もしも地居当麻のキスシーンに看護師が現われなかったら
地居聖×当麻紗綾


「…ん」

唇が静かに触れ合った。しかし、当麻は特に何も感じていなかった。
何であたしコイツと付き合ってんだろ。
さっきから同じ疑問がぽんぽんと浮かんでくるが、イマイチ頭がぼんやりしていて考える気にならない。
眉を顰めている間に、地居が片膝をベッドの上に乗せた。

「なに?、ちょ」

地居は当麻の細い右腕をその大きな手で掴むと、そのまま当麻をベッドに押し付け自身もベッドに乗り込んだ。
膝を立てて当麻を跨ぐ地居の表情は、行動とは裏腹に気味が悪いほど優しげだ。
眼鏡の奥の瞳に燻ぶるのは、狂気か。
二人分の体重と、安定しない重心で、当麻の代わりに病室のベッドが軋んで悲鳴を上げた。

「…てめぇふざけん」

一瞬の戦慄の後、当麻は我を取り戻してギブスで彼の整った顔を殴ろうとする。
ところが、当麻の右腕を捕えていた手が、素早く当麻のこめかみに触れた。

トン。

「そっちが誘ってきたんだろ?」

当麻の抵抗は、地居にとってみれば、ほんの30秒前の記憶を書き換えれば済む話だった。

「そうだった…かも」

納得のいかない表情を浮かべる当麻に、地居は心配気な顔を作る。

「やっぱやめとく?ついさっきのこと忘れちゃうなんてさ。まだ体調戻ってないんだよ」
「うーん…」

そうする、と言おうとした当麻の口は呆気なく塞がれ。

「でも無理。もうその気だから」

肌蹴た検査服に忍び込んだ大きな手は、しつこく当麻の滑らかな肌を撫でる。
背中に廻ったそれは下着のホックを外し、とうとう当麻の胸を弄り始める。

「…ん。ぁ…」
「ほら、こんな感じやすいヤラしい身体にしたのも全部僕だろ?覚えてないの?」

トントントン。右手で当麻のこめかみを小突きながら、利き手の動きは止めない。
当麻に云い様のない浮遊感が襲う。地居に抱かれている記憶が駆け抜ける。
その浮遊感さえも快感と相俟って、当麻は艶っぽい声を抑えられなかった。

「こんな、鬼畜、…あ、だった、け…」

トントントン。

「好きっていってただろ、こういうの」
「はぁ、…あ、も…やだ、ん…」
「やだとか言うなよ」

トントントン。違和感が湧き上がるも、太腿の内側を撫でる手の動きに掻き消される。
思考が働かないこの状況で、その天才的な頭脳も今回ばかりは役に立たなかった。

「紗綾」

名を呼ぶ声に、当麻が悩ましげに閉じていた目を開く。

「愛してる。殺したいくらいにね」






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