やけ酒
井上薫×笹本絵里


笹本絵里は自分の仕事に誇りを持っていた。あまり女らしい職業とは言えなかったが、恋愛だって積極的である。容姿にも自信はあったし、男に媚びるばかりが恋じゃないと思っていたから。
しかしその彼女は一人夜中にロッカールームのソファでなぜかやけ酒を飲んでいた。

「笹本さん!なにしてんすか!」

入って来て驚いたのは同僚の井上薫だった。長引いた仕事が終わったところらしい。

「見りゃわかんだろ。やけ酒」
「いやここ仕事場ですよ!誰かに見られたらヤバイですって」

薫がとっさにドアの鍵を閉めるのに振り返った時、小さな声で絵里は言った。

「今日SPやってるって理由で男にフラれたんだ。あんな器の小さい男別にいいけどさ…なんか仕事バカにされたみたいで…最近事件続きだったしなんか疲れちゃって…」
「それでやけ酒ね」
「せきさば…」
「え?」

鍵をかけた薫は、とりあえず缶ビールを没収しにつかつかとやってきながら不思議そうな顔をする。

「あんた、せきさばみたいに身がしまってんな…今まで気にしてなかったけど」

薫は缶ビールを取り上げ、そうっすか?と笑った。
しかし酔っている絵里の関心はビールから薫に移ったようだった。

「いいね…食べちゃいたい。井上、ちょっと慰めろよ」

そう言いながら絵里は細い指で薫の胸板をそっと撫でる。瞳はしっとりと濡れてけだるそうに井上を見た。
絵里の様子を見ていた薫は急に真顔になって言った。

「…いっすよ」

絵里の両手首をつかんで、唇の触れるギリギリのところまでゆっくりと顔を近づけてくる。そのまま睨み合うような体制で止まった。

「もういいよ井上、サンキュ…」

さすがに我に返った絵里が言いかけた瞬間、薫は開いたその唇を奪った。遠慮なく侵入してくる彼の舌に慌てて絵里はもがいた。

「…んっ…お前っ何すんだよ!」
「慰めろって言ったじゃないすか」
「冗談だよ!悪かったって、放せ」

普段は男に負けるような彼女ではないが、なにせ酒が回っている。

「無理っすよ、もう止まんない…」

薫の切ない声が絵里を貫いた。おとなしくなった絵里を抱きしめると、薫はゆっくりと胸を触りはじめた。

「あっ…お前結構っ…遊んで…」
「全然…やっぱ結婚前提を合コンで探すのは無理がありますかね」
「合コンでそんなこと言ったらもれなくドン引きだろ」
「そうかなぁ」

薫は事もなげに絵里のシャツのボタンを外していく。絵里が睨むと、片眉を上げてニッと笑った。

「笹本さん、すげぇ色っぽい」
「うっせ…んっ…」

ブラをたくし上げ、ピンと立った先端を舌でしつこく愛撫する。絵里が肩で息をしはじめ、薫は指を滑らせスーツのパンツを脱がせていく。

「やめ…やぁ…あっ…」

下着に手を入れ、指をゆっくり動かす。わずかに動かしただけでくちゃくちゃと音がした。

「ソファ汚すとまずいしもう入れちゃいますね」
「えっ…お前本当に最後まで…」
「大丈夫、ゴム持ってますから」
「やっぱ遊んでんじゃねえか…」

自分も服を脱ぎ、絵里をソファに寝かせると薫は上に被さった。

「あぁっ」
「うっ…」

二人の声が重なって薫が腰を動かしはじめた。遠のきそうになる意識の中で、絵里が薫の背中にしがみついた。繋がっている場所がきゅうっと締まる。

「笹本さん…ちょ…締めすぎ…」
「誰のせいだよ…」

二人は一緒に快楽へと昇りつめていった。


「すみませんでした」

服を着る絵里に、もう身支度を整えた薫がポツリと言う。絵里はため息をつき、さっぱりした調子で言った。

「いいよ、もともとこっちが悪いんだ。じゃあ明日からもよろしくな」

薫の肩を軽く叩き、出ていく絵里を、どこかさびしそうな表情で薫は見送った。






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