ニブいアンタ
壱ノ宮夏朗×紅翼


そろりそろ〜り、慎重に足を運ぶ。

高鳴る胸の鼓動が、自分の身体の外にまで溢れ出しそうで、思わず息を止めてしまう。

ガウンの下は、お気に入りのブラとパンティーだけ。
自らの名前に合わせたかのような真紅の生地の上を、黒いレースで編まれた模様が飾る。
今日みたいな日のためにとっておいた、彼女の勝負下着。

(もう!なんでこんな緊張するワケ?)

強いはずの自分の心が、恐れで震えている。
戦闘時の残忍な高揚感とは明らかに違う、下半身から突き上げる、熱病のような感覚。

(大丈夫、大丈夫だモン!絶対、ボクが目を覚まさせるんだモン)

かすかに震える足を、ある場所で止める。


紅翼は、うん、と深呼吸して、そっと夏朗の部屋の扉を開けた。

「夏朗、ねぇ、夏朗ってば♪」

車のキーを指先で振り回しながら、どこかへ出かけようとする夏朗の腕を、
しがみつく格好でつかまえた。

「ん?」

穏やかな視線が紅翼に向けられると、それだけで、彼女の心拍数が
ぴょこんと跳ね上がる。

(夏朗……ホント、かっこイイ……)

絡んだ腕から彼の体温を感じながら、このまま時間が止まってしまえばいいのに、
と、紅翼はいつも思ってしまう。

「どうしたの?これから鴉羽を迎えに行かなくちゃいけないんだけど」

紅翼は夏朗の少し困ったような表情を見て、あわてて腕を離した。

「ゴメン。あ、あのさ、ボク、夏朗に食べてもらおうと思って、コレ、作ったんだ☆」

そういって彼女は、無骨な形をしたクッキーが入った袋を渡した。

「へぇ。これ、キミが作ったんだ」
「うん!あの、テレビで見て、おいしそうだったんだ。だから、ボクでも作れるカナって♪」

顔が高潮してるのが、自分でもわかる。
夏朗の前ではいつもそうだ。

「ふうん。ありがと」

そんなオンナノコっぽい紅翼に、礼儀としての笑顔を返して、
そのまま、夏朗は駐車場に向かっていった。

紅翼に背中を向けた後は、手を振ることも、余分な微笑を振舞うこともなかった。

「そういう……の、夏朗……好きじゃ……ない」

灰翅の声がした。知らない間に見られていたようだ。

「なによ、アンタ。盗み聞きなんて感じワルッ!」
「だって、本当の、こと……。ブリっこなんて、女に興味ない夏朗には
……きかない……クク……」

一番気にさわる言葉を投げかけられた紅翼は、むっとした表情で灰翅に近づくと、
彼女の前に仁王立ちして、舌をつきだした。

「ニブいアンタには、わかんねえよっ!」

夏朗は、侵入者の気配に微塵も気づくことなく、静かな寝息を立てていた。
白い肌が、暗闇のなかでぽうっと光っている。
近づいて、手のひらを少しつねってみたが、反応はない。

(さっすが、MBI特製睡眠薬。効いてくる時間が指定できるなんて……スッゴイ)

身体の中から爆発してしまいそうなくらいの激しい動悸と、感情。
思わず緊張で乾いた唇をひとなめする。
紅翼はしばらく、何もせずにベッドのそばに立ちつくしていた。
安らかな葦牙の寝顔を見ていると、羽化したときを思い出す。


重ねる唇。
そこから四肢の隅々にまで走るぬくもりと至福感は、なぜか胸の奥で固まっていく。
足は地につかず、このまま飛べそうな気までする。
唇が触れ合ったのは、ほんの一瞬のはずなのに、とても長い時間に感じたのはなぜだろう。
身体の反応がようやく落ち着いたとき、紅翼は閉じていたまぶたを、ゆっくり、ゆっくり開いた。

優しく微笑む『自分の主人』。
気持ちの塊が、はじけた。

それからずっと、紅翼の心は、夏朗に奪われたまま。



「ソレなのに、どーゆーコトよ」

眠ったままの夏朗の顔を何回か指先でつついてみるが、当然反応はない。

「女がダメって、ワケ、わかんない」

紅翼は夏朗の布団を剥ぎ取ると、彼の身体に覆い被さった。


パジャマの胸元に顔をうずめると、鼻孔いっぱいに夏朗の匂いがひろがる。

前髪を指でかきあげて、そっとキスをする。
一度目は、羽根で触れるくらいの軽さ。
二回目は子どもの遊び。
そうやって回数を繰り返していくうちに、下半身から突き上げる欲情に押されて、
額から、頬へ。頬から、首筋へと、餌を喰らう獣のように、彼の身体をむさぼっていた。
口づけの跡の唾液で、紅翼の髪は蜘蛛の糸のように、肌にはりつく。

「どうして、ボクじゃダメなのさ」

自分のへその下あたりに、夏朗のものが硬くなりはじめるのを感じて、紅翼は思わず
彼の身体を強く抱きしめた。

「カラダは、欲しがってくれてるのにサ」

パジャマの上から触れても、確かな律動と熱さが伝わる。
紅翼はその肉の塊を包むように、下着で隠した自らの大事な部分を合わせた。

「あんっ」

おとっときのパンティーの中は、身体の奥からあふれ出た女蜜でぐっしょりと濡れていた。
熱い部分が重なると、自然と腰が動き始めた。
腰を前後させるたびに、硬くむき出しになったクリトリスや、開いた花びら、
意外と敏感なアナルで、夏朗のカタチを感じる。
じゅ、じゅっ、と、音がするほど、蜜は下着からにじみ、布地が吸収できない分は、
下着を彩るレースの間からとろとろとこぼれ落ちた。

(ん、ん、っ!ヤダぁ、こ、声でるゥっ!)

睡眠薬のおかげで、深い眠りについているのを知っているはずなのに、つい、声を抑えてしまう。
紅翼の大きくむっちりとした尻は、噛み殺した声の代わりに、激しい動きで快感を叫ぶ。
紅くふくれた肉豆が、カリにひっかきあげられるたび、悦楽の楔が紅翼の全身を容赦なく貫いた。

(コレだけなのにィ、エッチなんかしてないのにっ!イイっ!いいよぉッ!)

首の後ろが、心地よい痛みでズキズキする。
紅翼はこらえきれず、汗と愛液でぐっしょりと濡れた、パンティーを脱ぎ捨てた。

彼女の『下唇』は、もういつでも夏朗を迎え入れられるように、だらしなく開き、
物欲しげによだれを垂れ流し続けていた。

「はっ、はっ……あぁっ」

白い肌は、彼女の名前そのままにうっすらと染まり、胸の小さなふくらみは、昂ぶる呼吸で上下していた。
震える指先で夏朗の頬をなでる。

「ダイ、スキだよぉ、夏朗……」

夏朗からの返事はなく、寝息が聞こえるだけ。紅翼は、耳元でささやく。

「だから……ボクが犯して、アゲルね」

パジャマの下から顔を出した、夏朗のペニスは、紅翼の満開になった秘部に比べて、
まだ勢いが足りないようだった。
彼女は、迷わず両手で包み込み、先端部分に口づけし、そのまま、肉棒を口内に招きいれた。
鼻に抜ける、わずかの獣臭さ。

(コレが、夏朗の、味……)

両手をゆっくり上下に動かしながら、アイスをなめるように、舌をからめていく。
紅翼の口の中で、夏朗は少しずつ大きく、硬くなっていく。舌で、浮き出た血管をなぞり、先走りをすする。
ほどこした愛撫への反応に、身体が悦楽でだらしなくなっていく。
下半身が分け前をほしがって、無意識で、シーツに、感じやすいところをこすりつけていた。

懲罰部隊の威厳も、鼻っ柱の強さも、どこかへ行ってしまった。今の彼女は、肉棒をあさる、ただの雌。
大きくなりすぎて、口からこぼれ落ちたペニスに、鼻先をなぶられても、悦びしかなかった。

恋の喜びなのか、肉の悦びなのか、あいまいなまま、夏朗のペニスの上で、
蜜のしたたりおちる淫らな下唇を指で開き、腰を、ゆっくりと落としていった。

「んぁああああっ!!」

肉と肉が触れ合う瞬間、思わず高い声をあげてしまった。

「はいっちゃったよ、なつおぉ。ボクのナカに、夏朗が入ってるぅ!」

ちょっと動かすだけで快感は増し、膣内が、ぎゅっと締まる。
締めつけると、カリが弱いところを刺激する。そうやって、より気持ちいいところを求め、下半身は動きはじめた。

「なっ、あ、ありえないぃ!こんなの、こんなのぉ!!どこも、ボクのぜんぶ、気持ちいいのぉっ」

じゅぶっ、ぬちゃっ、にゅぐっ。
部屋には、粘膜のこすれあう、卑猥な音が響く。

「なんなのぉ、ねぇ、なんでこんなにいいのぉっ!?夏朗、なつおぉ!」

肉棒は時折、子宮口をえぐるように、深く入る。一回、二回と、数を重ねるだけ、意識がふっとぶ。
紅翼は、眠ったままの葦牙の左手に自分の手をからませながら、腰の動きを激しくしていった。
寒気と熱が、つま先からすごい速度で身体を走り、快感はどんどん膨れ上がる。
蜜壺全体で、灼熱の肉棒をどんなに締めつけても、逆に自分の方が壊れそうだった。

何も見えない、聞こえない。

感じられるのは、重ねた手と手と、肉欲の場所だけ。
快感の風船は、そろそろはじけそうだった。一突きごとに、絶頂が近くなる。

「ひくっ!ひくっ!いいよぉっ!ボクとぉ、いっしょに、いっしょにぃ!」

ぱちん。

「あああぁああ……あ、はぁ……」

夏朗をくわえ込んだまま、崩れおれた紅翼の秘部からは、どろりと白濁液があふれ出て、
なかなか止まらなかった。



それから三日後のことだった。

紅翼が、外出の用意をしていると、珍しく夏朗の方から声をかけてきた。
幸いにして、あのことには気づいてないらしいことは確認済みだったが、
それでも気恥ずかしくて、舞い上がりそうだった。

「な、なぁに?夏朗」

ややひきつりながら、笑顔を必死に作ろうとしている紅翼に、彼は言葉を続けた。

「イヤな夢、みたんだよね。女に犯されるっていう、後味のわるーい、夢。どう思う?」

そういって彼は、紅翼の大好きな、柔らかい微笑を、うかべた。






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