焔(女体)と御中社長
御中広人×焔


「…ん…っ御中…離せっ……」

その頃“鶺鴒計画”の始動も秒読み体制に入っていた。
早ければ明日にでも調整を終えた雛達が地上へと放たれるだろう。
“鶺鴒計画”の首謀、大企業MBI社長。彼は近々始まろうとする計画に胸を躍らせ、
もう殆ど使われていない研究室にいた。
MBI前身の薬剤研究のための個室で、机と空の薬品棚などがあるぐらいの簡素な部屋である。


今その彼の前には、彼が手掛けた大切な108羽のうちの一羽がいる。
そのセキレイは出力不安定、雌雄不安定と大きな問題を抱えており、
ついこの間までは男だったはずだが、固定が甘く、また女になってしまったらしい。

このような状態のまま地上に降り立っては大切なセキレイの危機だ
そう考えた彼は彼、いや彼女の“調整”を直々に行おうと決めた。勿論極秘裏である。

その調整開始から既に時間はしばらく経っていた。
手を後ろで固定され、机の上に座らされた件のセキレイは、頬を上気させ辛そうな呼吸でうなだれている。

「NO.06、地上の社会ではこの程度降参していてはあっという間にゲームオーバーになってしまう!
さあ第4段階だ!
恐いか?君が男として地上へ降りたとき、女性にすることを今身をもって経験しているに過ぎない!
何を恐れる必要がある!」

「だ…ま…れ…っ!」

(――絶対殺す、焼き殺す、今ここで死ね御中広人!)

呪いの言葉を吐き続けられているとは露知らず、御中社長は絶好調である。

心中社長殺害に燃えているセキレイは、拡げられた襟元から、小振りだが形の整った胸を覗かせていた。
女体での活動を彼女が厭う理由の一つはこの胸のせいでもある。
手の平にすっぽり収まるサイズのそれは、周りの女性の比較対照が大きすぎてひ弱な存在だった。
そして第3段階とやらで散々玩ばれた胸の突起はぷくりと盛り上がっていた。

なりそこないの自身の胸が誰かの視界に入るのも恥ずかしいし、服がその突起に触れるか触れないかで気持ちが悪い。
胸元を正したいが後ろで縛られているのでそれすら叶わぬ願いだ。

「いやーそれにしても君の女性体での胸は控え目だね
ん?どうしたんだい、顔を真っ赤にして。
なに、大丈夫だ、安心したまえ!人間の社会の趣向は様々だ!」

言いながら彼は喜々として目の前のセキレイNO.06の服に手を掛け、下着と共に膝まで下ろした。

「うわ、御中なにやっ…!」

熱くなっていた部分が外気に突然晒され、ひやりとした机に直に座らされたことで、彼女の抗議は中断された。

「――地上の社会というのは実には残酷である。
葦牙に出会うのは困難かもしれない。
そしてNO.06、君の場合男として生活していてひょんなことで女になるかもしれない。
そのことにより最悪の事態が起こり得るかもしれない。
端的にいえば、女になって性行為を強要させられるかも…って痛!
運命に抗えとは言ったが、今僕を蹴らないでくれたまえ。
ふふ、しっかーし!私がこのように調整を行うことにより、そのような事態に絶望することはなくなるのだ!!」

何が最悪の事態だ、現在の状況より悪いものがあってたまるか!

そう言ってやりたいのはやまやまだったが、この社長が雄弁に語りながらも手を動かすので声は言葉にならない。
口を開けばきっと自分の意に添わないことになることは目に見えていた。既に息は上がってしまっている。
第4段階は下を徹底的に責めるものらしく、ペラペラと喋りながら、彼の手の方からは時折くちゅ、くちゅ、と音が立つ。

「NO.06はストレートな表現は嫌いか、うむ、では
私が君の未知なる世界を開拓してあげよう、とでも言おうか」

さっきまでは足が元気だったが、女性体で一番敏感な部分を扱われ、もう蹴りを繰り出す気力もなかった。
今の焔にあるのはただ目の前の男に対する殺意だけ、である。
何か良からぬ疼きが芽生えそうだったが、その殺意でカバーしていた。

「はっはっは、感謝の気持ちで言葉にならないかい?」

(――もう、頼むから、黙れ)

ゆるゆると与えられる電気のような痺れに流されないようにしながら、潤んだ瞳で目の前の男を睨み付ける。
何よりもこの体が恨めしい。あまりの自分の惨めさ、情けなさに涙が出そうだった。

男でいることが多くあまり自分でも凝視していない秘所を見られ、責められている恥辱。
殺したい男に犯されている屈辱。
そして最初は嫌悪しかなかったが、違う何かが生まれそうな…

(――頭がおかしくなりそうだ)

せめてものプライドで焔は唇をきつく噛みしめ、声をあげずに、御中から与えられる刺激に耐えていた。
身体が熔けそうなぐらい熱い。
自らの操る炎のとは違い、頭から爪先まで、髄から燃えているような感覚だった。

……ん…息、…が、

既に長時間“調整”された身体は限界で、饒舌な男の息にすら敏感になっていた。

「――さあ、擬似最終段階(ステージ)へ行こうか」

コンコン、と軽いノックの後、扉が勢いよく開かれた。

「失礼します
社長、10番台の調整終了しました。地上へ送る準備をしても…
あれ?社長?」

机の影からひょこっと立ち上がり、鶺鴒計画を取り仕切る御中社長は姿を現した。
手をひらひらと振りながら扉の前にいる研究員に返す。

「ここだよここ、ちょっと以前の資料を探していてね」
「手伝いましょうか?もう長い間使っていない場所ですから大変でしょう」
「有り難う、だがもう見つかったので大丈夫だ!君たちは計画を進めてくれたまえ!」


研究員が廊下を離れていく足音に、御中はほっと息をつき、自身の足下を振り返る。

「いやー高見クンだったら命の危機だっ…」

乱れに乱れた衣服で机の上から落とされ、床の上に倒されていた人物の足が、
今まで散々虐げられていた仕返しとでも言わんばかりに、男の急所に、それはもう渾身の力を込めて埋め込まれた。
痛みに倒れ込み、悶絶する男の横で、火力を調節して自分の手を拘束していた物を焼き、急いで服を整える。
体の疼きに目を瞑り、文字通り顔から火がでそうなほど顔を赤くしながら研究室を出て行った。

「お前を殺す、必ず」

扉を閉める際発した言葉が、殺意の矛先に届いたかどうかは定かではない。


月日が経ち、そのセキレイが羽化したとき、

「やはり、あの“調整”が役に立つときが来た!
NO.06、私の時には最終段階まで到達することはできなかったが、葦牙相手なら何の問題も無い!」

と社長は宣ったとか、宣ってないとか。






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