雅之浮気説
番外編


僕が小学6年生のとき、
大切な人を失って、
特別なものを手に入れた。

千秋真一 12歳

「お母さん、お父さんはまだ帰ってこないの?」

「そうねぇ…」

「今日は、もう帰ってこないの?」

「そうねぇ…」

お母さんは、ただ、ずーっと窓を見て

「そうねぇ…」

としか言わなかった。
ねえ、他に何か言ってよ、
「そうねぇ…」なんて、言わないでよ
お父さんは帰ってくるって言ってよ…
なんで僕の所には、お父さんは帰ってこないの…?

結局、お父さんは、帰ってこなかった。
お父さん、昨日は何の日だか忘れたの…?

クリスマスだよ…?ノエルだよ…?
毎年毎年、ずーっとお父さんのことを待って居るのに
なんでいつも帰ってこないの……。
そして、なんでお母さんは、寂しいと言わないの…?

rrrrrrr rrrrrrr ……

12月26日

家内の電話が鳴り響いた、
テーブルに身を任せて眠っていた僕は、飛び起きた。

「お父さんっ!?」

僕は走った、
電話に向かってひたすら走った、
お父さんと話がしたくて
「昨日はごめんね」と言ってもらいたくて…

「真一…?」
「え…お母さん?」

お父さんだと思って走ったのに
希望で胸をいっぱいにして受話器を手に取ったのに…
なんで、わざわざ出かけ先から電話をするの…。

「今ね、お父さんの泊まっているホテルにいるの…場所を教えるから、今すぐきてちょうだい」

一瞬、自分の耳を、お母さんを疑った
―――――お父さんに、会える――――――?
また僕の胸は希望でいっぱいになった。

走って走って、言われた場所に向かった。
お父さんに会える、今度こそ会える、
お父さんに、会いたい。
その気持ちだけが、唯一の原動力になった。

なのに、まさかあんな光景を目にしてしまうとは思わなかった。

「お母さんっ!」

「真一……」

お母さんは、なぜかとても暗い顔をしていた。

「さっきね、お父さんの部屋に電話をしたの。」

「お父さん、何て言ってたの!?」

「………出なかったわ、きっとどこかに出かけているのね、
無駄足させてごめんね、真一、帰ろっか。」

お母さんの態度がいつもと違った、何か隠してる…
僕はフロントに話に言った

「マサユキ・チアキの部屋はどこですか!?」

部屋番号を聞いて、急いでそこへ向かおうとした。
でも、お母さんに止められた、

「やめなさい!真一」

すごい剣幕で僕を止めた、でも、行きたかった。

「離せよ!」

力いっぱい腕を振り払った。

「真一!」

ただ…お父さんに会いたかったから。

お母さんは、何を悟ったのか、もう追いかけてこなかった。

もう少しで、お父さんに会える…
まるで、子供みたいだった、
ずっと自分では子供じゃないと思ってきたjけれど
今だけは、自分が子供だと理解できた。

「403、403、403…あった!」

ドンドン!ドンドンドン!

…応答が無い

お母さんの言うとおり、居ないのだろうか…
ためしに、扉に耳を傾けてみた

ギシッギシッ

「アア…マサユキ…イイ…」

聞こえるのは、ベットの軋む音と、女の声…

たかだか小学生の自分にも、何をやっているのか…事は理解できた。
お父さんが居る部屋の前で、ただ、立ち尽くしていた。
ずっと立ち続けて、しばらくして、部屋の扉を開けた
自分でもわかっていた、開けない方がいいとは思っていた。
それでも、好奇心なのか、嫉妬心なのかわからない思いが込み上げてきて
開けてしまった。

あんな光景を目にすると、わかっていても。

扉を開いてみて、目にした実態は
わかっていたのに、心がつぶされそうな光景だった
見たことのある女性…お父さんのマネージャーと思われる女と
お父さんが、1つのベットの上で、布団にくるまって寝ている…
その女の足の近くには、お父さんの顔があって…

だから、帰ってこなかったんだ…。

ロビーへ戻ると、お母さんが待っていた。

「帰ろうか、真一」

「…うん。」

お母さんは何も言わなかった、
自分のために、僕のために。

それから、何日か過ぎていったころ

「オレ」はヴァイオリンコンクールに出ることになった
自分でも、出る理由がいまいちわからなかった。
時期的な波に流されて、という感じだった。

ただ、お父さんに見に来て欲しかったのは事実だった、

いくら、あんな光景を目にしても、

いくらお父さんのことが嫌いでも、

見返したかった、自慢の息子だって言わせたかったんだ、
そのときは、まだオレは、音楽の楽しさなんかわからなかった。

コンクールは優勝、でも、結局お父さんは来なかった、
完璧に音楽から離れようとした瞬間だった、
音楽なんかもう、たくさんだ――――。

そんなある日、お父さんから手紙が届いた、
まるで、何も無かったかのように。
日本人のクセに、息子の名前も、「しき」という漢字も
漢字でかけていない手紙だった、なんだよ、この魚の絵…
呆れつつも少し微笑んでしまう自分がいた。
なんで、あんなものを見せられた後でも、人間は、笑うことができるのだろう…

でも、

「オケなんかキョーミねーよ!」

音楽なんか、もうたくさんだと思っていたから
嬉しくても、行く気はしなかった。
でも、

『ひとりでいけるよね?』
「……くそっ
オレはもうそんな子供じゃない!」

そんな言葉に流されて、行ってしまった…。

今思えば、これがオレの救いになった気がする――――

すごい衝撃だった。
セバスチャーノ・ヴィエラの指揮する
ベートーヴェン交響曲第5番『運命』
このオーケストラを聴いたことが、オレが指揮者になる夢への第一歩になった。


数日後

「僕をあらだの弟子にしてくらさい!」

こんなにしつこく志願したのは初めてだった。

いろいろあったけれど、こうしてオレはヴィエラ先生の弟子としてウィーンを出ることができた。
そして、長く居住した日本で、たくさんの出会いがあった、
のだめという、大きな才能にも出会った。

そして今、指揮者として脚光を浴びることができた。


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(今やっているリレーの内容、その後だと思ってみてください。)

今、俺はのだめと同じベットの上で寝ている。
昔見た、親父の光景とは違って、ひたすら愛しい人と一緒に。

「先輩…」
「何。」
「隣の部屋じゃないからって、浮気しないでくださいネ。」
「当たり前だろ。」
「のだめは…先輩が一番大好きですから…」
「うん。」
「おやすみなサイ」
「おやすみ。」

昔経験したことが、今、こうやって実になっている。
昔感じた辛い思いは、決して無駄ではなかった、
こうして、のだめの隣で、愛しい人の隣で寝れているのだから。

俺が一番すきなのは、音楽とお前だから――――

こうして今日も音を奏でる夢を見る。






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