小ネタ
番外編


「あぁああああ」

当麻が何やら唸りとも叫びともつかない声をあげて、包帯を巻いた腕を振り回している。

「一体何がしたいんだお前は」

瀬文は苛々と尋ねた。

「だぁってぇ…痒いんすよ」
「何が」
「左手」
「……」

黙り込んだ瀬文を気にも留めないかのように、当麻はへらへらと語る。

「幻痛、っていうんすかぁ?マジであるんすね。
いや、幻痛ならぬ…幻…げん…痛痒、?痒…げん、よぉ?」
「…痛みはないのか」
「んー…あんまし。
でもぉ、なんかこう天気が怪しい日とかムシャクシャした時なんかは…
たまーに、むしょーに痒くてたまんなくなるんすわ。参りますね」
「…痒いか」

何か堪えるような声色で瀬文が問うた。

「だぁからそー言ってるじゃないっすか。
もうこーなると痒くて痒くて…
噛み千切って捨てたいくらいですけど、ないものは噛めませんからねえ」

天井を見上げ、あー餃子喰いたい、と喚く当麻の口に、

「だったら」

ごつごつした男の左手が突っ込まれた。

「これでも齧ってろ」
「…へぐいはん?」
「暫く貸してやる」

数秒沈黙して、おいひくあいっふね、と当麻が嘯いた。

「れもへっかくあんれ、えんろあく」

もぐもぐ、と当麻が口を動かす。
濡れた舌と歯がぐにぐにと指を刺激する。
千切るなよ、と呟いて、瀬文はそっぽを向いた。






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