同じ匂い
黒木泰則×ターニャ


私には、気になっている事がある。
どうしても確かめたくて、のだめにも協力してもらって、今日はヤスを部屋に招待した。

「やっぱりターニャのご飯はおいしいデスね」
「うん。でも、コンクール前で忙しいのに、良かったのかな?恵ちゃんも、サロンコンサート前だし」
「のだめは、おいしいご飯食べられて大満足デス」
「私も…たまには気分転換しないとと思って…」
「なら、いいんだけど。でも、本当に美味しいよ」
「良かった…」

取りあえず、ヤスは喜んでくれてるみたい。…もうちょっと飲んでくれればいいのに…。
そう思いながら、グラスに口をつけた。

「タ、ターニャ…そんなに飲んでだいじょぶですか?」
「だ〜いじょうぶよ〜。ほら、のだめもヤスも飲んで〜」
「の、のだめはそろそろ帰ります…」
「ぼ、僕も帰ってリードを作らないと」
「ま、待って」

私は思わず、ヤスのシャツを掴んでいた。ヤスがびっくりしてる…。
パタン…ドアが閉まる音。…のだめ、気をきかせてくれたんだ…。

「タ、ターニャ?」
「…まだ、帰らないで…」
「う、うん…」

聞きたかったこと、聞かなきゃ。そう思うけど、シャツを握る手が震えてるのが、自分でもわかる。でも、このままじゃ、前に進めない…

「ヤスは………のだめの事、どう思ってるの?」

やっと言えて、身体から力が抜けていく。…ヤスが、さっきよりもっとびっくりしてる。…やっぱり、好きなのかな?

「…恵ちゃんは……日本にいた時から知り合いで…別にそんな。千秋くんもいるし…」
「…でも、みんな”のだめ”って、千秋でさえそう呼んでるのに、ヤスだけ”恵ちゃん”って…」

ヤスが、小さくため息をついた。
私、嫌われるような事、してるかな…。私は一つ、深呼吸した。きちんと言わなくちゃ…。

「違うの。ヤスがのだめをどう思っているかも気になるけど、大事なのは…」

もう、伝えてしまおう。

「私が、ヤスを好きなの!」
「えっ…?」

今日、1番びっくりしてる顔………。
ヤスは、びっくりしたまま、私を見てる。…ねぇ、なんで何も言ってくれないの?どうしよう、どうしたらいい?

沈黙が続く…。やっぱり、ヤスは私の事、苦手なのかな…。そう思ったら、涙が溢れて来た。やだ、泣きたくなんてないのに…。

「タ、ターニャ!?」
「…」
「あの…なんで。あっ、ハンカチ…」

ヤスがチェックのハンカチを差し出す。ハンカチもチェックなんだ…。ダサくて、ヤスらしくて…でも、好き…。

「…ヤスは、私の事…嫌い?」
「…いや、嫌いとか、そんな…」
「じゃあ、のだめが好きなの?それとも、他にそういう人、いるの?」
「いや、恵ちゃんは…。好きだと思った事もあるけど、それは幻想だったし…。今はピアノも含めて凄いと思ってるし…。でも、恋愛対象とは…」
「…じゃあ、私は?」
「…ターニャは……、そんな風に思った事もなくて…だから、びっくりして…」
「問題外ってこと!?」
「そういうんじゃないよ。でも、初めて会った時から”青緑”って言われてたし、まさか…そんな…」
「嫌いじゃない?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、これからそういう風に、見てくれる?」
「う、うん…」
「うれしい…」

私は思わず、ヤスに抱き着いていた。ヤスに自分から触れたのは初めてで、意外と逞しい胸に、ドキドキする…。

ドキドキしてるのは、ヤスも同じみたいで、鼓動が速まっているのがわかる。
あ…、ヤスも私を抱きしめてくれた。………嬉しい。

「私ね…初めてヤスにあった時の印象は最悪だったの…」
「でも、音楽に対する姿勢とか、オーボエの音とか聴いて……すごく、素敵だなって思った…」
「気がついたら、ヤスの事がすごく好きになってたの…」
「…………ありがとう」

…私の、独り言みたいな告白を静かに聴いたあと、ヤスがぽつりとそう言った。
嬉しくて、涙が溢れ出す。

「えっ、なんで泣くの!?」

ヤスが慌ててる。悲しくても嬉しくても、涙はでるのに…。ほんと、分かってない。でも、そんな所も…

「大好き…」

私は、抱きしめる腕に力をこめた。

「あっ、また…」

ミスタッチをして、鍵盤を叩く手を止めた。おもわず、ため息が出る。

「ヤスは、何してるかしら…」

今日は、休みのはず。
あの時、勢いに任せて好きだと言ったのはいいけれど、”付き合って”と言った訳ではないから、どう接していいかわからない。それに、以前と変わらないというより、よそよそしくなった気もする…。

「もう!こんなはずじゃなかったのに!!」

お菓子の袋を手にして、また戻す。

「このままじゃ、ダメ!」

私は、キッチンに向かう。そうよ、私の料理は効果があるって、のだめも言ってたし、ヤスも美味しいと言ってくれてるもの…。



作った料理をバッグに入れ、アパルトマンの近くで電話をかける。ヤスは驚きながらも、「コーヒーでも…」と言ってくれて、ホッとした。

初めて入るヤスの部屋は、シンプルで清潔な感じ。

「リード、作ってたから…散らかっているけど」

そういいながら、コーヒーをいれてくれた。

「ご、ごめんね。急に来て…」
「あ、うん…。でも、ありがとう。学校とオケで忙しくて、あまりきちんと食べてないから」
「そ、そうなんだ。あっ、よかったらご飯、また食べに来て。千秋が引越してから、のだめのご飯も作ってるし…」
「あ、ありがとう。でも、いいのかな…」
「…いいのかっていうより、来て欲しい…」

小さく呟いた言葉は、ヤスの耳に届いてしまったみたいで、ヤスの頬が少し赤くなって見えた。

「ヤス…、この間の返事を聞いてもいい?」
「ターニャ…」
「…ヤスが、私の事 嫌じゃないなら…」
「…僕は、別に…ターニャの事が嫌いとか、そんなのはないよ。最初はちょっと驚いたけど…」
「じゃあ…友達以上に…してくれる?」
「あ…でも…」
「でもって、何?やっぱり…ダメなの?」
「いや、僕は…」

ヤスは困った顔をして、口ごもるばかり。…もう、はっきりしないんだから!
私はカップをテーブルに置いて、ヤスに一歩近づいた。

驚いて私を見ているヤスに、抱き着いた。

「ちょっと、ターニャ…」
「嫌なら、嫌ってはっきり言って!そしたら、もう来ないし、好きだって言ったりもしないから!」

涙が溢れそうになるのを堪えて、やっと言えた。

「嫌じゃないよ…。ただ…僕は女の子が苦手というか…その…」
「まさか…ゲイなの………?」

ヤスまで!?と思って、血の気が引く気がした。

「えっ!違うよ!!そうじゃなくて、女の子と付き合った事があまりないから…」
「……」
「だから…どうしていいか、わからないというか…」
「嫌いじゃない?」
「うん…」
「じゃあ、好き…?」
「………」

返事はないけど、ヤスは真っ赤になっている。…なら、好きだということにしてしまおう。
私は勝手に決めて、少し背伸びをして、ヤスのきりりとした唇にキスをした。

…ヤスは…私にされるままにキスを受け入れてくれた。
少しずつ、ソフトなキスからディープなキスへと変わって行っても、「駄目だよ」とは言わない…。
どうしよう。私はヤスが欲しいけれど、最初からそんなことしたら嫌われる…?
でも、ヤスに合わせていたら、いつまでたっても恋人同士にはなれない気がする…。
長いキスを終えて、ヤスの胸に顔を埋めながら私は考えて…「駄目」と言われるまで行ってみようと決めた。

そう決めて、もう一度キスをしたら、今度はヤスも応えてくれる。
私は、ヤスを無理矢理ベッドに座らせ、シャツのボタンに手をかけた。

「タ、ターニャ…」
「…駄目?」
「でも、女の子が…こんな……」
「じゃあ、ヤスがしてくれる…?」


ヤスが、のだめから勝手にもらったワンピースのボタンを外す…。手が、少し震えてる…。
慣れてないとかいいながら、私はあっという間にワンピースを脱がされていた。

「私ばかり…恥ずかしい……」
「ご、ごめん」

慌ててヤスが、服を脱ぐ。…下着もチェックなんだ…。
視線に気付いたのか、ヤスが照れ臭そうに笑い、部屋の明かりを消した。

ヤスの熱い手が唇が肌に触れる。
ぎこちない動き…。でも、すごく幸せ。身体の奥がどんどん熱くなっていく。

「ヤス…ヤス……」

うわごとのように名前を呼ぶ。

「あっ」

そこに、指が触れただけで痺れるような快感が走れる。
…私、ほんとにヤスの事が好きなんだ…、そう思った。
遠慮がちに動く指が、蜜を溢れさせる。…どうしていいか分からないし…なんて言ってたくせに……。

快感の波に揺られていると、ピタリとヤスの手が止まった。

「ヤス…?」
「いや、あの…今日はもう…」
「ど、どうして…?」
「だって、そんな予定じゃないから…持っていないし…」
「…あ」

ヤスの言いたいことが分かって、同時に嬉しくなる。…ちゃんと、考えてくれるんだ……。

「大丈夫…」
「ターニャ?」
「今日は、大丈夫だから……。ヤス…」

何度目かのキスをして、ヤスの身体に腕をまわす。
そして……ヤスは、ためらいがちに私の中に入って来た。

「ああっ…」

思わず声がでる。それは、思っていたよりずっと大きくて、硬い…。
ヤスがゆっくりと動き始めると、快感の波が寄せてくる。こんなに、ヤスとのセックスが気持ちいいなんて………。
次第に動きを速めていくヤスに煽られて、私は強烈な快感を味わっていた。



「ターニャ…起きて!」

身体を揺すられて、目が覚めた。目の前にヤスの顔…。どうして…?と思って、昨夜のことを思い出した。……顔が熱くなる。

「あの…わたし…」

あの後、二人とも眠ってしまったみたい。

「学校、遅刻するよ!」
「えっ!あっ!!」

そうだ、今日は学校がある。欠席なんてできない。
ヤスと二人、慌てて服を着てアパルトマンを飛び出した。


「ターニャ…昨日は家にきませんデシタね」
「ご、ごめんね…。ちょっと用事が…」
「そでしたか…。あっ、黒木くん!」
「えっ!」

今日に限って学校で会うなんて…。どんな顔すればいいの? 戸惑っている私に気付くはずもなく、のだめは、

「久しぶりデスね〜」

なんていいながらヤスに近づいて行った。

…とりあえず、いつも通りに…。

そう思って顔を上げた。

「あれ、黒木くん…ターニャと同じ匂いがシマス…」
「えっ!?」

つい、二人同時に言ってしまって…”いつも通り”は一瞬でどこかへ行ってしまっていた…。






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