柄にもないこと
瀬文焚流×当麻紗綾


荒い息遣いが未詳部屋に響く。
打ちっぱなしのコンクリートはひんやりとしていて、どんな些細な音をも反響させてしまいそうだ。
その非日常感に、ふたりは夢中になっていた。
引き締まった筋肉に汗ばんだ肌、慣れない当麻をところどころ気遣い、優しい口づけをくれる。
行為中の瀬文は、当麻にとっては嬉しい発見だった。
ゆっくりと当麻の中に瀬文が侵入する。
圧迫感と満足感を同時に感じながら、当麻は柄にもないことを思った。

このまま時が止まってしまえばいいのに。

瀬文は繋がったまましばらく動かなかった。
ん?おかしいな?閉じていた目を開くと、瀬文は挿入した状態で止まってしまっている。
まさか。

「姉ちゃんも女だねぇ。やっぱ瀬文さんのこと好きだったんじゃん」
「陽太!」

止まった瀬文の背後から、弟がぴょこっと顔を出した。

「あんた、何してんの」
「姉ちゃんが願ったんだよ?時が止まればいいのに、って。
ほら言ったじゃん。僕はいつも姉ちゃんのそばにいるよ」
「なるほどそうか。って感心してる場合じゃねえ!さっさと戻せよ」
「やーだね。面白いじゃん。ねぇねぇエッチ中に時が止まるってどんな感じ?」
「この童貞!死ね!」
「いやもう死んでるし」
「くっそ…」

なんという弟なのか。
当麻は先ほどの自分と、自分のスペックを呪った。

「姉ちゃん、どうしてほしい?」
「だから早く戻せって」
「じゃあー、ひとつお願いきいて?」
「なに」
「いったん瀬文さんの抜いてさ、そこでオナニーしてよ。イったら戻してあげる」
「はぁ?」
「だって姉ちゃん、セックスでイったことないでしょ?」

図星を突かれた当麻は、一瞬返答に迷った。
瀬文の行為はとても優しく思いやりもあって、快感も高まるのだが、実はまだ絶頂を体験したことがなかった。
なぜお前がそんなことを知っている…
当麻は弟にどこまで知られているのかと考えると、薄ら寒い心持ちになった。

「そんなのどうでもいいから、早く消えて。そして肝心なときに出てきて」
「酷いな姉ちゃん。イきたくないの?」
「つかあんた、いつからそんなに性欲強くなったの」
「思春期の男子なら当たり前じゃん。あっちの世界にはエロゲーもないし」
「とっとと消えろこのバカ」

こんなやり取りをしている暇はない。
あたしはひとりでなんかじゃなく、瀬文さんと一緒に高まりたいんだ。
そう思って当麻は、左手に力を込めた。


「当麻?大丈夫か?」

瀬文は少し切なそうに声をかけた。
いつもよりも当麻の中がきつく、熱を帯びていて、瀬文としてもいつもの余裕はなかった。

当麻は、こくこくと肯くだけで言葉を発することもない。顔が真っ赤だ。
ちょっと変な感じもしたが、もともとこいつは変なのだし、何よりも今日は我慢ができそうにない。
とりあえず問いただすのは終わってからでもいい。
瀬文は抽送の速度を早め、当麻を強く抱きしめた。

「せ、ぶみ、さん…!」
「とうま…」

吐き出す瞬間、当麻の中も一層きつくなるのがわかった。
ふたり折り重なって息を整えていると、当麻は瀬文にぎゅっとしがみついてきた。

「瀬文さん…すごく、よかったです」
「…俺も」

瀬文は当麻の耳元で囁き、そのまま柔らかい耳たぶに口づけた。

「良かったね、姉ちゃん」

弟の声が、当麻には聴こえた。






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