皆人の異変(後編) 焔編
佐橋皆人×焔


※ふたなり注意


前回:皆人の異変(前編)(番外辺)

闇の中から、何者かが吐く荒い呼吸音。そして濃密にして淫猥な気配。
それが二人分。
小声で話す小さな会話。何かを懸命にこらえる声。くすくすという嘲笑。
あまりに聞き覚えのある、その声。
男性にしては高く、女性にしては低い声。
その瞬間、蛍光灯が点いた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」

言葉にさえならない皆人の悲鳴が部屋に響く。

「おにいちゃん、なにしてるの?」

眼前の光景に完全に理解が及ばない草野が、きょとんとした声をあげたのが、月海の耳にも聞こえたが、その質問に答える余裕は、彼女にはない。――いや、月海のみならず、松も風花も、思考停止したかのように呆然としている。
あるいは、それは無理もないかも知れない。

部屋の中央に敷かれた皆人の布団の上に腰を降ろした、裸形の男女。
その二人が、まさに彼女たちに見せつけるように、互いの性器を以って一体に繋がっている。

――背面座位。というのだろうか?

腰を降ろした一人の膝の上に、もう一人が椅子に座るような形で、背後から貫かれている。
ただし、セキレイたちを呆然とさせたのは、貫かれていたのが、男であるはずの彼女たちの葦牙――佐橋皆人であり、貫いていたのが、乳房も初々しい篝
――羽化によって性転換を余儀なくされたセキレイNo.06、であったからだ。

「あの……皆人さん、篝さんと一体、何をしているんですか?」

草野同様、性知識など皆無に等しい結が、分からない漢字の読み方を訊くような口調で、皆人に問う。――尻を貫かれていた皆人の顔が歪むのと、篝が弾けるように笑ったのは、全くの同時だった。

「見ないでっ!!見ないでくれ結ちゃんっ!!お願いだから俺を見ないでっ!!」

布団に倒れ込み、無理やり顔を隠そうとする皆人。だが篝はそうはさせない。笑い声を上げながらも皆人の髪を引っ掴み、再び彼の上体をむりやり起こさせる。

「ははははははっ!!さあ佐橋皆人!!教えてやれよ、いまキミは一体、何をしているんだいっ!?ちゃんとみんなに聞こえるように、大きな声でさぁっ!!」

――さすがに我慢の限界だった。

「焔ぁぁぁぁッッッ!!!」

思わず飛び出した月海だったが、その瞬間、彼女の足は止まってしまう。
尻を犯されながら、羞恥に悶える皆人の潤んだ瞳に、間違えようのない快楽の光が宿っているのが見えたからだ。
そんな月海をニヤリと見ながら、篝は皆人に小声で何かを囁き、

「さ、言うんだ。いま君は何をしているのか教えてあげるんだ。これは命令だよ」

(め、命令……ッッッ!?)

葦牙に命令するセキレイ。それは通常ありえる関係性ではない。だがそれでも、皆人の口は開かれた。篝の命令通りに。


「俺は……佐橋皆人は……ぅぅぅっ!!……男の、くせに……ぅぁぁっっ!!……葦牙の、くせに……きひぃっっ!!……お、しりを、おか――あああっっ!!おかされてっ、いるところですっっっ!!」
「気持ちいいかい?」

そう訊きながら、篝が腰を動かす。

「はひっ!!しっ、死んじゃうくらい、ひもちいいですっ」
「恥かしいかい?」

そう訊きながら、篝がまたも腰を動かす。

「ひうっ!!」

その瞬間、潤んだ皆人の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。
いや、一筋だけではない。地下の湧き水のように、とめどなく彼の涙は溢れて落ちる。

「……はい……恥かしくて……死んじゃいたいくらい、です……」

「そうか、――じゃあ僕が」

口元に亀裂のような笑みを浮かべると、篝は、皆人の股間にそびえるペニスに手を添えた。

「逝かせてあげるよっ、天国にねっっ!!」
「ひいいぃぃぃぃっっ!!」

それまで緩やかに動かされていた篝の腰が、速射砲のようなピストンを開始し、それとシンクロするように激しく扱かれた皆人のペニスが大量の白濁液を放射するまでに、僅か数秒とかからなかったであろう。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!」

その雄の器官から何もでなくなった頃、まるでバッテリーが切れたように、皆人の身体は脱力し、そのまま崩れるように布団の上に倒れて落ちた。



篝はそのまま、彼の尻から自らのペニス――それは、皆人のものとは比較にならぬ長大なイチモツであった――を抜き取ると、投げ出してあった己の衣服のポケットからタバコを取り出して一本咥え、指先から出した炎で火をつけた。
その数分の間、セキレイたちは絶句したままだ。
無論、眼前で行われた二人の、あまりに激しい『行為』に毒気を抜かれてしまったからだ。

(こ……これが……まぐわい……ッッッ!!)

なんのかんの言って、皆人のセキレイたちは、その全員が羽化以降の粘膜接触を、ほとんど経験していない。つまり、キス以上の行為どころかキスすらも、羽化の時に経験したのみなのだ。
だが、その事実の責を、全面的に皆人に被せるのは、いささか酷であるとも言える。
それは、確かに皆人が「へタレ」と呼ばれる部類の、押しの弱い男性である事にも由来するが、出雲荘大家である浅間美哉の、執拗なまでの不純異性交遊禁止令にも原因はあるはずなのだから。
そういう意味では、かつて百戦錬磨のNo.1ホストとして鳴らした篝から見れば、彼女たちセキレイなど、しょせんはただの初心なネンネに過ぎない。
だが……。


「なるほど……そういう事だったのね」

子供にでも分かるほどの明瞭な殺意を込めて、風花がつぶやいた。

「皆人クンが、私たちの顔をまともに見れなくなったのは、全部あんたのせいだったのね……!!」


月海も、さすがにその一言でハッとなった。
確かに、いかにへタレの皆人といえど、自分のセキレイたちに手を出す前に、逆にセキレイに犯されてしまっては、男としての面目は丸潰れだ。
篝は、確かに雌雄一体型のセキレイではあるが、皆人は彼を、あくまでも男性として認識している。そして男にとって、男に身を汚される事ほど敗北感を覚える事はないのだ。
いわんや、その行為によって快楽まで感じる身体にされてしまっては、もはや立ち上がれない程のダメージであるはずだ。
月海は、ほんの数時間前に、この部屋で取った夕食のことを思い出す。
草野に抱きつかれ、温かいものに包まれていたはずの皆人の心が、みるみるうちにドス黒いシミに覆われていった、あの瞬間!
皆人の心を真っ黒に染め上げた、負の感情――屈辱も、絶望も、悲嘆も、恐怖も、そして自嘲も、男としてのプライドを粉々にされた事に端を発するとすれば、全部納得がゆく。

「そんな眼で見られても困るな。僕は僕なりのやり方で、自分の葦牙に愛を捧げたに過ぎないというのに……」

タバコの煙を吐きながら、篝がうそぶく。

「それに、僕はキミ達とは違う。目の前に据え膳を置いて、無為に待ち続けるなんて芸当は、とても出来ないよ」


「黙れぇっ!!」


叫んだ後、呼吸を整えるように一拍置くと、月海は、歯を食いしばるように言った。

「表に出でよ焔。せめて吾が宿敵として、月下で葬ってやろうぞ……!!」






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