食中毒(非エロ)
黒木泰則×ターニャ


――おなか痛い・・・もうだめ・・・

ガッターン!!!

「ターニャ?」
「どうした!」
「救急車を呼べ!」

*

ぼんやりと目を開けると白い天井が目に入った。あたりを見回すターニャ。
側には点滴が吊るされていて、その先はターニャの腕に刺さっている。
息苦しそうに息をするターニャの鼻からは数本のチューブが出ていた。

――げぇっ、何コレ?私チューブだらけじゃん

「気がつきましたか、ヴィシニョーワさん」

ナースがにっこりと微笑んでいる。

――病院?そうだ。私、伴奏中に倒れて・・・

「気分はどう?」
「ええ、大丈・・・う、うげぇぇぇ」
「あらあら。ひどい食中毒ねぇ。これは2週間ほどかかるかしら」
「あ、あの私、おトイレに」
「排泄は全て管理していますから大丈夫よ。ほら、このチューブで」

――やだ、私、下着もつけてない。身につけているものは検査着だけ。
それにそのチューブ、透明で中身が見えて・・・ひぃぃぃ!!

青ざめた顔を一気に赤面させるターニャ。

「さっきまでお友達が来てくれてたんだけど面会謝絶にしていたの。
気がついたなら少しだけ面会してもいいわよ?」

――!! この姿で?千秋やのだめに会う?

「会いたくありません!」
「もう帰っちゃったかな?ちょっと待ってね」

ナースはターニャの言葉を無視して病室を出て行った。

*

その頃、病室の外ではのだめと黒木が心配そうに話していた。

「ターニャ、大丈夫デスかねー?」
「うーん、面会謝絶ってぐらいだから・・・」

黒木はのだめのカレーが原因であることに気付いていたが、
医者でもない自分が原因を告げてのだめを落ち込ませるのが嫌で黙っていた。

「まだまだかかりそうデスね・・・」
「そうだね。もしかしたら入院になるかも知れないし」
「じゃあのだめ、一度アパルトマンに帰って入院の準備してきマス!」

走り出したのだめに黒木は叫んだ。

「あ、恵ちゃん!まだ入院って決まったわけじゃ・・・」

のだめの姿はもう遠くに消えていた。

突然、病室からナースが顔を出した。

「あら、あなた一人?」
「はい。今までもう一人いたんですけど。入院の準備をしに戻りました」
「うふ。あなた彼女の恋人ね?入っていいわ。彼女、気がついたから」
「ほんとですか?」

”気がついた”という言葉に気を取られて黒木は喜んで病室に入っていった。

*

ナースが明るくターニャに話しかけた。

「あなたの恋人が心配そうに待っていたわよ」

――恋人?千秋のこと?まさか・・・

「大丈夫かい?」

カーテンの陰から顔を出したのは黒木だった。
心配そうな黒木を見た途端にターニャは再び気を失いそうになった。

――ああ、こんな無様な姿をヤスに見られるなんて!

横を向いて涙を流し始めたターニャを見て、黒木はやっと状況が掴めた。

――よく見たら何てひどい格好だ・・・。僕は、僕はなんて無神経なんだ!

黒木は激しく自分を責めた。
”気がついた”と聞いただけでうれしくなって病室に飛び込んだ自分を。
惨めに涙を流し続けるターニャにかける言葉が見つからない。

黒木は無言のままターニャに歩み寄った。
涙目で黒木を見つめるターニャの手を取り、強く握り締めた。

「ごめん。ごめん。・・・ごめん」
「無神経だった。のだめちゃんに入ってきてもらえばよかったね」
「ヤス・・・」

背後のチューブ内から小さく排泄音が聞こえてきた。
ターニャは再び身を硬くして小さく呟いた。

「もう、やだ・・・」
「ターニャ!君は、きれいだ!・・・その、ピアノを弾いている時とか!」

突然、黒木が大きな声で話し始めた。

「ヤス、何言ってるの?」

構わず黒木は大声で話し続ける。

「今日だって!僕は、演奏しながら君のピアノに酔っていた!」
「ヤス・・・」

ターニャの目から涙が消えた。

「退院したら、また伴奏をお願いしてもいいかな?」

ターニャが少し笑う。

「いいけど、そのときは絶対に”のだめカレー”は食べないわよ」

二人で笑いかけた瞬間、弾けるような排泄音が響いた。

「あ・・・」

真っ赤になるターニャ。
黒木はあわてて慰める言葉を考えたが、思いつかない。
咄嗟に後ろを向いてリードを吹く真似をする。

――プ〜〜〜・・・

シーンとした病室にその音は響き渡った。

「え、今の、ヤス?」
「・・・ごめん。出ちゃった。臭う?」

黒木は少し顔を赤らめた。

「やだ〜もうヤスったら!あははは・・・」
「ああもう、そんなに笑わないで」

更に顔を赤くする黒木だった。






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