ハルカさまと無能ちゃん
鷸ハルカ×久能


甘い香り、揺れる白いエプロン、上機嫌な鼻歌。
休日の昼下がり。ケーキ作りに夢中な久能と、その後ろ姿をじっと眺めているハルカ。


「本当に一人で出来てるのか?無能ー」
「あうう、無能じゃないです、もう終わりそうですから……大丈夫だと思いますぅ」
「まぁ確かに、美味しそうなにおいしてるけどさ、なんでいきなりケーキとか……」
「結さんもカレーだけみたいですがお料理が出来ると聞いたので……わたしも頑張らないと」
「ふーん、結さんねぇ。最近仲良いみたいじゃん」

人見知りで、いつもハルカの後ろに隠れて怯えてばかりな久能だけど。
結を中心に、皆人の鶺鴒たちは、危険な目に合ってでも、自分たちの帝都脱出の手伝いをしてくれた。
計画が終わり、平和になった今でも、それを忘れることは決してない。
彼女たちがいたから、今でもハルカの側で、久能は幸せに暮らせている。
久能は幸せをくれた彼女たちに感謝し、彼女たちには心を開いていた。

(なんか……むかつく。)

「きゃっ、ハルカさま?」

ケーキ作りに夢中だった久能は、突然、後ろから抱き締められ、声を上げた。
キョトンとする久能に、ハルカは不満そうに呟く。

「佐橋のとこにも……よく行くの……か?」
「あの、ハルカさま、これって、」
「やきもちとかじゃねーよ、バカ。ただお前がケーキ失敗しないか監視してんの」
「うぅ、わかってます……失敗しませんよぅ……くすん」

少し期待したが、ハルカの言葉に、久能は残念そうに、しゅん、と小さくなった。
(ハルカがやきもちを自己申告してしまったことなど、二人は全く気付いていない。)
そして、久能はケーキに苺を乗せる作業を再開しようとしたのだが。ハルカが自分から離れる気配が、まったくない。

「ハルカさま、離してください」
「なんで?」
「ケーキ……」
「だから、俺、監視してるだけ」

そう言うが、何故か、ハルカは久能の唇を、指先で撫でているのだ。

「はぅ?失敗してません……美味しそうですよ?」

久能は、苺が中途半端に並べられたケーキを指差し、そう言った。
はず、だけど??

「うん、すげー、おいしそ……」

(なぜ、ハルカさまはケーキを見ないで、わたしの唇を見ながら答えているのでしょう……。)

「……いただきま、……ん」
「へ?ハルカさま、まだ、できて、……んっ!」

首を傾げる暇もなく、突然塞がれた唇。
驚き、思わず瞬きを2、3回繰り返した、その数秒で離れたのだが。たしかに。
(は、ははははハルカさまに、き、キスされ、ました)

「は、ハルカさま、あの、な、なにを」
「久能」
「は、は、はい」
「べーっ、して。べーっ、て」
「べーっ?」

久能は、混乱しながらも、言われるがまま、べーっ、と、舌を出す。

「そ。そのまま、な。……ん」
「……?……?!んんぅっ」

ハルカは、久能が舌を出すのを確認し、それと自分の舌と絡めると、そのまま唇を重ねた。
今度は、先程のように軽くではなく……深く、深く。
「ふぅ、んんっ、ん」
最初は戸惑っていたように見えた久能だったが、それを受け入れるように目を閉じた。
何度も何度も、角度を変えて、深く重なる唇。
さすがに、苦しくなった久能がハルカの背中を叩くと、唇が名残惜しそうに離れた。

「はぁ……はふ」
「ん……はぁ、甘……久能、つまみ食いしただろ」
「ぅ……少し」
「……久能、こっちも、良い?」
「や、だめ、ひゃっ」

また、突然。
後ろから胸に手をまわされた久能は大きく震える。

「……いや?」
「あん……、いや、胸は……いや、です」
「なんで?」
「小さいから、ハルカさま、がっかり、しちゃいま……す」
「関係ねぇよ……」
「あっ、あっ……や……いや、やだ、ふぇええ、ハルカさま、ひゃんっ!」

久能が必死に声を上げて拒否をしても、手の動きが止まる気配はない。
それどころか、エプロンのリボンに手を掛けられ、器用に片手で脱がされてしまう。
久能は、くしゃくしゃになり床に落ちたエプロンを眺めることしか出来ず、ぎゅっと自分のスカートを握り、びくびくと震えた。

「あー、やばい、すげー、やわらか……久能、ここ、……きもちいい?」
「ひぁああっ……そこっ、ハル、カさまぁ……や、摘ままないで、くださ……ふぁ……いや、いや」

ハルカが服の隙間から手を入れ、直接胸に触れると、久能は今までよりも遥かに大きく震え、いやいや、と首を横にふった。

震える久能の目から…大粒の涙がこぼれる。
ぽろぽろ涙をこぼしはじめた久能に、さすがに焦った。
ハルカは慌てて手を離すが、久能の涙は止まらない。

「え、あ、本当に……嫌だっ、た?」

その言葉に、久能がこくこく頷くと、ハルカは動揺しながら、「ごごごごめんっ!」と謝り、優しく抱き締めた。

「おまえのこと泣かせるつもりじゃ……そんなに、嫌だったか?」

優しく抱き締めたまま、頭を撫でると、久能は泣きながら答える。

「や、です……小さいから……おとこのひと、大きいほうが、好きって聞きました……わたし、ハルカさまに、嫌われちゃう」

「嫌わねぇよ……別に、おまえの、小さくないだろ……佐橋の鶺鴒たちが異常だ。まぁ、あれはあれでたしかに……良、」
「う〜っ!誰を想像したんですか?やっぱり大きいほうが……わたし小さい……うぅっ」
「ち、違うっ!な、泣くなって」
「びええっ!わたしなんて、わたしなんて」

なだめるつもりが、更に泣かせてしまった。
ハルカは、自分の気持ちを正直に久能に言えば泣き止むだろうか、と悩んだ。でも。

(久能だから……久能が可愛いから触りたくなった、とか恥ずかしいこと言えるかバカヤロー!)

「ぐすんっ」
「どうしたら泣き止む?」
「……だっこ、してください」
「……は」
「佐橋さんが、草野さんに、するみたいに……」
「いや、あれは子供だし……」
「ハルカさま、だっこしてください……」
「うっ……はぁ、わかったから……こっち来い」

目に涙を溜めたまま、久能は甘えた声で言う。
いつも、口ではひどいことを言ってしまうが、ハルカは久能に甘えられると、つい最後には甘やかしてしまうのだ。
ため息をつき座ったハルカを確認すると、久能は涙を拭きながら、その膝の上にのった。

「これだけで良い?」
「はい、こうやって、ぎゅってしてもらうと嬉しくて」

さっきまでの涙は何処へいったのか。
久能は、嬉しそうに顔を緩め、ハルカの首に腕を回し、ぴったりと抱きつく。

「こうしてるだけで、幸せです……わたし」
「単純なやつ……」
「ハルカさま……」
「なに?」
「ごめんなさい……お役に、立てなくて」

だがしかし、その笑顔も一瞬で。
嬉しそうな表情がまた曇り、久能は、ぽろぽろと再び泣き出しながら、俯いてしまった。

「本当は、ハルカさまに触られると、きもちよくて……さっきの、も」
「さっきの……え、え、これ?」
「ん……っ!」

服の上から軽く胸に触れただけで、久能は、びくんっ!と大きく反応し、真っ赤になる。

「は……い、でも、小さいから……ハルカさま、触っても嬉しくないのに、わたしばっかり、気持ち、良くて……だめな、わたし」

更に顔を真っ赤にする久能に、つられて、ハルカの顔も赤くなってしまった。
(俺は、てっきり、触られるのが、嫌なのかと)

「ば、ばばば、バカっ、おまえは、くだらないこと気にしすぎなんだよっ」
「きゅっ!!」

ハルカが、怒鳴りながら頬をつねると、久能は間抜けな声を上げ、じたじたと暴れる。
頬から手を離し、暴れる久能を無理矢理抱き寄せ、今度は、小さな声で。

「俺だって、こうしてるだけで幸せなのは、同じだから……だから小さいとか……関係なしに……」
「ハルカさま……?」
「これでちゃんと理解しろよ、無能……」

そう言って、ちゅっ、と小さく音を立て、久能の額に口付ける。
恥ずかしいけれど。精一杯、ハルカなりに、愛情を込めて。

「くちびるじゃ、ないんですか?」
「おまえ、無能だから、キス下手だし?」
「無能じゃないです、久ー能ーですっ、そんなことは」
「……そうか?さっきも、苦しそうにしてた」
「普通にしてくださいっ!あの、ハルカさまが、舌とか入れたり……激しく、したりするから……」

「あぁ、もう、バカ!それ以上言うなっ」
「うー…?」
「これだけで幸せなんだろ?」
「うぅ、そうですけど」
「ほら、こうしててやるから」

ぎゅっと手を繋がれると、久能は嬉しくなってしまいそのまま簡単に誤魔化されてしまう。
ハルカが、このままじゃ、何も知らない久能に『ハルカさまぁ、太ももに、何かかたいものが当たってますぅ><』なんて言われる状況になりかねない!とテンパっていることも気付かずに……。


「ふぅ……とにかく、おまえは俺の女だから、胸とか……どうでもいいこと気にするな」
「うぅ、どうでも良くないです……」
「どうでもいい」

ハルカはそう言いながら、久能の首筋を指先で撫でた。
唇を寄せそのまま強く吸い付くと、久能は「ひゃあっ!」と可愛らしい悲鳴を上げた。

「うぅう、なにするんですか?ハルカさま」
「別にー?俺の女だって、わかりやすいようにしておいただけ」
「……??」

久能は、意味が理解できずに、頭に?マークをたくさん浮かべた。
ハルカはその首についた赤いしるしを眺め、満足そうに笑う。


久能は、その意味もわからずに、ただ、ただ首を傾げ続けるのであった。






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