仕方なく
瀬文焚流×当麻紗綾


あの事件から数ヶ月たった日のことだった。


非常に不可解だ。

瀬文は溜息を吐いた。
何故か餃子女が自分の部屋のベッドで爆睡、いや、うなされている。


ボカッ!

「当麻、いい加減起きろ!」
「…ぃってーなぁーなんすか瀬文さん。今何時すか。てかここはどこですか。」

殴られた頭をさすりながら、当麻はベッドから体を起こした。

「寝ぼけてんじゃねぇよ。今は夜中の1時32分だ。そしてここは俺の自宅だ。先に言っておくが、おまえが酔い潰れて終電を逃しどうしてもとうるさく、しつこく言って聞かないから"仕方なく"入れてやったんだしかも勝手に人のベッド使いやがって、感謝しろ」

"仕方なく"を強調し、一気にまくし立てた。


「あぁ、そういやそうでしたね。どうも」

だいぶ刺を含んだ瀬文の言葉にいつものように反論の2つや3つは来るだろうと、瀬文は身構えていたが、当麻はいつになく素直に礼を言った。


「……おまえ、なんかあったか?」
「なんすか?あたしが礼言ったらおかしいですか?」

チッと舌打ちをして当麻が言う。

「そうじゃなくて、…うなされてたぞ」


当麻の顔が引き攣った。

「いや、言いたくないなら別に聞かない」

心当たりはありすぎるほどあるし、今それを蒸し返したくもないだろう。

余計な事を言ってしまったか。
そう思って瀬文は立ち上がり当麻の傍から離れようとした。
が、しかし当麻に服の端を弱く引かれた。


「…夢、見ました。左利きに抱かれてる夢」

当麻は何でもないように軽く言い放とうとしたが、声がかすかに震えていた。

「、……」

瀬文は何か言おうと言葉を探すがが何も口にできない。
しかし、黒い感情が心の端に渦巻いたのが分かった。

「…はじめは、何が真実で、何が嘘なのかはっきりとは分かってなかったんですよ。
何せ1年以上も記憶を改ざんし続けられたんで。」

当麻が淡々と語りだす。

「でも最近色々思い出してきて。どこまで嘘で、…どこまで本当だったのか。」

瀬文は思った。
きっとこの話の先は自分が聞きたくない類だ。
それでも、当麻が珍しく自らを語るのを遮ってはいけないと思い黙って聞く。

当麻があの事件関係のことを話したのは初めてだった。

「…左利きと付き合ってた記憶の中では勿論キスもその先もしてたんですけど、それは全部嘘です。奴の妄想です。キモッ!」

「…だけど左手を奪われて、その後本当に抱かれました。記憶って怖いですね、あたしあいつを好きなんて思ったことないはずなのに、書き換えられて疑問も抱かずに……夢にまで出てくるなんて本当さいあ「とうま、」

当麻の言葉を遮り、勢いよく腕を引き寄せ、きつく抱きしめた。

「…ちょっ…せ、瀬文さん。痛いっす」

当麻が困惑しながら言うのを無視して、さらに当麻を抱き寄せる。


地居の野郎…
当麻はあまり気にしていないように言うが、そんなはずあるわけない。
あいつだってまだ若い普通…ではないが、女なのだ。
あんなことがなければもっと違う普通の幸せな人生があったはずだ。


未だに当麻を苦しめる地居への怒りがふつふつと沸き上がる。

しかし、瀬文はそれとは別の感情も自分を支配していることにも気づいていた。


「瀬文さん?」

抱き合ったまま黙り込んでいる瀬文を当麻は見上げて問いかけた。

瀬文は常から理性的で冷静なほうだった。
しかし今はこのもやもやとした感情をどうにも抑えることができない。

―…どうかしてる。


「…当麻…、他の奴に、触られんな」

そう言って当麻の唇を奪った。


これは、嫉妬か。


瀬文は噛み付くように口づけた。僅かに開いた当麻の口に舌を割り入れ咥内を吸い上げる。

「…ん…はっ」

当麻から息が漏れる。
抵抗してくるだろうと思っていた彼女は、少々不器用ではあるが舌を絡ませてくるので瀬文は一層気持ちが高ぶる。


しばらくの間夢中でキスをした。

やっと唇を離すと当麻は頬を僅かに紅潮させて肩で息をしていた。

「…せ…ぶみさん」

多少呂律が回っていない当麻が言う。

「…悪い、いきなり。」

お互いの言いようのない気持ちにはお互いなんとなく気付いていた。
しかし、強引にしてしまった罪悪感から瀬文がそう言うや否や、当麻は瀬文の腰に手を回しぎゅっと抱き着いた。

「…あたし、瀬文さんがいいです」

瀬文はその言葉の意味を一瞬考え、そして理解したと同時に、当麻をベッドに押し倒した。

さっきよりも深く、むさぼるようにキスをする。
当麻から時折鼻から抜けるようなくぐもった声が漏れる。

当麻の声を聞きたくて、胸を撫で回し、服の上からでも分かるほど立ち上がった突起を強く摩ってみる。

「…やっ!あん!」

当麻から高い声が上がる。その声が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして声を我慢しようと身をよじる。

「…声、我慢するな」

当麻はいやいやというように首を横に振るが、そう言われると余計感じさせたくなる。

当麻のブラウスのボタンを外し、下着をずり上げ胸を直接揉みしだいてみる。

「あ…あ…ん…っ…っっ」

紅く色づきぷくりと立ち上がった突起を口に含み舌で転がしたり、甘噛みしながら、スカートの中に手を入れる。

当麻の素肌はすべすべしていて心地好い。
太股を撫でただけで彼女はビクリと震え、足をすり合わせた。

スカートをめくり上げ、そこを摩ると既にしっとりと湿っていた。

下着の中に手を入れ、当麻の敏感な場所に振動を与えると当麻は体を弓なりに反らした。

「…っあぁ…あ」

下着を脱がせ、当麻の中に指を入れるとそこからはとめどなく密が溢れる。

「やぁんっ!はっ…ん!」

指を動かす速度を上げ、攻めたてると、声を我慢するのも忘れて一層高く喘ぐ。

「あっやん…だめ…だめ…イッ…あぁぁ!」

そのまま当麻は上り詰め、くたりと果てた。

あられもない姿ではぁはぁと荒く呼吸をする当麻は、普段からは想像もつかないほど色っぽい。

瀬文は自分でも驚くほど興奮していた。

こんな当麻をよりによっても地居だか津田だかとにかくあんな最低野郎に…

言いようのない感情が込み上げる。

「…当麻」

呼びかければ当麻は涙目で懇願するように瀬文を見つめる。

「せぶみさん…お願ぃ…っぁ」

当麻の首筋に顔を埋め、きつく吸い上げ真っ赤な跡を残した。


「当麻、俺が忘れさせてやる」

瀬文はそう言って一気に自身を挿入した。

「ひゃっあぁぁっ!」

当麻の中はきつく瀬文自身を締め付ける。

…やばいな。

性行為自体が久しぶりなせいもあるだろうが、当麻の中は半端なく気持ちいい。

たまらず、律動を開始する。

「はあっ…あっあっ…せぶみさんっ!せぶみさっあっ」

せぶみさん、と熱に浮かされたように自分の名を呼ぶ当麻を愛おしく感じた。

瀬文は当麻のいい所を探し当て、突き上げる。

「あぁぁん!やっ!」

当麻は込み上げる快楽をこらえるように、瀬文の首にしがみついた。

夢中でお互いを求めた。
足りなかったものが満たされていくような気がした。

「あっ…瀬…文さっ…もっだめ…だめ…またっぁあ!」

瀬文もそろそろ限界が近かった。


「とうまっ…!」
「あぁぁぁっ!」

「瀬文さん、さっきの言葉、あたしどう受け取ったらいいんですか。」

情事後、瀬文のベッドで共に寝転びながら当麻が言った。

「さっきのってなんだよ」
「俺以外に触られ「言うな」

瀬文は当麻の言葉を勢いよく遮り、体を背けた。

「今言えって言っただろーが。なんなんすか。照れてんですか。てかこれ、どーしてくれるんすか。この位置じゃあ見えますよ」

当麻は紅くなった首元の辺りを指して言う。

「……」

ねぇねぇ無視っすか、瀬文さーん

当麻は瀬文にすり寄っていく。

瀬文は溜息を吐いた。
そして背けていた体をくるりと当麻に向き直り、ぎゅっと抱きよせた。

「うるせぇ。…俺のものになればいいだろ、バカ」


一瞬きょとん、とした当麻は嬉しそうに笑い、瀬文を抱きかえした。






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