絆と手段
瀬文焚流×当麻紗綾


人間が本能で一番敏感に反応するものは


『死』



『性』


であると、何かで読んだ。



(・・・あ、確か吸血鬼マンガだっけ、ヒラコーの)




幾多もの死線を『共に』潜り抜けてきただけのことなのだが



それが、『たまたま』男と、女だったが故に、
動物的な、もうひとつの本能をも


「―――――、っふ」


共有するに至る、のは自然なことだったのだろうか



「―――――っは―――、」


シチュエーションもへったくれもないように見えるが。
今はまだ、ほんの少しだけ荒い息遣い。
女らしい嬌声の響きはない。
コンクリートの壁に向けて押し付けられるような状態で
力が抜けた足だけでは立ち状態を維持できず、
右腕を頭上の壁に押し付けることで身体を支えている
京大理学部卒FBI出身の天才に、
後から覆い被さるように、重なって立つ元SIT司令官。

本来ならば私情禁物、常に刑事という名のペルソナを被っていなければならない
このミショウという場所で、
それを脱ぎ捨て、ただの男と女に成り下がるという『イケナイコト』を共有している、
その背徳感をも興奮剤として共有している。
そのイケナイコトを隠すように、隠れるように、行為は、密かに


男は普通に腕まくりしたワイシャツに緩めたネクタイ、黒スーツのボトム姿。
女の着衣もグレーのスーツで、ほんの少し乱れているだけ。
中途半端に袖だけ通した状態で肩だけ脱げかけたジャケット。
男の手は後ろから、背中から、ブラウスの絹越しに、
身体のラインをなぞりつつ正面の膨らみに到達し


「ぁ、・・・―――んぅ」

撫で回されるのも悪くはないが焦れったい。

「せぶ、み・・・さん、!っあ、ん」


撫で回しから次第に鷲掴みの形になり、
女の象徴であるその膨らみをその両手で捕らえられる。
その男の、しなやかながら指が長く大きな手に
すっぽり収まる程のささやかな大きさだが、
逆にそれが征服感を満たした、被征服感を満たされた。

今この瞬間、こいつは
今この瞬間、自分は

この俺の、所有物になっている。
この男の、所有物にされている―――――


「気持ちいいか」
ゾクリとする。
未だ胸当て越しの布越しからこねられているだけなのに。
耳元で囁く声は、普段より一層低く、違う色を帯びていて、
それだけで、もう一箇所の女の部分はますます熱を持ってしまい、
ますます足に力が入らない。


「!、ひぁ」

そのまま不意に耳朶を舌で噛まれて、少し高い声が上がってしまった。
それでなくとも、耳に、息が、かかって、息遣いが、
男が欲情しているその呼吸がわかって、伝わって


「っはぁ、はぁ、・・・は」
(無理、ぜってー無理)

折角なので(非童貞と発覚した)鉄壁の瀬文がいろんな意味でどんなもんなのかとか
いろいろ検証してみようと最初のうちは考えていたのだが、
常時フル回転で難事件を解決しているIQ201の頭脳は最早回転を諦めた。

理性ってー、最中はこうやって溶かされるもんなんすなぁ、
などとぼんやり思った





いつの間にかボタンを外されたブラウスの隙間から
不意に手を入れられて息を呑んだ。
が、胸当てをずらしただけですぐにその手は引き抜かれ、
今度は絹一枚越しから、両先端を擦り出した。


「ゃ!っそ、ん、だめ、あ、や、」


人差し指で弾くように擦り、かと思えば摘んで転がし、
押し込んだり強く引っ張ったり。
絹越しなのに。絹越しだから?
感覚がおかしくなりそうだ。


「ぁ、や、だめ、ほんと、あ・・・・・・・・・・・・!!」


「―――そうか」
ウィークポイントをひとつ認識した、という意図の言葉だろう。
しかし、手練れそうに見えるこの男は果たして知っているだろうか


女にとって、女の理性の、あるいは無意識な部分のどこかで
その男の存在、パーソナリティが女に対して何か特別な意味をもたらしていた場合、


女は全身全霊が、性感帯に成り得ることもあるのだと。



うなじ、首筋には既に無数の赤い跡。
腰に当たるのは、互いがまだスーツ越しでもわかる、熱く硬くなったモノ。


(せぶみ、さん・・・)



だが、足りない。
欲しいものが、ある。
太腿をさすられても、
耳の後ろから頬筋まで舐め上げられても、
髪の毛を触られるだけでも、
最早どこをどうされても過敏反応してしまう程に
身体の疼きは歯止めが効かず、にも関わらず求めている。



(私は、瀬文さんの・・・)



なんでもいい、どんなこじつけでもいいから



『当麻紗綾』は、『瀬文焚流』の、





「当麻」


どくん、と心臓が鳴った。
女は、ここで初めて『当麻』と呼ばれた。
その声はその瞬間、先刻までの色欲を帯びた男の声ではなく、
いつもの『瀬文』のトーンに戻っていた。


「お前は、俺にとって」


どくん、どくん、どくん
鼓動が、治まらない。
欲しい。その先が、欲しい。
でも、怖い。その先が、読めないから、恐い。わからないから、こわい。

でも、それでも


動物的なこの行為に、なんでもいいから、人間的な意味を、理屈を、


ここで貪り合っている雄と雌が、
生殖本能によるものではなく、お互い単なる快楽を求めるだけの
非生産的なセックスをしていることの弁明を

否、互いに快感を与え、快楽を共有したいと思っていることの理由を


ここにいる男と女が
『瀬文焚流』と『当麻紗綾』であるということ、
その意味の立証を・・・



「俺にとって、かけがえのない存在だ」


ああ、と。
安堵の息が、漏れる。


「だから、お前も」

良かった。
口元が、緩む。


「俺を、頼れ」

そう言って、瀬文という男は、

「ずっと」

当麻という女の、
三角巾からはみ出した感覚のない左手の甲に
自身の左手を重ね、

優しく、だがしっかりと握り締めた。



別に。
お前が好きだ、とか。
愛してる、とか。
そんな言葉を欲していたわけじゃなくて。
いや、別に、意味付けが通るならまぁそんなんでもいいかとも思ったけど。


良かった。
同じ、気持ちだった。


「瀬文さん」


たまたま男と女ではあったが。
恋だとか愛だとか、そんなありきたりなフレーズが安っぽく思えるほど


「私も、です」


複雑な因果の果て、言葉では言い表せないような固い絆で
強く深く結ばれているのだと。

世間一般的には、性行為に及んでおいて
そんな曖昧な言葉で誤魔化すのか、有耶無耶にするのかと
批判されるような言葉かもしれないが


「一生、付き合ってくださいね。唯一無二の相棒として」

これが一番自分達らしい、
ここにいるのが自分達であると証明できる言葉だった。


「ボケにはツッコミがいないと成り立ちませんから」
「ほざけ」
「、!ぁ」

あっこのヤロ
ちょっとぐらい余韻に浸らせろよ空気読めこのハゲ!


「ぁ、や、待っ、まだ」
「何がまだだ、準備万端じゃねぇかこのエロガキ」
スカートは下ろさず、ショーツの隙間から指を入れられていた。
言うまでもないがもうとっくにずぶ濡れ状態である。

十分すぎるほどに溢れ出る愛液で親指を濡らし、充血した敏感な場所を擦りながら、
人差し指と中指を半ばほどに中に差し入れ動かされる。


「っわー、ん、せぶみさん、の、いぢわ」
「うっせ」


瀬文は背後から当麻の横顔に顔を寄せて唇を誘い、
振り向かせて重ね合わせる。


「、――――んぅ」

お互いを確かめ合うように。
ゆっくりと舌を、絡ませながら、角度を変えていく。


(・・・ちゅーしちゃった。意外。まいっか。悪くないし)


あくまで当麻的にだが、接吻だけは恋人同士がするものと思い込んでいたので
想定の範囲外だった。


(―――うん、悪くにゃーだ)

なんとも言えない心地良さを感じられたのでそれも良しとする。
それが何を意味するのか、
やっぱりそういうことも少しは意味してしまうのか、
まぁでもそんな野暮なこと、今は置いておくことにしよう。

(・・・、もういいか)

「挿れるぞ」
「・・・はい」


ずぷり。
いつの間にか取り出された男のソレを、


「・・・申し訳ない。俺は」


女のソコにあてがわれた感触にまたゾクリときたが、


「男として最低かもしれんが」


ソレは、他でもない『瀬文焚流』そのものだから


「生で、繋がりたい。お前と」




思わず、吹き出してしまった。


「そうっすね。『男としては』配慮が行き届いてない台詞っすね」


でも、嬉しかった。
他の女になら、例えば里子に対してなら
この鉄壁男は絶対に、そういう配慮は怠らなかったのだろう。

そんな男が、自分という存在に対して、
素直に自分の望みを打ち明けてくれたことが何よりも、


「でも、今、私が欲しいのは瀬文さんなんで、全く問題ないです」

にしし、と。
いつもの調子で、当麻紗綾として笑ってみせた。

「・・・ったく」

かなわねーな、なんて心中でぼやきながらほんの少し苦笑した瀬文は、
まだ僅かにあてがっていただけのソレを、
下から真上に向かって奥まで一気に突き入れた。

「っ!!は?!!あ?あ゛ーーーーー!!!!バカセブン、いきなり意味わかん、」
「俺とお前の関係で、別に優しくしたり手加減してやる道理なんかねぇだろ」
「な、っなん、や、ぁっ、あっ!っ!」

ありえねー横暴すぎる何罪だ陵辱暴行いやでも合意の上だけどってかいたい痛いって
このチンコの先まで筋肉ガチンコ野郎硬いんじゃハゲーーーーー!!!!!



さすがに初めてだったら多少労ってやろうかと思っていた瀬文だったが、
処女じゃなさそうなことを確認したので遠慮は止めた。
地居の前にも彼氏がいたのかもしれないし、
もし仮にあの地居が初めての相手だったとしても、
それを憐れんだり同情した気になるのはただのエゴでしかない。
何より、俺とこいつとの絆は、
あんな地居聖(ちいせぇ)奴との薄っぺらい偽の記憶より
こんなにもはっきりと、力強く存在している・・・!!

「あ、ィ、いっ、いぃ、イイっ」
「そうか」
「ぉ、ク、奥、と、そのちょっと下、あと、入り口、もっと、擦っ」
「・・・注文多いぞバカ」

立位の状態で、ギリギリまで引き抜いて、また一気に突き上げる、ハイペースでその繰り返し。
並の男なら無理があるかもしれないが、
何せ元SITの体力バカ。この程度で力尽きるわけもない。

「しかし、さすがにやり辛いな」

一旦引き抜き、くるり、と当麻の身体を反転させ自分に向けてひっくり返すと、
邪魔なスカートを床に落とし、

「脚、開け」

その軽い身体を腰に回した左手ひとつでひょいと抱え上げ、
持ち上げた状態のまま支えた。
何故わざわざ左手かって、
今度は右手を当麻の左手に添えてやるためである。
ぶら下がっていた三角巾ごと外側へ返して手首を壁に押さえ付けたかと思うと、
今度は手のひらを合わせる形で、柔らかく指を交差させた。


(利き手ですらないのに片手・・・ほんとに人間かこいつ・・・)

さすがに脇のSPECほどじゃないだろうが、とかどうでもいいことを思ったのも束の間、
今度は正面から、しかも腰が浮いた状態で突き上げられる。

「い゛だぁ〜〜〜〜!!!!!」
「、すまん」
「謝って済むならマッポもデカもいらねーよ先日の矢といい

人のこと何回殺しかければ気が済むんだハゲ!!!!」
突き上げられた衝撃ではなく、
若干斜めに抱えられていたせいで盛大に後頭部をコンクリ壁にぶつけた痛みである。


「事故だ。許せ」
「うるせーてめーエッチ上過失致死罪じゃ暴力ハゲ!!!!逮捕!!!!!!」
「 だ ま れ 」
「!?ぁ、ちょ、嘘、あっ、もうしません許し」
「許さん。イッちまえ。つか死ね」
「っ!!!あ、ゃん、や、ぁあ、っぁあぁあああああああーーーーー!!!!!!!!」

振り幅はそのまま、一気に躍動ペースをMAXにされ、全身貫かれる錯覚に陥るほどに
一番奥に、一番激しく突き上げられたと思った瞬間、
当麻の意識は真っ白になり、そこで果てた。

「・・・っ!!!・・・・・・んぬっ」

瀬文はというと、自分が達するギリギリの瞬間で奥から一気に引き抜き、
既のところで外出しを成功させる。

「ふー・・・・・・」

熱い。
心頭、滅却。
汗まみれの体が、コンクリ打ちっぱなしの部屋の空気で冷えていく。

男の本能とは、行為を終えた瞬間から急速に冷めていくものである。
ただ、指も動かせず握り返されない、こいつの左手の感触は。
いつまでも、あたたかく感じられた。



ぼーっと、天井を見つめている。
当麻は仮眠スペースで横たわっていた。
はだけたままのブラウス1枚だけを羽織って、毛布をかけられた状態。
瀬文はその横で座っている。
いつもなら胡坐をかいたまま地蔵のように動かないのに、
珍しく手持ち無沙汰なのか、無造作に片足を曲げた座り方をして、右手でネクタイを弄んだりしている。

背を向けられているのだが。
左手は、今も繋げられている。

触覚はもうないけれど。
視覚でそれを確かめることができて、良かった。

「瀬文さん」

背中に向けて声をかける。


「もし、あたしが」

瀬文の、意外に白くて綺麗な手に握られた、
フランケンのような醜い左手を見つめて、笑う。


「いつか、モンスターになったら――――」





遮られた。
つか、殴られた。しかも顔。
バキっつったよ今。バキっと。


「・・・・・・・・ってーーーーーー!!!!!」
「させるかよ」


ぱちくり。と目を見開いた。

「魚顔。なんでこうして手を添えてると思ってんだ」


えーと。
言いながらもそっぽ向いてるのは、その、恥ずかしいわけ?

「俺が抑える。
いつか、お前のSPECが暴走しお前を食い尽くすと言うのなら。
絶対に食い止める。お前という存在を、俺の全存在を賭けて守る。
・・・俺の魂ナメんじゃねーぞ」


「――――――――――」


筋肉バカ。
具体的にどうすんだっつーの。
何も考えてねーだろ。また気合か。ゴッドハンドか。
・・・でも、


「――――はい」



今この瞬間だけ。
ほんの少しだけ、理屈を忘れて本能的に、
そこにいるだけで安心して眠れるという、不可思議な現象を実感しよう。






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