酒と未詳と男と女 続編(当麻視点)
瀬文焚流×当麻紗綾


「いやじゃないのに、こまるのか?」

そう言うと瀬文さんは立ち上がり、床に座り込んでいたあたしを抱えてベッドに座らせた。

さっきまでふらふらしてたくせに、

と思った隙に、またキスをされる。

うわ、なんだこれ、瀬文さんエロいなぁ、キスってこんな、舌とか、すごい、そんなとこ舐めるんだ、へー、すごーい。

さっきは驚いて頭が回らなかった分、2度目は観察・分析をする。
物事を俯瞰的目線で見てしまうのは、あたしの癖だと思う。つくづく理系だ。

「おまえ、なんかかんがえてるだろ」

野生の感か。さすが筋肉バカ。

「瀬文さんエロいなとか思ってただけです」

少し冷静になって、余裕が出てきたら、なんだか可笑しくなってきた。

瀬文さんとキスとか、ウケる。このままセックスするのかな?瀬文さんの筋肉、ちょっと見たい。そうかセックスかー。キスも全然嫌じゃなかったし、なんか段々ワクワクしてきた…

「おい、にやけるな」

無意識に笑っていたらしい。

「だって可笑しくないですか?瀬文さんはあたしとこんな事するなんて、考えたことありま」
「いちみりたりともなかった」

この野郎、喰い気味で答えやがった。

「だがいまは、おまえをだきたい。こまるか?」

瀬文さんは、あたしの目をまっすぐ見ながらそう言った。

まったく、この男は。感が鋭いなら、今あたしが困ってなくて、むしろもう一度キスしたい、とか考えてることくらい分かれよ。

「シャワー貸してください」

予想外の返事に訝しげな顔をする。

「あと、優しくしてください。あたし、はじめてなんで」

ここまで言って、やっと気付いたのか、瀬文さんは

「わかった、やさしくする」

と言って薄く笑った。



瀬文さんがあたしを抱えて揺さぶる。

「あっ…やっ、あ、あんっ…んっ」

汗が冷えたのか、瀬文さんの肌は冷たくて気持ちがいい。
でもそこはとても熱く、鋭い目線と伴ってあたしをおかしくさせる。
何か考えようとするあたしに「かんがえるな、かんじろ」と言って目を合わせてくるもんだから、思考は形にならず、それが誰の言葉だったかも思い出せない。

冷たい肌、中の熱さ、互いの息づかい、濡れた音、軋む体。
それらがあたしを支配して、意味のない声が漏れる。

「っあ、んっ…はっ、ああっ」
「とうま…っ」
「ん、ふぁっ、あ、……あっ、ん、せぶみ、さ、んぁっ」

限界が近いのか、動きがいっそう激しくなる。
夢中でしがみつくあたしを強く抱き締めて、瀬文さんは果てた。



「瀬文さんすごいっすね!ほんとに優しかったですよ。痛くも怖くもなかったですもん。これは瀬文さんが普通より凄いってことですか?経験が多いんですか?体力は人並み以上なんでしょうけど」

終わったあと、高まってしまったあたしは、考えが全部口から出ていた。
瀬文さんに怒られるかと思いきや、眉間にシワを寄せて黙っている。

「つーか瀬文さんなんすかブルースリー気取りすか。あのシチュエーションであのセリフおかしいでしょ。そういやなんで途中から紗綾って呼んでくれないんですか、瀬文さん聞いてますぅ?顔が怖いですよぉ、ねぇねぇ〜」

顔を覗きこんでまとわりついてみたら、ふいに手を握られた。

「聞いてる。痛くなかったならよかった。普通の基準はわからん。経験は多くはないと思う。体力はある。ブルースリーは嫌いじゃない……これで満足か、紗綾」

思ったよりちゃんと聞いてた。でも眉間のシワがそのままだ。

あたしが黙っていると、瀬文さんは噛み締めるように

「……今日は、すまん。次は、飲まねえ」

と言った。

酔ったことが引っ掛かってただけか。まったく瀬文さんらしいな。ていうか次があるのか。
そっか、次か。

「んふふふふ」

顔がニヤける。次は、いつなんだろう?

「気色の悪い声を出すな」

頭を叩かれる。でも全然痛くない。
あたしと瀬文さんの間の、色んな変化が嬉しくて仕方ない。

「瀬文さん、あたしたち、両想いってやつですかね」

はしゃぐあたし。

「知らん。寝るぞ」

冷たい瀬文さん。でもあたしの手は握られたままだ。

「電気消さないでくださいよ。あ、瀬文さん、おやすみのちゅーは?ちゅー」
「うるさい」

キスの代わりに、ぎゅっ、と抱き締められる。
ああ、なんか、安心する。

そうしてあたしは、瀬文さんの腕の中で、ゆっくりと眠りに落ちていった。






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