔するから仕方なくはめててやったのに。慈悲深い私に感謝しろ。
ああもう、考えただけで腹が立つ。今日はもう寝てしまおう。あんな人をヒトとも思わない無能なデクノボーなんか忘れてしまおう。

そう思って奥の六畳の和室に移動しようとした瞬間、また電話のベルがけたたましくなった。
無視してたけど一向に鳴り止む気配がないそれを仕方無しに取る。



「ご近所迷惑ですいい加減に切れボケ」

『なぁ、さっき言ってたヒールのってこの前会ったときに履いてたアレか』

「だったら何だ関係ないだろ」

『なら関係あるじゃねぇか。
あー…大丈夫か。』

「今更言うな」

『歩けるのか。何なら車椅子でも持って行ってやろうか』

「いらないって。」



『奈緒子』


電話越しに名前を呼ばれた。
電話の、独特の篭ったかんじの声が耳たぶを優しく愛撫する。

胸がきゅう、と詰まった。
ああ、このバカ上田め。







『5分で片付けて行ってやるから大人しく待ってろ』





そういってがちゃんと強引に切れた通話先に向かってため息を着いた。
ああ、バカすぎて泣けてくる。


上田が来る5分の間、愛亀と愛ハムスターに明日の分までのエサを与えて。
時代劇スペシャルは…上田の家で見ればいいか。

そんなことを考える、タイムリミット5分間の憂鬱。






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