妙なカレー味
瀬文焚流×当麻紗綾


その日も瀬文と当麻は残業であった。

最近目立った事件もなく暇な未詳は、暇が故に他の課から例えばデーター入力など、面倒な雑用を押し付けられ、結果理不尽な残業が続いていた。

瀬文は黙々とパソコンに向かっているが、当麻といえば全く仕事に集中せずむしろ暇そうである。


この残業続きは絶対あいつのせいでもあるな、と瀬文は舌打ちをした。

しかし。
非常に物凄く不覚にも、このだらっとした日常を当麻と過ごすことは心地よかった。


ただ、その事実が意味することは断じて認めたくなくて知らぬふりをして日々を過ごす。


ふと、当麻が席を立ち炊事場のほうで何かゴソゴソとしている。
初めは無視して放っておいた。

しかし当麻が、

「瀬文さんも食べますよね」

と言うので何かもの凄く嫌な予感がして様子を見に行った。

「おまえ、何してるんだ」
「だからぁーカレー作ってるんすよ、わざわざ瀬文さんの分も」

確かに鍋の中身はカレーだった。当たり前のように餃子が入っているのは別にして、さほどまずそうにも見えない。
が、鍋の隣に良からぬ物を見つけてしまった。

「待て、まさかこれ…」

瀬文が指した方には、はちみつ、マヨネーズ、のりたま、ジャム、など当麻愛用の調味料が置かれていた。

「入れてないっすよ。入れたら味分からないっすもん。後でかけるんです」

ふふん、とドヤ顔で言う当麻を瀬文は不信感丸出しで見遣る。

「疑ってますね?じゃあ味見してみなっせ。はい、あーん」

そう言ってカレーをスプーンにすくって差し出す当麻にギョッとした。

「やめろ。魚顔」
「今魚顔関係ねーだろ!あっ瀬文さんもしかして、あーんが恥ずかしいんですかぁ?」

当麻がにやにやしながら言う。
…相変わらず距離が近い。

「そんなわけないだろ」
「じゃあ食べて下さいよーねぇねぇー」

そう言って当麻はスプーンを近づけてくる。

「…自分で食う、よこせ」

当麻の腕ごとスプーンを引き寄せて口に入れた。

………
………まずっ!!


とりあえず殴ってやった。
そして当麻を思いっきり睨むと、殴られたというのに悪戯を成功させた子供のように満足げに笑っている。

ムカツク。

それと同時に、あと少しで触れそうな当麻との距離をもどかしく感じた。

「…おまえも食ってみろ、この味バカ」

瀬文はそう言うやいなや、当麻の握ったままだった腕をもう一度引き寄せ、そのまま口づけた。


強引に当麻の唇を舌で割り入れ絡める。歯列をなぞり咥内を吸うと、当麻の体は小さく震えた。
少しからかってやるだけのつもりがつい夢中になって何度も当麻の唇を吸う。

「…ぅん…ん…」

当麻が苦しそうに息をもらしたので、唇を離した。

当麻は顔を紅潮させ、はぁはぁと肩で息をする。


「……バカうま、じゃないっすか」

潤んだ瞳をして、当麻はまだそんなバカなことを言ってくる。

「……もう黙っとけ、バカ」

再び口づける。
拙いながらも瀬文のキスに必死で応えてくる当麻にひどく興奮した。

たまらなくなって今度は耳から首筋へと舌を這わす。

「んあっ…やっ…だめ…」

当麻は感じやすいのか、普段からは考えられない声をあげる。

どんだけギャップあるんだ、と思いつつ、キッチンを背にしていた当麻の上半身をそのままそこに押し倒す。

瀬文はもっと当麻を感じさせたくて、彼女の足の間に自分の足を割入れて距離を詰め、腰から脇の辺りまで体のラインをなぞった。


「ひゃっ…!あぁっ…ぁ」

服の上から胸を揉みしだくと、びくんと震えて声をあげる。
当麻は声を抑えようと唇を噛む。

瀬文はまた当麻に口づけ彼女の唇をこじ開ける。

「…んっ…んっ…」


いつの間にか妙なカレー味は消え、ひどく甘ったるい味がした。

ぐつぐつと音をたてて煮立っている鍋の火をカチリと切る。
左手で当麻のスカートをたくしあげ太股を撫で、右手でブラウスのボタンを外す。

「せぶみさ…ぁあっ」


きっと、ずっとこうしたいと思っていた。

当麻が欲しくてたまらない。


「あっ…あんっ…あぁ」

瀬文は夢中で愛撫を続ける。こんなところでこんなことするつもりもなかったが、どうにも止まらない。

せめて仮眠スペースに場所を変えようと、動き出そうとしたその時、


グォォォン

「「!!!」」

「あ〜こんな時に忘れ物なんてついてないな〜早くしないと雅ちゃんに怒られちゃう」

野々村は独り言を言いながら未詳に上がるゴンドラに乗り込んだ。

(あれ、電気着いてる。まだ誰かいるのかな〜)

そうこう考えているうちにゴンドラは未詳に辿り着いた。

「ご苦労〜…ん?」
「当麻くん、何してるの?」

野々村が未詳に一歩踏み出すと、炊事場の近くでペたりと座りこんでいる当麻が目に入った。

「柔軟体操っす」

そう言って当麻は腕を伸ばしだす。


「……瀬文くんは何してるの?」

「自分、カレーを作っております」

確かに瀬文はキッチンで鍋を勢いよく掻き回している。

(…………)

2人ともなんだか様子がおかしい気がした。
が、当麻くんがおかしいのは今に始まったことじゃないし、とりあえず障らぬ神に祟りなし。

「じゃ、じゃあ僕行くからね。君達ももう遅いし帰ったほうがいいよ。」

「はい、おつかれやまです」
「おつかれ山脈〜」

「「………」」


「…瀬文さん、鍋、まぜすきです」
先に当麻が口を開いた。

「…おまえこそ、席まで戻れって言ったのになぜ床に座る」

瀬文は誰かが来る音に素早く反応し、当麻の着衣の乱れを直してやり、急いで当麻をその場から離れさせようとした。

とりあえず係長には不審がられなかった、と思う。たぶん。

当麻は、床に座りこんだままどこか挙動不審だ。

訝しげに彼女を見遣ると、当麻がふて腐れた顔で口を開いた。


「……腰が抜けてたてなかったんすよバカ瀬文っ」

キッと瀬文を睨みながら当麻がボソリと呟いた。
そんな当麻を可愛いと感じてしまう自分はいよいよ頭がおかしくなったか、と瀬文は思いながらも座っている当麻を抱き起こした。

「……もう、帰るぞ」

そう言って当麻の手をとった。

「…はい」

握り返されたその手は思っていた以上に小さく、温かかった。


次の日、二人して遅刻したため、係長の疑惑を深めたのはまた別の話である。






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