ソファー(非エロ)
岩瀬健×吉田礼


最近は休みの日になる度にケンゾーの部屋でDVDを見ている。
折角の休みに何してるのって我ながら思うけど、いつも続きが気になる終わり方をするこの海外ドラマがいけないのだ。

ついに気分よくドラマに没頭できるように、ケンゾーはおっきなソファーを購入した。

「なのになんで一人掛けなのよ」
「仕方ねーだろ。これが一番安かったんだから」
「せめて二人分買うでしょ?」
「買―いーまーしーたー。もう1つは在庫なくて取り寄せてんの!」
「そうなんだ。じゃあケンゾーは新しく来る奴使いなよ♪」
「なんでだよ、ってもう座ってるし!俺が買ったんだから俺が使うだろ!」
「あーあーあー聞こえなーい♪」
「耳を塞ぐな!…ったく…」

子供のような口喧嘩は、今も昔も変わらない。
いつも結局はケンゾーが折れてくれる、その分かりづらい優しさも。

でも、今日はいつもと違った。
ケンゾーが、「2人で使える方法」として出した案があったから。

「ケンゾー、狭くない?」
「大きいから大丈夫」

私はケンゾーの腕の中で身じろぎをした。
結局、ソファーに座るケンゾーの前に、私が座る形で落ち着いたのだ。
どこのラブラブカップルよって言ったら、ケンゾーは満更じゃなさそうな顔。
背中にケンゾーの体温を感じると、寄りかかるどころか逆に緊張してしまう。
それに気づいたのか、引き寄せられた。
私の体重で、ソファーの背もたれの傾きが増した。

「…重くない?」
「重い」
「じゃあ降りるよ!」
「うっそ」

なんだか落ち着かないままドラマが始まる。
それでも、いつの間にか好きな人に抱っこされているのもなかなか居心地もいいかもと思い始めてきた。
ケンゾーが驚いてビクッてなった時笑ったのには不機嫌になってたけど。

「礼」

ドラマもだんだん終盤になってきた頃、暫く黙って見ていたケンゾーが口を開いた。

「何?」
「シャンプー変えた?」
「新発売のシャンプーに挑戦してみたんだ。なんで分かったの?」
「匂いが違うもん」
「へー、意外」
「何が?」
「ケンゾーが。そういうの全っ然気づかなそうだもん」
「それ位気づくっつーの。…でも、俺は前のやつの方が好き」

そういうとケンゾーが私の耳元に鼻を寄せるのを感じる。
くんくん、と犬のように匂いを嗅いでいるようで、なんだかくすぐったい。

「あはは、ケンゾーくすぐったいよ」
「今のヤツ、匂い強すぎてクラクラするし」
「そう?……ぁっ…」

いきなり耳を舐められて、思わず声が漏れてしまった。

「っ…ちょっと、ケンゾー?」
「今日泊まってくだろ?」
「う、ん…泊まってくけど…」
「じゃあ、DVDは後でいいな」

返事も待たずに、テレビが消された。
どうやら、違うもののスイッチが入ってしまったらしい。
洋服の中に手が入ってくる。
慌てて逃げようとするけど、ケンゾーの腕の中にいる私は逃げられそうもない。

「んも…ケン…」

胸元を弄られて、閉じていた口から息が漏れる。
こういうの、甘い溜息って言うのかな?

その時。

“〜〜♪”

テーブルのケンゾーの携帯が鳴る。

「ケンゾー、携帯…」
「……」
「携帯!」

ケンゾーが私の断固たる声で、渋々、本当に渋々携帯に出る。

「何?」

その隙に私は身なりを整え、ケンゾーの腕から逃げ出す。
ケンゾーが話しながら恨めしそうに睨んでくるけど、見ないふり。

「今?外出てるよ。礼も一緒」
(ちょっと、何嘘ついてるの?)

私が小声で問いかけると、唇に人差し指を当てる仕草をした。
私が怪訝な顔をすると、ケンゾーが目を逸らす。

「場所?……なんで?」

耳を澄ませると、ちょっと甲高いような大きな声が漏れて聞こえてきた。
電話はツルからのようだ。

『今からエリと幹雄とお前んち行こうと思ってたのに、家に居ねーのかよ!』

「ああ、ってか来んな」

その時、インターホンが鳴った。
ケンゾーに目くばせすると、「出て」と目で訴えてきた。
私は立ち上がり玄関に向かう。

『でも困ったなー。俺たちもう健の部屋の前に…』

「ッ・・・礼!開けんな!」

後ろから健の叫び声が聞こえてきたけど…遅かった。

「はーい、って…幹雄!?」
「なーんだ、居るんじゃん!」

僅かに開いたドアを一気に開けられて、何の戸惑いもなくヅカヅカと幹雄とツルの2人が
入ってくる。その後ろに苦笑いを浮かべるエリの姿も。

振り返ってケンゾーを見ると、ガックリ肩を落として携帯を持った手が力なく揺れていた。

「なーんで嘘ついたんだよ健?」
「うるせぇ!勝手に入ってくんな!!」
「いてっ!!」

ふざけて腕に巻きついたツルを本気で投げ飛ばしている。
あからさまに怒ってるよ…。

「健の事だから2人だけで過ごそうと思ってたんだろ?お、何、DVD見てたの?」
「何々、エロビデオ?」

幹雄が目ざとくDVDのリモコンを見つけ、再生する。
ツルが、囃し立てながら、先ほどまで2人で座っていた新品のソファーに体を投げ出した。

「すげぇ、フカフカ〜♪」
「あ、これ見たかったヤツじゃん!借りてってい?」
「お前らな…!!!」

いつもは私達も混ざってやっている事だが(特にツルに)、ここまで図々しいのもすごいなと私は関心までしていた。ケンゾーは怒り心頭の様子だけど。

「ごめんね、ツルが急に行こうって。邪魔じゃなかった?」

エリが後ろから、少し申し訳なさそうに私たちに向って尋ねる。

「ううん、全然!ね、ケンゾー!」
「お前らいつ帰んの?」
「ちょ…ケンゾー!」

私が本音丸出しのケンゾーの腕を叩くと、どこからか勝手にビールを持ち出してきたツルがとぼけた顔で言った。

「へ?さっき言わなかったっけ?」
「?」

「泊まりにきたって」

私とケンゾーは卒倒しそうになった。
そんな姿も露知らずビールやらつまみを出し始めたこの3人は、もう誰にも止められそうにない。






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