ひだりきき
地居聖×当麻紗綾


当麻沙綾が一十一と格闘中に重症を負った。まさか彼女が。
動揺している自分に驚きを感じながら病室へと駆け込んだ。
頭に巻かれた包帯、左腕を吊るした三角巾、腕に繋がる点滴のチューブが痛々しいが、
彼女は身体を起こしてカーテンで遮られた窓の外を眺めていた。

「沙綾!」

呼ぶ声に反応してゆっくりとこちらを向く。

「…左利き」

…とりあえずは無事なようだ。安堵と同時に心臓が早鐘を打つ。
これだけ全速力で走ったのも久々だ。両膝に手を当て、浅い呼吸を繰り返す。

「びっくりしたよ。何で黙ってたの?」

何とか呼吸を整え、備え付けの丸椅子を手繰り寄せ腰掛ける。いつも飛んでくるはずの舌打ちが無い。

「CBCにも顔出してなかったから、心配したんだけど」

違和感にも似た物足りなさを抱いたまま、彼女の頬へと手を伸ばす。
このあたりでパンチと暴言が飛んでくる頃合か。
ぼんやりと考えているうちに左手は簡単に頬に触れることができた。
化粧気の無い柔らかな頬が温かい。それでも彼女は黙って俯いたままだった。

「…沙綾?」

舌打ちもパンチも暴言も無い彼女に戸惑いを覚え、俯いたままの顔を覗き込む。
目が合った。口元が微かに動き、掠れた声で「ごめん」と呟く。
何が、と訊ねようとした目の前に差し出される右手。
その手の平の上には途中で切断された銀のリング。
綺麗に切れているところを見ると、恐らく治療のために外されたのだろう。

「…ごめん」

…一体どうしたというのだ。
あの“ニノマエ”を前にしても揺るがなかった彼女が、こんなにも不安定な姿を自分の前で曝け出している。

「…形なんて簡単に壊れる」

思わず右手を取った。彼女は一度だけぴくりと反応したが今にも泣き出しそうな顔をしている。
その表情に、抑えていたはずの嗜虐の感情がゆっくりと覚醒していくのを感じた。

「でも君の気持ちは壊れずに残っていてくれた」

少し癖のある髪を書き分け、耳元で囁く。
左手をそのまま首筋から肩、鎖骨へと這わせ、少し下の柔らかな膨らみへと滑り込ませる。

「ちゃんと、覚えててくれたんだね?」

今の彼女ならば、記憶など弄らなくとも容易く自分に屈するだろう。少し揺さぶるだけでいい。

「ん…っ」

指先を引き剥がそうとする僅かな抵抗をもう片方の手で押さえ込む。
発した声は抵抗なのか肯定なのか。どちらにしても彼女の関心は今自分だけに向いていることに違いは無い。

「…いいコだね」

昂る感情を抑えつけながら柔らかな膨らみを撫で回し、引っ掛かった部分を指先で摘む。
スナップで止めただけの入院着を肌蹴させると、淡い桃色の先端がツンと上を向いていた。思わず顔を近づけ、唇を寄せる。

「…………」

唇が触れる前に眼鏡がぶつかった。彼女は気付いていない。
おもむろに眼鏡を外し、気を取り直して先端を吸い、軽く噛み付くと甘い声が漏れる。

「あん…っ」

左胸に頬を摺り寄せると心臓の音がはっきりと聞こえる。
随分早い。自分を感じてくれているのだと思うと男として素直に嬉しい。
右胸と同じように舌先で転がし、上を向いた先端をつついて甘く噛み付く。
空いた左手は右の乳房を柔らかく撫でていたが、それもそろそろ飽きてきた。
感情は抑えることが出来ても、身体の昂りは容易く抑えられるものではない。

「…物足りない?」

答える代わりにこくんと喉を鳴らす。それが肯定の返事なのは言わずとも分かる。
手の中の膨らみが一回り大きくなったように感じる。

「…そう。じゃあこっちも撫でてあげる」

乳房を撫でていた左手を下腹部へ下ろしていく。
脇腹から恥骨のあたりまで進んだところで小さな声が聞こえた。

「や…っ」

手を止め、顔を上げる。彼女はふるふると首を横に振り、開いていた足を閉じた。

「物足りない、って言ったよね?」

閉じた足の間に半ば無理矢理に左手を差し入れる。
下着は既に十分に濡れていた。その中心をなぞり、指先で押す。

「このまま、ってのも辛いと思うけど」

少なくとも身体は、自分も、彼女も、これ以上のことを望んでいる。
下着の隙間から入れた指先はあっという間に生温かく濡れた。
濡れた指で彼女の穴を探し、その周辺をやわやわといじる。

「やだ、っ」
「やだ、じゃない」

少し強めの口調で言いながら病院着のズボンを下ろし、下着は片足だけを完全に脱がせる。
寒さなのか、羞恥なのか、期待なのか。彼女は小さく震えて生唾を飲み込んだ。

「物足りてないのは、こっちも一緒」

そういう自分のモノはズボンの上からでも分かるくらいに起ってしまっている。
このまま外に出るわけには行かないし、出るつもりも無い。
濡れたままの指先を舐め、ゆっくりと腰を落とした。

入り口に先端を宛がい、少し進めてみると、あまり抵抗無く数センチが呑み込まれる。

「…挿れるよ?」

これならば痛みは少ないだろうか。

「う、ん…っ」

彼女は両目を閉じ、唇を結んでその時を待っていた。
てっきり「待って」とか「やめて」とか言って止めてくるだろうと思えば、大人しく待っているとは。
予想外の反応に思わず笑みがこぼれる。

「…わ、笑うなっ!」
「ごめん、ね。かわいくて、つい」

緊張が僅かに緩んだ隙をついて一気に貫く。声にならぬ声を上げてビクンと身体が跳ねる。
狭い。挿れた瞬間に締め付けてくる。
自分はそれを愉しむだけだが、さすがに病み上がりの彼女には堪えるだろう。

「っ…大丈夫?」
「な、わけ、無い、でしょ、っ」

左腕は点滴が繋がれているため自由に動かない。
ささやかな抵抗だろうか、握り締めたままの右手をバタバタと動かすがその振動はかえってモノを彼女の奥へと導いていく。

「動かないで」

見かねてバタバタともがく右手の手首を押さえつける。

「あと言っとくけど、あんまり声出したら見つかるからね」

ベッドの周りのカーテンには防音の機能など無い。せいぜい気休めの目隠しになる程度だろう。
いざとなれば目撃者の記憶を書き換えるのは容易だが、それを彼女に言う必要など無い。

「大人しくしてればいいから。無理に動かなくていいよ」

頷いたのを見てから挿入したモノをゆるゆると抜く。
吸い付いてくる襞の感触を味わい、抜けるギリギリ手前で止め、再び貫く。
少し早かったか、と内心思ったがここまできたからには進めるしかない。
痛みとも快楽ともつかない声を漏らす彼女の唇を塞ぐ。

「んん、っ」

舌先で割って入った口内は、繋がっている下腹部と同じように生温かかった。
逃げる舌先を絡めとリ、唾液を塗す。
暫く堪能して舌先を抜き、唇を離すと透明な唾液が細い糸を引いて切れた。
ゼイゼイと新鮮な空気を求めて呼吸をする彼女の目つきは「何てことをするんだ」とでも問いたげだ。

「だから、あんまり声出したら見つかるって」

唇に残った彼女の唾液を舐め取り、髪を撫でて宥める。
休ませていた下半身の律動を唐突に再開すると、彼女は慌ててその痛みと快楽に再び備えた。
先ほどよりもスムーズに動き、彼女の喘ぎも先ほどより艶を帯びているような気がする。
挿入の水音と、自分の呼吸と、彼女の喘ぎとが綺麗に混じり始めている。
声を潜めるのもままならないほどに感じていることに自分でも気付いたのか、彼女は慌てて自分の右腕に唇を押し付けた。
響く喘ぎは小さくなったが、逆にくちゅくちゅと響く水音の方がやけに鮮明に聞こえてくる。
彼女も同じことを考えたのだろう、今更ながら頬を赤く染め、抑えきれぬ快感にその身を委ねていた。

「…ひだりきき…」

自分を呼ぶ浮ついた声に我に返る。彼女は熱っぽい瞳で何とか自分を捉えようとしていた。

「何?」
「…中、熱いんですけど…」

言われなくとも分かる。欲望は既に彼女を侵蝕しようと身体の奥底からじわじわと溢れ出している。
押さえつける腕と下半身にグッと力を込めると、モノを咥え込んだ彼女の中は一層強く絞まる。

「…うん、そろそろ、イキそうだ…」

彼女の名をうわ言のように呟いて奥底深くへと欲望を吐き出す。

「っ…あ、っ…あぁーっ」

真っ白になった視界と、耳に残る彼女の嬌声。引き抜いた自分自身が重い。
肩で息を吐き眼鏡をかけると、ぐったりと横たわる彼女の表情がはっきりと見える。
頬にはうっすらと涙の跡。
彼女は結局最後まで自分の名を呼んではくれなかった。
そう思うと、胸の奥がキリキリと締め付けられるように痛んだ。

―…暫くの過剰な干渉は危険か…―

こういう時でも腹が立つほど冷静な“津田助広”の思考は現在の彼女の状態をそう判断した。
このままではあまりにも不安定すぎるため、本来の目的に支障が出てしまう可能性が高い。
“地居聖”の描く筋書きには当麻沙綾という存在が必要不可欠なのだ。

「まぁいいか。今日は十分愉しませてもらったし」

元通りに整えた入院着を纏った彼女は何事も無かったかのように眠っている。
結局最後までずっと握り締めたままだった右手をそっと開く。その手の平の上には切断された銀のリング。

「…………」

少し迷って手に取った。ほんのりと残る彼女の温もりを自身の左手と記憶にしっかりと留める。

「全て終わったらまたボクの所へ戻っておいで」

握り締めた両手で彼女のこめかみに触れ、目を閉じた。

あたしは左利きに銀のリングを差し出した。

「…どうしたんだよ、急に」

左利きが珍しく戸惑った表情を見せる。
一度は受け取ったリングを付き返すんだから、当然か。

「恋とか、愛とかの前に、あたしにはやらなきゃいけないことがある」

左利きはあたしが追っている事件を何となくではあるが知っていた。
知らず知らずの内に口にしてしまったこともあったのだろう。
いつも心配してくれているのも知っている。

「だから、これはアンタが持ってて」

でも、これ以上迷惑はかけられない。

「……わかった」

リングを差し出すあたしの右手を、左利きは少し寂しそうに笑って包み込んだ。

「そういうトコも、嫌いじゃないよ」

あたしの右手に、リングはもう無い。

「ありがと」

左手がじんわりと痛んだ。この左手の代償を、罪を償わせなくてはいけない。

当麻沙綾、あたしは、刑事だ。
当麻沙綾、あたしは、ニノマエとの決着をつけなければいけない。
当麻沙綾、あたしは、

「おやすみ、沙綾」






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