公と死と私の境界線
瀬文焚流×当麻紗綾


特殊能力統合対策本部の8割は名誉の殉職を遂げ。
電車男は逮捕、事情聴取の後、おそらくはデッドエンドへ。
(公にはあの俳優が契約事務所と音信不通のまま行方不明と報道、その存在を隠蔽される)
美鈴の生死も定かではなく、(・・・爆破されたニノマエの拠点にいたとしたら絶望的だろう)
青池は回復に向かいつつあるが今も入院中。
潤の行方は―――未だ不明。


あれ以来、なんの手がかりも掴めないまま。


洗えるだけのデータを洗い尽くし、
ひんやりとした天井に額を当てても、書道のキーワードはこれ以上何も出てこない。

真実は闇だらけのまま。
世にスペックホルダーは日に日に数を増やしつつあるといっても、
その全てが犯罪を犯したり水面上に出てくるとは限らないわけで
不可解な事件もそうそう起こることはない。
未詳は退屈な日々に戻りつつあった。





そんな退屈からだろう。
余計なことが、頭に浮かんでしまう、雑念が生まれる。


「―――瀬文さん」

ぎしぎしと椅子にもたれかかっている。
父と、母と、…陽太と。
4人で撮った、最後の写真をぼんやりと見つめながら。


「―――――――」

パソコンに向かっている瀬文は無言の返事を返す。


「・・・やっぱなんでもないっす」
「―――なんだ」
「なんでもねーっつってんだろハゲ」
「んだとコラ」



チッ、と舌打ちする。
あたしとしたことが、つい安易に口を滑らせてしまった。仕方ない。



「―――んにゃ、その」


ふぅ、と溜息。
フォトスタンドをデスクの引き出しに仕舞う。




「潤ちゃん奪還したらぁ、」


こういうとき、目を合わせられない当麻は天井を仰ぐ。



「・・・その、
ヨリ戻したりしないんかなって。・・・キルビルと」



マウスをスクロールさせていた、瀬文の手が静止する。




深呼吸して。


「別に、ちゃかしてるわけじゃないっすよ」


こっから真面目にシリアスモード。っつーことで真っ直ぐに瀬文を見つめる。



「瀬文さんは」


「瀬文さんは、私を導く光です。
瀬文さんがいるから、今もこうして、
私は私でいることができる」

「今でも迷ってますよ。
刑事である時点で、組織化したSPECの存在を裁くべきなのか。
それとも、SPECホルダーサイドに立った上で世界を見渡すべきなのか。
―――そもそも、こっち側とかあっち側とか
線を引くことに意味なんてあんのかよ、てのが今一番、・・・正直な気持ちですけど」


「でも、迷っている私もまた私であるということを、
気付かせてくれたのは瀬文さんです」

「だから、これからも一緒に戦ってほしい。
つーか死ぬまで付き合わせてやる。ってかもう決めたし」



――――ここで。
肝心なところで、無意識にまた目が泳いでしまうのは


「―――でも、それとこれとはまた別の話で。
瀬文さんには、ごく当たり前の幸せを求める権利だってあるはずじゃないですか」


その、ふとした迷いの内にある、―――『後ろめたさ』から




「―――――――」
「・・・それこそ、平凡な家庭を築く、とか」


『お前も、・・・家庭を持てば、わかる・・・!!』

―――映像が、瀬文の中でフラッシュバックした。
かつて先輩と呼び尊敬し慕っていた男と、銃を向け合ったときのこと。



「あたし、瀬文さんに、自分のことも考えてほしいっつーか」


「ほら、・・・その」

「あたしみたいなんでも、一応は女の体してますから。
・・・この前みたいに、
発散させるだけなら手伝えるし、いくらでも使ってくれて構わないです。けど」

「瀬文さんがいるから、私は自分を保っていられる。
刑事である自分も、SPECHOLDERである自分も、・・・私である私も、立っていられる。
なのにあたしは、・・・瀬文さんにそれ以上のことはしてあげられない。
女としては全然対象外だってことくらいキルビル見りゃわかりますし。それ以前に、」


「何より、・・・私は、時限爆弾付きかもしれないから、」



ダン!!



ビクッ


いきなりのことに当麻は動揺した。
デスクを勢いよく叩き立ちあがった瀬文は、
そのままヅカヅカと斜め向かいの席に回ると、当麻の右腕を引っ張って引き摺るように乱暴に、
どこに連れて行くかと思えば、これまた乱暴に仮眠スペースに放り投げる。



ドサッ


「せ、」

起き上がろうとしたが、上から覆い被る形で組み伏され




ジャキッ


?!




銃口を、喉元に当てられた。



ガチリと、ハンマーの音が響く。



「――――――」


トリガーに、指を



「―――ッハー、ハー、・・・・・・ハー――――」
(―――・・・・・・、瀬文・・・?)

息を荒げている瀬文を、怪訝な顔で見上げる。


怒っている。
どうやら逆鱗に触れたらしい、のは明白だが、
どこがどう失言だったのかがIQ201の頭脳は未だ理解できておらず。



「・・・瀬文さん」
「――――これが、・・・俺達の、―――ハー・・・―――選んだ道、だろ」


きっかけは、ある日SPECに目覚めたから。
きっかけは、単に軍人マニアだったから。

その異なるきっかけが行き着く思いは、希望だとか、正義感だとか憧れ、とか、まぁ似たようなものであって。



職業とは、本来生きる糧を得るためのもの。
しかしながら、彼らの選んだ『刑事』という道は

『公』と『私』の間に、
『死』が挟まれているのである。

生きる糧を得る手段のはずが、皮肉にも常に死と隣合わせ。
そんな矛盾は、いや、そんなリスクは百も承知で


『命、捨てます』

自分の生を賭してまで、
世のため人のためのヒーローになることを選んだ、酔狂な奴らなのだ。




「―――――――・・・・・・」
「―――ハー――――っお前が、・・・・ッハー、ハ―――お前である、ように」




ブチッ


「俺も、俺だ」




力任せに無理矢理ブラウスを破られ
ボタンが一気に弾け飛ぶ。




「あ――――」


その暴力的な扱いに、抵抗する気になれないのは
拳銃を突き付けられているからではなく。


着ていたものを全て乱暴に剥ぎ捨てられ、
当麻は一糸纏わぬ姿にされた。

「・・・・・・・ッ!」

拳銃をその場に放り投げた瀬文は、
ヤケクソのように自分のネクタイを引っ張り解き、
下手したら折れそうな細い体を俯せに組み敷き右手を左手で背中に抑えると、
口で銜えながら片手でそれを当麻の目元にかけ、三重に巻いて結ぶ。


なすすべもなく黒の眼帯を施された当麻だが、
既にもう、このままなすがままになるつもりでいた。


理由は、ここまできてようやく
自分の戯言をなんとなく察した、というのもあるが


(あーぁ、、あたしってこういう趣味あったんか・・・キモ)

地にもたれた顔の横に、動かしようもなく放りっぱなしの左手を黒ネクタイの隙間から見つめながら。
こんな状況なのに、こんな状況だからか
じんわりと、下の口が熱くなるのを感じ取ってしまっている、愚かで淫らな自分を蔑んだ。

ヤケクソとしか言いようがなかった。
ろくな前戯もなしに後ろから、犬のような交尾をした。
片腕ではまともに上半身を支えられず、みっともなく尻を突き出すような体勢で

「、っ、っ、ぁ、んっ」

濡れたとはいえ十分とは言えず、しかも後方位となるとやはり痛い。
痛いが、素直にその律動に応じて息を吐く。

・・・自分は、こんなことくらいでしか
こいつの恩に報いてやることができないと、思い込んでいるから




ポタッ



背中に、雫が落ちてきた。

(――――・・・瀬文、)

ほんの少しだけ、後ろを振り向くと


「ッハァ、ハー、・・・ハー―――、・・・フー」

ネクタイと髪の毛の隙間からでは、その眼(まなこ)までは見えなかったが。
肩で息をしながら、声を押し殺しながら
肉体バカが目から汗を出しているらしいというのがわかった。

当麻が変なことでブレたせいで、瀬文の中もまたブレていた。
我武者羅に前後しながら、頭の中はフラッシュバックの連続だった。



命張って訓練こなして任務こなして、
銀だこ食いながら志村や仲間達と笑い合っていたときのこと。

命捨てます、を合言葉に
里中と酒を酌み交わしたときのこと。


里子と、共に過ごした夜のこと。



・・・・・・



係長に虚偽の報告をして、冷泉を逃がしたこと。

ニノマエと共に津田を確保し、殺されると承知していながらスペックホルダー側に引き渡してしまったこと。

公安零課のスカウトを受け、未詳を守るため一度はアグレッサーとなったこと。


・・・再会した青池を。
あのとき、マンションで
潤のことをたった一人で抱え込んでいた里子を、
一瞬でも抱きしめてやりたいと思ったこと。



――――そして。
あのとき、屋上で
自分には当麻を撃ち殺せないと悟ったこと。

そも、最初から線なんてものはなかった。
警視庁特殊部隊SITに入隊したあのときから。
常に『公』であるしかない、この道を選んだときから、


だが所詮。
人の身である時点で、『私情ヲ持タズ』などということは無理に等しいのだ。



だから、せめて線を引こうとした。
だが、未詳に来てから、あまりにも色々な事がありすぎて、


何が正しいのか、わからなくなってしまった。




『俺は刑事失格だ―――』
そんな自分に、



自分を見失うな。
歴史を正しい方向へ導くこと。
何が真実かは、自分の目で見極めろと。

『心臓が息の根を止めるまで――――』

野々村係長待遇が、教えてくれた。

だから、愚問でしかなかった。
いつしか、笑うことは極端に少なくなってしまったが。
あのとき笑っていた俺も、恋人を愛した俺も、仲間を失った痛みも。
その全てが、今の俺を形成していて

数多くの出来事を経てこいつと出会い、
共に駆け抜けてきたその過程で、最も大切なものをこいつに授かった俺が
計り知れないこいつの痛みを一生涯かけて共に背負うと心に決めた。


それこそが、何よりも大切なことだと。
全部ひっくるめたこの俺の、たったひとつの『思い』だと




―――ギリ、と歯軋りの音が鳴る。
「・・・っざけんじゃ、ねぇ」


だから、ムカツク。
自分は時限爆弾持ちだから?
いつ闇に溺れるかもわからない存在だから、別の幸せも確保しておけだと?

「俺の、・・・全存在を、賭けると」

一緒に背負ってやると、誓ったというのに。
俺と一緒にいて尚、てめぇは
自分を保っていられる自信がないと言うのか・・・・・・!!


「言っただろうがこの餃子女ぁーーーー!!!!」
「、っうぁ、ひ、あっ、ぁ、んあぁああっ!!!!」


怒りのあまり我を忘れ、全て中で吐き出してしまった。


「っはぁ、はぁ、、はぁ」
「ッ、ハァ、ハァ・・・ハァ」

息を、整えながら、

「命、なめんな。・・・俺を、ナメるな」

そう、後ろから吐き捨てた。



・・・と思ったが、

「―――やっぱ舐めろ」

この際だから後始末までさせようと、ボサボサの頭を掴み上げ
こちらに向けて引き抜いたモノを咥えさせる。
涙に濡れた顔を見られたくないので、目隠しはそのままで



(・・・汗くさっ)

舌バカでも正直慣れない味なのだが、当麻は丹念に舐め取る。


「――――バカ、マズ・・・」
「Shut the fuck up,bitch」

跪いた瀬文はその場に放り投げていた拳銃を再び拾う。


今度は、その銃口を口に突っ込まれた。

「・・・ン、っ―――ハァ」
ソレを、なんとはなしに、いやらしく舐め上げてみせる。
鉄の味が、する。
目隠しでよく見えないが、
ソレもまた『瀬文』の一部だ。


リボルバー式なので形状は無骨で凹凸が激しく、
それがなんともエロティックな光景に見えた。


「・・・――――フン」

頬を濡らしたまま不敵に笑う。


「死ぬときは、道連れだ」

ギギ、と。
トリガーに力を込める。

「お前がいるから。・・・お前が、いる限り」


「俺も、・・・もう、ブレない」



ぷは、と、銃口に犯されていた口が解放される。
が、頭は鷲掴みのままぐいと引き寄せられ
ゆっくりと、最後は瀬文の舌を入れられた。


「我ながら愚問、ですたなぁ」



緑色のジャージ姿で仮眠スペースに座る当麻は
足をぶらぶらさせながら、横でぶっ倒れている筋肉バカに声をかける。
やりたい放題されてムカついたので、足払いかけてこかして
治りかけの足を失神するまで踏み倒してやったのである。
結果、見事な顔芸で気絶し、それをドヤ顔で見下してやることができてスッキリした。



「だぁって、よくよく考えたらあの有様ですもんね」


視線のその先には。
ジオラマと、餃子プラモの箱の山。



SPECという重い枷を背負わされて、元より自分は普通の人生など諦めていた。
このバカにはまだ救いがあるのではと、不覚にも雑念の中で勘違いしてしまった。

そんな希望、とうの昔になくなっていた。
結びつきは、あまりにも強く濃くなりすぎた。
こいつは完全に、道連れにする他、ない。
それを気の毒に思うこともない。



暇すぎて、公も私もなく境界線が狂っているこの場所で。




あたし達の人生は、
「もう、未詳と共にしかありえない」


そう、右手で左手を握りしめ、当麻は清々しい笑顔で呟くのだった。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ