皆人の異変(後編)
番外編


しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ……。
「……はぁっ、……はぁっ、……はぁっ、……はぁっ、……っっっ」

若い男の一人部屋。
よるの夜中に、電気を消して吐く、荒い息。
そして何より、この擦過音。

つまり、
皆人が何をしているかは、もはや歴然。

松は(あっちゃ〜〜)と、痛々しげな顔をし、風花は俯いて必死に失笑をこらえ、草野と結は、やはりきょとんとして互いを見合っている。
だが、月海の心を襲ったのは、可笑しさや気まずさ以上の、苛烈なまでの怒りであった。


「――ミナトッッッ!!」


出雲荘全体が震撼するかのような大怒号。
だが、そんな一声では、とうてい彼女の怒りは収まらない。
ぎりりと奥歯を鳴らし、硬く握り締められた拳は、血の気すら引いている。

「月(つー)ちゃん……?」

月海の全身を包む激情がまったく理解できない草野が、引きつったような声を上げる。
その怯えた気配に、さすがの月海もやや冷静にならざるを得ない。
さっきの絶叫とは、うって変わった静かな声。

「――とりあえず武士の情じゃ、電気を点けるのを十秒だけ待ってやる。その間に、汝の見苦しいモノを、とっとと仕舞うがよい……ッッ!!」

だが、静かな声であればこそ、それは彼女の怒りの沸点がいかに高温であるかを思い知らせた。

「なっ?ちょっ、ちょっとまっ――」
「秒読みはすでに始まっておる。文句をいう暇があるなら、早うした方がよいぞ」

やがて、ごそごそ、という音とともに皆人が一息つく気配がし、それと同時に大股で部屋に入った月海が、蛍光灯の紐を引っ張る。――溢れる光が、六畳間からあっという間に闇を追い出し、明かりに慣れない全員の目を貫いた。
だが、それでも月海は、色褪せたスウェットの上下に身を包んだ皆人を、身じろぎもせず睨み続けている。

(このたわけが……ッッッ!!)

そんな彼女の、怒りに震える肩に風花がそっと手を置き、耳元で囁いた。

「月海……あんたの気持ちは分かるけどさ、ここは一つ、穏便に、ね?」

月海は、その言葉に答えない。ただ、彼女独特の吊り目が、いよいよ鋭く険しい視線を、レーザーのように発信するのみだ。
そして、その射殺せんばかりの眼差しは、皆人に、自慰を見られた気まずさ以上の恐怖をかきたてさせる。本来は部屋に無理やり押し入られた“被害者”であるにもかかわらずだ。

「ミナト、顔を上げよ」

まるで時代劇のような物言いだが、声に込められた殺気は、皆人に違和感さえ覚えさせない。

「汝にとって、吾らは一体何なのじゃ?」
「……」
「いつになれば汝が抱いてくれるのか――吾らがそれを、どれほど心待ちにしているか、微塵も気付いておらぬと申すのか?」
「……」
「己で己を慰めるくらいならば、吾らに一声かければよい。それとも何か……吾らは汝の右手にすら及ばぬ存在だと申すのか」
「ちっ、違う……っっ!!」

その瞬間、月海の右手が、へたり込んだ皆人の胸倉を掴み上げ、そのまま彼を片手で彼女の頭上近くまで引きずり上げた。

「っ!?つき――!?」

皆人は、月海の取ったその行動に、とっさに彼女の名を呼ぶことさえ出来なかった。
同じセキレイでも、月海は結のような体力自慢の格闘系ではない。怒りと屈辱が彼女に、片手で成人男子を持ち上げるほどの力を与えたのだ。

「ならば何故吾らを抱かぬッッ!!何故じゃ!?何故なのじゃッッ!?吾らは汝が望むなら、それこそ、どのような事でもして見せるというのに!!」


まさに血を吐くような叫びであった。
しかし、この月海の怒りも、あるいは当然であるとも言える。
セキレイは葦牙に対し、それこそ無条件で全てを捧げる存在だ。身も心も、魂すらも。
ありていに言えば、セキレイがこの帝都で、108羽の同族相手に戦い続ける理由は、自らのためですらない。彼女たちの行動原理はただ一つ。“葦牙とともに”“葦牙のために”最後の一羽として自分が生き延びる。――それだけが、彼女たちの最終目的なのだ。
だからこそセキレイたちは、葦牙に対し、ともに愛し愛される事を望み、その絆を太く、深くする事に余念がない。計算や功利性など一分の介在する余地さえない、純粋な愛だ。
ならば、そんなセキレイたちを差し置いて自らを慰めていた皆人の行動は、彼女たちからすれば、自分たちのアイデンティティに対する、明白な黙殺であると言える。月海ほどに気位の高いセキレイならば、そんな屈辱は、とても耐え切れるものではないであろう。

「おにいちゃんをいじめちゃ、だめなの〜〜」

草野が月海の足にすがり、ぽかぽかと彼女を叩く。
その大きな瞳を潤ませながら、必死で自分に抗議する幼女の姿に気を取られた瞬間、彼女の右手から不意に重さが消えた。結が、自重で呼吸困難に陥りそうになっている皆人を、ひょいっと奪い取ってしまったのである。

「月海さん、暴力はいけません」

その、コブシ系に似合わぬ諫言に、怒り心頭だった月海も、さすがに毒気を抜かれたように、一瞬ぽかんとしてしまった。

――そんな様子を、松や風花は苦笑まじりに眺めていた。

皆人の自慰を見て、確かに月海が取り乱したのも無理はない。彼女はセキレイである自分に、誰よりも何よりも、誇りを覚えている女性なのだから。
だが、松や風花には分かるのだ。
皆人は、自分たちセキレイを、決して軽んじているわけではない。
むしろ逆だ。
彼はセキレイを、単に無償の愛を捧げるくれるだけの、都合のいい存在だとは毛ほどにも思ってはいない。むしろ一個の女性として意識していればこそ、気軽に一夜の伽を命じるような、理性ある男性としては無節操すぎる行動に飛躍できないだけなのだ。
当年とって二十歳の青少年が、女性に対し無関心でいられるわけはない。その内心では、むしろ女体に対する興味と欲望が、それこそ螺旋のように渦巻いているはずである。にもかかわらず、皆人が彼女たちに一指も触れ得ないのは、その臆病さと優柔不断のためでしかない。

そんな事は無論、月海も理解しているはずだった。それと同様に、松や風花が月海同様に、怒りを覚えなかったわけでもない。
敢えて言うなら、理解してもなお、反射的に我を忘れるほどに逆上してしまうのが月海という女性であり、そして彼女が、常軌を逸する激怒を見せた以上、苦笑するしかないのが、松や風花の立場であり、キャラクターであったというしかない。

「ねえ、皆人クン」

顔面蒼白になって咳き込む皆人の額を、風花はちょんと突付くと、

「いいのよ、もうガマンしなくても。月海を含めて、ここにいる全員は、あなたが好きで好きでたまらないんだから」

そこまで言って言葉を切ると、彼の耳元に唇を押し付けるようにして、囁いた。


「だから――あなたも選ぶことを怖れなくていいの。ここにいる全員があなたの妻なんだから、私たちは私たち全員で、あなたの相手をする。ただ、それだけの事なの」


「風花、さん……」

正直言ってしまうと、その一言は、皆人を十二分に救うに足る台詞であった。


彼は、その歳になるまで性交渉はおろか男女交際の経験すらない、自他共に認める『へタレ』であるが、かといって周囲に女っ気が皆無であったと言えば、それはほぼ嘘に近い。彼の実家である佐橋家は、母・妹・祖母の家族構成からなる女系家族であったのだから。
つまり皆人は、女性という生き物が、いかに驕慢で乱暴で嫉妬深い、御しがたい者たちであるかを知り抜いている。また、それと同時に、いかに彼女たちが、無垢で繊細で可憐な存在であるか、という事も。
セキレイが結一人だった頃ならば、皆人にしても、自分への好意をあからさまに示す彼女に対し“男性”としての踏み込む事に、さほど躊躇はなかった。だが、草野、松、月海、風花、焔とセキレイたちが増加するにつれ、彼らの関係性は必然的に変化してしまった。
つまり一対一の男女から、一個の擬似的家族へと。
そうなると、もう皆人からすればセキレイたちに手も足も出ない。欲情に負けて、誰か一人に手を出してしまえば、それはつまり“家族”の中から一人を『選んだ』事を意味し、それ以外のセキレイたちを『選ばなかった』という既成事実を作ってしまうのだから。
そうなってしまえば“家族関係”に変化が起こるのは、むしろ必然だ。セキレイ同士の距離感も、微妙なものになるだろうし、むろん自分とセキレイたちの関係性は、それ以上に息苦しいものになるだろう。そうなってしまったら“家庭崩壊”は目の前だ。
かといってセキレイ全員に、等しく寵を与えるなどという選択肢を実行できるほど、彼は厚顔な男ではない。そういう意味では、佐橋皆人という男は、決して葦牙に向いている男ではない、と言えるかも知れなかった。

だが、葦牙に向いていようがいまいが、生身の男である限り性欲は溜まる。出雲荘にいるかぎり、24時間入れ替わり立ち代りでセキレイたちは皆人とスキンシップを図ろうとするので、むしろ溜まる一方であったと言っても過言ではない。
溜まった精はやがて「ハーレム中での性欲の自家中毒」という、滑稽極まりない事態を招き、彼の肉体を炙り続ける。だからと言って彼からすれば、就寝時間後に一人で“処理”すれば済むというものでもない。
賑やかで、華やかで、芳しい女性たちに包まれた日常で溜まった精を、夜中一人で慰める。それがいかに孤独で、みじめで、寂寥感を伴う行為であるか、いまや皆人は、それを骨身に沁みて知っていたからだ。
なにより身をよじるようにして“女”を主張するセキレイたちを差し置いて、単身、欲望を機械的に吐き出す行為のもたらす罪悪感とうしろめたさは、筆舌に尽くしがたいものがあった。
だからと言って、誰か一人を相手に選べば、その時点で彼らの“家族”は崩壊する……。

――彼が、セキレイたちの顔をまともに直視できなくなっていったのは、ある意味、当然の成り行きであったのかも知れない。

だが風花は、そんな皆人の心中を全て察した上で言ってくれたのだ。
もう、選ぶことを怖れなくてもよい――と。

しゅる……。

衣擦れの音もいやらしく、風花が一気に服を脱ぎ捨てる。

「かっ、風花、さん……っっ!?」

一筋の鮮血が、皆人の鼻孔から零れ落ちる。

「いいのよ皆人クン、あなたは何もしなくても。あなたが私たちを抱くんじゃない。あくまで、私たちがあなたを感じさせたいだけなの」

風のセキレイは、そのまま葦牙を引き寄せ、むさぼるような激しさで彼の唇を奪った。目を白黒させて為されるがままになる皆人。やがて彼は脱力し、脊髄反射的な抵抗から意思が消え、そのまま布団の上に、くたりと崩れて落ちた。
だが、それでも風花は皆人を逃がさない。倒れこむ彼の首に両腕を回し、押し倒す形でポジションをキープすると、おびただしい唾液を互いの口から溢れさせながら、彼女はなおも皆人の口を、自分の舌で愛撫しつづける。

――いや、ここまで一方的で激しいキスならば、それは愛撫というよりもはや、凌辱と言ってもいいかも知れない。

そして、そんな出し抜けの風花の“暴挙”に、結も草野も月海も、一様に呆気に取られている。
だが、彼女たちの意識の空白は、あくまで瞬間的なものだった。

「む〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
「かっ、風花ぁぁッッ!!」
「ずるいです風花さんっ!!皆人さんは結のおっぱいにどくせんよくなんですよっ!!」

次々に叫びつつ、己の葦牙に突入してゆくセキレイたち。
皆人の肉体はいま、それこそ窒息させんばかりの勢いで風花が覆い尽くし、独占している。
ならば――取りあえず、その風花を取り除かない限り、葦牙の肉体という馳走のおこぼれに、彼女たちは預かれない。
結は風花の剥き出しの巨乳に指を這わし、月海は真っ白な愛液でドロドロになっている風花の股間に攻撃を開始する。

「――あああっっ!!」

この息の合った挟撃に、風花はたまらずのけぞってしまい、その隙に空白地帯になった皆人の唇を草野が襲撃するや、たちまちのうちに占領下に置いてしまう。
いや、風花を出し抜いたのは草野だけではない。
彼女が、密着していた皆人の肉体から気を逸らせた一瞬の隙に、結は皆人のスウェットの上着をまくり上げ、左の乳首にむしゃぶりつき、月海も同じくスウェットのズボンを引き摺り下ろし、石のように硬くなった男根を一気に丸呑みにする。

――いつ段取りを打ち合わせたわけでもない。

あらゆる情況に於いて、最も効果的に葦牙を悦ばせるための方法を……セキレイたちは、その遺伝子に刻み込まれている。それは一般常識さえ疎い結や、性知識の持ち合わせなど皆無であるはずの草野でさえも例外ではない。

(ふ〜〜ん。……まったくたいしたものですねえ、MBIの調整は)

独り、皆人襲撃に参加せず、外野から成り行きを見守る松は、その身を焦がす性的衝動をしのぐ学術的好奇心から、彼らの観察を怠らなかった。

「ずっ、ずるいっ!!ちょっとあなたたち、こんなのひどいわよっ」

あっという間に占領地帯から追い出されてしまった風花は、ヒステリックに叫ぶが、セキレイたちは相手にしない。唯一の反応は、(最初に抜け駆けたのは汝じゃろうが)と言わんばかりの月海の鋭い一瞥くらいだった。

「もう……っっ」

と、眉をしかめながらも、――だが、風花とて本気で怒っているわけではない。
むしろ、『全員で相手をする』と宣言した、自分の言葉通りに事態が進んだことを、ほくそえむような心持で、彼と、彼に群がる女たちを見ていた。
無論、嫉妬がないといえば嘘になる。
だがそれでも、この佐橋皆人という優しすぎる葦牙が抱く鬱屈はおそらく、彼が羽化させたすべてのセキレイたちを同時に、しかも有無を言わさず相手をさせる事でしか晴らせない。そう判断した以上、多少の嫉妬は個人の感情に過ぎず、もはや問題にはならない。
そういう意味では、この風花という女性は、同じシングルナンバーでも、直情的な月海や性欲以上に好奇心に従順な松と比較しても、はるかに大人であると言えた。


「……ふぁっ、はぁっ、ああああああぁぁぁっっっ!!」

どくんっ、どくんっ、どくんっ、どくんっ、どくんっ、どくんっ!!

草野の口から逃れた皆人が、丸呑みにされた股間の刺激に耐え忍び、たまらず精を放つ。

「っっ!!」

ペニスにむしゃぶりついていた月海は、少しぎょっとしたように顔を離したが、次の瞬間、脱水症状にあえぐ野球部員が蛇口にかじりつくような勢いで、再度ペニスをくわえ込み、皆人の発射速度以上の吸引力で、そのスペルマを喉に流し込んだ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!」

その苛烈なまでのディープスロートのもたらす快感は、もはや激痛と呼んでも差し支えのないレベルのものであったろう。皆人は悲鳴をあげる事さえ出来ず、ブリッジのように腰を突き出し、背中を反らす。
無論、彼の身に群がる結や草野は、皆人のブリッジに弾き飛ばされるどころか、逆に愛撫の手を加速させ、彼の身体を貫く快楽の矢を二本、三本と増やし、エクスタシーの電圧を倍増させる。
風花には、その快楽のあまりの負荷に、あたかも電気椅子の死刑囚のように、皆人の眼球が瞳の中でぐるんと回転したように見えた。


皆人にとっては永遠に近い時間だったかも知れない。
だが、物理時間でいえば、一分にも満たない永遠だっただろう。
やがて彼の肉はこわばりを失い、弓のように反り返ったブリッジは音もなく潰えた。精を吐き切り、快感の電気椅子に座らされた哀れな囚人の体に、ようやくインターバルが許されたのだ。

「んふふふ……」

月海が、ずるずると、己の口から湯気の立つ皆人のペニスを、ゆっくりと吐き出し、ちゅぽんと音を立てて口を離した。常日頃の彼女からは想像も出来ないような淫蕩な笑みが、その顔には張り付いている。
そして、口一杯に含んだ彼のザーメンを、ごくりと喉を鳴らして飲み干した。

「……これがミナトの子種汁か。思いの外、美味であったな」

無論それは、死体のように微動だにしない皆人に向けた言葉ではない。
自分のいやらしい笑みを、呆然と見ている結や草野。さらには、背後で順番待ちのような形で待機している風花と松に向けた台詞だ。

だが、さすがにその発言は、この場にいるセキレイたちへの挑発としては充分だった。

「……ねえ月海、いつか言ってあげたわよねえ」

そう言いながら風花が、皆人が横たわる布団にゆっくりと歩を進め、膝を下ろした。
皆人を挟んで結と差し向かいの位置――つまり、皆人の右の乳首を見下ろせるポジションに。そして、その場所に、風花の左手がふわりと舞い降りる。

きゅっ。

「っ!!」

大量放出で軟化していた彼のイチモツが、反射的に硬くなる。いや、表情から察するに、皆人の肉体は、先程のディープスロートに劣らぬほどの快美な感覚に支配されているようだ。

――さほど特別なことをしているようにも見えない。

だが、先の尖った風花の爪は、玄妙すぎるほどの手際で、皆人の身体全体に、おびただしい量の快感の波紋を呼び起こしつつある。それも、右の乳首一箇所の愛撫で、である。おそるべき手並みと言えた。

「私に、そんな生意気な口を利いていいのは、No.1と社長――」

いや、どうやら風花が責めているのは、右乳首一箇所だけではないようだ。皆人の尻の下に伸ばした彼女の右手が、皆人の陰嚢を揉みほぐすと同時に、彼の菊門をくすぐっていることに、月海は、いまになって気付いた。

「そして、葦牙クンだけだってね……!」

びくんっ、びくんっ、びくんっ!!

「ふわっ!!だめっ!!だめですっ!!これ以上は……っっっ!!」

ふたたび悲鳴をあげ始めた葦牙に、他のセキレイたちも、急かされるように攻撃を再開し始める。

「うぬっ、手を貸せ結っ!!吾らも敗けてはおられぬぞっ!!」
「はいっ!!」

月海が亀頭の割れ目を刺激し、竿の部分に結が優しく歯を立てる。そして草野は、

「おにいちゃんのおっぱい、おいしそう……」

結が移動した左の乳首に、赤ん坊のように吸い付いた。





松が、黒いスーツケースを手にして皆人の部屋に帰ってきたとき、彼は騎乗位で、結に責められていた。

「ああっ、ああっ、すごいですっ!!すごく気持ちいいですっ!!」
「結ちゃん、結ちゃんっっ、……きついよっ!!」
「ああ、飛んじゃいます!結、とんじゃいますぅぅっっ!!」

「どこ行ってたの?」

部屋の壁にもたれて余韻を愉しんでいたらしい風花が、ちらりと松に視線を送る。
彼女はそれには答えず、

「どうやら、結たんで、おしまいみたいですね」

と、部屋の中を見回した。そこには、いかにも満足げな顔をして寝息を立てる草野と、いまだ荒い呼吸と痙攣に全身を震わせる月海。そして眼前の風花。彼女の右手には一升瓶が握られ、行為の後の心地良い疲労を肴に、酒を味わっているようだ。

「みなたんは、草野たんともイタしちゃったですか?」
「まさか……私の葦牙クンは、そこまでアブない趣味の人じゃないわ。舌と指だけよ」
「なるほど……それでも、童貞を捨てた晩にして、三人のセキレイの足腰を立たなくさせる破壊力、ですか」

驚くことはない。
仮にも皆人は、6人のセキレイを羽化させた葦牙である。しかも、そのうちシングルナンバーを4人も含んでいる事を考えれば、皆人の葦牙としての因子の強さは計り知れない。

(ならば、触れられただけでイっちゃうくらい、セキレイたちの身体もみなたんに反応していた――そう考えても不思議はないですね)

不思議どころの話ではない。そう仮説を立てたからこそ、松は、この部屋を後にして、一度自室へ『忘れ物』を取りに返ったのだ。

「まあね。でも、さすがの皆人クンも、あの娘で打ち止めのはずよ」

そう言うと、風花は一升瓶を、ぐびりとラッパ飲みした。
おそらく大家の美哉が、こんな乱痴気騒ぎを許すのは、今宵が最後であろう。そんな晩に、せっかくの宴から中座して、葦牙と直接情を交わす機会を逃す気なのか?風花の視線はそう言っていた。
だが、松は笑う。

「なんの、まだまだみなたんには頑張ってもらいますよ?」

そう言うと、松はスーツケースを開けると、一本のアンプルケースを取り出し、注射器に薬品を移した。

「松、あんた……それまさか……!?」
「痴……もとい智のセキレイ・No.02松謹製の特別精力強壮剤。そしてこっちは――」

さらにスーツケースから取り出された青い液体。

「葦牙とセキレイの反応度を、飛躍的に上昇させる媚薬」

いかにも、苦そうな顔をして、松はそれを飲み干す。

「残り、朝までの時間――すべて、この松がいただくですよ」


「皆人さんッ、大好きッ、大好きですッ……あああああああッッッ!!!」

……どうやら、結が終了したらしかった。

皆人の気配から、露骨にホッとした空気と、心地良い達成感が漂ってくる。
だが、

「み〜〜〜な〜〜〜た〜〜〜ん、ホッとするのはまだ早いですよぉ」
「え……、まつ、さん?」
「ちょっと、ちくっとするですよぉ。――あとで、その200倍くらい気持ちよくなりますけどねえ」
「え?何そのクスリ?ねえ、松さんってば、目が怖いよ?ねえ?」
「大丈夫ですよぉ、ただのクスリ(未認可)ですから」
「みっ、みにんかって……ッッッ!?ちょっ、やめっ、ぁぁぁぁああああああっっっ!!」



かつて、松は語った。
バトルロイヤルを制する一番効率的な方法は、最後に戦って勝つことであると。
翌日から四日間、佐橋皆人は、極度の疲労のために昏睡状態となった。
だがまあ、昏睡から覚めたその日から、皆人は以前のように、普通に部屋から出てくるようになったので、松は吊るし上げを食わずに済んだらしいが。






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