モーニング・コール
上田次郎×山田奈緒子


カーテンの向こうからもれる眩しい朝の光。雀の鳴く声。

「…ん…」

心地よい眠りから目を覚ますと、自分のアパートのそれとは違う真っ白な天井が見えた。

ああ。
そうだ。
また泊まってしまった。

強引でスケベなでかい男に帰ることを阻まれて、また。

ふかふかの毛布の中で寝返りをうつと、その強引でスケベなでかい男は隣でまだ寝息をたてていた。
だいたいいつも奈緒子のほうが遅く起きるので、これはなかなか珍しい状況だ。
まだ半分寝ぼけた目で上田の横顔を見つめる。
規則的な寝息は穏やかで、まだ深い眠りの中にいることを物語っている。

眼鏡をしていないと若く見える、端正な横顔。
間抜けな表情ばかり見てると忘れそうになるが、この男は世間一般の評価としてはわりと整った顔をしていたことに改めて気づく。
そういえば、こんなふうに上田の顔を一方的にじっと見つめたことなんてなかったかもしれない。

持論を得意げに話すときの自信に満ちた瞳。奈緒子を心配するときの真剣な瞳。――愛しあっているときの、優しく見つめる瞳。
いつでも力強く光る大きな目も、今は閉じられている。

あたたかい毛布の中で、音をたてないようにそっと身を寄せてみる。
裸の胸に、上田の鍛えられた腕が当たる。

起こさないように注意しながら、肩に顔を寄せてみた。
頬に感じる体温が嬉しい。腕の筋肉にそっと指先を這わせ、鼻と唇を押し当てる。
ごつごつして温かい腕に身体をくっつけているだけで安心感に包まれていく。

――このまま、また眠ってしまおうか――

でも、せっかく珍しく上田より先に起きたのに。

むくりと顔だけ起き上がると、まだ熟睡している上田の顔を覗きこんだ。
無防備なその寝顔を見ていると、むくむくと悪戯心が沸き起こってくる。

手を伸ばして、高い鼻を摘む。

「………」

反応はない。

「………」

まだない。

「………」
「上田、大丈夫か」
「………ッ」

ようやく苦しくなったのか、首を振って奈緒子の手を振り払った。
しかし一瞬呻いただけで、またすぐに眠りに落ちてしまう。
よっぽど眠いのだろうか。

確かに最近の上田は忙しかった。事件の依頼ではなく、大学の仕事が大変らしい。
昨日だって、夕飯を奢らせたあとでさっさと帰ろうとしたのに(忙しい上田に気を遣って、だ)
なんだかんだ理由をつけて帰るのを阻み、結局…またここで一夜を過ごしてしまった。
疲れてるくせに。忙しいくせに。
それでも奈緒子との時間を減らすことはしない。

「……ばかうえだ」

小さく呟いて、上田の頬にふっと唇を触れさせた。

「………」

もう一度、今度ははっきりと唇を押し当ててみる。

…起きない。

目尻。額。
小鳥のようにふっと軽いキス。
普段、奈緒子のほうから上田にキスをすることは滅多になかった。
イニシアチブをとるのはいつも上田のほうだったし、行為の最中とか事後に上田に要求されてすることはあっても、
奈緒子のほうから積極的に――とは、色んな感情が邪魔して出来なかった。

せっかく私からキスしてやってるのに。

「起きないんですか?」

気づかない上田に、悪戯な笑みが浮かぶ。

さらに上半身を起き上がらせて、上田の顔を真上から覗きこむ。
長い髪がはらりと落ちて一瞬焦ったが、まだ目覚める気配はない。

鼻の頭にそっと口づける。
次は顎に。
伸びた髭が唇に当たってちくちくする。

まだ、起きない。

寝息をたてている、少しだけ開いた唇にも、キス。
…まだ起きない。

ちゅっ

思いきって、小さく音をたてて素早くキスしてみた。
さすがに起きるかとどきどきしたが――まだ、大丈夫。

「いつまで寝てるんだ、上田ー」

そんなふうに囁きながら、再び顔を寄せ、またキス。
柔らかさと温度を確かめるようにゆっくりと。静かに、じっと唇を合わせる。

ほんの数ヶ月前までは、こんなこと絶対にしなかったのに。
キス、してるんだ。上田さんと。

ふいに肩を掴まれて、ぎょっとして目を開けた。
慌てて顔を離そうとしたが、あっという間に身体をひっくり返されてベッドに仰向けに押し倒される。

「ん、んー!」

抵抗する間もなく抱きすくめられ、隙だらけの唇からあっさりと舌が侵入してくる。
ついさっきまでの、甘い砂糖菓子のような口づけとは違う、荒っぽくて強引なキス。
呻きながら、絡まる舌に必死で応えることしかできない。

「ん…ん……あぁ…」

ようやく解放されて目を開けると、上田もまた荒い息づかいのまま見下ろしている。

「〜〜ッ、なにするんですかっ」
「それはこっちの台詞だろ…寝込みを襲うとは…youもスキモノだな」
「なっ!何言って…」
「俺にキスしてたじゃないか」
「ち…違いますよ!あれはただ…寝ぼけてたっていうか…森のフクロウの仕業ですよ」
「どこにフクロウがいる」

そのまま覆いかぶさるようにして抱きしめられる。
恥ずかしさで熱くなった顔と身体が更にほてる。

「上田さん…いつから起きてたんですか」
「…さっきだよ」

すぐ耳元で上田の低い声が響いてくすぐったい。

「さっきっていつですか」
「さっきはさっきだ…まったく、俺にキスしたいなら起きてるときにすればいいじゃないか、照れやがって…」
「だから違うってば!お前、もしかしてずっと起き……んぅ…ん!んー!」

再び塞がれた唇は、また当分解放されることはなさそうだ。






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